
2021.2.16
使用済み紙おむつを固形燃料に再生! 新潟県十日町市が挑む資源・エネルギーの循環型社会
紙おむつが秘める高いリサイクル性と可能性
これまで燃えるゴミとして処分されてきた使用済み紙おむつ。しかし、近年では上質パルプを多く含んだ紙おむつをゴミではなく資源として捉え、再利用される機会が増えている。そうした中、2020年12月に新潟県十日町市で紙おむつの固形燃料化事業がスタート。今後、超高齢化社会を迎える日本の課題を解決し、エネルギーの一役を担うことになるかもしれない地方自治体の取り組みを紹介する。
増え続ける使用済み紙おむつが地域の課題に
総人口における65歳以上の高齢者の割合が28.4%(2019年9月15日総務省推計)と世界一高い水準にある日本。今後は、働き手不足や高齢者が高齢者を介護する老老介護など、解決しなくてはならない深刻な課題が山積みだが、意外と知られていない問題があるという。
それが、使用済み紙おむつ問題だ。
平均寿命が延びたこともあり、大人用紙おむつを利用する人が年々増加。2018年の国内生産量を見ると、その総数は84億枚に及んでいる。
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「使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドライン」より、紙おむつの生産量推移。2018年の大人用紙おむつの生産量は2010年と比べておよそ1.5倍に増加している
出典:環境省
紙おむつの厄介な点として、し尿を吸収した使用後は重量が約4倍に増えることが挙げられる。
2015年の国内における処理量は191~210万t。これは一般廃棄物排出量の4.3~4.8%に相当し、さらに2030年には処理量が245~261万t、同排出量割合も6.6~7.1%に上ると試算されている。
こうした現状を受けて環境省では、2020年3月に「使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドライン」を発表。市区町村などが衛生的な処理をした上で、使用済み紙おむつの有効利用を検討するように促している。
そうした中、2020年12月に豪雪地域として知られる新潟県十日町市で、使用済みの紙おむつを原料の一つとして固形燃料のペレットを製造し、専用のバイオマスボイラーで使用するという取り組みがスタートした。
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使用済み紙おむつの回収からペレットの製造・利用に関する一連の流れを示した図。エネルギー循環の理想的モデルといえる
リサイクル意識の高まりもあって同様の事業は鳥取県伯耆(ほうき)町など国内5カ所で行われているが、自治体としては十日町市が2例目となる。
同市では2014年度から使用済み紙おむつの有効活用を検討しており、地元の社会福祉法人 十日町福祉会と事業契約を締結。JFEエンジニアリング株式会社の施工によって、ペレットの製造からボイラーでの燃焼まで一連のシステムを作り上げた。
福祉施設から出た紙おむつがペレットとして施設に戻る
ペレットの製造に用いられるのは、十日町市内3カ所の福祉施設から集められた使用済み紙おむつ。
最初の工程は、紙おむつのフラフ(線状)化だ。
いくつもの特許技術が搭載された機械に紙おむつが入れられ、破砕と撹拌、乾燥が同時に行われる。
乾燥にはゴミ焼却施設である「十日町市エコクリーンセンター」から発生する約180°Cの温風を利用。16~18時間にわたって高温の風を当て続けることで、滅菌処理も施される。
また、気になる紙おむつの臭いに関しては、臭気を含む排気を焼却炉に戻して燃焼させることで熱分解処理をしている。
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「十日町市エコクリーンセンター」に設置された紙おむつ燃料化装置。写真右側に見えるパイプから温風が送られてくる
なお、乾燥・滅菌工程において、ゴミの焼却熱を利用する取り組みは国内初となる。
さまざまな工程を経てフラフ化された使用済み紙おむつの重さは、投入後の約1/3に減少。その後はフラフとおがくずが6:4の割合で混合されるが、ここでも市内の製材所から発生したおがくずを使用することで地域資源を有効利用している。
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フラフ化した紙おむつとおがくずを混合したもの。燃料自体のバイオマス依存率の向上や調達のしやすさなど、さまざまな観点からおがくずを混合することが決められた
その後、粉砕機によってさらに細かく砕かれ、粒造機によって大きめのドッグフードに似た形状のペレットが作られる仕組み。
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紙おむつとおがくずを原料に作られたペレット。臭いも気にならず、衛生面も問題ない
完成したペレットは同市内の福祉施設「ケアセンター三好園しんざ」へと運搬され、施設内に設置したバイオマスボイラーの燃料として使用される。
気になるペレットの燃焼性だが、紙おむつに含まれる高分子吸収材やプラスチックの影響もあって熱量は高い。しかし、燃焼時に発生する灰などの残渣(クリンカ―)が多く、その量は燃焼効率を妨げてしまうことが事前の実験で判明していた。
そこで、今回新たに設置したバイオマスボイラーには揺動床を採用。これは、燃焼炉自体が揺れ動くことで、炉内の残渣を壁や床面などに付着(固体化)させない技術のこと。また、下方に送られた残渣を自動で外へ排出する機能も同時に備えることで、燃焼効率を落とすことなく稼動できるという。
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「ケアセンター三好園しんざ」に設置されたバイオマスボイラー。沸かしたお湯は貯湯タンクへと運ばれる
十日町市では、この実証事業において年間約120tの使用済み紙おむつを回収し、約70tのペレットを製造する予定。これにより、年間約40万円の紙おむつ処分費削減が見込まれる他、福祉施設の灯油利用量が約36kl減少するとみられている。
実証期間の4年間で、紙おむつの処分費や福祉施設での化石燃料削減量など詳細なデータをまとめるとする十日町市。将来的には、市内の保育園からも紙おむつを回収する計画だ。
超高齢社会が生む使用済み紙おむつ増という課題を逆手にとり、資源の循環やエネルギーの地産地消を実現する今回の取り組み。
期待される成果が得られた暁には既存の清掃工場の排熱を活用する十日町モデルとして、各自治体へと広がっていくかもしれない。
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text:佐藤和紀