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冬の味覚「カキ」を守れ!水揚げ量の安定へ養殖業をスマート化

東京大学とシャープが広島県で「スマートかき養殖」の実証実験を開始

今、まさに旬を迎えている海のミルク「カキ」。日本一の「カキ」産地としても知られる広島だが、実はここ数年、水揚げ量が不安定になっているという。そのような中で、2018年12月に東京大学やシャープなどが共同して、養殖事業にAI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を活用できないか検討する実証実験を開始した。“おとこ気”あふれる漁業の世界に、最新テクノロジーがもたらすものとは?

AIとIoTで広島産カキの養殖をスマート化

乳牛や野菜の育成管理など第一次産業におけるIoTの活用は、今後さらに活発化していく分野と言われている。働き手不足の現代において、人の手が足りなくても、目まぐるしい環境の変化に素早く対応していかなければ、生産数の減少と品質の低下は免れない。

それは、国内生産量の約6割を占め、“カキ生産量日本一”を冠する広島の養殖現場でも同じことが言えるようだ。

カキの養殖は、海中に漂うカキの幼生を、海に沈めたホタテ貝の殻に人工的に付着させる「採苗(さいびょう)」という工程が生産量を左右する。2014年、広島では過去最低の採苗率を記録するという事態が起こった。

翌2015年は採苗率を回復させたものの、2017年に再び急落。結果的に水揚げ量が安定しない状態が続き、2018年には国が原因究明に動きだす事態までに発展している。

原因は、海水温の上昇でカキの産卵時期が早まったこと、潮の流れや魚による捕食で幼生がホタテ貝の殻までたどり着けなかったことなどの可能性が指摘されているが、はっきりとは解明されていない。

それを背景に2018年12月21日、東京大学 大学院情報学環の中尾研究室(中尾彰宏教授)とシャープが、NTTドコモ、中国電力など8企業・団体と連携し、AIとIoTを活用した「スマートかき養殖」の実証実験を、広島県江田島市で開始した。

この実証実験は、最新のテクノロジーを活用することで広島の産業・地域課題の解決に取り組もうとするAI/IoT実証プラットフォーム事業「ひろしまサンドボックス」で採択されたプロジェクト。カキ養殖に関するさまざまなデータを収集して解析することで、生産量の増加と生産効率の向上、漁業における通信インフラの利活用促進を目指している。

また、カキ養殖に最適化したデータを実際に漁業者が利用できるよう、情報配信のための通信インフラやサービスプラットフォームの在り方も検証していくという。

ひろしまサンドボックスは、「作ってはならし、みんなが集まって、創作を繰り返す『砂場(サンドボックス)』のように、何度も試行錯誤できる場」として、県内外の技術やノウハウを呼び込むことが狙い

出典:ひろしまサンドボックスHPより引用

カキを大事に育てるための完全監視網

実験の舞台は、広島県江田島市にあるカキ養殖場。専用の次世代通信ネットワークが構築され、漁場のブイや養殖用の筏(いかだ)には海中センサーが設置される。

センサーで海水の温度や塩分濃度などを遠隔監視するとともに、ドローンに搭載したカメラで上空からカキの幼生が多く生息する場所や潮流などを観測。収集したデータは専用ネットワークを介してクラウド上に蓄積され、AIが分析と予測を行うことで、採苗に適した場所や時期が養殖業者のスマートフォンに転送される仕組みだ。

これは、これまで漁師の経験値や感覚に頼っていた部分が、情報として“見える化”されるということ。養殖業者が離れた場所からでもカキの生育環境、状況をリアルタイムで把握できれば、より的確かつ迅速に作業ができるようになるとともに、人手不足の問題も軽減されることだろう。

「スマートかき養殖」のイメージ。水中を監視するセンサーには、食害の原因となる魚を検知して、通知してくれる機能なども搭載しているという

出典:シャープリリースより引用

スマート化は漁業の絶対条件になるか?

今回の「スマートかき養殖」は、地球環境や自然現象といった個の力では解決できない問題に直面することが多い第一次産業の安定化に向けた、包括的なソリューションの一つとして期待されている。

IoTによる客観的データの収集と、AIによる分析で、採苗不調や育成不良を事前に抑制できることが証明できれば、生産量=収入となる漁業者にとって大きな助けになるだろう。もちろん生産量は価格にも直結する。冬の味覚を待ちわびる、われわれの懐事情にも救いの手を差し伸べてくれるはずだ。

東京大学とシャープは、第5世代移動通信(5G)などの次世代通信インフラの時代を見据え、今後もAIやIoTを活用して地域経済の課題解決につながるネットワークサービスや端末を創出していくという。

漁業の問題を、最新テクノロジーを駆使して抜本的な解決を試みる。「スマート水産」といわれるこういった取り組みは、今後もさらに広がりを見せていきそうだ。

広島県江田島にあるカキ棚(イメージ)。生産量、人材不足の問題を是正して、町がさらに活気付く日も遠くないかもしれない

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