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石垣島で“台風発電”に成功! 量産化プロジェクトも展開中

株式会社チャレナジー 代表取締役CEO 清水敦史【後編】

台風など荒天下でも発電し続けることのできる「垂直軸型マグナス式風力発電機(以下、マグナス風車)」を開発し、世界の市場への参入に挑戦している株式会社チャレナジー。10kW試験機も完成し、台風発電の実用化に向けて着実に歩みを進めているが、この数年の間には風車本体の設計にも劇的な変化があったという。前編に続き、同社代表の清水氏に話を聞く。

国内では本来の価値が見直される動きも

数多くのメディアに取り上げられたことで、世界の国々から注目されるようになったチャレナジーの台風発電。
※前編の記事はこちら

だが、日本国内では少し事情が違っていた。

日本において民間レベルの再生可能エネルギー発電普及を大きく推進したのは、2009年に始まった固定価格買い取り制度(FIT)から。これは、太陽光パネルなど再生可能エネルギー発電設備の導入から一定期間、固定された高い金額で電気事業者が電力を買い取ってくれる制度だ。

しかし、2018年度に制度が大きく見直され、小型風力発電の売電価格が半分以下にまで下落。

それまでFITを利用した風力発電を投資対象としている人もいたわけだが、突如、投資先としての魅力が失われてしまった。再生可能エネルギー発電普及の機運が大きく後退してしまった印象も強いが、この状況を清水氏は悲観していない。

「プロペラ式風車や太陽光パネルと比較するのではなく、そうした発電機を設置できない場所や設置しても発電効率が悪い場所でこそ、マグナス風車は真価を発揮する」と説く清水氏

「国内からの問い合わせは、一時期は『売電利益はいかばかりか?』といった投資目的の内容が多かったのですが、最近はそうした質問を受けることが少なくなりました。本来、マグナス風車が能力を発揮するのは島や山間部など、風が安定しない場所です。現状は“本当に小型風車を必要としているマーケットだけが残った”ということで、決して悪い状況ではありません」

投資対象ではなくなった一方で、災害時における非常用電源や独立電源としての価値に興味を持った人からの問い合わせは増えたという。これは「台風によって大きな被害を受ける地域が、もはや沖縄など島しょ部に限らなくなったことに起因しているのだろう」と清水氏は分析する。

昨年は数多くの台風が日本に上陸したが、チャレナジーの10kW機は最大瞬間風速43.2mの大型台風が襲来した際にも破損することなく、併設した衛星アンテナに電力を供給しインターネット通信を継続することができた。

これがきっかけとなり、沖縄県石垣市、ユーグレナグループとの間で「災害時応援協定」を締結。台風下で本当に役立つことを見事に証明してみせたのだ。

10kW試験機の前で行われた、「災害時応援協定」締結式の様子。石垣市長も訪れた

世界で最も台風発電を必要とする場所

国内からの要望も高まる中、話がいち早く進展したのはフィリピンだ。

フィリピンは大小7000以上の島からなる多島海国家。年間平均20個近くもの台風が上陸・接近する“台風銀座”として知られている。加えて、電力事情も芳しくない。

1980年代から既に深刻な電力供給不足の状態にあったが、2001年から始まった電力事業の民営化が事態をより複雑化させた。電気代は先進国と比べても、かなり高額。その上、人口の少ない島などは基幹送電系統に接続されておらず、地域ごとの小規模な発電設備だけが頼りとあって、電力供給もままならない。

「比較的大きな島であっても、朝などに電力消費量が増えるとすぐに停電してしまいます。ただ、最初からマイクログリッド(分散型のエネルギー発電)化されていることには良い面もあるんですよ。例えば、既存のディーゼル発電機を風力発電機に置き換えても、他地域への影響が一切ありません。私たちのような海外のベンチャー企業でも、電力事業に参入しやすいのです」

チャレナジーは2017年の時点で、現地のフィリピン国家電力公社と共同実証に関する合意を締結するなど、早くからフィリピンに注目してきた。2019年には海外初拠点となる子会社をマニラに設立。現在では建設許可を待つ段階に入っており、量産化まであと一歩の状況だ。

近年、フィリピンでも再生可能エネルギーへの関心が急速に高まっており、「フィリピンでの建設が完成し、マグナス風車で生み出した電力で地域住民に貢献できれば、必ず普及していくと考えています。夢は一つの島に一つのマグナス風車です!」と清水氏は大いに意気込んでいる。

風車の構造に大きな変化が!

さて、10kW機での実証試験も順調に進み、あとは量産化に向けてまい進するのみに思えるチャレナジーの事業だが、ここに来て大きな変化が起きている。

それはマグナス風車の設計に関するものだ。

「これまで設計していたマグナス風車は、1kW実験機の頃から3つの円筒をワンセットとした設計でした。この方式が最も効率が良い、と考えていたためです。しかし今回、この円筒を1本少なくし、2本ワンセットの構造にすることに成功しました。技術開発を突き詰めた結果、円筒2本でも十分な発電能力を発揮する構造にすることができたのです」

円筒を1本少なくすることに、どのような意味があるのだろうか?

「最大の効果はコストダウンですよね。コストがかかる円筒の数を減らすことで、費用を大幅に削減できます。さらに風車の部分が軽くなることで、より小さな風力でも風車が動くようになり、摩擦によるロスも抑えられます。つまり発電効率が上がるので、風力発電機において軽量化は良いことずくめです」

回転時のバランスについては円筒3本とした方が若干有利だが、アームの剛性を高めるなどの工夫で対処できたという。

新たな設計のマグナス風車は、沖縄県石垣市で既に稼働中。2020年内のスタートを目指している量産機の開発も、この2本式が中心になる予定だ。

新たに円筒を2本式とした風車の模型。3本式と比べて重量が大幅に軽くなることで、発電効率のアップやコスト削減など多大なメリットをもたらすという

現在、チャレナジーでは約12名のエンジニアが働いている。前回のインタビュー時にはまだなかった、マーケティングチームもできた。エンジニアのうち、5人は外国人、マーケティングチームにもフィリピン国籍のスタッフがいるという。出身地もヨーロッパ、中東、東南アジア、南米とさまざまだ。特に外国人を集中的に募集しているわけではないというが……。

「例えば、日本の大学に留学していた外国人で、このまま日本で働きたい、エネルギー分野で働きたい、ベンチャーでもOKだ、という人が入社してきたケースが多いんですよ。そうして集まってきた人たちは、日本人の若者以上にパッションが高いですね。当社としても社内規定の英語化など、外国人が働きやすい社内環境を心掛けてきた結果、現在のような体制になりました。今後さらにグローバルな展開を予定している当社の事業に向けて、素晴らしいチームができたと思います。

一方で、さらに開発を進めるためにはまだまだメンバーが足りないので、現在も積極的に採用を続けています。マグナス風車建設の際に活躍する施工管理エンジニアや、量産化に向けて部材一つ一つから品質を高めていく品質保証エンジニア、更なる性能アップを目指す機械設計、電気、制御を得意とするエンジニア、マグナス風車を必要としているマーケットを世界中から探し出す海外マーケティング担当など、これまでの経験をマグナス風車にぶつけてくれる人を探しています」

「再生可能エネルギーを電力源とした独立電源、災害用電源への注目が世界的に高まる中、いかに早く量産化にこぎつけるかが、今後の社運を握る鍵」と語る清水氏

オフィスの壁に張られている世界地図には、数多くの場所に赤いピンが刺してあった。問い合わせが来た国を記しているのか? と質問したところ、「最初はそうだったのですが、今では台風発電が今後、役に立てると想定される地域にも目標としてピンを刺しています」とのことだった。

チャンスを待つのではなく、自分たちから積極的に市場を開拓せんとする姿勢の表れだろう。

日本発の再生可能エネルギー発電システムが今、世界へ──。

チャレナジーの挑戦はこれからがまさに正念場だ。

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