1. TOP
  2. 特集
  3. 異常気象と温暖化の相関性
  4. 地球温暖化は、より多くの雨をもたらす?
特集
異常気象と温暖化の相関性

地球温暖化は、より多くの雨をもたらす?

暑くなっている地球に、われわれはどのように対処すべきなのか

2018年の夏は、記録的な猛暑が続いた。全国各地で過去最高気温を更新し、東京でも7月23日には40度まで上昇、テレビからは「躊躇(ちゅうちょ)することなくエアコンを使うように」というアナウンスが流れた。このような猛暑、さらに大型台風やゲリラ豪雨といった異常気象が続くと、聞こえてくるのは“地球温暖化の影響”を疑う声だ。そこで暑熱研究の第一人者である、筑波大学 計算科学研究センター地球環境研究部門の日下博幸教授に、「本当に地球は温暖化しているのか?」を聞いた。

地球温暖化はヒタヒタと進行している

「『地球は温暖化傾向にあるのか』と問われれば、過去についてはイエスです。そして将来についても、ほぼイエスだと言えます。少なくとも研究者の中には、そのように考えている人が多い。それは2つのことから説明することができます」

■過去から現在に至って平均気温が実際に上がっている
これは紛れもない事実だという。では、「どれくらい上昇しているか」については、どの観測データを使うか、そしてそのデータをどのように処理するかで変わるため、一概には言えないとのこと。ただ、日本では温暖化の影響により過去100年間で1度程度上がっているだろうというのが研究者の大方の意見だ。

■温室効果ガスが増えている
温室効果ガスが増えるに従って、気温が上昇していることも統計的に証明されている。その関係をひも付ける理論があるから、このまま温室効果ガスが増え続ければ、地球温暖化は進むだろうと考えられる。

過去については、“実際に地球が経験したこと”である事実だ。

しかし将来については、物理学の方程式や過去の経験によって作られた方程式を解き、科学的な計算によって導き出したもの。例えば、その方程式に今後の温室効果ガスの上昇率を高く入れれば気温は上がるし、低めに入れれば下がることになる。方程式で導き出した未来の気温が、実際にどの程度のものになるかは未来のその時にならなければ分からない。

「ですので、一部にはそうではないという方もいます。確かに過去においては気温は上昇しているし、そこに温室効果ガスとの因果関係もあるかもしれない。でも、地球の歴史を振り返れば、暑いときも寒いときもありました。氷河期がまさにそうですね。だとしたら、今も“地球が自然の変動の一環として暑くなっている”ということもあるんじゃないか、という意見です」

将来予測ということでは、地球温暖化も天気予報も同じ考え方だ。

天気予報は今日や明日のことであり、これまでの実績からかなり信じることができる。しかし、100年先までという長期的なスパンで考えたとき、答え合わせができないので、本当にそうなるのかはそのときが来るまで誰にも分からない。

現在の科学が指し示しているのは、「地球温暖化は進むという公算が大きい」ということ。それをわれわれが導き出したのなら、対策を考えた方がいいと述べる日下教授

「それでも大方の研究者は、温室効果ガスによって地球温暖化はヒタヒタと進んでいると考えています。少なくとも私は、将来のことが分からないからといって、何もしなくても良いとは考えていません。“もし気温が上がっていったら、われわれが住む地域はどうなってしまうのか”というのが私の研究内容。それがあれば、あらかじめ対策を考えることもできますよね。“備えあれば憂いなし”というのが、私のスタンスです」

では、ことしの猛暑は地球温暖化の影響を受けているのだろうか?

「猛暑や冷夏といった毎年の夏の気候変化と、地球温暖化は実はあまり関係ありません。もちろん、地球温暖化と相まって、これまでより暑くなっているということはあるかもしれません。でも、ことしが暑かったからといって、“いよいよ地球温暖化が本格化した”ということではないのです」

地球、日本、関東を細分化して気温変化を記録する

日下教授は『ダウンスケール』という手法を用いて、気候変動が地域に及ぼす影響を評価している。

「大ざっぱに言うと、“木を見て森を見る”ということ。これは皆さんが毎日見ている天気予報でも使われている手法です。天気予報の例を挙げて具体的に言うと、地球であれば20km四方、日本全体であれば5km四方にエリアを区切り、その中でどのように風が吹き、そして雨が降るかを計算して将来の予想をするわけです。

ただ、天気予報は風や雨、気温の時々刻々と変化する様子の予測を目的としており、地球温暖化予測は、基本的には将来の平均的な様子を予測することを目的としているという違いはあります」

実際の将来予測の方法は「基本的には物理学の方程式を解くこと」であり、とても複雑だという。

「例えば、時速10kmで走る自転車が、1時間後にどこにいるかを予想することはできますよね。でも、実際には上り坂や下り坂などがあって自転車の速度は時々刻々と変化しています。ですから、1時間後にどこにいるかを予測するためには、今の自転車の速度と同じと考えられるだけほんの少し先の自転車の位置を予測して、それを基に、さらにほんの少し先の自転車の位置を予測します。これを繰り返せば1時間後の自転車の位置を予測することが可能です。

天気予報や地球温暖化予測の基本的な考え方はこれと同じですね。地球上では空気が動いているわけで、それを追いかけながら予測を繰り返します。実際の計算では空気を直接追いかけているわけではないのですが、説明すると難しくなってしまうので、イメージとしてはこのように思ってよいでしょう。

さらに言えば、空気を動かす力は気圧です。気圧差が分かれば、風の流れが分かる。だから、どこで気圧が高くてどこで気圧が低いのかなど、気圧の分布が分かれば、細かい風の分布が見えてきて、その積み重ねで予測ができるのです」

地球温暖化の予測も、これと同じだ。

このような天気予報で使われている数値予測は、地球温暖化の予測手法としてはポピュラーなものだという。実際、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)で取り上げられる予測結果(将来の気温の値など)も、このような数値予測の方法で導き出されたものだ。

「これまでは、地球全体を対象とした温暖化の予測手法について説明しました。一方、ある地域だけを対象に温暖化予測をすることがあります。その予測結果は、『ダウンスケール』によって導き出すことができます」

力学的ダウンスケールのイメージ図。地球レベルだと125~250kmという粗い格子で予測されるため、関東平野でも2〜3個の格子だけで表現される。高解像度領域モデルを使い、さらにダウンスケールすることで、より詳細な地域ごとの予測データを得ることができる

「この『ダウンスケール』は大きく分けて2種類あります。一つは『力学的ダウンスケール』。方程式を解くという意味で、前述した数値予測の手法と同じです。ただし、計算する範囲をより狭くすることによって、空間的により細かなデータを取る手法です。

もう一つは『統計的ダウンスケール』。これは考え方からして違います。例えば、過去のデータ…高気圧に覆われた、ある状態の日であれば、気温はこうなる…ということから未来を予測する方法です。過去の経験からひも付けて将来の予想を導き出す考え方で、こちらの方が直観的に分かりやすいかもしれません」

方法は異なっても、導き出すものはおおよそ同じ。ただ、いずれにも長所短所があることから、現在は両方のデータを組み合わせ、補てんし合いながら将来を予測している。

地球温暖化+ヒートアイランドで、もっと暑くなる!?

将来の気候を予測するためには、温室効果ガス以外にも考えなくてはならない要素がある。『ヒートアイランド』と呼ばれる現象だ。

「地球全体の温度上昇という意味では、100年間でおおよそ1度上がっています。これは地球温暖化によるものです。ただ、実際は大都市では上がり方が異なります。例えば、東京は3度、大阪や福岡は2度上がっています。この差がいわゆる『ヒートアイランド』と呼ばれる現象によるものなのです」

つまり、都市の発展が気温を上げているということだ。

都市も、元をたどれば森林や野原といった自然が広がる土地だった。緑や水辺があれば太陽の熱は植物が蒸散活動をしたり、地中の水分が蒸発したりすることで気化され大部分はとどまらずにすむ。しかし、コンクリートやアスファルトになってしまえば、熱はそこに蓄えられる。

さらに、その場所に人が暮らすことで人間活動による熱(例えば、自動車やエアコンからの排熱)も放出される。日下教授は「先ほど東京は3度上がったと言いましたが、そのうち1度は地球温暖化によるもので、2度はヒートアイランドによるものと考えられます」と言う。

では、地球温暖化とヒートアイランドの重ね合わせによる暑熱環境の悪化から身を守るにはどうすれば良いか? もはや人間活動をやめることも、今から都市を森に戻すこともできない。私たちができることはあるのだろうか?

「人間ができることとしては、2つのことが言われています。一つは『緩和策』。温室効果ガスやエアコン・車などからの熱を完全に出さないことはできないので、せめてこれらの排出量を減らして地球温暖化とヒートアイランドの進行を緩和しようというもの。

もう一つは温暖化する未来を、ある程度は受け入れて適応していこうということ。例えば『クールビズ』や『ミスト散布』は、この適応策の一つと言えますね」

数値モデルで計算した2000年代8月の平均気温と、2050年代8月の予測平均気温。さらに2070年代には、毎日が寝苦しいほどの暑さになるという

地球温暖化と雨の関係は?

またことしの夏、猛暑と共に話題を集めたのが豪雨被害だ。

気象庁が「平成30年7月豪雨」と名付けた集中豪雨は、西日本を中心に甚大な被害をもたらした。地球温暖化が進むと、雨は増えるのだろうか?

「そう考える人が多いですね。理屈はシンプルです。気温が上がれば、空気中に含むことができる水蒸気の量が増えます。なぜかというと、気温が上がると空気が膨らむからです。すると雨が降るときに一気にドカッと降ることになります。これは過去の観測データの分析とダウンスケールによって将来を計算した結果から考えられた有力な仮説です」

地球温暖化が危惧され始めた1990年代初頭から、すでに20年近くのデータが集まっている。その結果が「地球温暖化が進むと雨が増える」ということを裏付け始めているのだという。

雨が増える可能性など、地球温暖化の影響は小さくない。その一方で、健全な社会生活を過ごすために必要なこともある。そのバランスをどこで取るか、など課題は多い

「大気中に漂う熱エネルギーである地球温暖化には対処しなければいけませんし、そのためには温室効果ガスの排出量をセーブしなければなりません。

しかし一方で、ことしのような暑さに対処するためにはエアコンを使わないわけにはいきません。数年前は『節電のためにエアコンをセーブしましょう』と言っていましたが、ことしは『躊躇することなくエアコンを使いましょう』と言っているわけですからね。生命の危険を感じるくらいの暑さであるなら、エアコンを使って、その分の電力をどこから確保するかを考えなければなりません。

今後、そのバランスの取り方が難しくなるでしょう」

地球温暖化はヒタヒタと確実にわれわれの社会を脅かし始めている。その中で人間が健全な社会生活を送るためにはどうすればよいか、考えなければならないことは多い。

「将来のためにできることは、やっておかなければなりません。備えあれば憂いなし。準備しておいて、大きな問題が起きなければ、私たちにとっても環境にとっても、それはそれで良いのですから」

一人一人が温暖化の事実を受け止め、受け入れながら将来の地球が少しでも過ごしやすい環境になるように行動していくことが必要だ。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 特集
  3. 異常気象と温暖化の相関性
  4. 地球温暖化は、より多くの雨をもたらす?