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脱炭素からサステナビリティ全般へ!事業領域を拡大したゼロボードの狙い

株式会社ゼロボード代表取締役 渡慶次道隆【後編】

GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガスの略称)排出量算出サービスの先駆けとして2021年7月にベータ版の提供を開始した「Zeroboard」は、常に業界をリードしてきた。投入してきた新機能や、パートナー企業を巻き込んだエコシステムの形成により、本邦上場企業におけるトップシェアを獲得している。一方、欧州主導で情報開示のルールが更新されていく中で、多くの上場企業が苦戦していることも事実。カーボンニュートラルな社会の実現に向けて事業拡大に踏み切ったゼロボードをけん引する渡慶次道隆氏に今後のビジョンを聞いた。

算出可能なデータをESG全般に拡張

GHG排出量の算出に特化したクラウドサービス「Zeroboard」を提供することで、企業の脱炭素経営支援を行ってきた株式会社ゼロボード。2023年8月には、情報管理の範囲をESG(環境、社会、企業統治)全般に広げることを目指す「Zeroboard Sustainability Platform」構想を発表した。事業拡大の狙いを同社代表取締役の渡慶次道隆氏はこう答える。

「世界的に地球温暖化は大きな課題として捉えられており、日本でもESG の項目において脱炭素に関する取り組みなどE (Environment、環境)の部分を先行して進めている企業が増えています。一方で、最近は海外でEだけではなくS(Social、社会)やG(Governance、企業統治)にまつわる情報開示も重視されるようになってきています。実際に2024年から欧州の大企業はESGデータの開示が義務付けられる見通しで、それは現地に法人を持つ日本の企業も対象になるんですよね。つまり、Eに該当するGHG排出量だけではなく、Sであればサプライチェーンの中で人権侵害や過酷な労働を強いていないか、Gであれば企業の透明性や健全性が保たれているか、そういったことまで情報を開示することが求められる。そこで我々もプロダクトの機能を拡張させる必要があり、その全体像をまとめたものがZeroboard Sustainability Platform構想なんです」

Zeroboard Sustainability Platform構想のイメージ

画像提供:株式会社ゼロボード

事業の軸となるZeroboardの機能を拡張させるだけでなく、収集・可視化されたデータを基に、エキスパートによるコンサルティングチームが間に入り、パートナー企業が持つ課題解決のためのソリューションも提供する。

「既に投資家の間ではESG投資がスタンダードになっています。ですが国際的なサステナビリティ開示のルールをフォローするのは簡単ではなく、そこにお困りの企業は多く存在します。ますます高度化・複雑化するデータ収集・管理や、それらを活用した経営の強化ニーズに応えていくために、我々は脱炭素からサステナビリティ全般に事業領域を拡大していきます」

Zeroboard Sustainability Platformの構想について語る株式会社ゼロボード代表取締役の渡慶次氏

課題解決の自社ソリューションを持たない背景

ゼロボードはGHG排出量をはじめ各種データの算定・開示をサポートするプラットフォーマーに徹しており、課題解決のための自社ソリューションを持たないことに決めている。

「算定・開示だけではなく、自社でGHGの削減までサポートすれば、さらに大きな収益を見込めるかもしれません。ただその半面、お客さまの選択肢を狭めることになります。そのため弊社はプラットフォーマーに徹し、ソリューションを持つパートナー企業さまと業務提携をして、彼らから顧客の課題に合った削減ソリューションを提供していただいています。例えば2022年には削減サポートのソリューションを持つ三菱UFJ銀行さんをはじめ、豊田通商さんや三菱商事さんなどとパートナー契約を結び、アジアでのサプライチェーン排出量の可視化を目指す取り組みを開始しています」

ゼロボードとパートナーの関係。クラウドサービスならではのデータ共有を可能に

画像提供:株式会社ゼロボード

今後の目標は国内ユーザーを増やしながら、東南アジアを中心に海外展開も進めていくこと。脱炭素やESGの情報開示を求める流れは欧州が主導してルール形成が進んでいるが、いずれは日本が東南アジア諸国と連携して国際ルールを積極的に提案していくことも見据えている。

「ESG情報の開示ルールも、元々は欧州の民間企業が自ら始めて広めていることで、政府が後追いで法律を整えている状況なんですよ。要するに自分たちが有利になるルールを作るために先手を打つことが得意なんですよね。私としては、日本企業にもルールメイクを主導するポテンシャルがあると思っています」

日本には“三方よし”という考え方が根付いており、社会課題の解決をしながら地域の市民にもメリットがあるようなビジネスで成長してきた企業が多い。それこそESGと親和性が高く、ルールメイクにおいてリーダーシップを取れる領域は十分にあるという。

「我々のプロダクトは脱炭素の世界をけん引するためのプラットフォームであり、パソコンにおけるOSのようなものだと思っています。ここのシェアを確実に取っていけば、まだまだ欧州や米国に勝てる要素があると思っています」

企業のカーボンフットプリント算出にも貢献

これまでゼロボードは企業の脱炭素経営をサポートしてきたが、消費者の意識を変える活動も重要だと考えている。そのための一つの戦略が、「カーボンフットプリント」(商品やサービスにおける温室効果ガスの排出量をCO2に換算する仕組み。以下、CFP)を算定するツールを用意することだ。

2023年3月には、岩谷産業のカセットボンベのCFP算定を支援したことを発表。CFPの公表はカセットボンベで初めての試みとなり、さらに経済産業省と環境省が発表している「カーボンフットプリント ガイドライン」に即して算定を行い、第三者検証機関の保証を受けた日本初の事案となった。

公表されたCFP(1.3162kg-CO2e/本 ※2021年度)はイワタニカートリッジガス株式会社で製造する「イワタニカセットガス(オレンジ)」の製品1本当たりの原材料調達から廃棄までのCO2排出量となる

画像提供:株式会社ゼロボード

「今回のCFPは製造時に投入したエネルギー由来の排出量だけではなく、購入した原材料や輸送など製品のライフサイクル全体を網羅した項目が含まれています。今後は我々のCFP算定ツールをさまざまな企業さんに使っていただき、CFPの認知を広めていくことが重要。消費者の方々の意識が変わっていかないと、サステナビリティに取り組んでいる企業が浮かばれないですからね」

企業が努力してCFPを計算・開示したとしても、消費者に正しく認識されなければ意味がない。手に取った商品はCO2排出量が多いのか、少ないのかといった基準が分かりにくいことが課題となっている。

「どのように訴求すれば消費者の方々に伝わりやすいのか、まだまだ我々もメーカーさんと一緒に模索している段階です。生産からリサイクルに至るまで長いライフサイクル全体を対象とするため、CO2排出量の算定は組織を対象とするよりもさらに難しくなります。ですから、Zeroboardは、そういったより細かいニーズにまで応えていくようなサービスに進化させていくのがとても重要だと思っています。将来的には、米国のウォルマートのように、日本のスーパーでもあらゆる商品にCFPのラベリングがされる時代が確実に来ます。そのときのために、あらゆる業界のメーカーさんが算定に困らないような仕組みを提供して、普及を後押ししていきたいですね」

ゼロボードは「気候変動を社会の可能性に変える」というミッションを掲げている。渡慶次氏は「GHG排出や削減に関する見通しはもちろん、気候変動によって、社会が不安に直面している現在、将来への見通しをつけることも含んでいます。企業が脱炭素化に取り組むことで新しい事業機会を創出していくことをテクノロジーで支えていきたいと思います」と語る

カーボンニュートラルな社会を目指して、CO2排出量を算定して終わりにするのではなく、パートナー企業と協力して削減を後押しすることを目指してきたゼロボード。今後も彼らの革新的な取り組みに期待したい。

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