
2026.10.30
ウラン蓄電池のネクストステップ! 大容量化、そして系統用蓄電池としての実用化へ
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA) 原子力科学研究所 NXR開発センター 大容量蓄電池開発特別チーム 研究副主幹 大内和希【後編】
劣化ウランの新たな資源価値を見いだした、世界初のウラン蓄電池の開発。日本原子力研究開発機構NXR開発センターの大容量蓄電池開発特別チームでは現在、系統用蓄電池としての実用化を見据え、大容量化に向けた研究が続けられている。後編では、研究の過程でさまざまな難問に直面したという同チームの大内和希研究副主幹に開発の経緯と実用化に向けた課題、今後の展望を伺った。
この記事のポイント
- 「ウラン+鉄」の組み合わせと外付けタンク方式で、レドックスフロー蓄電池を実現
- 系統用蓄電池としての実用化に向け、大容量化を段階的に推進
- 実用化には、安全管理や設置場所など放射性物質特有の課題が残る
試行錯誤から生まれた「ウランと鉄」の新たな組み合わせ
2025年、大内氏が所属する大容量蓄電池開発特別チームは、ウランが蓄電池の活物質として利用できることを実証。次のフェーズとして、大容量蓄電池への活用が期待される「ウランレドックスフロー蓄電池」の開発に着手した。
大内氏は2018年から、ウランを蓄電池に活用するための基礎研究を続けており、その中で、蓄電池に利用できる可能性のある化学反応の候補を見いだしていた。しかし、2024年、チームとしてウラン蓄電池の開発に着手した初期から大きな壁に直面したという。
「私たちが想定していた反応条件で実験を始めたところ、電解液の中に固形分が発生してしまいました。レドックスフロー蓄電池は、電解液が循環することで充放電を行いますので、固形分が発生すると循環や運転に支障が生じます。そのため、固形分を抑える方法を検討する必要があったのですが、私たちは反応条件そのものを見直し、反応候補をイチから探し直す方針に切り替えました」
※【前編の記事】ウランに新たな可能性! JAEAが世界初のウラン蓄電池を開発

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大容量蓄電池開発特別チームによるウランレドックスフロー蓄電池の研究環境。ラボで地道な試行錯誤が繰り返された
画像提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)
これにより、大内氏をはじめチームのメンバーは思いつく限りの反応を試し、試行錯誤の日々を過ごすことになる。その苦悩の末にある答えに辿り着いた。
「2000年代初頭、概念として提案されていたウラン蓄電池は、負極にも正極にもウランを活用したものでした。開発初期の段階では、私たちも両極をウランとする方針で開発を進めていたのですが、固形分を発生させない反応条件を探る中で見つけたのが、負極にウラン、正極に鉄を用いるという方法でした」
しかし、この段階ではレドックスフロー蓄電池としての機能を満たしていなかったという。
「戦略的にスピード感をもって研究開発を進めるため、まずはウランと鉄を用いた電解液で充放電が可能であることを実証することに注力しました。実証には成功しましたが、この段階ではまだ、電解液の入ったタンクと、充放電を行う電極部が一体化した蓄電池になっていました。そのため、タンクに電解液を貯めておくだけで、電解液を循環させるフロー電池とは言い難い状態でした。
次のステップとして、私たちは蓄電池としての機能を維持しながらフロー化に適するように電解液の構成材料を再検討し、実際に循環すること、循環しながら充放電可能であることを実証しました。フロー型を開発できたことは大容量化への足掛かりとして重要な成果となると思っています」

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タンクと電極部一体型の蓄電池(左)と、大容量蓄電池開発特別チームが開発したレドックスフロー蓄電池の充放電の仕組み
画像提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)
研究設備を増強し、研究メンバーも増員
NXR開発センターが設立されたのは、2024年4月のこと。そこから2年でウラン・鉄レドックスフロー蓄電池の開発に成功したが、最初にウラン蓄電池の開発を発表した際の反響は、想像以上だったという。
「国内でも新聞など各メディアで取り上げていただきましたが、国外でもフランスの原子力学会のホームページで、研究成果を紹介する記事がフランス語で掲載されるなど、世界規模で反響がありました。また、学会などで研究成果を発表した際には、別の研究成果を発表したときとは比べ物にならないくらいの反応があり、とくに学生たちの反応がよかったことが印象的でした」

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ウラン・鉄蓄電池のデモンストレーションを披露する大内氏
画像提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)

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デモンストレーションで披露された充電池の電解液の色の変化。「一般的に伝わりにくいウランの性質を視覚的に伝えられる機会が得られたことも一つの成果です。若い方々にウラン研究に関心を抱いてもらうきっかけにもなっています」(大内氏)
画像提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)
短期間で大きな成果を挙げた同チームだが、開発当初から充実した研究環境が整っていたわけではない。
「蓄電池の開発には、特殊な研究設備が必要になります。実験中に空気中の水分や酸素が入ると、意図しない酸化還元反応が起こります。そのため、実験には、水分や酸素を含まないガスで満たされた空間(箱)を持つ設備(グローブボックス)が必要です。しかし、センターにチームが設立された当初はその設備が一台しかなかったため、繰り返し実験を行うことがなかなかできませんでした」
同センターでは研究設備の増強が進み、3人だったメンバーも5人に増員。設備と人員の両面で研究環境が整い、研究をさらに推し進める体制が構築されている。
大容量化を目指す一方、実用化には課題も
現在、同チームは次のフェーズとして、ウラン・鉄レドックスフロー蓄電池の大容量化を目指して研究を進めている。

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ウラン・鉄蓄電池の動作実験でLEDを点灯。現在はラボスケールに留まっているが、大型化、実用化を見据えた研究が進められている
画像提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)
「ウラン・鉄レドックスフロー電池は、まだ手のひらサイズのレベルです。今後はタンクを少しずつ大きくしていき、まずは机上サイズの5W規模(ウラン100g)、次にひと部屋サイズの5kW規模(ウラン100kg)へと、段階的な大容量化を目指して研究を進めていく予定です。その中で、性能や材料、運用条件、安全管理などを評価していきます」
現在はウランを用いた蓄電池を実験レベルで実証した段階であり、近年、需要が高まっている系統用蓄電池として実用化するまでには、さまざまな課題が残されている。
※系統用蓄電の参照記事:蓄電事業の拡大で、再生可能エネルギーの価値を最大化
そうした実用化に向けて研究開発を進めなければならないテーマの一つが、ウランを使用する際の放射線管理の必要性である。
「劣化ウランは天然ウランより放射能レベルは低いものの、放射性物質であることには変わりありません。ですから設置場所も住宅街などに置くことはできず、通常の原子力発電所と同じように管理区域に限定されます。放射性物質を扱う施設として、取り扱いや保管、漏えい防止、作業員の管理などに一定の規制や設備上の対応が必要になるため、それらについての研究開発も行う必要があります」

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JAEAが敷く劣化ウランのレドックスフロー蓄電池の開発・実用化に向けたロードマップ。国内に貯蔵されるすべての劣化ウラン(令和5年末時点で約1万6000トン)の活用で54万世帯の一日の消費電力(一部を除く)を蓄えることが可能に
資料提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)
今後、同研究で大容量化を進めるにあたっては、ウランを含む電解液を大量に扱うことになる。そのため、実験室レベルでは問題にならなかった施設や安全管理上の課題が、大型化によって重要になってくる。
一方、エネルギー資源の多くを海外に依存する日本にとって、原子力発電は重要な電源の一つである。
また、脱炭素社会の実現に向けて再エネの導入が進めば、発電量の変動を補う蓄電池の重要性も高まる。
こうした中、国内に保管されている劣化ウランを蓄電池に活用する同研究は、ウラン資源の新たな利用方法を示すものとして、今後の展開が注目される。

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text:木村敬(ウィット) edit:大場 徹(サンクレイオ翼)
















