
2026.9.18
蓄電事業の拡大で、再生可能エネルギーの価値を最大化
東京電力グループ初の“系統用蓄電所”開発から運用で見えたこと
東京電力ホールディングス株式会社(以下、東京電力HD)とNTTアノードエナジー株式会社は嬬恋蓄電所合同会社を共同設立し、2025年5月15日より嬬恋蓄電所(群馬県吾妻郡嬬恋村)の商業運転を開始している。東京電力グループでは初の試みとなった蓄電所の開発から運用、さらには今、蓄電事業が注目される背景と展望について、本事業に携わった担当者を取材した。
この記事のポイント
- 再エネの普及に伴い、「電気をためる」蓄電事業の重要性が高まっている
- 嬬恋蓄電所は、東京電力HDとNTTアノードエナジーの両社がこれまで培ってきた電力事業にかかるノウハウを結集した系統用蓄電所
- 嬬恋蓄電所の開発から運用で得た知見を生かし、蓄電事業を全国へ拡大していく
グループの強みを結集、系統用蓄電池を事業化
近年、地球温暖化を背景に再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が世界的に進んでいる。一方、太陽光発電や風力発電は、日照や風況などの自然条件によって発電量が変動する特性がある。そのため発電量が多いときに余った電力を蓄え、必要なときに放電できる「蓄電」に注目が集まっている。
カーボンニュートラルと電力の安定供給を両立する上で、再エネ普及拡大に伴う電力需給の調整という課題への対応手段として、「系統用蓄電所」への期待が高まりつつある。

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需要側で太陽光や蓄電池の普及拡大が進むと、自家発電・自家消費、地産地消の広がりが見込まれ、災害に対するレジリエンス向上の観点でも有効となる。他方、太陽光・風力は発電量の変動が大きく、需要と供給のミスマッチが起こるリスクにもなる。安定供給のためには、ベースとして稼働する電源(水力・原子力・地熱)と需給バランスを調整する調整電源(ゼロエミッション火力)の組み合わせが重要。特に、エネルギー貯蔵(蓄電池・水素など)を活用した“ためて使う”が安定供給の鍵となる
こうした背景の下、運用を開始した嬬恋蓄電所について、プロジェクト統括を担う東京電力HDの上西良延氏、蓄電池の運用を担う東京電力エナジーパートナー株式会社(以下、東京電力EP)の會田拓海氏、新設・設置工事を担い、現在は保守・メンテナンスを担当する東京電設サービス株式会社(以下、TDS)の東典孝氏に、立ち上げの苦労、グループ連携に関するエピソード、さらに今後について伺った。
──系統用蓄電池とは、どのようなものですか?
上西:東京電力HDは2000年代初頭から電力を大量使用する工場の近くに産業用蓄電池を設置するなど、蓄電ビジネスに取り組んできました。こうした事業者向けとは別に、電力会社の系統(送配電網)に直接つなぐ大型蓄電池が系統用蓄電池です。電気が余っているときに電力を蓄え、不足しているときに蓄えた電力を系統に放電することで、電力の需給バランスを調整できます。

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「再エネの導入拡大が進む昨今、電力の需給を柔軟に調整する手段として、系統用蓄電池への注目が一層高まっています」(上西氏)
──嬬恋蓄電所は、東京電力グループとして初めての系統用蓄電所だと伺いました。
上西:東京電力HDは2022年に「長期的な安定供給とカーボンニュートラルの両立に向けた事業構造変革について」を公表しました。その中で、エネルギーの貯蔵が安定供給の鍵になると捉え、電力供給側の取り組みとして重要な役割を果たすと考えられる系統用蓄電所を開発することとし、嬬恋蓄電所が第1号案件となりました。
──系統用蓄電所の開発に、グループの枠を超えて取り組んだ経緯を教えてください。
上西:これまでの電気事業を通じて培ってきたノウハウや知見は、グループ内で蓄積され、それぞれが強みを持っています。そうした強みは、系統用蓄電所の設計から運用・メンテナンスまでの一連のプロセスでも大いに役立つと考えました。こうしたグループの総合力に加え、更なる知見を求め社外も含めてさまざまな方に声を掛けさせていただきました。
會田:東京電力EPはこれまで揚水発電所の運用において、電力市場の価格が安いときに水をくみ上げて位置エネルギーをためておき、価格が高いときには水を落とすことで発電するなど、「電力をためて価値を生み出す」事業に取り組んできました。その経験が蓄電池の運用にも生かせるだろうと東京電力HDより依頼をいただきました。
※【参照】再エネ普及の調整力にも! 重要性増す“揚水発電”とは

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「揚水発電所の運用経験がそのまま蓄電池の運用に当てはまるわけではなく、新たに考え直す必要がありました。しかしそれもまた貴重な経験となりました」(會田氏)

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「TDSは東京電力パワーグリッド株式会の100%出資子会社で、発電・送電・変電設備の保守、インフラのエンジニアリングなどを手掛けています」(東氏)
東:TDSは設備の技術面を支える現場のエキスパートとして携わっていますが、さまざまな不安もありました。蓄電所は単純に蓄電池の容量や台数を増やせば大型化できるわけではありません。設備が大型化すると、制御の仕組みや電力損失、各電池に均等に充放電するための配置、ケーブルの設置方法など、設備全体を最適化する必要があります。そのため、設計には大変な苦労があったと聞いています。
運転開始時は初の試み故の苦労も
嬬恋蓄電所は運用2年目を迎えた現在、大きなトラブルもなく順調に稼働している。しかし、グループ初の系統用蓄電所の設置は、準備段階からさまざまな“誕生の苦労”があったと3人は振り返る。

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系統用蓄電所「嬬恋蓄電所」(出力2.0MW/容量9.3MWh)は、2025年5月より商業運転を開始
画像提供:東京電力ホールディングス株式会社
會田:立ち上げ前に苦労したのは、今回の蓄電池にどのような制約があるのか、十分に把握できない状態からスタートした点です。蓄電所の運用には、まず運用ツールを作る必要があります。蓄電池にはどこまで充放電して良いかという上下限や、充放電に伴う電力損失、蓄電池への負荷の範囲など、使用にもさまざまな条件が求められます。また、蓄電池は充放電を長年繰り返すことで性能が劣化するため、サイクル数なども考慮しなければなりません。それらを一つ一つ積み上げ、東京電力HDに細かく確認しながらツールを完成させるまでには、相当の時間を割きました。

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嬬恋蓄電所には、大型の蓄電池パック(リチウムイオンバッテリー)が9基内蔵されたシェルターが8カ所並び、シェルター内はエアコンで室温が25℃程度に保たれている
東:運用開始初期はさまざまなトラブルがあり、設備の一部に不具合が発生した場合、その部分だけを切り離し正常な設備だけで運転を続ける「縮退運転」を相談することもありました。その場合、運用を担う東京電力EPに設備の状態や「どこまでなら運転できるか」を細かく説明しつつ復旧作業を進める必要があります。単に不具合を直すだけでなく、「その間、設備をどう運用するか」まで考えながら対応することに苦労しました。
上西:私も電気設備に携わる技術者ですので、営業運転開始後も、ある程度の初期トラブルは起きるものだと想定していました。ただ、トラブルが続き、なかなか落ち着かない時期が続きました。「こんなにもうまくいかないものなのか」と思ったほどです。今でこそ順調に運転できていますが、ここにたどり着くまでには大変な苦労がありました。
會田:できることを段階的に増やしていこうと、まずは安全に運転できる状態を確保しながら、縮退運転や需給調整市場への参加などから始めました。その際、密にコミュニケーションを取ることで困難を乗り越えました。
東:設備に不具合があると、お客さまから「なぜ動かないの?」と聞かれます。実際には技術的な理由があるのですが、それを相手方に理解していただけるように説明するのは非常に難しいケースが多くあります。その点、東京電力HDなら技術的な部分をすぐに理解していただけます。設備の状況や運転への影響について共通の認識を持った上で話ができるので、やりやすかった部分はありました。

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東氏らTDSは、普段は制御装置で蓄電池の遠隔管理を行い、設備に大きなトラブルが生じた場合にのみ現地へ駆け付けて対応する
嬬恋蓄電所の経験を生かし、全国展開へ
今年6月に経済産業省が公表した「蓄電池・電源産業戦略」において、2035年までに日本企業の蓄電池関連売上高を3倍とする目標が掲げられた。こうした中、東京電力HDは大和ハウス工業株式会社と系統用蓄電所の共同開発に関する業務提携契約を締結した。東京電力グループ全体としても、蓄電池を今後の成長事業と位置付け、蓄電事業の拡大が見込まれている。
──各社の今後の展望についてお聞かせください。
東:TDSとしては現在、系統用蓄電池に注力しています。多くの会社からお話もいただいており、さまざまな設置工事や試験を行っています。非常に勢いもある分野ですので、今後、蓄電業界における当社の地位を確立できるよう、日々取り組んでいきたいと思っています。
會田:蓄電事業は今後も伸びていく分野だと感じていますので、その事業の一端を担えるように東京電力EPも頑張っていきたいです。また今回、嬬恋蓄電所でさまざまな苦労を重ねながら運用を経験できたおかげで、今後の受託にも経験が生かせそうです。
上西:嬬恋蓄電所の開発から運用で得た経験を生かし、今後は1件当たりの規模を拡大しつつ、全国で複数の蓄電所を展開していきます。今回、工事、運用、メンテナンスまで東京電力グループがワンチームとなって取り組んできたことで、蓄電事業に対する自信も深まりました。こうしたワンチームで取り組む強みを社外の方々にも理解していただき、さまざまな方のサポートも得ながら、蓄電事業をさらに大きく成長させていきたいと思っています。

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共同開発される系統用蓄電所のイメージ。2035年までに全国で出力1GW(1,000MW)/容量4GWh(4,000MWh)規模の系統用蓄電所開発を目標とし、蓄電池の調達、電気工事、メンテナンス、蓄電所の運用を東京電力グループが担う
電力を「ためる」という選択肢は、再エネのさらなる普及と電力の安定供給を支える上で、今後ますます重要になっていくのは間違いない。
嬬恋蓄電所での試行錯誤から得られた経験とノウハウが、これから全国へ広がる蓄電事業にどう生かされていくのか、その取り組みに今後も注目したい。

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text:木村 敬(ウィット) edit:大場 徹(サンクレイオ翼) photo:下村 孝

















