NEXTランナー

高額賞金だけが魅力じゃない!「eスポーツ」がゲーム=遊びの概念を壊す日

プロゲーマー・竹内ジョン

新しい時代を切り開く次世代の職業人をフォーカスする「NEXTランナー」。今回は、近年話題の「eスポーツ」界から、国際大会での優勝経験を持つ若きプロゲーマー・竹内ジョン氏に登場してもらった。国内外で“スポーツ大会”の正式種目として採用され始めているeスポーツの将来、そして「プロゲーマー」の存在意義を聞いた。

トッププロはアスリート!「eスポーツ」がスポーツと呼ばれるワケ

2018年8月、インドネシアで開催された第18回アジア競技大会で「eスポーツ」がデモンストレーション競技として種目に加えられ話題となった。また、今年9月28日から茨城県で行われる第74回国民体育大会(茨城国体)の文化プログラムとして、サッカーゲーム「ウイニングイレブン2019」やパズルゲーム「ぷよぷよeスポーツ」などが競技種目として正式に採用。「eスポーツ」への注目度はますます高まっている。

そもそも「eスポーツ」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略称で、コンピューターゲームやテレビゲームなどで競い合うことをスポーツとして捉えた呼び名だ。1997年に米国で設立された「Cyberathlete Professional League(CPL:サイバーアスリート・プロフェッショナル・リーグ)」で世界初のプロゲーマーが誕生したとされ、現在では賞金総額が1億円規模の大会が年に何回も開かれている。競技人口は1億人以上、大会の観戦者・配信閲覧者数は3億人以上と言われ、2018年現在の市場規模は1000億円に達しているとも。海外では年収1億円を超えるプレイヤーもいるそうだ。

一方、日本では2010年、格闘ゲームの「ストリートファイター」シリーズにおける数々の大会で大活躍したウメハラ(梅原大吾)がプロゲーマーとして活動を開始。さらに、同時代を闘ってきた、ときど(谷口 一)やsakoなどを筆頭に、年々“本業・プロゲーマー”が増加している。また格闘ゲームだけでなく、FPS(First Person shooter;ファーストパーソン・シューター)やスポーツゲームなど、2018年2月に設立された一般社団法人日本eスポーツ連合(以下、JeSU)の認定タイトルを主とするプロゲーマーも登場してきている。

そんなプロゲーマーの一人である竹内ジョン氏は、現在21歳。ことしでプロ2年目となる若手選手の注目株だ。2016年にプエルトリコで開かれた「ストリートファイターV(以下、ストV)」の国際大会で、当時無名ながら優勝。2018年にはウメハラ、ときどなども参戦した世界最大級の対戦格闘ゲーム大会「Evolution Championship Series:JAPAN 2018(EVO JAPAN 2018)」に出場し、初めての日本開催でもあったこの大会で、並み居る強豪を抑えて準優勝している。

2018年に19歳でオランダと北米に本拠地を持つ強豪プロゲーミングチーム「Team Liquid(チーム・リキッド)」と所属契約を交わした竹内ジョン氏

この数年で一躍トップ層への仲間入りを果たした竹内氏は、まずは自らの土俵である格闘ゲームにおける“選手の条件”を教えてくれた。

「格闘ゲームは、コンマ何秒でコマンド入力するというような反射神経が必須かのように思えますが、実際にはそれだけでは勝てません。自分と対戦相手が使う各キャラクターの長所や短所、対戦相性などを全て把握し、技の動き、スピード、ダメージの大きさなど、さまざまな情報を分析する能力が必要になります。さらに試合では、刻々と変わる状況下で相手の行動を瞬時に読み、技やコンボを繰り出すかを同時に判断しなければならないので、瞬間的な対応力も重要です」

そして、これらの能力は絶対に“対戦経験”でしか培われないのだという。その証拠に、ストVの舞台では、ウメハラやときどといったストリートファイターシリーズを20年以上プレーしてきた30代選手が圧倒的な強さを誇っているそうだ。

主戦場とする「ストリートファイターV アーケードエディション」で、竹内氏はラシード(画面左)をメインキャラクターとして使用している

ストリートファイターV アーケードエディション(対戦格闘)/PlayStation®4 / PC/ プレー人数:1~2人、オンライン2~8人/CERO:B(12才以上対象)/©CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.

「僕はいつもボコボコにされています(笑)。でも、自分よりも強い人たちと何度も対戦することで、そういったトッププロに必要な能力や知識をたくさん学べました。今でもプライベートで頻繁に対戦会を開催してもらっていて、先輩方に挑んでいます」

対戦会は多いときで週4~5日。およそ8~9時間かけて対戦しては分析を繰り返し、先輩選手らにアドバイスを求めているという。

「実際の大会も、10時ごろから始まったら、全試合が終わるのは21時ごろ。一日がかりです。対戦中は一瞬たりとも気が抜けないので、終盤になるほど集中力をいかに持続させるかが重要になります。そういった意味でも長時間の練習は鍛錬になりますね」

近年では、スタミナ強化のためにジムでのトレーニングを取り入れるプロゲーマーもいるそうで、コンマ数秒の差で勝負が決する極限の状況下では、体力も勝敗の一因と言えるわけだ。その点では、一般的なスポーツとなんら変わらない。

eスポーツ後進国の汚名返上!プロライセンスが発展の足がかりに

プロゲーマー誕生から約20年。eスポーツの大会の賞金総額を見ても海外での盛況ぶりはすさまじい。一方で日本の大会は、賞金総額は1桁小さく、一般的な認知度もまだまだだという。

「日本で“ゲーム”と言えば、家庭用ゲーム機やアーケードゲームが浸透していますよね。けれども、eスポーツの主流は PCゲームなんです。日本には長らく家庭用やゲームセンターの文化が根付いていますから、PCゲームがはやりにくい環境があるんです」

Team Liquidの練習施設「Alienware Training Facility』の練習ルームでトレーニングに励む。施設内には作戦室やリラクゼーション施設、キッチンなども

画像協力:Team Liquid 公式twitter

どんなスポーツにも言えることだが、競技人口が少なければ人気や興行の規模は拡大できない。それに加え、日本で高額賞金を設定した大会を開くには、刑法(博及び富くじに関する罪)、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)、景品表示法の3つが壁となっていたようだ。

JeSUによると、参加費を募り、ゲームの勝敗によって賞金を与えると刑法に、また、敷地面積の10%以上にゲームが並べられているなど風営法の対象となる会場で大会を開催すると、参加費は無料でも、主催者が直接賞金を出すことが法律に抵触する可能性があるとしている。

さらに、ゲームメーカーが大会を主催した場合、賞金が販売するソフトをプロモーションするための“おまけ”の一種として見なされ、景品表示法の定める景品の上限額以上の高額賞金を設定すると、法に触れる可能性があるという。

「実際に2017年にフランスのゲームメーカーが主催した(ゲーム『レインボーシックス シージ』の)大会では、海外でも日本の法律が適用される恐れがあるとして、大会主催者から『日本チームが優勝した場合、日本の法律の都合上、賞金を受け取ることができません』と注意書きされたこともあります。お金が全てではないですが、賞金がこの仕事の魅力の一つであることは事実ですし、そのおかげでプロを目指す人も増えています。これが、日本でeスポーツの成長を阻んでいる障害の一つと言えるのではないかと思います」

この問題には、昨年大きな改革があった。JeSUが2018年2月、eスポーツのプロライセンス発行を決定。賞金を“プロの高度なパフォーマンスに対する報酬”として扱うことで、プロ限定であれば、日本でもゲームメーカー主催の高額賞金を設定した大会を開催することができるようになったのだ。

「プロライセンスは、“選手の質”にも大きなメリットになります。『公認タイトルで優秀な成績を収めること』と規定されていて、JeSUに審査、認定されるわけですから、自称プロのような曖昧な存在ではなくなりますし、自信を持って活動することができます。プロライセンスの存在が、eスポーツを世間に認知させ、業界が発展するいい機会になってくれればうれしいですね」

大会では選手と観客との距離が非常に近い。卓越したテクニックが飛び出すたびに、歓声が選手のすぐ背後で響き、会場は大興奮に包まれる

画像協力:Team Liquid 公式twitter

「ただ、プロゲーマーとして成功するには単にプロライセンスを取得するだけではダメで、あっと驚かせるよう巧みな技術や、みんなを魅了するカリスマ性も備えていなければいけないと思うんです。僕自身がそのようなかっこいい先輩方に憧れてプロを目指したように、そういったプロゲーマーがもっと増えれば、さらに若い世代が目指してくれる。そうすれば、競技人口が増えて、日本でもeスポーツが根付くと思うんです」

「ゲームは遊び」という固定概念の転換がeスポーツ発展のカギ

ことし3月、竹内氏よりさらに若い世代の世界で、日本におけるeスポーツの現在地が分かるニュースがあった。ある高校で「eスポーツ部」新設を検討したところ、校内で反対の声が挙がったという。

「やはり現状では、仕方がないことだと思います。ですが、一般にeスポーツの素晴らしさを知ってもらえるチャンスなので、どんどん部活動として認めてもらいたいですね。きっかけは“遊び”でもいいと思うんです。その中で、eスポーツが作った画期的な大会運営の方法や仕組み、またプロゲーマーという職業の真剣な世界を学べるようにできれば、とても有意義な部活動になると思います。そうなれば、その生徒はもちろん、親や世間の認識も変わってくるはず」

海外選手の台頭に屈しないよう、日本人プロゲーマー同士で日々切磋琢磨(せっさたくま)しているという。先輩選手のおかげで今の自分があると感謝するほど、国内勢の絆は強いそう

竹内氏も、プロを目指していた当時は親の目を気にしていたそうだが、業界のことを知ってもらった今では、応援してもらえているそうだ。“遊ぶもの”から“仕事になる”ことが日本でも認知されれば、世間の固定概念はきっと一変するのだろう。

「それに、仕事として考えると、格闘ゲームで言えば、経験を積むほど強くなれる傾向があるので、他のプロスポーツと比べても現役生活は長いのではないかと考えています。今のトップを走る先輩方を見ていると、たぶん50~60代ぐらいまでできるはず。さらに強くなると想像すると恐ろしいですが(笑)」

しかし、ゲームの仕様変更や、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)などの新技術の採用などで、操作方法が様変わりし、培ったスキルが台無しになるという懸念はないのだろうか。

「もちろん仕様変更で状況が変わることはあるでしょうね。実際に、『ストリートファイターⅣ』の次に『ストリートファイターV』が出たときは、キャラクターのジャンプスピードが速くなったので、より速く正確なボタン操作の重要度が増しました。ですが、少なからず前作を踏襲した新作ですから、経験でカバーできる部分はかなりあります。他にも新キャラが登場したり、技のコマンド入力が変わったり、その都度、研究を怠らなければ問題ありません。スタートラインはみんな同じですし、努力することは変わりありません」

確かに、柔道やフィギュアスケートのように、ルールがマイナーチェンジされることは他のスポーツ競技でも多分にある。挑戦する熱意さえあれば、何も恐れることはないという。

3月15日に米国・アトランタで開幕し、1年を通して世界各地で開催される「CAPCOM Pro Tour 2019」の「ストV AE」部門に参戦中。開幕戦とマレーシア大会ではそれぞれ13位タイ、続く米国・サンノゼで開催された「NorCal Regionals 2019」(写真)では4位の好成績を収めた。竹内氏は2019年4月3日現在、同ツアーのグローバル順位表で6位につけている

画像協力:Team Liquid 公式twitter

「だから、新しいものにはどんどん挑戦したいですね。いい刺激になりますし、逆にそういうことがないと成長が止まってしまうと思うんです。僕は『ARMS(アームズ)』という格闘ゲームを趣味でやっているんですが、これはより人間の動きに合わせた操作方法になっていて、とても面白いんです。例えば、パンチするときは、両手に握ったコントローラーを腕ごと前に伸ばす、ガードするなら両手を内側へ傾けるというように。いずれこの経験が、ストリートファイターでも役に立つかもしれませんね」

プロとしての誇りと挑戦することの面白さを胸に、努力によって人を魅了できる技術を身に付ける。それは、どんな競技であれトップに立つための必須条件だろうし、そこから披露される驚異的なプレーこそが、その競技を社会が“求めるもの”にできる絶対条件の一つと言える。若きプロゲーマーが世界を魅了し続けたとき、将来、子供たちの「なりたい職業ランキング」の1位が変わる日が来るかもしれない。

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