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空想未来研究所2.0

水刃は2700万発以上撃てる! 転生したスライムはどれほど強いのか

『転生したらスライムだった件』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「スライム」。小説投稿サイトからライトノベル、マンガ、アニメへと展開し、いわゆる“転生もの”の中でも人気の高い作品『転生したらスライムだった件』(小説第1巻2014年刊行)。スライムとなった主人公の体や数々の特殊能力について、エネルギーの視点から考えてみました。

37歳で人間からスライムに転生したら

“転生もの”が花盛りである。多くはライトノベルとして世に出され、アニメやマンガに発展して、熱い支持を集めている。

それだけたくさんの人たちが、日常から脱却して別の生き方をしてみたいと願っているのか、あるいは異世界という制約のない舞台で、自由闊達(かったつ)につづられる物語が人の心を揺さぶるのか。いずれにしても、筆者には新鮮なジャンルである。

新鮮と書くだけあって、それほどこのジャンルを読んでいないのだが、「これは異色では?」と思ったのが、『転生したらスライムだった件』である。

大手ゼネコンに勤める三上 悟(37歳)は、通り魔にナイフで刺されて死亡し、異世界へ転生する。気が付くと、スライムになっていた!

普通なら勇者とかになり、いろいろなタイプの美女に囲まれて大活躍するところなのに、悟の場合は魔物の中でも最弱のスライム! せっかく転生したのにコレですかー!?

だが、そのスライムはすごかった。悟は死の間際、“世界の言葉”が聞こえてきて、その思いに応ずるかのように、ちょっとピント外れな「スキル」が与えられるのだ。

「刺された背中が熱い」と思うと、《対熱耐性》を獲得。
「刺されて死ぬのは嫌だ」と思うと、《刺突耐性》と《物理攻撃耐性》を獲得。
「痛い」と思うと、《痛覚無効》を獲得。

こうして悟は、高熱に耐え、刺されても死なず、あらゆる物理攻撃をはね返し、痛くさえない体になったわけである。スキルはまだまだあるが、最後の2つは特にすごかった。

ユニークスキル《捕食者》と《大賢者》である。

《捕食者》は、食べたものを大容量の胃袋に蓄え、相手の姿や能力をコピーできる力。《大賢者》は、必要な情報が瞬時に手に入る上、思考や知覚の速度がなんと1000倍になる能力!

初めは視覚や聴覚すらないところからのスタートだった。それでもこれらをうまく使って、次々に新しいスキルを手に入れ、さらに努力を重ねてしてドンドン強くなっていくのだ。そこがいい!

やがて悟は、暴風竜ヴェルドラ(結構いいヤツ)に出会い、「リムル」という名前をもらう。今回は原作小説とアニメの両方を参考にしながら、リムルの活躍を熱く考えよう。視点はもちろんエネルギーである。

転生したらスライムだったときの基本スペック

まずは基本スペック、リムルの体格を明らかにしよう。その体は、前後左右に広い回転楕円体、すなわち温泉まんじゅう形である。

小説とアニメの情報を基に計算すると、直径38cm、高さ26cmで、体積は19L。湖に落ちたとき、浮かびも沈みもしなかったから、密度が水と同じとすると体重は19kgになる。

この姿に転生した直後は、五感のうち触覚しかなかった。この状況から《大賢者》との思念会話で、リムルは自分についてさまざまなことを知る。

体は同じ細胞の集合体で、一つ一つが脳細胞であり、神経であり、筋肉。そして、持ち回りで休憩するので睡眠は必要ない。食事も呼吸も排せつも不要なのは、エネルギー源がこの世界に満ち満ちる「魔素」だから。これは便利だ!

その後、巨大な暴風竜ヴェルドラに出会う。彼は300年前の戦いで勇者に敗れて無限牢獄にとらわれ、話し相手を求めていた。

リムルはヴェルドラに「魔素の流れを感じれば、視覚や聴覚の代わりになる」と教わり、《大賢者》に相談してエクストラスキル《魔力感知》を獲得する。この力のすごさは、光のない洞窟の中でも見える上に、視野はなんと全方位360度。さらに、100m先さえ意識を向ければ見える。視覚に関しては、人間だった頃よりはるかにスバラシクなったのだ!

2人は友情の証しとして名前を与え合い、リムルはヴェルドラを無限牢獄から救う方法を解析するために、《捕食者》でヴェルドラを胃袋に収める。

そのシーンが大迫力だった。空中でブワーッと広がって、自分よりはるかに巨大なヴェルドラを包み込み、やがて元の大きさに戻ったのである!

アニメで計ると、ヴェルドラの体高はリムルの体長(直径)の50倍、19mほどもある。これを包んだリムルは、直径20m、前後が30mほどのラグビーボール形になった。その表面積は1485m2で、体積19Lのリムルがこの面積に広がると、厚さは0.013mm。髪の直径(0.08mm)の6分の1!

向こうが透けて見えても不思議はなく、よくぞ破れなかったものである。

転生したらスライムだったときの身体能力

こうして、ヴェルドラを胃袋に収めたリムルは、地上への出口を求めて洞窟の中をピョンピョン跳ねていく。体長の2倍ほど跳び上がり、一跳びで体長の3倍ぐらい進んでいるが、これはどんなスピードなのか。

ジャンプの滞空時間は高さだけで決まり、体長38cmの2倍=76cmなら0.787秒。この間に体長の3倍=114cm進むのだから、速度はこうなる。

【 1.14[m]÷0.787[秒]=1.45[m/秒]=5.21[km/時] 】

おお、人間が普通に歩く(時速4km)より速い!

これには、どれほどのエネルギーを消費するのだろう。

人間は1kmを進むのに、体重1kgあたり1kcalを消費する。オモシロイのは、歩いても走っても、この値は変わらないこと。

同じ距離なら歩くより走る方が大変な気がするが、それはエネルギーを短時間で消費するために心拍数や呼吸数が上がり、疲労の原因となる物質が作られるからだ。

泳いだり自転車に乗ったりすれば別だが、人間が2本の足で進む限り、消費するエネルギーの総量は変わらないのである。これと比べよう。

リムルが1回のジャンプで発揮するエネルギーは、計算すると0.039kcal。人間の体内では、外部に発揮するエネルギーの4.7倍が消費されるが、同じ細胞が脳にも筋肉にもなるリムルは、その気になれば全身を筋肉にできるのだろうから、それほどの無駄は生じないと思われる。仮に2倍を消費するとしたら、1回ジャンプで0.078kcalを消費することになる。

1回のジャンプで1.14m進むから、1kmを進むには877回跳ばねばならない。すると、68.9kcalを消費することになり、体重1kgあたり3.56kcal。これは、同じ距離を進むのに人間の3.56倍ものエネルギーが必要ということだ。スライムはやっぱり大変ですなあ。

だが、リムルの運動能力はこんなレベルではない。黒蛇という大蛇に出会うと、地面から30度ほどの角度で跳び上がり、高度5mほどまで達して、水を回転させて発射する《水刃》という技を放ち、黒蛇の首を切断した!

この大ジャンプを繰り返せば、1回に17.5mも進み、平均時速31kmに達するハズ。速い!

1km進むのに57回のジャンプで済み、消費するエネルギーは体重1kgあたり1.18kcal。なんと、頑張ってスピードを出した方がずっと楽。すごいスライムだっ!

スライムを最強にした《水刃》の実態

《水刃》は、この後もリムルの主力武器となっていくが、異世界入りしていきなり与えられたスキルではなく、自ら編み出した技だ。

リムルは水に含まれる魔素を操作して武器にしようと考え、試行錯誤の果てに“水での切断”を思い付く。薄い円盤にして高速回転させながらの発射を一週間にわたって何度も試みるうち、ついに岩を切断! スキル《水刃》を獲得する。

アニメでは三日月形の刃が直進するように見えるが、小説には「空気の抵抗を受けて、刃のような残像を残す」とあるから、実体は円盤形だとして、考察を進めよう。

現実世界にも、細いノズルから水を高速で発射して、ゴムや強化プラスチックを切るウオータージェットという加工機械がある。中でも金属や岩石の粉を混ぜたものはアブレッシブジェットと呼ばれ、ガラスや鋼鉄さえも切断する。回転する水の円盤も速度さえ十分なら、魔素も混じっていることだし岩だって切れるだろう。

首を切断した黒蛇について、リムルは言っている。

「硬度が増してとげとげしい鱗に覆われた真っ黒な蛇」
「俺を一呑みにできるであろう、禍々しい大蛇」

ここから首の直径は50cmで、その表面は厚さ2cmの鋼鉄と同じ強度の鱗で覆われ、これを切断できれば内部の肉や骨も切れると考えよう。

《水刃》一発に使う水の量について、リムルは「コップ一杯分にも満たない」と言っているから150mLと仮定する。これを黒蛇の首と同じ直径50cmの円盤にすると、厚さは0.76mmになる。

アブレシッブジェットにもいろいろあるが、『やさしい生産加工技術101選―21世紀への課題を探る』(101選編集委員会 編/工業調査会)のデータによると、「直径1.6mmのノズルから水をマッハ1.5で噴き出し、厚さ2.5cmの鋼鉄を秒速33cmで切り進む」(同書には圧力が示されているが、著者が速度に換算した)。ここから計算すると、黒蛇の首を切断した《水刃》の回転速度は周辺部でマッハ7.99!

こんなとてつもない回転をさせると、周辺部には300万G(重力の300万倍)の遠心力が働く。水1gあたり3tの遠心力がかかるわけで、普通ならアッという間に飛び散る。そうならないのは、もちろんリムルが水中の魔素を操作しているからだろう。

そんな難しい操作をよくぞ1週間で……いや待て、リムルは《大賢者》で知覚も思考も1000倍の速度になっているのだ。すると普通の人が1000週間=19年2カ月も修行したのと同じ! なるほど「努力に勝る魔力なし」ですなあ。

しかも、《水刃》は《捕食者》で胃袋に蓄えた水があれば何発も撃てるらしい。黒蛇を倒した後、リムルは胃袋の空間使用量を確認した。

「ヴェルドラが15%、水が10%、薬草+回復薬とその他を合計して2%、鉱石と素材が3%」

リムルは「何千発《水刃》を放っても、水の残量を気にする程度ではない」と言っているが、実際には何発撃てるのだろう。

ヴェルドラが胃袋の中で、捕食されたときのラグビーボール形と同じ体積を占めているとすれば、その体積は6283m3。これが15%を占める胃袋の空間とは、4万1888m3である。標準的な高校の体育館が35m×23m×7m=5635m3だから、その7.4倍!

この広大な胃袋全体の10%を占める水とは、4189m3だ。これだけあれば、1発150mLの《水刃》が2792万5268発撃てる! 巨大な魔物を一発で倒せる技がこんなに撃てたら、ほぼ無敵だ~!

転生した姿は残念だったけど、そこで手にした力を有効に使い、新たな力を手に入れて強くなっていく。そして、何より重要なのが自分の努力。人間の強さは、姿形ではないという強烈なメッセージであり、自分も強く生きていこうという勇気が湧く。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

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