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怪獣8号のワンパンは166億ジュール! 巨大怪獣を爆発させるエネルギー

『怪獣8号』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「怪獣」。ウェブコミックで人気急上昇中のマンガ『怪獣8号』(2020年~)の主人公・日比野カフカが怪獣化して見せた驚異のエネルギーについて考えてみました。

日常的な天災「怪獣」がいる世界

「怪獣出現! さあ、ヒーローを呼ぼう!」

というのは空想世界の話であって、現実世界でもし怪獣が現れたら、人間の手で何とかするしかない。それをリアルに描きつつ、ヒーローもののワクワク感をもかき立ててくれるのが『怪獣8号』である。

この斬新なマンガは、次のナレーションで始まる。

「怪獣大国日本 その発生率は世界でも指折りである」

これにテレビ(ラジオの可能性も)の報道が続く。

「繰り返します 神奈川県横浜市に怪獣が発生しています 直ちに命を守る行動をとってください フォルティチュードは6…」

命を守る行動!? フォルティチュード!? まるで怪獣が地震のように扱われている!

そして、巨大な怪獣が現れると小型の怪獣が複数現れるのが常で、巨大な方は「本獣」、小型の方は「余獣」と呼ばれる。

いよいよ地震そのもの!

冷静に考えれば、確かにそうなるだろう。

もし本当に怪獣が出現したら、市民は避難するほかない。その脅威を数値化しようと考えるのも自然なことだ。余獣まで出るとあっては、本獣が去ったとしても油断はできない。

ただ一つ地震と違うのは、怪獣も生物である以上、倒すことができるということだ。本作では、「日本防衛隊」が自衛隊と共同して、その任務に当たる。

そして、現実的に考えると、倒した怪獣の死体をどうするのかという問題が浮上するが、ここでは民間の怪獣専門清掃業者がその作業を請け負っている。主人公の日比野カフカ(32)は、その一つ「モンスタースイーパー(株)」の社員だった。

だが、後述する事情でカフカは「怪獣8号」となってしまうのだ!

そして、ヒロインの亜白ミナ(27)は防衛隊第3部隊の隊長。これまでに討伐した怪獣は数百体! 23歳で入隊したとすれば、年間100体ほど倒してきたわけで、モーレツに強い!

この2人は「一緒に怪獣を倒す」と誓い合った幼なじみで、お互いへの思いも物語を膨らませる要素だが、ここでは「怪獣討伐」と「死体処理」に焦点を合わせよう。視点はもちろん、エネルギーだ。

あまりに過酷な怪獣の死体処理業務

最初に登場した怪獣は、巨大なトカゲのような姿。倒されて横たわったシーンで、直近にいる作業員と比べると、顏の横幅が10mほどある。

別のコマから推定すると、全長(頭胴長+尾長)はその10倍はあると見られ、すると全長は推定100m! 巨大でどう猛なトカゲとして名高いコモドオオトカゲ(平均でおよそ全長250cm、体重47kg)と比較して計算すると、体重は3000tである!

この怪獣は、ミナが率いる第3部隊によって倒されたのだが、カフカの仕事はここから始まる。

体重3000tの怪獣を解体して運ぶには、4t積みトラック750台が出動せねばならないが、それ以前に解体するのが容易ではない。

怪獣の死体の有用なパーツは、防衛隊の装備の材料になる。そのためか、作業はかなり丁寧に進められていた。マンガに出てきた専門用語を列挙すると「腕部肉剥ぎ」「骨洗浄」「脚部解体」「腸作業」。ここまで丁寧となると、解体というより解剖である。

人間には、200本の骨と400本の骨格筋がある。皮膚や臓器や神経まで入れれば、カウントすら可能かどうか。怪獣の体もこれに匹敵する数のパーツでできているだろうから、1000とかに分けるのか…。

いや、体重が3000tもあるのだから、1000個に分けても1個平均3tにもなる。現場には重機が見られず、ほとんど手作業で進めている様子だから、大きくても50kgぐらいに細分化する必要があるだろう。

その場合、分かれるパーツは6万個! 100人がかりでも、1人が50kgの荷物を600回も運ばないと! カフカも現場で「マジで今週中に終わるのかよ…」とため息をついていたが、仮に6日かかったとすれば、1日100回。地獄の重労働である。

中でも「腸作業」は臭いが強烈で、しばらくは食事ができないという。これ、内容物はどれほどになるのだろうか。

日本人が1日にする大便の量は平均250gだという。消化物が大腸を通過する時間は15~20時間と言われるから、大腸の内容物も同じと考えていいだろう。男女合わせた人間の平均体重を60kgとすると、体重の240分の1だ。

この重量比が怪獣も人間と同じだった場合、体重3000tの怪獣の大腸には12.5t の内容物が含まれる計算になる。

マンガではホースの水で洗い流していたが、怪獣の大腸には未知の腸内細菌もいるだろうから、そのまま下水に流すのはマズい。環境保全のためにはバキュームカーの出動を要請したいところだ。

現場となった横浜市が保有するバキュームカーは、最大のもので容量6.6t(6.6kL)。12.5tを処理するには2台あればいい。

ただ、それ以上に心配なのが血液だ。

人間の血液は、体重の13分の1を占める。この割合が怪獣も同じなら、血液は231t。これまたオイソレと下水に流すわけにはいかないから、またしてもバキュームカーが出動! 容量6.6tなら35台! 腸の内容物用と合わせて37台が必要になる。

いくら政令指定都市の横浜市とはいえ、そんなにバキュームカーがあるとは思えないから、近隣の市町村、いや都県から借り集めるしかないかも 。

怪獣専門清掃業者の皆さん、本当にお疲れさまです。

怪獣を破裂させるパンチのエネルギーとは?

こうした日々を送っていたカフカは、新人アルバイトの市川レノ(18)に刺激され、これまで何度も受けては落ちてきた防衛隊員選抜試験に、もう一度挑戦することを決意。

その矢先、謎の生物が飛来し、カフカの口に飛び込む。これが原因で、カフカは身長2mほどの怪獣になってしまった!

壁に触れただけで建物全体を壊したり、下半身からタコのような足が何本も生えたり、口から別の口が飛び出して電線に止まったカラスを食べたり、もうムチャクチャである。

しかし、この体は猛烈に強く、幼稚園児を襲おうとしていた巨大怪獣の顔面にパンチを浴びせると、怪獣はぶっ倒れる。「ちょっと本気で殴って」みた2発目では、全身がボゴォォンと破裂して、跡形もなく飛び散った!

これは一体、何が起きたのか!? パンチで生物の体を破裂させるとしたら、筆者のアタマでは、次のようなメカニズムしか思いつかない。

パンチを打つ
→運動エネルギーが熱エネルギーに変わる
→体内の水分が蒸発
→体積が増えて破裂!

水が100℃で蒸発すると、体積は1700倍に増える。十分な破壊力だから、この仮説のもとで考えよう。

このときカフカが破裂させた怪獣は、人間と同じような体形をしていて、幼稚園児と比較すると、頭頂から顎まで3mはありそうだ。自分の体をもとに計算すると、身長20m、体重110tと見られる。さて、この体を破裂させるパンチとは?

怪獣の体の水分が、人間と同じように体重の60%を占めるなら、水の重さは66t。その10分の1が蒸発すれば、体が爆発すると仮定しよう。

怪獣の体温を36.5℃として、6.6tの水をこの温度から100℃に上昇させ、蒸発させるためのエネルギーを計算すると、398万kcal=166億J(ジュール)。カフカのパンチも、これと同じだけのエネルギーを持っていたと考えられる。

比較の対象を探すなら、TNT爆薬4.2t分! あるいは、3万6000tの東京スカイツリーを高度47mから落としたのと同じ!

怪獣化したカフカは、身長2mほどに見える。筋骨隆々で腹などは引き締まっているから、体重は150kgほどか。この体で、上記のエネルギーを持つパンチを放つとしたら、そのスピードは時速22万km、マッハ179! ライフル弾の60倍!

この速さでは、避けることも防ぐことも不可能で、当たったが最後、体が爆裂! 怪獣たちにとっては、絶望するしかないパンチである。

フォルティチュードとは何か?

だが、この事件で、カフカは防衛隊がコードネームを付けた8番目の怪獣となった。すなわち「怪獣8号」である。やがてカフカは自分の意思で怪獣に変身したり、体の一部を怪獣化させたりできるようになる。

カフカはそれを隠して防衛隊選抜試験に臨む。ここで不測の事態が発生し、カフカは怪獣8号に変身。そのとき防衛隊の計測器が、超高エネルギーを感知して「フォルティチュード9.8」を表示した。第3部隊の副隊長・保科宗四郎は「故障」と即断する。そうでなかったら、歴史に残る大怪獣だという!

このフォルティチュード9.8とは、どれほど強いのか?

もし「フォルティチュード」が地震の「マグニチュード」と同じシステムだとしたら大変だ。2つの地震に関して、エネルギーとマグニチュードの間には、次の関係がある。

 【 エネルギーの比=101.5×マグニチュードの差 】

例えば、「マグニチュード8.0」と「マグニチュード8.2」の地震は、数字で見るとわずか「0.2」しか差がない。しかし、エネルギーからすると全く違う。

それは上の式から分かる。指数部は「1.5×0.2=0.3」になり、10の0.3乗とは1.995である(携帯の関数電卓機能で計算できる)。つまり、地震のエネルギーは2倍も大きいのだ。

冒頭の報道にあったように、最初に出現した怪獣はフォルティチュード6だった。カフカのフォルティチュード9.8は、それより3.8倍大きい。すると上の式において、指数部は「1.5×3.8=5.7」となり、10の5.7乗は50万1187。

つまり、怪獣8号は最初に現れた怪獣より50万倍以上も強い!

モノスゴイ強さだが、すると逆に考えたくなる。最初に現れた怪獣の強さはどれくらいだったのか?

怪獣8号のパンチのエネルギーは166億Jだったから、これが全力だとすると、その50万分の1は3万3200J。これは、車重1tの乗用車が時速29kmでぶつかるのと同じである。

体重が3000tもあって、こんなエネルギーしか出せないとしたら、この怪獣が何かに全力でぶつかる速度は時速536mということになる。横浜駅からみなとみらいまで(1.6km)全力疾走しても3時間かかる!

もちろん、これは「カフカが怪獣を破裂させたとき、フォルティチュード9.8を全開した」とか「フォルティチュードはマグニチュードと同じシステム」など、いくつかの仮定から得られた結論です。“最初の怪獣”ファンの皆さんは、どうか怒りをお静めください。

怪獣を人間の手で倒し、死体を人間の手で片付ける。この極めてリアルな世界にあって、人間が怪獣になり、とてつもない強さを発揮する。現実を背景にするとき、夢と空想は、一層大きく爆発するのだろう。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

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