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空想未来研究所2.0

「宇宙で動く」ってすごい! 宇宙空間の掃除と戦闘のエネルギー/プラネテス、機動戦士ガンダム

『プラネテス』と『機動戦士ガンダム』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「宇宙空間」。『プラネテス』(マンガ1999~2004年)と『機動戦士ガンダム』(アニメ1979~1980年)で描かれた宇宙空間での作業や戦闘から、宇宙で動くために必要となるエネルギーを考察してみました。

宇宙っていいよね

最近、宇宙が身近になったと言われるが、種子島で生まれた筆者にとって、宇宙は昔から身近である。

種子島がロケット発射場に選定されたのは1966年。筆者が5歳のときで、くしくもテレビで『ウルトラマン』が始まったのと同じ年だ。1968年に種子島で初めて打ち上げられたLS-Cロケットは、全長10.3m、直径60cm。それからだんだん大きくなるロケットを見ながら、筆者は確信を深めていった。

「種子島のロケットは、いつか人間が乗れる大きさになり、自分はそれに乗って宇宙へ行くんだ」と。

その夢はかなわなかったが、宇宙への憧憬は今も冷めやらない。無重力に身を委ね、地球の美しさや宇宙の深さを肌で感じてみたい。2021年、民間の方が自費で宇宙に行かれたが、正直うらやましくてたまりません!

宇宙を舞台にした空想の物語は、無数に作られてきた。宇宙には、誰しもひかれるのだろうか。中でも地球近傍での物語は「宇宙の実感値」が高い。その代表は、『プラネテス』と『機動戦士ガンダム』だろう。

宇宙に進出すると、人間はどんな形でエネルギーと関わることになるのだろう。

プラネテスが描くスペースデブリとの戦い

『プラネテス』は2068~2080年を舞台にした物語。地球人口は110億人に及び、石油はとうに枯渇。宇宙に資源を求めなければ、人類は立ち行かなくなっていた。

そんな未来で、主人公のハチマキ(星野八郎太)は、民間会社でスペースデブリの処理をやっている。大きなものは回収し、小さなものは大気圏に落として燃え尽きさせる。そんな作業を来る日も来る日も続けながら、いつか自分の宇宙船を手に入れて、自由に飛び回る日を夢見ていた。

スペースデブリとは、人工衛星やロケットの残骸のことで、「宇宙ごみ」とも呼ばれる。「ごみ」という名前から宇宙空間を漂っているイメージがあるが、とんでもない。

「それぞれの高度における重力と釣り合う遠心力が発生する速度」で飛んでいる。

例えば、物語の冒頭に出てくる地上210kmの低軌道では、重力は地上の94%。これと釣り合う遠心力が発生する速度とは秒速7.778km。ライフル弾の10倍レベルだ。

運動エネルギー=1/2×質量×速度2

なので、同じ質量でも破壊力はライフル弾の100倍クラスとなる。スペースデブリは極めて危険な存在なのだ。

地上3万6000kmの静止軌道(人工衛星の公転周期と地球の自転周期が等しい軌道)では、重力は地上の2.3%だが、デブリの速度は秒速3.075km。「重力と釣り合う遠心力が発生する速度」は重力の4乗根に比例するため、重力が弱くなっても意外なほど遅くはならないのだ。

現実世界でも、世界各国機関の協力で、1m以上のものだけで数千個、1cm以上のものだと100万個近くも確認されている。『プラネテス』の時代は、もっと多いだろう。それを処理するハチマキたちの仕事は「宇宙への道を整備する作業」といえる。

プラネテスの世界のエネルギー源はヘリウム

では、石油が枯渇した時代、人類は何をエネルギー源にしているのだろう。答えは「ヘリウム3による核融合」。これで世界の電力需要の70%を賄っているという。

核融合とは、太陽の中心部でも起きている反応で、わずかな物質(太陽の場合は水素)から莫大なエネルギーを生み出すことができる。

では、ヘリウム3とは何か?

原子は、原子核の周りを電子が回るという構造になっていて、原子核は陽子と中性子でできている。

陽子の数は「原子番号」と呼ばれ、これで原子の種類が決まる。陽子が1個なら水素、2個ならヘリウムだ。

「陽子の数+中性子の数」は「質量数」と呼ばれ、これで原子1個の質量が決まる。質量数が重要なケースでは、原子の名前の後に質量数を付けて呼称し、記号では、元素記号の左上に質量数を付ける。ただし、水素2=2Hは「重水素」と呼ばれ、記号にD(deuterium)を使う。

つまり「ヘリウム3」とは「質量数が3のヘリウム」のことで、記号は「3He」。ヘリウムなので陽子は2個、質量数が3なので中性子は1個ということだ。

ヘリウム3は重水素と核融合し、「D-3He反応」と呼ばれる。陽子を●、中性子を○で表すとこうなる。

重水素(●○)+ヘリウム3(●●○)→ ヘリウム4(●●○○)+陽子(●)

D-3He反応は、起こすのに5億度もの温度が必要で、現実世界の技術では困難だが、燃料となる重水素は海水に、ヘリウム3は月面の岩石に大量に含まれている。

『プラネテス』の世界では月との往復が当たり前になっていることもあり、このD-3He反応が実現しているということだろう。スバラシイ!

では、人口110億の世界の70%のエネルギーを賄うには、どれほどのヘリウム3が必要なのか。

1kgのヘリウム3でD-3He反応を起こすと、587兆J(ジュール)のエネルギーが発生する。これは石油に換算すると1万3000t分。モノスゴク効率がいいのだ。

現在、世界の人口は78億人で、1年間に石油140億t分のエネルギーが消費されている。これが人口に比例するなら、人口110億人であれば石油197億t分。その70%とは138億t分だ。

これは、1kgのヘリウム3から発生するエネルギー(石油1万3000t分)の106万倍だから、ヘリウム3が106万kg=1060tあれば、1年間に必要なエネルギーが賄えることになる。『プラネテス』の世界なら、月から十分に運べるだろう。

さらにこのD-3He反応は、スゴイことにも使われていた。それは、「比推力60万秒」という木星探査船のエンジンだ。

比推力とは「1kgの燃料で1kg重の推力を何秒間出し続けられるか」ということで、詳細は省くが、

比推力=噴射速度÷地球の重力加速度(9.8[m/秒2])

になる。

つまり、比推力が60万秒ということは、

噴射速度=60万[秒]×9.8[m/秒2]=588万[m/秒]=秒速5880km

現実の液体燃料ロケットの噴射速度が秒速4.5kmだから、ケタ違いにキョーレツだ。

エンジニアを目指すハチマキの弟は、「オレのエンジンで火星日帰り旅行」という夢を持っていたが、D-3Heエンジンなら可能なのでは?

例えば火星に片道5時間で行くためには、探査船の速度は最低でも秒速8705kmが必要だ。D-3Heエンジンなら、機体重量の77%まで燃料を積めればその速度に到達できる。日本のH-ⅡAロケットは、機体重量の85%が燃料。まったくの夢ではない。

ガンダムvsザクが宇宙空間で戦うと?

片や、『機動戦士ガンダム』では、地球と月の周辺を舞台に、激しい戦いが繰り広げられた。特筆すべきは、モビルスーツのスペックが細かく設定されていることだ。

『機動戦士ガンダムMS大図鑑【PART.1 一年戦争編】』(バンダイ)によれば、主な2機については次の通り。

こうしてみると、両者の性能差は明らかだ。ジオン公国軍が「白いモビルスーツ」と呼んで警戒していたのもうなずける。

中でも注目すべきは、全備重量に対するスラスター総推力の割合だ。

ガンダムの場合は、

スラスター推進力55.5t÷全備重量60t=0.925

これは、0.925G=自由落下の0.925倍=9.065[m/秒2]の加速度で運動(加速・減速・方向転換)できるということだ。

これに対して、ザクの加速度は0.587G=5.749[m/秒2]。足場のない宇宙では、スラスターで移動するしかないから、この差は大きい。

これに「センサー有効半径」(センサーの識別最長距離)を加えると、どうなるか。

ガンダムとザクが、互いに静止した状態で5700m離れていたとしよう。センサー有効半径の広いガンダムが先にザクを発見し、0.925Gで突進!

23.4秒後、ガンダムはザクのセンサー有効半径に入る。ザクもガンダムに向かって突進するが、そのとき既にガンダムは秒速213m=時速766kmに達している!

その5.3秒後、両者は対敵する。ザクの速度は秒速30.4m=時速109km、ガンダムは秒速261m=時速939km。さすが機動戦士であり、ザクが圧倒的に不利では!?

プラネテスとガンダムの驚くべき共通点

ところが、宇宙での戦いでは、そうではないのである。宇宙では、自分が動いているか、止まっているか、認識する手段はない。意味を持つのは、自分と相手との「相対速度」だけだ。

つまり、ザクから見ればガンダムは時速109km+時速939km=時速1048kmで迫ってくるし、ガンダムから見てもザクは時速1048kmで迫ってくる。

アムロが初めてシャアと戦ったとき、真紅のシャア専用ザクがものすごいスピードで迫ってきたが、シャアにも全く同じように見えていたはずなのだ。

この結果、まともにぶつかったりしたら、両者は全く同じダメージを受ける。それぞれ重量1tの砲弾がマッハ3.5でぶつかってくるのと同じ! ザクはもちろん、ルナチタニウム製のガンダムも危ないのでは……ああ、またスペースデブリが増えてしまう!

もちろん『ガンダム』では、モビルスーツ同士が全力でぶつかったりせず、宇宙空間を飛び回りながら、ビームライフルやバズーカで戦う。そのときモノを言うのは、やはり加速度。そしてパイロットの熟練度ということになる。

最後に心配なのは、ガンダムがスラスターでどのくらい活動できるのかということだ。さまざまな資料を当たったところ、『データコレクション② 機動戦士ガンダム 一年戦争編』(メディアワークス)で、驚くべき記述を発見した。

「ミノフスキー/イヨネスコ型の熱核反応炉は、ヘリウム3を基本燃料とし、D-3He反応によって膨大なエネルギーを生み出す」。なんと、ガンダムの世界でも、エネルギー源はD-3He反応! 噴射速度も、おそらく秒速5880km!

これなら、1秒間に92.5gの燃料を反応させれば、55.5tの推力を生み出すことができる。全備重量の10%の燃料を積んでいたとすれば、ガンダムは連続18時間も戦える!

宇宙は、地上からはるかに遠い。その道を乗り越えるのがロケットという科学技術だ。アニメという夢の世界も、現実世界からはるかに遠い。その間を「科学の夢」がつなぎ、制作者たちが具体的に描くことによって、2つの豊かな物語が生まれた。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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