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超小型人工衛星「ひろがり」が2大ミッションを達成! 大学で加速する宇宙開発の今

新規展開構造物の軌道上計測システムとアマチュア無線帯(VHF)での高速通信技術を実証

今も昔も人類の夢と希望が詰まった宇宙開発。つい最近も日本民間人初の宇宙旅行が実現し、13年ぶりとなる日本人宇宙飛行士が募集されるなど、宇宙関連の話題が注目を集めた。そんな最中の2021年12月に届いたのが、大阪府立大学と室蘭工業大学が共同開発・運用する超小型人工衛星「ひろがり」の、軌道上計測システムおよび高速通信技術における2大ミッション達成の知らせ。その名の通り宇宙開発の可能性を広げる一歩となった実証実験の中身に迫った。
※冒頭の画像は「ひろがり」のイメージ

大面積構造物を宇宙空間に運ぶ方法

大阪府立大学 小型宇宙機システム研究センターと室蘭工業大学 航空宇宙機システム研究センターが、2017年に共同開発をスタートした超小型人工衛星「ひろがり」。2021年2月に米・NASAワロップス飛行施設より打ち上げられた後、同年3月に国際宇宙ステーション(ISS)から放出され、運用が続けられてきた。

「ひろがり」の開発目的は2つ。新規展開構造物の軌道上計測システムの実証と、アマチュア無線帯(VHF)での高速通信技術の実証である。

1つ目のミッションである「新規展開構造物の軌道上計測システムの実証」とは何か。

近年、人工衛星には太陽電池パネルやパラボラアンテナなど、面積の大きな構造物を搭載する必要性が増しているという。こうした大面積構造物を人工衛星に搭載して宇宙空間に打ち上げるには、なるべくコンパクトにして積載できる高い収納性が求められる。

さらに、打ち上げられたとしても宇宙空間は無重力や真空などの条件が重なる厳しい環境だ。そのような環境下で問題なく展開し、形状が求める精度を満たしているかどうか、軌道上で計測する必要が出てくる。

今回の実証では、折り紙工学(※)における「ミウラ折り」を発展させ、面積と厚みのある二次元展開板構造物(以下、パネル)を折り畳んで「ひろがり」に収納した。併せて、二次元格子を利用した光学的な表面形状計測システムを搭載し、宇宙へと放っている。

※ 折り紙工学:「折る」ことでできる特殊形状を工学的に応用した学問

宇宙空間到達後は複数回にわたり展開コマンドを送信。機体に設置した2台のカメラで撮影した画像を時系列で比較し、パネルが徐々に展開、伸展するのを確認した。

徐々に外縁が拡大し本来の展開された状態に近づいていくパネル(2021年4月4日撮影)

また、表面形状の計測には「全体撮影モード」と「5領域分割撮影モード」で受信した画像を使用している。

全体を撮影した画像を圧縮して一度に送信する「全体撮影モード」の画像

撮影領域を5分割して高解像度のまま複数回に分けて送信する「5領域分割撮影モード」の画像

軌道上での運用におけるこのシステムの実用性を評価しつつ、計測には「5領域分割撮影モード」で撮影した鮮明な画像を用いることで、形状のバラつきが少ない計測を実現した。

面積も厚みもあるパネルの収納から展開までの方法と、その軌道上計測システムの双方を宇宙空間で実証できたのは、世界初の快挙とされている。

「5領域分割撮影モード」で撮影した画像(上段左と中央)と表面形状の計測結果(上段右)の方が、「全体撮影モード」で撮影した画像(下段左と中央)と表面形状の計測結果(下段右)よりも鮮明に撮影できる

宇宙からアマチュア無線の幅を拡大

続いて2つ目のミッションである、「アマチュア無線帯(VHF)での高速通信技術の実証」について。

まず、簡易な設備で送受信できる周波数帯で、利用料も安価とあって、大学が開発する超小型人工衛星の大半がアマチュア無線で通信を行っている現状がある。そして多くのアマチュア無線衛星は UHF、VHF で 1.2kbps、9.6kbps という通信速度を利用している。

対して「ひろがり」では、より高速な通信速度(GMSK 13.6kbps、4FSK 19.2kbps)を利用。さらに、誤り訂正能力を持つリード・ソロモン符号を用いたプロトコル(データをやりとりするための通信規格。以下、RS)と、リード・ソロモン符号に畳み込み符号を組み合わせたプロトコル(以下、RS+畳み込み)を採用した。これらの通信技術の有用性を実証し、より高効率な通信を目指すためだ。

従来の方式も含む 6 つの通信方式で性能を比較する通信実験を実施した結果、全ての通信方式について通信を成立させることができた。

その上で、通信条件を昼夜および仰角の高低で 4 通りに分類し、「単位時間当たりにどれだけの量のミッションデータをダウンリンク(地上へのデータ伝送)することができるか」を示す実効速度を算出したところ、今回の「ひろがり」の通信技術では比較的不利な低仰角の場合であっても、特定の通信条件(GMSK 13.6kbps AX.25とGMSK 13.6kbps RS)で従来方式の実効速度を上回ることに成功した(通常、高仰角であれば人工衛星と地上局との距離が近くなるため、通信条件としては有利になる)。

低仰角における各通信方式の実効速度の結果一覧

これらの実証に加え、アマチュア無線での交流を広げる「メッセージボックスサービス」のテスト運用も実施された。世界各国にいるアマチュア無線家たちの協力のもと、実際にサービスが機能することが確認されている。

また、宇宙への興味喚起のため、「世界中のアマチュア無線家へ届けたい言葉」や「宇宙へのメッセージ」をテーマに、一般からもメッセージを募集した。集まったメッセージは「ひろがり」に送信され、「ひろがり」から世界中のアマチュア無線家へと届けられた。

現在は、本格的なメッセージボックスサービスの運用を開始しており、世界中のアマチュア無線家がこのサービスを通じてメッセージのやりとりを行っている。サービス提供時間や利用方法は、大阪府立大学 小型宇宙機システム研究センターのホームページで公開している。

ミッションを達成し、エネルギーや通信技術における宇宙空間の活用を拡大につなげた大学発の超小型人工衛星。本格運用を開始したメッセージボックスサービスの展開も含め、これからの”ひろがり”に期待が高まる。

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