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空想未来研究所2.0

仙人モードのナルトが放つ螺旋丸のエネルギー/NARUTO

『NARUTO』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「忍術」。連載終了からおよそ9年がたった今なお世界的に人気を誇るマンガ『NARUTO』から、主人公・うずまきナルトが繰り出す忍術「螺旋丸」について、エネルギーの観点から考察してみました。

成長する忍術「螺旋丸」

若者が努力して新しい技術を身に付け、磨き、パワーアップさせていく。そんな成長の物語に、我々は胸を打たれる。『NARUTO』の場合、それは螺旋丸だった。主人公のうずまきナルトが手のひらにハンドボール大の球体を出現させ、手のひらもろとも相手にぶつけると、相手は数十mもぶっ飛ぶ!

螺旋丸を編み出したのは、ナルトの父・四代目火影の波風ミナトである。ミナトの師だった自来也は、これを弟子(ミナト)から学んで会得し(これもすごい)、ミナトの死後、息子のナルトに伝授した。自来也先生から見れば、弟子から受け継いだ技を、その息子が十分に成長したので、ナルトに返した……という思いもあったのかもしれない。

ナルトが立派なのは、2年の修行を重ねて、螺旋丸を強化させていったことだ。影分身の分身体と一緒に放つ「大玉螺旋丸」へ、風の性質を加えて切断の効果を加えた「風遁・螺旋手裏剣」へ、そして自然エネルギーを加えた「仙法 大玉螺旋丸」へ。中でも、最後の仙法 大玉螺旋丸は驚異的だった。体長20mほどの巨大な獣を空高くぶっ飛ばした!

四代目火影が編み出した螺旋丸とは、どんなワザなのか。そした、仙法 大玉螺旋丸は、それをどれほど発展させたワザなのか、エネルギーの観点から考えてみよう。

手のひらで爆弾が炸裂!?

螺旋丸は、他の忍術と同じように「チャクラ」から生まれる。チャクラとは『NARUTO』の世界の人々が体内に宿すエネルギーのようなもので、肉体エネルギーと精神エネルギーを練り合わせて作るという。

もちろん現実世界では、チャクラは確認されていない。だから、その「実体」は分からないのだが、「性質」は作品から読み取れる。自来也先生は、螺旋丸を身に付けたいと望むナルトに、次の3段階の修行を課した。もちろんナルトは、苦心を重ねてこれをやり遂げた。

その1 水風船の水をチャクラで回転させて水風船を割る
その2 チャクラを激しく回転させてゴムボールを割る
その3 水風船の中でチャクラを激しく回転させながら、水風船の大きさを一定に保つ

ここから分かるのは、チャクラは他の物体(「その1」では水)を動かし、運動が激しくなればエネルギーが上昇し(水風船やゴムボールを割る)、圧縮することもできる(大きさを一定に保つ)ということだ。

これは、高温高圧の気体によく似ている。そのような気体は、圧縮から解き放てば、爆風となって他の物体を破壊&運動させるし、温度が高いほど激しく動くし、強い圧力をかければ圧縮もできる。

恐らく螺旋丸は、小さく圧縮したチャクラのエネルギーを一気に解放し、敵をぶっ飛ばす術なのだろう。手のひらで爆弾を破裂させるも同然ということだ。

その威力はどれほどか? ナルトが初めて螺旋丸を放った相手は、薬師カブト。初登場時はナルトと同年代の医療忍者だったが、徐々に存在感を増し、物語中盤から残忍な黒幕として暗躍する人物だ。

ナルトは、右の手のひらでチャクラを激しく回転させる。それを圧縮し、球の形にしてカブトのボディにたたき込んだ。カブトは一直線に飛ばされて、20mほど後方の岩に背中からぶつかり、その表面を砕いて止まった。カブトが飛ばされたコースに沿って、地面が深くえぐれていた……。

これはモノスゴイ威力だ。カブトが激突した岩は、直径2m、厚さ30cmほどの領域が砕けていた。砕けた岩は320kgほどで、岩を砕くには1kg当たり100J(ジュール)のエネルギーが必要といわれる(高さ10mから落としたのと同じ)から、カブトの体は3万2000Jの運動エネルギーで飛ばされたことになる。彼の体重を60kgとすると、岩に背中から時速120kmで激突! こんな目に遭っても死ななかったとは、さすが未来の黒幕である。

エネルギーの観点から注目したいのは、ナルト自身が全くダメージを受けなかったことだ。普通、手のひらで爆発など起こしたら大ケガをするだろう。自分と同じくらいの体格のカブトがぶっ飛んだのなら、自分だって反対側へぶっ飛ばされてもおかしくない。

そうならなかったということは、螺旋丸はチャクラのエネルギーを相手だけに伝えるのかもしれない。忍術でそれが可能だとしたら、カブトの体に与えられたエネルギーが、螺旋丸のエネルギーの全てと考えていいだろう。ここからは、その前提で考えよう。

だが、岩の破壊だけが、カブトの体に与えられたエネルギーの全てではない。前述の「螺旋丸の発動シーン」を、もう一度読んでいただきたい。そう、カブトは岩に激突する前、地面を深くえぐっているのである!

近所の空き地で、木の板で実際に地面をえぐってみると、土1Lをえぐるのに必要なエネルギーは200Jだった。

マンガのコマでは、土は断面が「幅1m、深さ15cmの弓形」に、長さは20mほどにわたってえぐれており、その体積を計算すると2000L。すると、えぐるのに消費したエネルギーは40万Jとなる。

なんと、地面をえぐるには、岩を砕くより10倍以上も大きなエネルギーが必要だったのだ!

結局、カブトの体に打ち込まれたエネルギーは、43万2000J。爆発に近い現象なので爆薬に換算すると346g分。標準的なダイナマイトには、爆薬200gが入っているから、その2本分に近い威力ということだ。

これに耐えたカブトはいよいよスゴイ。このとき倒しておけば、その後の戦いも激化しなかったかも……とも思うが、これほど頑健だったら倒すのは難しいかも。

螺旋丸が1万2000倍の大進歩!

では2年後に身につけた「仙法 大玉螺旋丸」の威力はどれほどになっていたのか?

その完成に力を貸したのは、蛙の長老・フカサク先生である。先生はナルトに「仙術」を伝授した。忍術と幻術が、身体エネルギーと精神エネルギーを練り上げたチャクラを使って出すのに対し、仙術はそれに自然エネルギーを加えて発動する。これによって、忍術や幻術だけでなく、体術も大幅にパワーアップする。厳しい修行の果てに、ナルトは自然エネルギーを取り込んだ「仙人モード」になれるようになった。

仙法 大玉螺旋丸が炸裂したのは、犯罪組織・暁(あかつき)のリーダー・ペインが木ノ葉隠れの里を壊滅させた直後だった。一味の1人が口寄せした獣たちに向かって、ナルトは仙法 大玉螺旋丸を放った。一連の展開は次の通り。

(1)仙人モードのナルトは、突進してきたサイ形の獣を空中高く投げ飛ばす
(2)2体の影分身を出し、仙法 大玉螺旋丸を2発作り、牛形と犬形の獣に1発ずつぶち込んで空高く打ち上げる
(3)ナルトの合図で、巨大な3匹のカエルがジャンプ
(4)3匹のカエルが、(1)(2)の3体の獣を空中で同時に斬り捨てる

こう書くと一瞬の出来事に見えるが、この間にも、いろんな戦いが繰り広げられていた。ということは、獣たちはかなりの高さまで飛ばされたはずであり、仙法 大玉螺旋丸は、それだけの威力があったことになる。

そこで、アニメを確認したのだが、あちこちにスローがかかった描写があり、正確な時間が計れない。窮余の策として、マンガで起きていることを自分で実演してみると、(1)→(2)が15秒、(2)→(3)が3秒、(3)→(4)が10秒だった。

ここから、仙法 大玉螺旋丸のエネルギーを割り出してみよう。

まず(3)→(4)の10秒から、3匹の巨大カエルが3体の獣を斬った高度が浮かび上がる。最も低いのは、10秒後に最高点に達した場合で、地球上では次の式で高度が求められる。

上昇高度[m]=1/2×9.8[m/秒2]×上昇時間[秒]2

9.8[m/秒2]は「重力加速度」と呼ばれる数値で、地球の重力の強さを表す。この式に「上昇時間=10秒」を代入すると490m! 最も低くてこの高さ! さすがカエルだ。

そして(2)→(4)から、牛形と犬形は打ち上げられてから13秒後に高度490mに達したことが分かる。その前に最高点に達し、落ちてきたところを斬られたわけだ。

その最高点の高さは、求める式は複雑なので割愛するが、525mである。地球上で物体をこの高さに打ち上げる速度とは時速365km! 仙法 大玉螺旋丸は、巨大な獣2体を新幹線(最速で時速320km)より速く打ち上げるだけのエネルギーを持っていた!

問題は、その獣たちの体重だ。コマで計測すると、犬形の体長は19m、牛形は23m。それぞれ秋田犬(体長1m、体重60kg)と黒毛和牛(体長2.4m、体重700kg)を基に計算すると、体重は犬形が380t、牛形が590t。合わせて970tである。16両編成のN700系新幹線が715tだから、それより重い!

物体をある高度まで打ち上げるエネルギーは、次の式で求められる。

エネルギー[J]=質量[kg]×9.8[m/秒2]×最高高度[m]

この式に「質量=970t=97万kg」「最高高度=525m」を代入すると、仙法 大玉螺旋丸のエネルギーは50億1000J。カブトに放った螺旋丸(43万2000J)の1万2000倍!

父よ、息子はこんなに強くなりました!

敵を投げ飛ばすスピードはリニア以上!?

だがここで、筆者もスッカリ忘れていたことがある。最初に投げ上げられたサイ形の獣はどうなったのだろうか?

ナルトがサイ形を投げ上げたのは、牛形と犬形が仙法 大玉螺旋丸で打ち上げられた15秒前。ところが、カエルに斬られたのは、犬形&牛形と同じタイミング。つまり、犬形と牛形が宙を13秒舞っていたのに対し、サイ形だけが28秒も空中を舞っていた!

ここから計算すると、サイ形は高度1222mまで飛ばされた! 投げ上げられた速度は時速557km! リニア新幹線(時速500km)より速い! サイ形の体長が分かるシーンはないので、牛形と同じ23mと仮定して、シロサイ(体長4m、体重3t)と比較すると、体重560t。これを高度1222mまで投げ上げるエネルギーは67億8000万J。投げ飛ばしの方が、仙法 大玉螺旋丸より威力がある! 

すごい術の陰でヒッソリと、さらにスゴイことが行われていたわけで、仙術のものスゴさがヒシヒシと伝わってくる。

亡き父が編み出した技を、苦心して身に付けた少年忍者。やがて青年となり、さらなる修行を積んで、その技を大きく発展させた。おそらく1人では成し遂げられなかった偉業であり、何人もの大人たちの指導、そして信頼と見守りがあったからこそ、本人の努力も実ったと言えるだろう。作品は、我々にも「そういう大人であれ」と訴えかけてくる。人間の想像力は本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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