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新フェーズ突入、洋上風力発電

洋上風力発電の主力電源化に向けて日本が取るべき戦略

世界を日本がリードするカギとなる「浮体式」開発

2020年に発表された「カーボンニュートラル宣言」を受け、日本でも洋上風力発電普及の機運が高まっている。ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー調達におけるリスクが高まる中、洋上風力発電はその切り札となるのか。東京大学大学院 工学系研究科 社会基盤学専攻の石原孟教授に、洋上風力発電の現状と可能性について聞いた。

ポテンシャルの高い日本の洋上風力発電

世界風力会議(Global Wind Energy Council)が発表した「Global Wind Report 2022」によると、2021年に世界で新たに導入された風力発電設備は9360万kW。これは過去最高だった2020年とほぼ同水準だが、注目すべきはその中の洋上風力発電だ。前年比約3倍の2111万kWが新たに導入されたのだ。

洋上風力発電は、2000年にデンマーク・コペンハーゲンで本格的なウインドファーム(集合型風力発電所)が建設されて以来、欧州を中心に発展してきた。東京大学大学院 工学系研究科 社会基盤学専攻の石原孟教授が解説する。

オンラインで答えてくれた東京大学大学院 工学系研究科 社会基盤学専攻 石原孟教授

「欧州では、電源構成における風力発電の割合が15%を超えています。2040年には最大の電力源となる予定で、40%に達する見込みです。デンマークは、既に40%を超えています」

海に囲まれている日本もポテンシャルは高い。

「日本の国土面積は、世界61位です。太陽光発電や風力発電の設置が増えていますが、前者は発電するのに天候や時間に左右されますし、後者も天候の影響のほか景観や騒音の問題があり、設置する場所が限られます。いくら再生可能エネルギーを活用しようとしても、陸地だけでは、世界第3位の経済規模である日本のエネルギーを支えることはできないのです。ところが海洋に目を向けると、日本の領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた広さは、世界6位です。これを利用しない手はありません。洋上風力発電には、日本のエネルギー問題を解決できる可能性があるのです」

有望であるにもかかわらず、日本の洋上風力発電の導入はこれまで鈍かった。実証実験を重ねてきたものの、発電コストが高く、企業も行政も実用化に及び腰だったからだ。また、総合商社を筆頭とする企業連合は、海外のプロジェクトに積極的に参画してきた。

世界から遅れを取っている日本の潮目が変わったのは2020年。10月に菅義偉首相(当時)が「2050年カーボンニュートラル宣言」を表明したのだ。

「それによって空気が一気に変わりました。2020年12月には、洋上風力の導入目標を定めた『洋上風力産業ビジョン』がまとめられ、2030年までに1000万kW、2040年までに最大4500万kWを導入する目標が掲げられました。さらに、2020年度第3次補正予算では、環境技術の社会実装を促す総額2兆円のグリーンイノベーション基金が創設されました」

風車の大型化で発電コストが大幅低下

技術革新も洋上風力発電普及の機運を高めている。風車の大型化によりウインドファームが大規模化し、発電できる容量が増えたことで、発電コストの大幅な削減が可能になったのだ。現在、各社で開発されている風車の高さは200mを超える。

「以前、総出力17万kWのウインドファームでは、1kWh(キロワットアワー)当たりの発電コストが36円でしたが、昨年の入札で、日本の企業連合が受注した出力170万kWの案件では、それが12円まで下がりました。これは134 基の風車によるもので、原子力発電所2基分に相当します。規模によるコスト削減効果はものすごく大きいのです」

ウインドファームの開発会社を決めるには入札が行われるが、その入札金額が風車の大型化によって下がってきているのだ。

コスト面での課題が解決されたら、次は立地だ。洋上に風力発電設備を建設するには、陸上の電力系統との接続が不可欠だが、関東エリアなどではそれが比較的容易だと石原教授は言う。

「茨城県や千葉県には、沿岸に数多くの送電線が整備されています。茨城県や千葉県、福島県の沖合に洋上風力発電設備を造れば、それらを利用して一大電力消費地である関東地方に送電することができるのです」

それでも日本が洋上風力発電を拡大させていくには、幾つかの課題がある。石原教授はまず入札制度の在り方を指摘する。

「日本では企業は自ら電力系統を確保し、地元を説得して入札に参加してきたのです。そもそも海域は国が所有しているわけですし、漁業や航路として利用される海域もあります。日本も欧州のようにセントラル方式を採用すべきです」

セントラル方式を導入すると、準備段階の風況と地質の調査や電力系統の協議などは政府が行うことになる。事業者にとっては参入しやすくなる環境が整えられるため、洋上風力発電を普及させるためのカギになりそうだ。その上で、プロジェクトを推進させるには、サプライチェーンの構築も課題となる。

「洋上風力発電設備を構成する要素は、ブレード(羽根)・ナセル(発電機等の収納部)などの部分は3~4割程度で、6~7割は風車以外の部分です。まず風車部分以外を国内で製造していかなければなりません。そうしないと、日本の産業が育たないからです。風車部分は海外メーカーが強いのですが、この部分にも日本のメーカーは関与していくべきです。東芝は、世界最大の総合電機メーカーであるゼネラル・エレクトリック (GE)と提携して日本の工場でナセルを生産しようと進めています。半導体のような最先端の技術も大事ですが、エネルギーに関する技術も非常に重要です」

洋上風力発電にはブレード・ナセルに加え、基礎構造物、送電線など大掛かりな設備が必要で、関連する業界も建設、電機、エンジニアリング、造船など裾野が広い。「オールジャパンを目指すべきだ」と石原氏は提言する。

竣工して稼働を開始した後にも課題がある。それは保守管理であり、電力を安定供給するためには、定期的なメンテナンスが欠かせない。その仕組みを作るべきだと石原氏は提案する。

「洋上風力発電全体のコストのうち、建設費は3分の2くらいで、3分の1は維持管理費。安定稼働のためには予防保全が必要なのです。サプライチェーンを特定の地域だけで構築することはできませんが、維持管理なら可能です。これは地元の人がやるべきであり、それが地域経済の活性化にもつながります。洋上風力発電は産業育成だけでなく、人材育成も必要なのです」

過酷な日本の環境に適応できれば世界中で通用する

世界中で市場が拡大する中、風力発電を巡る覇権争いにおいて今後のカギになりそうなのが「浮体式」だ。現在の主流は、海底に風車を支持構造物で固定する「着床式」だが、水深が深くなると物理的に難しくなる。その課題を解決するのが、風車を海に浮かべる浮体式である。

洋上風力発電における着床式と浮体式

出典:NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)『浮体式洋上風力発電技術ガイドブック』(2019年4月10日発表)p.14より引用

「水深50~60mなら着床式が可能ですが、それ以上になると設置できず、浮体式が必要になります。風力発電の開発は、1990年代から欧州で始まり、着床式と浮体式はほぼ同時進行で進められてきました。着床式の方が技術的に易しく、先にブレークスルーしたために普及したのです」

実は、期待される浮体式の開発で先行するのは日本だ。

「浮体式に取り組んでいるのは欧州と日本だけで、日本は世界をリードしています。ただし普及させるには、ここでもコストの問題があります。なぜなら着床式は一度にたくさん造れますが、浮体式はまだ大量生産ができないからです」

ところが水深の浅い水域には限りがあり、やがて深い水域での建設が必要になる。いずれは浮体式の割合が上がると予測されるのだ。そうした将来を見据え、欧州では浮体式を導入する動きがあると石原氏は言う。

「着床式の普及が進んでいる英国では浮体式の導入も進めており、丸紅がプロジェクトに参画しています。浮体式のコストを下げるために、英国では着床式とのセットによるプロジェクトも始めました。いわばハイブリッドです。浮体式にしても着床式にしても、基礎構造には鋼材が使われます。鋼材を同時に購入することで、コストが下がるのです。日本の現在の法律では、EEZ(排他的経済水域)に風力発電設備を設置することができませんが、法改正して海域を広げ、浮体式の商業化を進めてほしいですね」

日本の洋上風力発電のポテンシャルとして、NEDOによると、着床式の適応限界水深と考えられる50〜60mまでの賦存(ふぞん)量(理論的に導き出された総量)は約2億1000万kWと推察されている。一方、浮体式が実用化されれば、水深200mまで設置可能な海域の賦存量は約12億kWとなり、着床式の約6倍もの規模になる。

NEDOのデータを基にした洋上風力発電の開発可能性(縦軸はkW、横軸は離岸距離)。離岸距離が大きくなるほど、着床式の設置が可能な水深の割合が小さくなる

提供:石原孟教授

浮体式にしても着床式にしても、日本で洋上風力発電が普及し、実績を作ることができれば、それは世界に打って出る上で大きな武器になると石原氏は強調する。

「日本には地震がありますし、台風もあります。そうした非常に厳しい自然環境を克服できれば、世界中のどこにでも設置することが可能になります。日本は世界に貢献できると期待しています」

ようやく洋上風力発電に本腰を入れ始めた日本。海外で“旋風”を巻き起こす日はそう遠くないかもしれない。

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