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新フェーズ突入、洋上風力発電

ポテンシャルは着床式の倍以上。開発競争が進む浮体式洋上風力発電は、脱炭素の救世主となるか

日本の洋上風力発電の可能性を最大限に生かす、「浮体式」への期待とは

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、必要不可欠な再生可能エネルギーの主力電源化。中でも期待が寄せられる「洋上風力発電」について、本特集ではそのポテンシャルを探ってきた。今、カギを握るとされるのが「浮体式洋上風力発電」であり、東京電力リニューアブルパワー株式会社は2021年2月よりノルウェーの実証プロジェクトに参画している。浮体式洋上風力発電の現在地とこれからについて、同社風力部 風力エンジニアリングセンター 浮体技術グループの浅井聡史氏、吉永剛氏に話を聞いた。

欧州で進む浮体式洋上風力の発電実証プロジェクト

再生可能エネルギー開発で、世界的な注目を集める洋上風力発電には「着床式」と「浮体式」がある。前者は海底地盤に杭を打つなどして風力発電設備を固定・設置するものであり、後者は洋上に浮かんだ浮体式構造物を利用するものである。

着床式の技術開発については欧州を中心に盛んに進められ、東京電力リニューアブルパワー(再生可能エネルギー専業会社として2020年4月に分社化)でも2009年より千葉県銚子市の沖合で着床式洋上風力発電の実証研究を実施。2019年1月には商用運転も開始している。そうして着床式技術が確立されつつある今、洋上風力発電の新たな可能性に懸けて動きだしているのが「浮体式」の実証だ。

同社は2021年2月、欧州大手エネルギー企業のShell plc(本社:オランダ)、RWE Renewables GmbH(本社:ドイツ)、Stiesdal Offshore A/S(本社:デンマーク王国)が共同で実施しているテトラ・スパー型浮体式洋上風力発電の実証プロジェクトに参画。同年11月にはノルウェーでの実証運転を開始している。

デンマークで製造され、ノルウェーで実証運転を開始

提供:東京電力リニューアブルパワー

「浮体式」への技術開発に注力する背景には、再生可能エネルギーの主力電源化に向けたどのような課題があるのだろうか。

「着床式は、設置可能な海域が限られます。着床式の適用水深は概ね50m以下であり、ヨーロッパの一部など遠浅の海が広がる地形でしか設置できません。一方の浮体式は、その名の通り、風車・浮体を水面に浮かせるもの。船のいかりと同じやり方で海底地盤に固定するため、水深50m以深の海域でも設置が可能です。日本は遠浅の海域が狭く、欧州でも着床式は適地が限られていますが、浮体式の技術開発が進めば、世界各国の海域で洋上風力発電を設置できるようになる。より水深が深い海域に設置できることで陸地の影響が小さくなり、より好風況になることが見込まれる。つまり使えるエネルギーが増えることになります。2050年のカーボンニュートラルを目指す上では、着床式に加えて、新たな発電容量を確保していかなければいけません。浮体式技術はまだまだ未成熟ですが、今から投資し、安定稼働できるような技術開発を進める必要があると考えています」

そう話すのは、東京電力リニューアブルパワー 風力部 風力エンジニアリングセンター 浮体技術グループマネージャーの浅井聡史氏だ。2021年に参画したプロジェクトでは「テトラ・スパー型」での実証運転の技術総括を担っている。

そもそも浮体式洋上風力発電の浮体技術には、スパー型、セミサブ型など複数の形式がある。いずれも、組み立てや設置技術の確立はこれからの課題となるものの、日本導入の実現に可能性を見いだしたのが、工場で製作した小部材で大型の浮体部分を組み立てて設置するテトラ・スパー型だったという。

テトラ・スパー型浮体の構造

提供:東京電力リニューアブルパワー

同グループの吉永剛氏は続ける。

「テトラ・スパー型は、既存のサプライチェーンを活用した産業化を念頭に置いて設計開発されています。欧州では着床式の洋上風力発電が盛んなため、風車を造る工場が既にいくつかあり、部材の調達に地域のサプライチェーンを活用することができます。加えて、浮体重量が小さく、溶接などの特殊なプロセスを経ずに現地での浮体組み立てが可能です。比較的簡単に製造できるため、設置のコスト削減につながります」

海水面と浮体の触れる面積が小さい浮体式には、波や潮流の影響を受けにくいという特徴もある。日本の海域での設置となれば、特に太平洋側は周期の長い波浪(うねり)による影響が大きく、それだけのエネルギーに耐えられなくてはならない。

「大型の台風下で安全性を確保できるかも、今後の検証課題の一つでしょう。そんな日本の厳しい自然条件下でも、テトラ・スパー型は適用できる可能性が高いと考えています」

島国・日本ならではの強みを生かせ。目指すは電力の地産地消

現在ノルウェーで進めている実証運転は、3~5年のデータ収集を見込んでいる。今のところ大きな問題もなく安定的に稼働しており、今後は計測したデータを机上のシミュレーション結果と照合させていく。日本での実証研究という次のフェーズに向けて順調な進捗だという。

では、日本での浮体式洋上風力発電の実装可能性に向けた現在地を、2人はどう捉えているのか。

「現プロジェクトでは、風車出力3600kW(キロワット)という比較的小型なものを使っています。洋上風力発電の拡大に向け、浮体式がその一翼を担うためには、風車をいかに大型化できるかにかかっています。浮体式の設置コストはまだまだ高価であり、浮体形式のデファクトスタンダード(事実上の標準)は確立されていません。着床式よりも陸地から離れているため、メンテナンスにもコストがかかります。大型化すればそれだけ施工も難しくなり、コストダウンをどう実現できるかがキーになるでしょう」(浅井氏)

ノルウェー沖合に設置したテトラ・スパー型浮体式洋上風力発電設備

提供:東京電力リニューアブルパワー

「大型化すればするほど、部材をつるためにより大型のクレーンなどが必要になります。いまだどの国でもやったことがない未知の領域です。まずは現在ノルウェーで実証運転している浮体式洋上風力発電設備が、20~25年の長期にわたり問題なく稼働するように改善を加えていきながら、同時にどう大型化させていくのかを考えていかなければいけません」(吉永氏)

東京電力リニューアブルパワー株式会社 風力部 風力エンジニアリングセンター 浮体技術グループ 吉永剛氏

さらには、世界規模での気候変動も新たな課題になってくるという。

「台風が大型化すれば風速が上がる可能性があり、それに合わせて設計をより強固にすればコストも上がります。そもそも、欧州と日本の気候や自然環境は異なるので、欧州でできたことが日本の海域ではできないこともある。さまざまな要素を検討しないと本当の実現性は見えてきません」(浅井氏)

クリアすべき課題が数多くある中、それでも浮体式への技術投資を進めるのはなぜか。背景には、海に囲まれた日本におけるポテンシャルの高さがある、と浅井氏は続ける。

「日本の浮体式洋上風力発電は、ポテンシャルとしては424GW(ギガワット)を生み出せるという試算があります。1GWは100万kWであり、原子力発電所の1基分が生み出す発電容量に相当します。その400倍以上ですから、膨大です。

日本の全海域に浮体式洋上風力発電設備を置けるわけではもちろんありませんし、漁業など先行利用されているエリアなどを除けば、その範囲はさらに限られるでしょう。どこまで主力電源を浮体式洋上風力発電が担えるかは、これから考えていかなくてはならない課題です。

ただ、世界の遠いところで作った電力を運んでくるよりも、日本での“地産地消”が効率的なことは間違いありません。遠いところからの送電では電力ロスが生じてしまうからです。SDGsの観点からも、電力をいかにして自給自足していくのかは、各国が考えていくべきテーマだと考えています」(浅井氏)

日本での実証実験成功がカーボンニュートラル実現のカギを握る

2021年にスタートしたノルウェーでの実証プロジェクトは、2024~2026年には設備の完全撤去を含めて完了予定だ。そこに合わせて、日本での大型風車を使った実証研究が次なる挑戦となる。

「政府が掲げる洋上風力の成長戦略としては、2020年代に浮体式洋上風力発電の研究開発や実証を進め、2030年代以降は商用化を見据えています。私たちもそれに遅れることなく、できるだけ前倒しをしながら開発に注力していきたいと考えています」(浅井氏)

東京電力リニューアブルパワー株式会社 風力部 風力エンジニアリングセンター 浮体技術グループマネージャー 浅井聡史氏

「どの海域で実証ができるかなど、具体的なプランはこれから策定していきます。大型風車の施工にあたり、大型の機械を置ける港の選定、海象(かいしょう)の安定したところなど、さまざまな観点での検証が必要になっていくでしょう。乗り越えるべきチャレンジはたくさんありますが、浮体式洋上風力発電の早期導入は、確実にカーボンニュートラルの実現に向けた打開策のカギを握っています。未来への投資として一つ一つの問題に向き合っていくことが、私たちのミッションだと捉えています」(吉永氏)

その大きなポテンシャルに懸け、世界中が実装化に期待する浮体式洋上風力発電。実証研究はまだ始まったばかりだが、参画した東京電力リニューアブルパワーが手応えを感じていることは間違いない。電源の多様化を目指す中で、着床式と併せて風力発電が日本のエネルギーの一端を支える日はそう遠くないのではないだろうか。

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