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地球人最強は誰?クリリン、ヤムチャ、天津飯のエネルギー/ドラゴンボール

『ドラゴンボール』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「気」。連載終了から20年以上たった、今なお人気の高い『ドラゴンボール』から、主人公・孫悟空の仲間たちの技をエネルギーの観点から考察しました。

地球人最強はクリリン説

『ドラゴンボール』では、天下一武道会が何度か開かれた。中でも「セル編」と「魔人ブウ編」の間に行われた大会は、忘れられない。

これにクリリンは、38歳で出場。1回戦第1試合でプンターという選手と対戦する。凶暴さで知られ、前大会で準決勝まで進んだ巨漢だ。

クリリンには、人造人間18号との間に、マーロンという娘がいて、彼女も観戦していた。マーロンが「おとうさんとケンカする人 大きくて強そう… だいじょうぶかなあ…」と心配すると、ヤムチャが言う。「へいき へいき! あんなのどうってことないさ! おとうさんは世界でいちばん強いんだ! 地球人のなかじゃね…」。

言われてみれば、クリリンが戦った相手や仲間たちは、サイヤ人をはじめとする宇宙人、人造人間、魔人。その中で戦い抜いたクリリンは、地球人の中では確かに最強かも! 改めてクリリンの偉大さに気付かせてくれた名ゼリフだった。

そして、これを言ったのがヤムチャだった事実が胸を打つ。ヤムチャは、クリリンや天津飯と共に、若い頃から競い合い、悟空を支えてきた仲間。そのヤムチャが「地球人最強」と言ったのだから、ついに自分よりクリリンが強いことを認めたのだ!

ここでは、クリリン、ヤムチャ、天津飯が、どのようにして強くなってきたのかを振り返ってみよう。視点は言うまでもなく「エネルギー」である。

恐るべし、ヤムチャの間接破壊!

3人の中で、最初に登場したのは、実はクリリンではなく、ヤムチャである。

ブルマと一緒にドラゴンボールを探して旅する少年時代の孫悟空の前に、「荒野に迷い込んだ者から金品を奪って暮らしいている大悪党」として現れた。

如意棒の一撃を食らって「ふふ… ひさしぶりにてごたえがありそうだ…」と言うと、「狼牙風風拳!!!」。回し蹴りに続いて、多数の連打を浴びせ、仕上げは両手による掌底(広げた手のひらの手首に近い部分で打つ)。これでぶっ飛ばされた悟空は、後方にあった柱のような岩を次々に3本も破壊した。

いきなり、これはスゴイ。何がスゴイって、掌底で岩を砕く「直接破壊」ではなく、掌底で飛ばした悟空で岩を砕く「間接破壊」だったこと。これにはとてつもないエネルギーが必要なのだ。順を追って説明しよう。

柱のような岩は、直径1.5mほどありそうだった。悟空の激突で、上下1mが破壊されたとすると、総重量=半径2×円周率×上下の長さ×3×岩の密度(標準で2.7t/㎥)=14.3tの岩が砕けたことになる。

岩石1tを破壊するには10万Jのエネルギーが必要なので、悟空が岩に激突したエネルギーは143万J。当時12歳ながら小柄な悟空の体重を30kgとすると、運動エネルギー=1/2×質量×速度2から、ぶつかった速度は秒速309m=時速1110km!

さて、間接破壊のオソロシさはここからだ。掌底による打撃とは、手のひらが相手の体に衝突する現象。この場合、注目すべきは「運動量=質量×速度」である。日常生活では耳慣れない言葉だが、衝突の前後では、エネルギーは失われるが、運動量は保存する(衝突の前後で合計が変わらない)ので、力学的な解析では非常に有用である。

また、人間の片腕の重さは体重の5%を占めるが、片腕によるパンチでは、「パンチの運動量=体重の6%×拳の速度」という測定結果(「格闘技『奥義』の科学」講談社ブルーバックス)がある。

おそらく体幹の運動量も加わるためで、「体幹の運動量=体重の1%×拳の速度」と考えていいだろう。すると、パンチと掌底の違いを無視すれば「両手による掌底の運動量=体重の11%×手のひらの速度」となる。

ここで、「衝突後は手のひらが悟空の体と一体化して動く」「ヤムチャの体重は50kg」と仮定して、衝突の前後の運動量を考えると、こうなる。

衝突前の運動量=50×0.11×手のひらの速度=5.5×手のひらの速度
衝突後の運動量=30×悟空の速度+50×0.11×悟空の速度=35.5×悟空の速度

これが等しいということは、ヤムチャの手のひらの速度は、悟空が飛んだ速度の35.5÷5.5=6.45倍で、秒速1990m=時速7180km=マッハ5.86。ライフル弾の2倍である!

エネルギーも、「体重の11%の物体が手のひらと同じ速度でぶつかったのと同じ」と考えれば1093万J。つまり、直接破壊なら、109.3tの岩が砕けていたのだ! 悟空が砕いた岩は14.3tだから、間接破壊にどれほど大きなエネルギーが必要かヒシヒシと分かる。

だが、すると気になる。1093万J-143万J=950万Jのエネルギーはどこへ行ったのか?

これが、衝突の当事者のダメージになるのである。おそらく、そのほとんど=岩石95tを砕くエネルギーが悟空の体にたたき込まれたのだろう。それでも悟空は立ち上がった。このときは「はらがへって力(りき)が入らなかった」と言うが、それでもスゴイ!

人間を50m飛ばすクリリンのキック

クリリンは、悟空と共に亀仙人の下で修行して、第21回天下一武道会に出場する。

この大会にはヤムチャも出場し、1回戦でジャッキー・チュンと名乗った亀仙人と対戦。狼牙風風拳を出したが、亀仙人が腕を一振りすると、その風圧で吹き飛ばされ、場外負けを喫した。これもオドロキのシーンだが、今回は3人の話なので、またいつか研究しましょう。

すごかったのは準決勝のクリリンだ。亀仙人に蹴りを見舞い、目測で50mほどぶっ飛ばした。マンガやアニメでは、殴られたり蹴られたりした人が何mも飛ぶ光景がよく描かれるが、50mとはモノスゴイ。

亀仙人は仰角30度ほどで蹴り出されていたが、ここから計算すると、亀仙人は時速85.6kmで飛ばされたことになる。クリリンは、いったいどんな蹴りを放ったのだろう。ここでも、注目は運動量だ。

前掲の測定結果では、「蹴りの運動量は、体重の4%の物体が足(フット)と同じ速度で当たったのと同じ」となっている。片足の重量は体重の17%を占めるが「重さの大半が動きの小さな太ももに集中している」「蹴りの方がパンチより速い」「体幹の運動量がパンチほどには伝わりにくい」などが影響しているのだろう。

ここから計算すると、クリリンの体重を30kg、亀仙人の体重を60kgとすると、クリリンの蹴りの速度は亀仙人が飛んだ速度の51倍だったとみられ、時速4370km、マッハ3.57!

狼牙風風拳(マッハ5.86)と比べてもさほどの遜色はないが、体重が軽いことなどが影響して、エネルギーは88万Jにとどまる。この時点では、ヤムチャがクリリンを大きく上回っていたのだ。

コスパがいい、天津飯の太陽拳

3年後に開かれた第22回天下一武道会から、天津飯が加わる。彼と餃子(チャオズ)の師は鶴仙人。亀仙人と双璧を成すといわれながら悪に走った男で、世界一の殺し屋・桃白白は彼の弟だ。

その1回戦第1試合で、ヤムチャは天津飯と相対する。激しい攻防戦の中、ヤムチャは新狼牙風風拳を出すが決着はつかない。そこでヤムチャは「とっておきをみせてやらあ」と言って、かめはめ波を放つ。なんと、亀仙人が50年もかかって習得したというかめはめ波を、わずか3年で身に付けていた! 習得スピードは亀仙人の17倍!

しかし、天津飯は気合とともにこれをはじき返し、高く跳び上がったヤムチャを空中から回し蹴りで蹴り落とす。既に戦意喪失していたヤムチャの足に膝蹴りを落とし、骨折させるという鶴仙人の弟子らしさを見せた。

準決勝で亀仙人と相まみえた天津飯は、太陽拳を出す。のちにクリリンや悟空に受け継がれた技だ。天津飯が額からまぶしい光を放ち、視力を失った亀仙人は、後頭部に膝蹴りを食らってしまう。

しかし、どうすれば額から光を放てるのか。物体が光を放つのは、温度が高い(炎、太陽、白熱電球)か、エネルギーの高い状態から低い状態に移る(蛍光灯、LED、オーロラ、ホタル)とき。前者だとしたら大変だ。

太陽拳は、観客をもまぶしがらせていた。天津飯の額の発光部が直径10cmの円で、20m離れた地点に真夏の太陽と同じ強さ(850W/㎡)の光が届いたとすれば、額の温度は3660℃! そのまま頭を押し付けても、相当なダメージを与えられたのでは!?

1秒間光ったときのエネルギーは11万J。なんと、エネルギーでは狼牙風風拳(1930万J)に遠く及ばない。熱に置き換えると25.5kcalで、体内の脂肪2.8gから生み出せる。しかし、戦況を一気に変える技だ。このコスパの良さから、多くの人が受け継いだのかもしれない。

それに、この戦いで天津飯は読者をさらに驚かせた。なんと、かめはめ波を放ったのだ! 

人々が驚く中、天津飯は涼しげに言う。「ふふふ…あの程度の技はいちど見ればすぐに自分のものにできる」。その「いちど」とは1回戦でヤムチャのかめはめ波を見たこと! なんと、10秒ぐらいで自分のものにした!? 習得スピードは亀仙人(50年=1万8262.5日=15億7788万秒)の約1億6000万倍!

地球人最強の座は天津飯かクリリンか……

そして、悟空との決勝戦で、天津飯は恐るべきエネルギーを放った。上空から気功砲を見舞い、1辺10mほどの正方形の穴を開けて、武舞台を消滅させた!

武舞台が大理石と同じ強度を持っていて、上のような形で深さ10mまで圧壊したとすれば、エネルギーは1300億J。一気に億が来た!

これはヤバくないですか、クリリンの地球人最強の座が! 3つの目を持つ天津飯が地球人かどうかは議論が分かれるとは思うが、ヤムチャの言葉に天津飯を除外する意図があったとは思えない。その後のクリリンの技に注目しよう。

クリリン最大の技と言えば、気円斬。最初に放った相手はナッパだった。空に向かって右手を突き上げて気合を込めると、手の上に直径1.5mほどの円盤が現れる。「気円斬!!」と唱えて腕を前方に振ると、ナッパ目がけて飛んでいく。ナッパはベジータの注意喚起でとっさによけたが、気円斬はナッパの顔をかすめ、さらに後方の大きな岩山をザンッと切断して飛び去った。

岩山が切れたのにも驚くが、物体を刃物で切るエネルギーを求めるのは難しい。そこで、気円斬で切られた岩山が飛ばされたことに注目しよう。

マンガのコマから測定すると、岩山の直径は15m、高さは12mほど。岩石の密度から計算すると、推定重量は6000t。これが8mほども飛び上がっている。ここから計算すると、気円斬が岩山に与えたエネルギーは4億4800万J。おお、こっちも億が来た!

そして気円斬は、その後も勢いを失うことなく、シュルシュルと飛び去った。岩山を飛ばしながらも、エネルギーをさほど失わなかったようだ。エネルギーの1%を失ったとしたら、持っていたエネルギーは448億J。0.1%を失ったとしたら4480億J。

気功砲は1300億Jだから、おおっ、もしかしたら……というのは、ちょっとクリリンに肩入れし過ぎかなあ。

もちろん、クリリンはさらに修行を重ねたし、ナメック星の長老にパワーアップしてもらったし、地球人最強になったのはもっと後のことかもしれない。

後に猛烈に強くなる主人公と、幼い頃から仲が良く、同じ師の下で競い合ってきた。相手が自分よりはるかに強いことを知ってからも、陰に日なたに力を尽くしつつ、必死に付いていった。その努力の積み重ねで、気付いてみれば、地球人最強といわれるまでになった。マンガの連載が終わって28年たっても、読者はこの男を忘れていない。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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