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手軽に新型コロナの検知も!? 体液や尿から健康状態を読み取る「化学センサー」にできること

物質の成分を検知するセンサーの可能性

センサーの種類には温度や圧力を計測する「物理センサー」という種類以外にもう一つ、物質の成分の化学種(分子、化合物などの総称)と濃度を検知する「化学センサー」がある。一般的に、日常生活であまり触れることのない化学センサーとは、今後私たちの暮らしに何をもたらしてくれるものなのか。化学センサーの研究を進める東京大学 生産技術研究所 物質・環境系部門 南 豪准教授に、今後の可能性について聞いた。

実は身近で使われている化学センサー

ウエアラブルデバイスの普及により、より進化し、身近になったセンサー。ここからイメージされるセンサーとは、体温や脈拍、心音などの温度や圧力といった物理的な数値を計測する「物理センサー」が大半を占める。

しかし、センサーにはもう一つ、「化学センサー」という種類が存在する。化学センサーの研究者である東京大学 生産技術研究所 物質・環境系部門の南 豪准教授は、次のように教えてくれた。

「化学センサーは、身近なところでいうと病院での血液検査や尿検査で使われています。化学センサーを用いて、血液や尿の中の成分を検出しているのです」

超分子化学の研究者にとって、化学センサーデバイスの研究は主流ではないそう。「このままでは進捗(しんちょく)が鈍化してしまう。これをどうにかしたいというのもモチベーションになっている」と南准教授

物理センサーが温度や音、動きといった物理情報を読み取るのに対し、化学センサーはサンプル中の化学種やその濃度情報を可視化できる。一般的にも、健康診断の血液検査などで、知らず知らずのうちに化学センサーの恩恵にあずかっているのだ。

「今身近で使用されている化学センサーは、糖尿病患者用の血液検査キットなどの例外を除いて非常に高額です。あまり世間的に認知されていないのは、病院などの専門の施設にしか置かれていないからでしょう」

化学センサーの仕組みは、意外とシンプルである。検出したい成分と結合する物質を用意し、反応するか否かで検出したい成分の有無を判別する。高額になってしまう理由は、この検知のために必要となる物質「レセプター」だ。

「化学センサー」の一例。見た目は普通の電子回路のようだが、指で示している電極にレセプターが配置されている

検出したい物質が変われば、レセプターも変わる。そのほとんどが非常に高価な物質だったり、ものによって保管が困難だったりと、気軽に使用できるものではない。

「糖尿病患者用の血液検査キットが市販されているのは、血糖(グルコース)を検知するためのグルコースオキシダーゼという酵素が、たまたま安定性の高い物質だったからにすぎません」

こうした例外を除くと、身近なシーンで化学センサーはほとんど存在しない。化学センサーの研究を進める理由について、南准教授は次のように話す。

「これまで検知できなかった物質を検知したい、という目標があります。そのために必要なのがレセプター。たとえ適したものが自然界に存在しなくても、このレセプターは人工的に作り出すこともできるのです」

レセプターの解説図。レセプター(図下部Y字状のもの)と検知したい物質(図下部赤丸)を結合させて、電位差を発生させることで存在を検知する

資料協力:南 豪准教授

化学センサーの新たな使い道

検知したい成分に対し、適切なレセプターを設計することができれば、化学センサーはより一般に広く使われるようになる可能性がある。そのカギを握るのが、南准教授が研究を進める「人工レセプター」だ。

例えばワイン。ワインには甘味、酸味、渋味、苦味の物質が入っている。このような物質の微妙な濃度を舌で見分けることで、ワインの味の良しあしは判断されている。その苦味を生み出す物質の一つが、プロシアニジンC1と呼ばれるものだ。

「これまではプロシアニジンC1を検知するためのレセプターがなかったのですが、人工レセプターを開発したことで、検知できるようになりました」

ワインに含まれる物質を検知し、数値化できれば、ワインの味を数値で表すことができるようになる。化学センサーによる“成分表”を見ることで、経験を積んだソムリエでなくとも飲む前からある程度ワインの味が分かるようになるかもしれないというのだ。

他にも、ヒスタミンという物質がある。サバやアジといった青魚で食当たりになる原因の一つだ。

「現状、このヒスタミンに狙いを定め、簡単かつ安定的に検出する方法はありません。酵素も安定性がないのですが、この先、人工レセプターが開発できれば、事前に検知することで、サバやアジによる食中毒を防げるようになるかもしれません」

化学センサーは、ヘルスケアへの応用にも期待が持てる。

例えば、人の唾液に含まれる成分を検知できる人工レセプターが開発されたとする。洗面所の排水溝に人工レセプター搭載のデバイスを設置しておけば、うがいをするたびに唾液に含まれる成分を検知し、健康管理に役立つデータを蓄積することができるだろう。

「自分の病気の症状が深刻になるまで検査を受けないという人も少なくありません。何気ない生活の中で、血圧や体温だけではなく、体液から体の状態を調べられたら、もっとスマートに長生きできる社会になるんじゃないかと考えています」

新型コロナウイルスの検知にも応用

ヘルスケアは、少子高齢化が進む現在では大きな社会的ニーズの一つであることは間違いないが、化学センサーができることは当然それだけではない。

例えば、特定の化学物質を検知するための人工レセプターを作り、それを用いた化学センサーを河川のあちこちに設置して汚染状態を調べたり、あるいは食品を包むラップフィルムに化学センサーを組み込んで、消費期限や食べ頃を検知できるようにしたりなど、さまざまな分野で活用できると各所で研究が進められている。

「化学センサーはできることの幅が広い。目的に合わせて電子回路などの有機トランジスタと組み合わせるのがいいか、機械に組み込んでしまうのがいいか、最適な使い方を選んでいくことが大切です」と、南准教授

南准教授自身は現在、フランス国立科学研究センターの研究者と新型コロナウイルスを検知できる化学センサーを共同研究しているという。

「唾液をセンサーに垂らすだけで、新型コロナウイルスの有無を検知できるようなものを考えています」

センサーと聞くと電子デバイスのような装置をイメージしてしまうが、化学センサーは必ずしもそうではない。反応の一例が電気信号なだけで、検知したい成分に反応すると光る、色が変わる、といった化学反応を起こす物質を用いてセンシングすることもある。

南准教授が共同開発しているのは、手軽に使え、安く大量に生産できる“紙製”のセンサーだ。

紙の表面に配置されるのは、微細なビーズ。新型コロナウイルスのRNAに結合するDNAが固定されており、紙製のセンサーに唾液を垂らすと、新型コロナウイルスが含まれている場合はビーズの色が変わり、ウイルスの有無を判別できるという仕組みだ。

検知したい成分に反応すると色が変わるタイプの化学センサー。南准教授はこの手法を応用しようと考えている

写真協力:南 豪准教授

想定している使い方は、唾液を垂らした紙製のセンサーをスマートフォンのカメラで撮影して、検査機関に送るだけ。これが実現できれば、現状行われているPCR検査よりも安価で手軽なことは間違いないだろう。

「唾液からより精度が高く、簡単に新型コロナウイルスを検出できるようになれば、社会不安を減らすことにつながることでしょう」

ワインの味や食中毒の原因、さらには新型のウイルスまで。化学センサーが検知できるものの幅は想像以上に広く、その用途もあらゆる分野に考えが及ぶ。日常生活ではほぼ目にしなかった化学センサーが、暮らしを良くする身近なアイテムに搭載される日も近いのかもしれない。

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