1. TOP
  2. プロトタイプリポート
  3. 【飛行機の未来】世界初の偉業なるか!?「火星飛行機」開発の一翼を担う東北大の挑戦
プロトタイプリポート

【飛行機の未来】世界初の偉業なるか!?「火星飛行機」開発の一翼を担う東北大の挑戦

飛行機による惑星探査の実現が地球上にも技術革新の恩恵を与える可能性

日本の未来の姿を、大学・大学院が進める研究の“試作”から想像する新連載「プロトタイプ・リポート」がスタート。東京五輪開催に端を発するプロジェクトが次々と形になり始め、日本中が新たな時代へと前進する高揚感に満ちている中、全国各地の大学・大学院には、その先の時代のために情熱を燃やしている研究室がある。数多くある研究の中から第1回でフォーカスするのは、東北大学 流体科学研究所が手掛ける「火星を飛行探査する航空機」。成功すれば世界初となる壮大な計画がもたらす、“その先”に迫る。

大気が薄い火星で飛行機を飛ばす研究

宇宙旅行が現実的に語られ始めた中で、宇宙開発の最前線では、その先にある“火星移住”の可能性を探る研究で、革命が起きようとしている。

そもそも火星に生命体は存在するのか?人工衛星から確認できる洞穴の奥はどうなっているのか?これまでベールに包まれていた謎を一気に解き明かすために「火星で探査用の飛行機を飛ばす」。そんな途方もないミッションを、世界に先駆けてJAXA(宇宙航空研究開発機構)と日本の大学が参加するプロジェクトチームが成し遂げようとしているのだ。

実際に“火星飛行機”のプロトタイプは完成しており、既に地球上での飛行試験が行われているという。技術的には、2020年代に火星での飛行試験が可能なレベルまで研究が進んでいるようだ。

火星飛行機の試作機。機体の全長は約2m、両翼幅は約2.5m。火星で約100kmの巡航ができるように設計されている

写真提供:東北大学 流体科学研究所

プロジェクトチームの正式名称は「火星探査航空機ワーキンググループ(現リサーチグループ)」。彼らが手掛けた試作機は紙飛行機をほうふつとさせるきゃしゃなデザインで、正直とても惑星を探査できるようなハイスペックメカには見えない。本当に飛べるのかという疑問と、それに反した期待を胸に、同グループの副代表を務める東北大学の流体科学研究所・永井大樹教授を訪ねた。

NASAのエンジニアとして働く大丸拓郎氏を輩出するなど、東北大学は航空宇宙工学の名門として有名

永井教授が言うには、そもそも、火星には1970年代から世界各国の探査機が送り込まれているそうで、1997年に米国が「マーズ・パスファインダー計画」を成功させてからは、ローバー(探査車)を走らせる探査方法が主流になっているという。近年は2012年に火星に降り立った「キュリオシティ」と呼ばれる全長3m、総重量900kgほどの大型ローバーが活躍しているそうだ。

また、火星を観測するための人工衛星も各国によって複数機が打ち上げられている。ただ、人工衛星は火星の地表から数万キロ離れているため、写真や映像の解像度に限界があり、精密なデータが得にくいデメリットがあるという。一方、地表を走るローバーは周辺を鮮明に観測できるだけでなく、土や石などのサンプルを持ち帰ることもできる。一見、火星を丸裸にできそうだが、ローバーには「走行距離が短い」という弱点があった。

「現行で最も高性能のローバーであるキュリオシティの移動距離は、2012年に着陸してから現在までの通算で十数kmです。火星のゴツゴツした地表を探索しながら自動(無人)運転で進まなければならないので、1日に最大で100m程度しか進むことができません。これまでローバーによって有意義なデータを得ることに成功してきましたが、火星全体を調査するための手段としては効率が良いとは言えません。そこで、われわれは飛行機を使った探索を提案しているのです」(以下コメント、永井教授)

永井大樹教授の研究室は、火星飛行機に代表される流体力を利用した新しい惑星探査システムの実現に向けて研究を進めている

近年、火星には、地球と同じような磁場が過去に存在していたことが分かった。この磁場の名残を調べて火星の変遷を追っていけば、火星に似た地球がこれからたどっていく未来を知ることができる可能性があるという。

また、火星には水の痕跡や、若干ながら大気(空気)があることも判明している。これらは衛星観測やローバー探査によって解明されたことだが、さらに火星の謎を詳細に解き明かすためには、定点観測ではなく地表面の広範囲を調査する必要があり、火星を周遊できる飛行機の開発が待ち望まれているのだ。

地球から火星までの距離は約5600万km(火星の軌道が地球に最も接近したとき)。月までの距離と比べるとおよそ145倍に相当する(画像はイメージ)

火星を飛行するために目指すべき翼の形はフクロウ

火星にはほとんど空気がないため、残念ながら地球で使われている飛行機を持っていっても何の役にも立たない。

「空気の圧力を示すhPa(ヘクトパスカル)の値は、地球がおよそ1000hPaに対して、火星は7hPa。地球と比べると、飛行機が浮かぶ力が100分の1以下だということです」

浮かぶ力がない世界で飛行機を飛ばすには、“速さ”が重要になる。しかし、火星では燃料となる酸素がほとんどないためにジェットエンジンは使えないし、宇宙船に搭載されるようなロケットエンジンはコストパフォーマンスが良いとは言えない。つまり、どうやって推進力を得るかが大きな課題となる。

また、火星には滑走路がないため飛行機が地表から飛び立つことができない。カプセルに機体を収納して、翼を空中で開き、そのまま飛ぶという技術が必要だ。そもそも宇宙船に搭載できる機材には限度があるため、極限まで軽量化しなければならないという壁もある。

さらに、火星にはGPSも詳細な地図も存在しないし、地球から飛行機をコントロールしようとしても電波が届くのに往復で10分近くかかる。つまり、飛行機を自動運転させるための新しい技術も必要となる。課題は山積みだ。

機体の形状から材質、推進力を得るためのエンジン、操作するためのシステムまで、あらゆる面で“地球用”とは違う方法が求められている

資料提供:東北大学 流体科学研究所

「こういった課題を解決する大前提として、非常に性能の良い翼が不可欠です。一例として、われわれはフクロウ特有の空気を拡散して抵抗を減らす羽の形をまねて、特殊な流線形の翼を開発しました。他の課題に対しても、推力に電動プロペラを採用することで将来的には持続可能な推進力を得ようと考えていますし、自動運転にはリアルタイムの映像と既存の画像を照合しながら進むようなシステムを検討中です。それぞれの課題を解決するために、ワーキンググループに所属する大学や団体が、それぞれ研究開発を進めています」

大気密度が希薄な火星でも飛ぶことができる翼を開発しながら、さまざまな制限により機体の軽量化も追求しなければならない

資料提供:東北大学 流体科学研究所

流体科学を専門とする永井教授の研究室は、主に翼の開発を担当している。前例となるデータはなく、火星に行って模擬試験をすることもできない厳しい状況。実験をするため、研究所内に火星と同じ圧力を再現できる特殊な風洞(空気の流れを調節できる装置)を設置した。性能テストを繰り返した結果、現状では非常に薄く滑らかな流線形の翼がベストであることを導き出している。

東北大学構内にある火星大気風洞(写真奥)で火星での飛行の模擬実験を行う

火星大気風洞は、真空チャンバーと呼ばれる筒形の容器内で、高速ガスを噴射して空気の流れを人工的に作り出している

「火星の条件下では、一般的な飛行機で見るような上下対称な流線形の翼よりも、真っすぐの平板や、中央を少し曲げた円弧形の単純な形の方がはるかに高い揚力が発生するという独特な空力特性を示します。実験を重ねる中で、前縁がとがっている形や上面がフラットな形の翼は空力性能が良いということが分かってきました」

判明してきたデータを基に、これらと同様の特徴を持つハンドランチグライダー(手投げで飛ばす飛行機模型)の世界記録保持者が開発した翼の形状や、似たような形をしたフクロウの翼を参考にしながら、今なお最適解を探っているという。

ハンドランチグライダーの翼をベースにした試作模型の翼断面。滑らか流線形になっている

2016年には、北海道で試作機による模擬飛行が行われた。気球に試作機をぶら下げ、高度40kmから切り離して翼の性能をテスト。100kmを超える飛行が可能であることが確認された

資料提供:東北大学 流体科学研究所

火星に飛行機が飛ぶことで地球にもたらされる利益

火星のように揚力が得にくい領域で、小さな飛行機をハイスピードで飛ばす。この飛行能力を支える翼やプロペラなどの技術が確立すれば、地球上でも“昆虫サイズのドローン”などに応用できる可能性があるという。

また、自動運転用に開発されている画像航法システムは、GPSでは捉えきれない施設屋内でのドローンの自動飛行に応用可能。災害時の屋内探索などで活用が期待できる。つまり、火星飛行機の研究開発を進めることは、同時に地球上にも技術革新の恩恵を与えてくれるのだ。

東北大学 流体科学研究所には物体を超音速で飛ばすことができる実験装置も

さまざまな形状の物体(写真は真鍮)を超音速で飛ばし、空気抵抗の違いなどを測定。写真は、はやぶさの回収カプセルやアポロ号の司令船など地球帰還用のポッドをかたどったもの

何よりも、かつては存在した磁場や水がなくなってしまった火星は、温暖化が進みきった地球の行く末かもしれない。火星を調査し、その成り立ちを知ることは、地球を救うためのヒントを得ることに等しいとも言える。

「火星は大きさも自転周期(24時間37分)も地球に似ているので、将来的には人間が移住する可能性もゼロではありません。火星に点在する洞穴は温度が安定していることが分かっているため、そこに基地を造ろうという案もあります。われわれが提案している飛行機などで洞穴の内部を確認できれば、“火星移住計画”が現実味を帯びるかもしれません」

試作機を模擬的に火星で飛行している状態にする実験。学内やJAXAの実験施設で性能テストを行っている

写真提供:東北大学 流体科学研究所

それこそ人類の未来を占う壮大なプロジェクトながら、残念なことに火星飛行機が火星の空を飛ぶ具体的な日程のめどは立っていない。もともと2020年前後の飛行実現に向けて検討を進めていたものの、その飛行機を火星に連れて行くロケットがないからだ。現時点でJAXAによる火星着陸計画は、立てられていない。

一方、NASAは探査を目的として、2020年に自律飛行が可能なドローン(ヘリコプター)を火星に向かうロケットに搭載することを発表した。到着後、上下昇降のデモンストレーションだけを実施するとしているが、世界初となる火星での“飛行”は米国に先を越されそうだ。

「ヘリコプターは、プロペラだけで浮かび、移動しなければならないので、大気の薄い火星では、技術的に難しいのです。それに対して飛行機は、薄いながらも大気があることで翼の揚力を利用することができます。つまり、“大気中に浮かびやすい”。このため、飛行時間や距離ではわれわれの飛行機が勝ると思っています(笑)。現在は、技術的に成立するか否かギリギリのラインなので、もっと高いレベルに仕上げていきたいですね。将来的には、母船となる大きな飛行機を造って、そこから小さな飛行機をたくさん飛ばす構想を描いています。そして、火星だけじゃなく、大気さえあれば他の惑星でも飛行機を飛ばせるかもしれません。今後は土星や金星での可能性も探っていきたいですね」

翼面に太陽電池を搭載した火星飛行機のデザイン画。機体重量は約4.2kgを想定している

画像提供:JAXA

ライト兄弟がエンジン付きの飛行機を世界で初めて飛ばしたのが1903年。そこから100年余りで、当たり前のように多様な飛行機が大空を飛ぶようになった。現代の科学者たちは、地球を飛び出し、宇宙で飛行機を飛ばすことを夢見て研究に励んでいる。

次の100年後には、あらゆる惑星で地球と同じように飛行機が飛び交っているかもしれない。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. プロトタイプリポート
  3. 【飛行機の未来】世界初の偉業なるか!?「火星飛行機」開発の一翼を担う東北大の挑戦