エネルギーの革新者

一見無関係なものの掛け算がイノベーションを生む。ビジコンテーマ「食×エネルギー」に込めた思い

早稲田大学パワー・エネルギー・プロフェッショナル(PEP)育成プログラム プログラムコーディネータ― 林泰弘教授

「EMIRA」と「早稲田大学パワー・エネルギー・プロフェッショナル(PEP)育成プログラム」(以下、PEP)がタッグを組む学生ビジネスアイデアコンテスト「EMIRAビジコン2021 エネルギー・インカレ」の開催が決まった。第2回となる今回のテーマは「食×エネルギー」。どのようなアイデアが求められているのか。テーマ設定に関わったPEPのプログラムコーディネータ―・林泰弘教授に、その背景と思いを聞く。

食もエネルギーも暮らしに不可欠なもの

2020年2月に初開催された「EMIRAビジコン エネルギー・インカレ」。第1回の「SDGs×エネルギー」に続き、第2回の募集テーマは「食×エネルギー」だ。

>第1回の最終審査結果「EMIRAビジコン2020最終審査開催! 全国の学生168チームの頂点はどのアイデアに?」
>第2回の募集要項「未来を創るアイデア募集中! EMIRAビジコン2021開催!」

「EMIRAビジコン2021 エネルギー・インカレ」のポスター。アイデアの応募期間は2020年12月13日まで

「食」と言っても、農業や水産業といった第1次産業、食材を加工する第2次産業、そして流通や販売といった第3次産業まで、その範囲は多岐にわたる。また、最近では生産から加工、販売まで全てを行い、自分たちが育てた農作物に付加価値を与える「6次産業化」に取り組む事業者も珍しくない。

ただ、範囲は広いものの、食にまつわるどの工程を切り取ってみてもエネルギーの存在は欠かせない。農業機械や運搬用トラック、冷凍庫に調理器具、そして生産や販売を管理するためのパソコンと、あらゆるものを動かすために電気やガソリンといったエネルギーが必要になる。

このように食とエネルギーは非常に親和性が高い。では、今回この2つを組み合わせた「食×エネルギー」を募集テーマにした理由とは、どのようなものなのだろうか。

PRPの林泰弘教授は、次のように話す。

「電気や熱などのエネルギーは、現代の生活において不可欠なもの。そして食も人が生きていく上で欠かせないものです。この2つの組み合わせから面白い発想が生まれると考えました」

「ビジネスアイデアには、ワクワクドキドキがないとダメ。みんなで楽しめて、お互いがwin-winになるようなアイデアがいいですよね」と、PEPの林教授

背景にあるのは、脱炭素化、ひいては持続可能な社会を世界が目指していることだ。これらを実現するためには、再生可能エネルギーを主電源の一つとし、より高度な電化社会に切り替えていくことが有力な解決策として挙げられる。この社会の流れは、当然、食にも影響を及ぼす。

この移行を進めていく上で、注目すべきポイントが2つあるという。

「一つは再生可能エネルギーの普及。もう一つが電気自動車(EV)の発展によって蓄電池の技術革新と低コスト化が進んだことです」

林教授は、さらに続ける。

「『食×エネルギー』を募集テーマにした背景には、この2つが大きく関係しています。食には生産から販売まで、あらゆるところでエネルギーが必要。その中から、エコを実現できるアイデアが生まれるのではないかと期待しています」

クリーンな電気を持ち運ぶ時代に合う食のビジネス

林教授が今回の背景として挙げたポイントを、もう少し詳細に見ていきたい。

1つ目の再生可能エネルギー、特に太陽光発電の普及状況は、ここ数年で急激に拡大したことはよく知られるところだろう。再生可能エネルギーの普及が進めば、電気をつくる際の二酸化炭素(以下、CO2)排出削減につながる。

2つ目の蓄電池の技術革新と低コスト化については、以前「災害に強い電力システム」を紹介した際にも取り上げた。

>災害に強い電力システムとは?「豪雨や台風への対策を強化!日本が進める災害に強い電力システムの可能性」

この記事でも取り上げているように、最新の電気自動車に積まれている蓄電池は、フル充電すれば一般家庭における2日分相当の電力を賄える。そうなると、「走る非常用電源」として備える目的以外にも用途が見えてくる。

電気自動車は「災害に強い電力システム」に役立つだけではなく、「食×エネルギー」のテーマでビジネスを考える際の強力なヒントになる

※写真はイメージ

「例えばキッチンカー。都会の地価が高い場所では珍しいものではありませんが、オール電化のEVキッチンカーに蓄電して、電気で移動も調理もしたら。店を構えるコストが不要になれば不動産価値も変わり、何か新しいことが生まれるかもしれません」

環境適合性の高い再生可能エネルギーと、電気をためて持ち運べる蓄電池、この2つの普及が、今後の社会を考える上でのポイントになるのだと言う。

「環境保全の側面で価値のある再生可能エネルギーと、低コスト化が実現しつつある蓄電池は、CO2フリーの電気を手軽に持ち運べる時代へとつながっていきます。ここを出発点にすると、さまざまな“食”のビジネスに付加価値を与えられるのではないでしょうか」

食とエネルギーの関係は広範囲にわたるため、着眼点はもちろん他にいくつも考えられる。

再エネで生産から調理、販売までのエネルギーを賄うビル計画

実は林教授自身も、かつて「食×エネルギー」のテーマに挑戦したことがあるという。

近年増えつつある植物工場での植物生産。これは、天候に左右されず無農薬で生産できるなどの利点があり、農業の担い手問題や食料自給率問題などの解決策の一つとして考えられている。

しかし、空調や栽培システムなどのエネルギーコストが高く、利益の確保が難しいという課題があった。そこで、食品関連企業と共同で、再生可能エネルギーである太陽光発電を最大利用する運用計画を検討したのだ。

「再生可能エネルギーを使っても一般的な植物ではコスト面で厳しいのですが、例えば、漢方向けや栄養価の高い食材など、高付加価値のものを作ることで改善が見込めます。実際に、機械学習を使ってどのような生育条件にすると高品質なリーフレタスが育つか、といった研究も進めました。また、密閉されたクリーンな環境で、食材の生産から加工、調理までの全てを一つの施設内で行うことができれば、コロナ禍のような突然のウイルス流行にも影響されず、安全安心に食料を確保することができます」

ただ、この研究にはさまざまなハードルもあり、電力システムとは違う角度からのアプローチが必要になってくるという。EMIRAビジコンの今回のテーマ選定には、林教授のそういった経験も関係している。

「この研究内容は、あくまで一例です。私は電力システムの研究者なので、どうしても自分の専門分野に寄った発想になってしまいます。私が思い付くことは、『食×エネルギー』というテーマの中のほんの一部。学生には、もっと広い視点を求めたいですね」

国内外を見れば、フードロスを防ぐための冷凍技術が注目されたり、あるいは余った食材を有効利用した食品の3Dプリンターも開発が進められたりと、食にまつわるテクノロジーは進歩し続けている。

文・理を問わず学生らしい自由なビジネスアイデアを

今回開催する「EMIRAビジコン2021 エネルギー・インカレ」の募集対象者は、文系・理系はもちろん、学生の専攻も問わない。

「電気やエネルギーについて専攻していなくても問題ありません。今回の募集テーマは『食』です。人文社会学系、特に生活や家政系の学生からも応募があるとうれしいですね。彼ら、彼女らが自分の専門をベースとしながら、少しだけエネルギーにも思いをはせてくれるとうれしい。そうやって、みんなでエネルギーについて考えればワクワクするようなアイデアが、『電力システム屋』の私では思い付かない発想が生まれるかもしれません」

「前回もそうでしたが、最終審査の場では大学も違えば専攻も違う学生が集まり、知り合うことができます。それが今後の宝になるんですよ」と、林教授。今回も審査員として参加する

「技術については、最低限の知識さえあれば十分です。むしろ、技術屋に『こういうビジネスアイデアがあるんですが、その実現のためにこんな技術を開発できますか?』というボールを投げてくるぐらいでも構いません」

それなら、文系の学生でも応募しやすい。文系と理系の学生がチームを組んで応募するのもいいだろう。ただし、林教授は意識してほしいポイントがいくつかあるとくぎを刺す。

第1回の最終審査が行われた東京・日本橋の「早稲田大学日本橋キャンパス WASEDA NEO」の様子。全国の学生から168のアイデアが寄せられた

「一つは、そのアイデアが実現したら、誰のためになるのかというのは明確にしてもらいたいですね。電力、エネルギーといったインフラ系の研究では、何かを発明して価値を生むのではなく、みんなをつなげて大きなことを起こして価値を生む、ということが求められます。なので、世のため人のため、という視点は持ってもらいたい。そうでないと、マネタイズもできません」

そして、もう一つ。

「当然、エネルギーに関係する脱炭素化やエコ、省エネといった観点は前回同様に必要です。それを前提とした上で、『食』ならではの面白さが光るアイデアを求めます。エネルギ-と食材、調理方法、食品パッケージやデザインといった一見無関係に思える、あり得ないもの同士の掛け算からイノベーションは生まれます。本当に、学生らしい自由なアイデアを期待しているんです。いつだって、若い人たちが時代をつくってきたんですから。私は若い人たちの力を信じています」

林教授をあっと言わせるアイデアが、全国の学生から届くのが待ち遠しい。

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