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三大都市・新ランドマークのエネルギー事情

全館100%再エネ利用の百貨店が実現! 新生・大丸心斎橋店の舞台裏

【大阪の新ランドマーク】大丸心斎橋店

大阪市の中心部を貫く幹線道路・御堂筋と、週末には歩行者約15万人のにぎわいを見せる心斎橋筋商店街──。その両方に面して立つのが「大丸心斎橋店」だ。このたび、86年ぶりに本館の建て替えを行い、2019年9月20日にグランドオープンした。新旧の建築美を共存させた建物に目を引かれるが、その一方で内部では“持続可能な社会”実現のため、エネルギーに関するさまざまな取り組みが行われているという。そのチャレンジの数々と未来像について、同店業務推進部部長の小林謙介氏に話を聞いた。

昭和初期の建築美を生かしながら、新しさも感じさせる外観&内装

かつての大丸心斎橋店といえば、日本で数多くの西洋建物を手掛けた建築家のウィリアム・メレル・ヴォーリズによる優美な建築で知られる老舗百貨店というイメージが強い。昨年グランドオープンした本館は、旧本館の内装から保存されたパーツなどを再利用し、かつての雰囲気も随所に感じることのできる建物となった。

「ヴォーリズ設計の旧本館の保存・復原を第一義におき、歴史の継承と新しい創造とを融合させることが命題でした。たとえば、御堂筋側の外壁は1933(昭和8)年時のネオ・ゴシック様式の外壁を残し、その内側に新しい建物が立つような形になっています。また1階の天井やエレベーターホールなどでは、旧本館のパーツを随所に生かしました」と、同店で業務全般を取り仕切る小林謙介業務推進部部長は語る。

御堂筋側から見る本館。中央の茶色のタイル部分などは、旧本館の外壁をそのまま保存した。北館と本館の各フロアの天井高が異なっていたため、建て替えにあたり高さをそろえた。現在の本館7階部分は、旧本館の屋上にあたる

1階のエレベーターホール。各エレベーター扉上部のレリーフ風装飾や扉の周囲にあるフレームなどは、旧本館から運んだパーツだという。新しい建物でありながら、旧本館を知る人にとっても、なじみのある印象になっている

現在は本館と南館が営業しているが、さらに今秋には北館がオープンし、パルコや大型専門店などが出店を予定。本館と北館は2~10階まで全て通路で連絡し、両館の間にある大宝寺通もにぎわいを出そうと工事を進めている。

「北館のパルコは、百貨店よりカジュアルな、ファッション感度の高いお客さまがターゲットになり、南館はインバウンドに特化した店づくりをしています。また、北館オープン後は、特色の異なる3館で合計延床面積8万8000m2の施設になる予定です。幅広い利用客に対して、心斎橋のランドマークとなるような百貨店になればと考えています」

100%再生可能エネルギーを使用し、電気自動車の導入も

ハード面を充実させ、幅広い年齢層の利用客に満足してもらえるような店づくりに取り組む大丸心斎橋店だが、一方でESG(環境・社会・ガバナンス)推進のフラッグシップ店舗としての取り組みも行っている。

それが、大丸松坂屋百貨店(本社・東京都江東区)を核とするJ.フロント リテイリンググループによる、“持続可能な社会”を実現するために優先して取り組む「5つのマテリアリティ」だ。

「低炭素社会への貢献」「サプライチェーン全体のマネジメント」「地域社会との共生」「ダイバーシティの推進」「ワーク・ライフ・バランスの実現」の5つがそれにあたる。中でも「低炭素社会への貢献」については、大丸心斎橋店が大丸松坂屋百貨店の先駆けとして“今できる取り組みを、大丸心斎橋店でトライ”しようとしているという。

「柱になるのが、全館100%再生可能エネルギーの利用です。本館はもちろん、北館、南館、周辺にある事務所など全て水力発電による電気を利用しています。また本館は100%LED照明を採用しました」

地下2階にあるフードホール。フカヒレの専門店やトリュフの専門店など、高級店の料理をカジュアルに楽しむことができ、夜は会社帰りのサラリーマンの利用も多い。オレンジがかったLED照明が、シックな雰囲気を演出する

また、百貨店としてはあまり例のない中央監視設備を導入。

これまで自動ドアや照明、空調などをすべて現地でオンオフしていたが、この設備で一括コントロールできるようになった。さらに電力・水道の集中検針を行い、テナント管理も行っている。現在の監視ポイントは7000点だが、将来的な計画としては全館で5万点以上を想定しているという。

さらに、大丸心斎橋店の外商車75台は、全て電気自動車への切り替えを実施。燃料ももちろん水力発電による電気を利用している。

「切り替えは、心斎橋店だけでなく大丸松坂屋屋号の外商車全てに対し、ここ1年ほどの間で行われる予定」とのこと。

大丸心斎橋店が保有する外商車75台は、すでに全て電気自動車へと切り替え済み

「低炭素社会への貢献のため、今できるあらゆる取り組みを大丸心斎橋店にて行っています」と小林氏。7階テラスや屋上、北側壁面の緑化もその一つといえるだろう

緑があふれる本館7階のテラス。御堂筋を見下ろせる抜群のロケーションのため、気候の良い時季は昼夜を問わず人気のスポットに。屋上では養蜂活動を行う予定だ

本館7階テラス。夜はこのようにムーディな雰囲気に

気になるのがコスト面。CO2を排出しない再生可能エネルギーだが、まだまだ費用がかかるという現状がある。

「確かに100%再生可能エネルギーにしたことで、通常の電気料金よりも2~3割ほど単価は上がりました。でも電気代を以前と比較してみると、現在の方が下がっているのも事実です。LEDなど省エネ機能の高い新しい設備になったことが大きいでしょう。

電気自動車も、充電するための変電設備を整えるなどの投資もありましたが、ランニングコストはガソリン車よりも抑えられていますね」

従業員だけでなく利用客へもエコ意識を高める取り組み

これ以外にもエコに関する取り組みも積極的に行っている。たとえば、現在、大丸心斎橋店でのロゴ入り包装紙の利用は大幅に減っているという。

「基本的には各テナントさんの包装紙を使っていただき、ご要望があれば、お出しする形にしています。心斎橋店はギフトセンターも催事場もないので、包材が出る機会自体が減っています。また、本館のグランドオープンに合わせて、FSC(森林の環境保全に配慮した材木に与えられる)認証のショッピングバッグと、バイオマスプラスチック30%が含まれた食品ポリ袋に全店舗で切り替えました」

また、大丸松坂屋全店で行っている「エコフ活動」は、利用客のエコ意識を高める取り組みだ。

「不要になった洋服や靴、バッグなどを店舗で引き取る活動ですね。引き取りアイテム1点ごとに、ショッピングサポートチケット(税込み1万1000円購入ごとに1000円割引できるチケット)をプレゼントするキャンペーンを年に2回実施しています」

回収したアイテムは海外でリユースされるなど、エネルギー再資源化の原料となって生まれ変わるという。

大丸心斎橋店ではエコフ活動の回収ボックスを1階に常時設置している。ただ、キャンペーン時に比べると回収量はまだ少なく“いかに定着させるか”が課題だ

もちろん社内的な取り組みも実施。たとえば、本館のバックヤードは全て人感センサーを設置し、人がいないときは自動消灯する。

また、各フロアにあったゴミ分別ボックスの設置をとりやめ、各テナントや社員それぞれが地下のゴミ処理室へと運ぶようにした。ゴミ処理室には常に指導員がいて、10種以上ある分別を徹底しているという。

「地下へ運ぶという手間が増えたことで、“できるだけゴミを出さないでおこう”“あらかじめ分別しておこう”という意識が高まります。ドリンク一つにしても、缶を買うかビンを買うか、だったらマイボトルにしよう、など考えるようになりましたね」と小林氏はその効果を語る。

本館地下にあるゴミ処理室。各テナントから持ち込まれたゴミは計量され、その量に合わせて費用を徴収する仕組み。紙、ビニール、金属などのほか、PPバンド、緩衝材などのように、10種以上に細かく分類する

地域の清掃、大規模駐輪場の確保など地域への貢献を模索

低炭素社会への貢献、エコ意識を高める取り組みなど、さまざまな取り組みを行う大丸心斎橋店だが、「百貨店として最も進めていくべき活動が、『地域社会との共生』なのだと思います」と小林氏。「5つのマテリアリティ」の中の一つのテーマでもあるが、「地域に対してどれだけ貢献できるかを常に模索している」と話す。

その取り組みの一つが駐輪場の開設だ。大丸心斎橋店本館建て替えに際し、地下中1階に設置義務以上の台数を確保した、大きな駐輪場を開設した。

「心斎橋筋商店街に新たに店を出店する際、敷地面積に応じて駐輪場の設置義務があるのですが、店舗それぞれで新たに設けなくても、当店の駐輪場を使っていただける仕組みにしました。違法駐輪を解消するメリットもありますが、商店街の活性化にもつながるのではないかと思っています」

駐輪場は390台収容可能と、心斎橋にある駐輪場としては比較的規模が大きい。午前5時から午前1時まで開いており、自転車・原付とも3時間まで無料だ

ほかにも、百貨店近隣の清掃やペットボトルキャップ回収ボックスの地域への設置など、日ごろからの地道な努力を行っているという。

消費電力を水力による再エネで全てまかない、LED照明による省電力化や屋上緑化、商用車のEV化への切り替えなど、大丸松坂屋百貨店が“低炭素化のフラッグシップ店舗”と位置付ける大丸心斎橋店。“持続可能な社会”を目指した同店の取り組みはまだ始まったばかり。

今後も試行錯誤を繰り返しながら、百貨店として目指すべき形、社会貢献を模索していくという。

その取り組みや姿勢が、これからの百貨店ビジネスのロールモデルとなるのかもしれない。

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