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2020.08.06
自動搬送技術×オープンイノベーション! マンパワーに頼る物流業界を救えるか?
【物流】自動搬送ロボットのイノベーションで物流の現場をサポートする
小売や配達などと密接に関わる物流業界。物流倉庫において、日々さまざまな生活必需品が搬入出される業務は、大半が人力に委ねられているのが現状だ。そんなエッセンシャルワークの効率化を実現すべく、神奈川県川崎市のスタートアップ企業・株式会社LexxPluss(レックスプラス)がオープンソース(無償公開)をもとに自動搬送ロボットの開発を進行中。さらに搬送ロボットを製造原価に近い価格で提供することで劇的なコストダウンを狙っている。このビジネスのビジョン、そして“エッセンシャルワーカーを支える新技術”のこれからについて、同社代表取締役 阿蘓将也氏に話を伺った。
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自動運転技術を成熟させたのはオープンソース
阿蘓氏はドイツの自動車サプライヤー、ボッシュに勤務し、ドイツと日本で公道や高速道路における自動運転関連の開発に5年従事。ことし3月、日本でLexxPlussを起業した。
「ボッシュでは日本の物流業社および商社との物流の自動化プロジェクトにも技術責任者として携わったのですが、物流業界はEコマース(電子商取引)の発達で業界そのものの需要も高まってきているものの、現場は“明日働いてくれる人がいない”というほど人手不足で逼迫(ひっぱく)しているケースもあります。そこから物流センターで自動運転技術を活用するビジネスモデルを思い立ち、起業を決意しました」
阿蘓氏は起業後、前職での経験をもとに開発した自動搬送ロボット&プログラムを完全オープンソースとしてインターネット上で開示した(現在はベータ版のみ公開)。
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自動搬送ロボットのベータ版のオープンソースをインターネット上で公開
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「物流業界では一部の大企業で自動化が進んでいるものの、中小企業では『自動搬送を導入したくても、何をどう着手したらよいかも分からない』というケースはまだまだ多いですね」と阿蘓氏
「自動運転技術は近年、加速度的に成熟してきていますが、その理由として研究・開発に活用できるオープンソースプラットフォームやツールが充実したことが挙げられます。また、学生でも簡単な自動運転システムであれば、それらを用いてある程度開発できるほどコモディティー化(一般化)しました。それならば…と、私たちは単純な技術開発を行うのではなく、自律走行技術をどう現場のニーズや物流の作業工程に合わせて、カスタマイズし活用していくか?に注力することにしました」
2つの特性を自在に使い分ける自動搬送ロボット
LexxPlussでは現在、自動搬送ソフトウエアシステム「LexxAuto」、ロボットハードウエアである「LexxHard」、さらに統計データやIoT技術を活用して現場の効率化・自動化を促進するための「LexxSupport」などを提供している。
「ロボットの自動走行技術は、LiDARセンサーなどを用いて自分で考えて自由に自走する“自律走行型”と、地面に設置したテープやバーコードに沿って走行する“軌道誘導型”の大きく2種類に分類されます。一般的にロボットメーカーは、必要な要素技術が異なるなどの理由から、どちらかに特化してロボットを開発しているのがスタンダードです。ですが私たちLexxPlussのサービスは、同じシステムで2つの自動走行技術をいいとこ取りして使い分けられ、かつロボットをコンパクトに動かせるのが特徴です。
これにより現場ごとの環境に合わせたカスタマイズが容易になり、すでに量産ロボットの現場導入に向けたプロジェクトを複数進めています」
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自律走行型は自走に秀でている。広い環境で障害物や人を認知して自動的に避け、ダイナミックに走行させることが可能だ(画像はLexxHardを自律走行させている状態)。W60×D60×H24(各cm)サイズで、約500kgのけん引まで対応
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経路に従い走行する軌道誘導型は、“細かく停止させる”または“向きを変える”動作がプログラミングしやすいという点が特徴だ(画像はLexxHardを軌道誘導で走行させた状態)※サイズとけん引可能重量は自律走行型と同一
2つの技術を柔軟に使い分けられる自動搬送ロボットをクライアントごとに“どう生かすべきか?”という配置やフローの構築、効率化などを肝に、量産へ向けた動きが進んでいる。一方で、企業からのニーズに対して、「通常の自動搬送ロボットではなかなかお客さまの費用対効果にはつながらないという難しい課題も抱えている」と阿蘓氏は話す。
「現状、世界中で約83%の物流倉庫や物流センターが自動搬送技術の導入に未着手と言われています。導入した倉庫でもごく部分的なもので、Amazonでさえピッキング作業は自動化されていても運搬作業は人手に頼るケースもあります。つまり、人間が物を“自動搬送ロボットに乗せる・降ろす”作業までセットで自動化できなければ、エッセンシャルワーカーの環境改善、費用対効果にはつながり難いわけです」
つまり自動化には、ロボットが担う作業の前後、エッセンシャルワーカーが立ち回る部分をいかにスムーズにするか?という“プラスα”まで考えたソリューションの開発が必要となり、ロボットを導入すればそれでOKとはならないのが現状だ。
しかし今、現場は新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに「自動化の導入を進めなければ…という機運が高まっている」とも阿蘓氏は感じている。
「大勢の人手を一度に稼働させるこれまでの体制は、感染拡大の可能性、人手の確保の難しさという観点から労働集約型の組織にとって新たなリスクとなりかねません。こうした事業を継続させる上で不安定な要素が表面化したことで、自動化はより求められる技術になったと考えています。ニーズも物流にとどまらず、工場、医療など、まさにエッセンシャルワーカーが働く現場に潜在しています。現在は物流業界に軸を置いていますが、技術を応用し、より低コストでさまざまな業界向けにカスタマイズできるシステムを開発・提供できたらと思っています」
オープンソースをもとにした開発を行い、現場ごとにマッチした量産化を推し進めていく。さらに低コスト化&汎用性を持たせ、業界の枠を越えて需要拡大を狙う。まさにエッセンシャルワーカーを支え、かつ収益化も見据えたイノベーションモデルと言えそうだ。
エッセンシャルワーカーの消費エネルギーを最小限に
LexxPlussが目指すものは、人手を省く=完全自動化ではなく、単純作業や非効率な作業を技術やビジネスモデルで改修するサービスだ。
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LexxPluss社では緊急事態宣言を受けて、物流倉庫や製造工場などの運搬作業の自動化分析および人手不足による運営リスク分析の無償提供を実施した
「私たちの事業は人間の労働の一部を効率化させて、人間が消費する“労働のエネルギー”を最小限にして最大限の効果を得ることを目指す、言うなればエッセンシャルワーカーの“エネルギー効率を上げること”がミッションだと言えるでしょう。
人手不足に悩まれる事業者の方々に自動化やその他の技術をサービスとして提案し、事業を継続しやすい環境を提供することが私たちの目的です。そして事業者にとって、今どういう技術が必要なのかを考えるのが私たちの役割だと思っています」
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LexxPlussでは、物流倉庫や製造工場における360度動画技術を活用し、オンラインで視察できるサービス「LexxSupport 360」の提供を6月より開始。「自動搬送ロボット以外にも、短期間で開発、ローンチできるシステムを少しずつお届けできればと考えています」(阿蘓氏)
最後に、コロナ渦を超えたその先で自動搬送技術はどのような進化を遂げていくのか?阿蘓氏にビジョンを伺った。
「自動搬送技術はどんどん普及し、着実にコモディティー化していくはずです。大手企業が、ベンチャーが、そして個人が活用することで、技術の成熟度もますます加速するでしょうし、より一般的で身近な技術になるでしょう。また、物流業界にとどまらず、どういう業界で、どういったビジネスを成り立たせるのか?という点は、採算面からビジネスモデルをまだまだ詰めて考える必要があります。
今後は自動搬送技術を活用したビジネスモデルのブレイクスルーが起きてくるでしょう。よりイノベーティブな発想の下で、自動搬送ロボットのみならず、IoTやデジタルテクノロジーを駆使して、新しい付加価値を提供するサービスが物流業界に変革をもたらすのではないか、と思います」
コロナ禍の今、物流業界は自動搬送技術を取り込むことで環境を大きく変化させていく胎動の時期に入ったと言えるだろう。
そして近い将来、エッセンシャルワーカーを支える新たな技術が生まれる土壌となるのかもしれない。
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