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【排・蓄・採・伝熱】SDGs時代の熱エネルギー活用

蓄熱・採熱の効率化でコスト削減! “地熱”とは違う“地中熱”冷暖房システムとは

浅い地盤の地中の熱エネルギーを利用して、省エネ・低コストな新システムの商品化を目指す

昨今、原油や天然ガスなど化石燃料の価格高騰が話題になる中、“熱をより効率的に活用する”エネルギー技術への期待が高まっている。その革新技術の一つが、地中熱利用における蓄熱効率と採熱効果を大幅向上させ、大幅コストダウンを実現した「ライニング地中熱冷暖房システム」だ。2021年12月、コンクリート二次製品大手のベルテクス株式会社と建設コンサルタントの株式会社エコ・プランナーが共同で発表したこのシステム。ベルテクス株式会社 技術本部 開発部 谷口晴紀氏と株式会社エコ・プランナー 代表取締役 安本悟司氏、総務部部長 兼 企画部 磯野泰子氏に開発経緯とこれからの展開について伺った。

地中熱利用、浸透の鍵はコストダウン

福井県に拠点を持つコンクリート製品製造・販売メーカー、ベルテクスと建設コンサルティングを担うエコ・プランナーは、共に地中熱を利用した消・融雪事業において20年以上の実績を持っている。谷口氏と安本氏は異業種交流会で出会い、話を重ねる中で、再生可能エネルギーでもある地中熱の新たな活用について着想し始めた。

そもそも“地中熱”と“地熱”は同意語なのか?それとも全くの別物なのか──。

その違いについて安本氏は、「地熱は、地球の中心部から出てくる熱エネルギーのことで、活用方法としては、地中深くから熱水と蒸気を取り出してタービンを回し、発電する方法がよく知られています。一方で地中熱は、太陽で温められた浅い地盤の中にある熱エネルギーのことです。温度は約15~18℃で、季節や時間に関係なく年間を通じてほぼ一定を保っており、熱そのものを利用することが多いです」と解説する。

両社が取り組んだ冷暖房システムは、「地中熱を熱源として屋内の設定温度の空気を作り出すため、外気の空気熱を熱源とした空冷式エアコンに比べて節電が可能です。例えば、外気を熱源とした場合、夏なら屋外の40℃近い空気熱から無理やり十数℃の冷風を作り出そうとすることで多くの電力が必要になります。冬も非常に低い空気熱から温風を作らなければなりません。しかし、地中熱なら季節を問わず設定温度に近い熱源を利用できるため、一般の空冷式と比べて少ない電力で済むのです」と谷口氏が説明する。

「地中熱冷暖房は地中で熱交換を行うため、一般的な空冷式のもののように排気を出すことなく、送風機による騒音が出ないメリットもあります」(谷口氏)

しかし、地中の熱を取るための熱交換器が必要になり、どうしてもコスト高になってしまう。

そのため、現在の日本では地域によって地中熱の利用に大きな隔たりがある。

地中熱ヒートポンプシステムの都道府県別設置件数を見ると、主に東日本の寒冷地域で普及が進み、西日本ではほとんど普及していないことが分かる

※2019年度末・環境省資料

「理由は初期投資費用が高く、投資回収に時間がかかるためです。東日本の寒い地域は国内でも暖房の使用期間が長いため、地中熱を利用しても早い投資回収が可能です。一方、西日本は冷暖房を必要とする期間が比較的短いため、導入しても投資回収に時間を要します。市場としては未開拓ではありますが、投資回収の問題がクリアできれば普及が期待できます。そのためにもコストダウンが命題となっています」(谷口氏)

傷んだ下水道管の再生が蓄熱・採熱のヒントに

コストダウンを課題に掲げ、両社は2016年、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)から「新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業」として支援を受け、開発に着手する。

この事業は、エネルギー基本計画や新成長戦略などに示されている再生可能エネルギー分野の重要性に着目し、「新エネ中小・スタートアップ支援制度」と「未来型新エネ実証制度」の2つの制度において研究開発を助成する、というものだ。

ライニング地中熱冷暖房システムの概念図。ライニング地中熱交換器を用いた工法で採熱効率を維持しつつ掘削コストを半減(図左)、熱収支制御システムで効果的な蓄熱利用を実現する

この事業の柱となるコストダウンをどのように実現するか。

そのヒントを、両社はベルテクスが既存事業において培ってきた技術の中に見いだした。

「谷口さんから、傷んだ下水道管の内面を“ライニング”で更生する工法を聞き、その技術が地中熱交換器に応用できると思い、共同開発を提案しました」(磯野氏)

ライニングとは樹脂などで管内を被覆する工法で、このライニング材を“地中熱交換器”に用い、冷暖房の機能を維持しつつコストダウンを図る発想。

従来の地中熱冷暖房システムでは、直径16.5cm、深さ100mの孔(あな)を掘削し、孔内に直径3cm程度のU字形採放熱チューブを挿入する。隙間は熱伝導率の高いけい砂で埋め戻し、チューブ内に流し込んだ水や不凍液を熱媒として利用しているのだが、チューブで採取可能な熱量に対し掘削コストが高くつくことが問題視されていた。

そこで、両社はU字形採放熱チューブの替わりにライニング材を採用したシステムを開発。安本氏と共にコンサルティングを担当した磯野氏は「採熱面積を増やすため、孔の大きさを丸々使いたいというのが開発の着眼点でした」と話す。

ライニング地中熱交換器。「ライニング材を使用することで、地下50mの掘削でも、従来工法での100m掘削の4倍の貯水量を確保でき、掘削コストの半減が可能になりました」(磯野氏)

「樹脂で編んだ袋の周りに接着剤を含浸させたライニング材を挿入し、袋に水道水を入れて、凸凹の孔に密着するまで膨らませ、その形状のまま固めました。この結果、従来と同じ大きさの孔であれば4倍以上の貯水量を確保することが可能になり、採熱効率が大幅にアップしました」(磯野氏)

さらに、蓄熱を効率的に使うため熱収支制御ユニットも開発。

「エアコンは室内温度が設定温度に近づくと出力が弱まり、やがて部屋の温度を維持する状態になります。しかし、従来のものは出力が弱まっても熱源側の循環水量は変わらず、地中熱交換器により採取された熱量を効率的に使用することができませんでした。そこで、エアコンの出力に合わせて熱源側の循環水量を調整することで、適切かつ必要な熱量の収支を合わせられるような制御ユニットを開発しました」(安本氏)

兵庫県加東市の事業所に設置された熱収支制御ユニット。この装置を用いて熱源の循環水量の制御の有無による消費電力の差を調査した

「熱収支制御ユニットを用いた調査の結果、従来の空冷式エアコンと比較して年間消費電力量を約50%削減できる見込みであることが確認されました」(安本氏)

ライニング地中熱交換器と熱収支制御ユニットを組み込んだことで、ライニング地中熱冷暖房システムは蓄熱・採熱両側面からの地中熱活用の可能性を切り開いたといえる。

SDGsが追い風に! 広がる地中熱の可能性

2021年12月の開発リリース後、両社には同システムへの問い合わせが続いたという。だが、実際の設置に向けてはまだハードルは下がり切っていない。

「コストダウンには成功しましたが、それでも初期投資費用はまだ高く、一般家庭での利用は難しい状況です。現状では投資回収期間を踏まえ、導入先には少なくとも200m2規模の面積は必要だと考えています。私たちとしては、まず新規の工場や倉庫、大型公共施設などを導入先として、補助金を活用した提案を行う予定です」(谷口氏)

将来的には、例えば数百軒規模の宅地造成の際、あらかじめインフラとして1本ずつ地中熱交換器を埋めて「地中熱活用物件」として販売することなどを考えており、一般家庭向けにも自然エネルギー活用が進む昨今、期待が持てる。

また、コストが懸念材料となり普及が停滞しているが、SDGsの目標達成意識が高まれば、さらなる普及拡大が考えられる。

「日本より地中熱利用が進むヨーロッパでも、掘削費用はそれほど安くありません。しかし、環境意識が高く、コストよりもCO2削減を重視する傾向が強いため、多少のコスト高は許容されるようです。国内でもSDGsの目標達成意識が強まれば、地中熱活用に追い風が吹くと期待しています」(谷口氏)

また、「地中熱の認知度が低いというのも問題」だと磯野氏は感じている。

「地中熱について、よく『発電できるの?』と質問されますが、地熱とは用途が異なることをなかなか理解していただけません。年間を通じて一定の温度である地中熱の特徴は、さまざまな分野で応用できると思うのですが、そのためにもまず認知度を上げることが必要だと感じています」

いつでも温度が一定しているということは、“天然の蓄熱効果”を持つということ。

この特徴は、アイデア次第でさまざまな分野で活用できるだろう。

今後、この天然の蓄熱の利用がどのように進化していくのか楽しみだ。

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