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【排・蓄・採・伝熱】SDGs時代の熱エネルギー活用

排熱利用で乾燥効率アップ! 精密機械の製造工程で真価を発揮する「真空乾燥機」の省エネルギー化

産業機械メーカーの株式会社スギノマシンが考えるカーボンニュートラルと排熱利用

精密機械などの部品を製造する過程の一つである「乾燥」。株式会社スギノマシンが発表した真空乾燥機「EVADRY(エバドライ)」は、部品を真空状態に置くことで水分を効率よく蒸発させる方法をとった製品だ。その機能や省エネ性、さらに2021年に発表(2022年1月に販売開始)された新機種「EVADRY EVD-22A」で付加された機能について、同社精密機器事業本部 技術統括部 営業技術部 応用開発課 一係の松井大貴氏に伺った。

“真空”の環境を利用し、消費電力を大幅削減

自動車の内部制御機器など、製造業で用いられる部品の製造過程では、成型部品に付着した汚れを落とすために洗浄し、部品に残った水分によるサビの発生を防ぐためにしっかりと乾燥させる必要がある。

従来、乾燥には対象物に直接強い風を吹き付けて水分を飛ばす「エアブロー」と呼ばれる手法が用いられてきたが、株式会社スギノマシンが2013年に開発した「EVADRY」はエアブローを使わない。

省スペース化、工場内での利用の効率化にも配慮された「EVADRY」は、キャスター付きで一人で移動させられるサイズも特徴

画像提供:株式会社スギノマシン

真空乾燥の仕組み。「『EVADRY』では対象物を真空状態に置くことで、より低い温度下で水分を蒸発させ、乾燥させます」(松井氏)

画像提供:株式会社スギノマシン

エアブローではなく、真空状態による乾燥を行う「EVADRY」の特徴について、松井氏はこう話す。
 
「『EVADRY』に備えられている減圧容器では、真空ポンプを使って-98kPa(キロパスカル)まで気圧を下げることができます。気圧が低いと水の沸点は下がり、およそ20℃で沸騰し蒸発するため、部品から水分を除去できるのが真空乾燥機の仕組みです」

「通常の気圧であれば水は約100℃で沸騰しますが、20℃という常温と変わらない温度で蒸発させられれば、わざわざ加熱する必要もなく、温風を吹き付ける必要もなくなります」(松井氏)

さらに社内テストの結果、1時間あたりにCO2(二酸化炭素)を10.5kg排出していたエアブローと比較して、「EVADRY」が運転時に排出するCO2は1.6kg/hと約85%もの削減に成功しており、カーボンニュートラルへの貢献にも期待ができる。

「私たちが『EVADRY』開発時に追求していたのは乾燥度の向上でしたが、そのために選んだ“真空乾燥”という手段が、省エネルギーやカーボンニュートラルといったSDGs(持続可能な開発目標)へつながっていたのは思わぬ副産物だったかもしれません」

乾燥ムラ、エア漏れ……エアブローの弱点を補う真空乾燥

真空乾燥機とエアブローの違いは、乾燥に至るまでの仕組みや環境負荷だけではない。

「真空乾燥機にはエアブローの風のように“当たる部分”と“当たりにくい部分”というムラが発生しないため、ほんの少しの水分も残せない精密機械の部品にはより適した乾燥方法と言えます。自動車の内部制御に必要な部品などは特に入り組んだ形をしていることも多く、エアブローでは水が奥へ入り込んでしまったり、うまく風が当たらず水分が残ってしまうリスクもありますが、真空乾燥であれば複雑な形の対象物でも完全乾燥が可能です」

また、多くの工場が抱える根本的な構造の問題にも応える。

工場における圧縮エア製造過程と消費分布。製造過程で配管内でエアの搬送ロスが生じてしまう

画像提供:株式会社スギノマシン

工場はその操業のための電力消費のうち20%を圧縮空気の製造に使い、そのうち50%近くをエアブローが占めている。

にもかかわらず、多くの工場では「エア漏れ」が発生しているのだという。

エアブローから真空乾燥に移行することで、電力消費を大幅に下げることを解説した動画

「工場の配管などはメンテナンスに莫大なコストがかかるため、なかなかこまめな修繕は難しいのが現状です。設備の劣化や搬送、変換によって、つくられた圧縮空気がその空気を使用する現場に到着する頃には半分以下にまで減少しているという調査結果もあります」

真空乾燥機を使用することでこうしたエア漏れによる無駄な電力消費を抑えられ、動画の通り消費電力も大きくカットできるため、省エネ促進を考える企業から「EVADRY」への問い合わせが多いという。

排熱利用で、乾燥効率をブースト!

「EVADRY」発売から8年がたった2021年、新機種となる「EVADRY EVD-22A」が発表(2022年1月に発売開始)された。

この機種ではオートシャッターによる自動化や、日本の工場ラインの構造に合わせたコンパクト化が採用された。

「『EVADRY』ユーザー企業さまから最も期待を頂いているのは、やはり乾燥機能の向上や完全性です。次いで省エネルギー面でのメリット、さらにコンパクト性と続いていました。日本の工場の製造ラインは欧米などと比べると非常にコンパクトであることが多いため、使用される機械もコンパクトに配置できるのが理想的です。メンテナンスを行うための開閉部を機械の背面に集約し、側面は開閉しない構造にしたことで、加工工程ラインと並べて配置して動線を短縮できるなどのメリットが生まれています」

そしてさらに注目したいのが「排熱利用」により乾燥効率の向上を実現させた点だ。

容器内を減圧するために使用する真空ポンプから生じる排熱を容器内に引き込んで、容器内や対象物の温度を上げ、乾燥効率を高めることで排熱利用を実用化させた

画像提供:株式会社スギノマシン

排熱利用の実用化のきっかけについて「『EVADRY』導入を検討しているお客さまの下でテストを行った際の発見でした」と松井氏は話す。

「お客さまの扱っている部品がアルミニウム製で熱伝導性が高く、乾燥中にとても冷えやすく、真空乾燥では対象物の温度が高い方が乾燥効率を上げられるため、冷え過ぎを防ぐためにヒーターを付加することを検討しました。でも、ふと『EVADRYの運転時には、本体の真空ポンプから80℃ほどの熱い空気が出てくる』という点に気が付き、余分なコストをかけてヒーターを付けるよりも効率的なのではと感じ、実装に至ったのが経緯です」

この方法で実際に真空乾燥を行った際の乾燥効率は、同社の計測によれば約10~15%ほど向上したという。再利用の道のなかった“排熱”に注目した結果、さらなる省エネルギー化につなげることができた。

同社は精密機械を扱う製造業が主な取引先で、「EVADRY」以外にも多種多様な機械を開発・販売しているが、今回の排熱利用など省エネ視点が注目され、「EVADRY EVD-22A」はメーカー展示会でも注目を集めた。

「実際にお客さまの企業のパーツをお持ち込みいただいて、乾燥テストを行うデモンストレーションも行ったのですが、テストの予約が早々に埋まり反応も上々でした。既存の機種に排熱利用という要素が加わったことで再評価を頂いたことに驚きを感じています。それだけ環境負荷の軽減やコスト削減を考えている企業が増えているということだとも捉えられます」

コスト削減だけでなく、SDGsという大きな目標に向けての各企業の動きは加速化している。

その波の中で、「EVADRY」のように従来の手法と異なる視点から作り出されたモノや、排出される熱などをうまく活用する発想方法は大きな武器となりそうだ。

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