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農業の未来を変える“農機のEV化”

目指すは農業の環境性&生産性の向上! カギを握るスマート農業と“農機EV化”の推進

農機の電動化に必要な変革とは

農業を営む上で欠かすことができない農機や園芸施設(ガラス温室、ビニールハウスなど)。現在、これらの多くは化石燃料を動力源としており、多くの二酸化炭素(CO2)が排出されている。そこで注目されているのが電化だ。今回は農業分野で電化技術の開発や普及研究などを行う一般社団法人 農業電化協会の三澤俊哉氏に、農機電動化のメリットや現時点での課題などを聞いた。

国主導の下、進められる農機の電動化

電動式のロボット草刈り機や、自動走行しながら収穫物を運ぶロボット──。

主要な農機メーカーも次々と電動農機を開発・リリースしていることもあり、農業の現場では、小型ロボットをはじめとする電動農機が徐々に身近になりつつある。

「農業界で電動化が推し進められている背景には、農林水産省(以下、農水省)による方針や施策があると考えられます」と話すのは、一般社団法人 農業電化協会の三澤俊哉氏だ。

農機をはじめとする農林水産業の電化の普及拡大に向けて、広報活動や電化技術の調査研究などを行っている三澤氏

これまでロボットをはじめとする先端技術を活用した「スマート農業」の促進など、農業の省力化や生産性向上に関わる方針や施策を発表してきた農水省。

2021年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定し、2022年7月には、環境負荷の低減などを目的とする「みどりの食料システム法」を施行している。

農水省が2021年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」の概要

出典:農林水産省Webサイト

この一連の流れについて三澤氏は「今後、農機や栽培システムの脱炭素化≒電化を国として強く進める意思を示したものと捉えている」と言う。

「みどりの食料システムには、目標を達成する上で必要なプロセスを具体化した『みどりの食料システム戦略』(以下、みどり戦略KPI)という指標が設けられています。その中に弊会がこれまで進めてきた農業用ヒートポンプの活用などとともに、小型の電動農機の普及と農業機械の自動操舵(そうだ)システムの活用を推進することが明記されているのです」

みどり戦略KPIで示された農業機械における2030年目標

出典:農林水産省Webサイト

そもそも、この法律が施行された背景には、2020年10月に国が宣言した「2050年カーボンニュートラル」がある。

これは2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという宣言だ。その目標達成への貢献が期待される分野の一つに農林水産業が挙げられている。

「みどりの食料システム法は、2050年カーボンニュートラルの実現を目指して施行された法律です。みどりの食料システム法やみどり戦略KPIの各所で、化石燃料を使用しない園芸施設や農機への移行、農地・草地におけるCO2吸収量の倍増など、CO2を削減するための目標が掲げられています」

園芸施設の内部を暖めるために使用されるボイラー、農場を耕す際に使用される耕運機、稲の刈り取りや脱穀するためのコンバインなど、現在作物を栽培する上で使用される農業機械のほとんどが化石燃料を動力にしている。

みどり戦略KPIでは、2020年度に燃料燃焼に伴って農林水産業の現場から排出されたCO2は、1855万トンにも上ると示されている。

「みどりの食料システム法にならって、化石燃料を動力とする農機の代わりに電動農機を普及させることは、農業現場から排出されるCO2削減につながります。その結果、環境にポジティブな影響が与えられるのです」

災害時はバッテリー代わりにも

三澤氏いわく、電動農機にはCO2を排出しないという点の他にも、複数のメリットがあるとのこと。

「まず、電動農機には、化石燃料を動力とする農機と比べて動作音や振動が少ないというメリットがあります。今のところ私が実際に見たものは、電動の刈払い機や草刈り機ですが、動作音や振動が少ない電動農機なので、操作する人が疲れを感じにくいというお声をお聞きしました。また、排ガスも出ないので、健康面での懸念も軽減されるでしょう。つまり、電動農機は人にも優しい農機といえます。こうした動作音が少ない、排ガスが出ない電動農機であれば、周囲への影響も比較的小さいので、都市部にある圃場(ほじょう)でも利用しやすいはずです」

さらには、電動農機は緊急時に役立つ可能性も高い。

災害時の備えとして電気自動車(EV)の存在感が高まっているが、電動農機にも同じ役割が期待できるという

「充電できる端末を装備するなどいくつかクリアすべき課題はありますが、災害が発生して自宅の電気が使えなくなってしまったとしても、電動農機を発電機代わりに携帯電話などを充電できるでしょう。また、電動農機ではありませんが、太陽光発電設備とバッテリーを備えた園芸施設であれば、より多くの電気を供給してくれます。さらにエコキュート(電気給湯器)なども活用した温水による加温設備があれば、生活用水の確保にもつながり、農業施設がBCP(事業継続計画)の拠点の一つになりえます」

大型の電動農機の普及を阻む壁

電動農機に切り替えることでさまざまなメリットが得られるが、現実には複数の壁が立ちはだかっている。

最も大きな障壁は価格だ。

「電動の大型トラクターを導入する際は何百万円もの出費が必要になる場合が多く、補助金や基金を活用してもカバーしきれない可能性がある」と三澤氏は言う。

大型のトラクターを使用する作業は限られており、これらの活用頻度は決して高くない。コストパフォーマンスの低さも、電動農機への切り替えに踏み切れない要因の一つとなっている。三澤氏はその解決策として電動農機のシェアリングなども考えられると述べた。

加えて、設備の面にも壁がある。

大型の電動農機を使用する上では地域内に充電設備が必要になるが、農山村地域に充電設備を導入することはあまり現実的ではないという。

「広大な圃場がある農山村地域では大型トラクターが必需品ではあるものの、そうした農山村地域では圃場も民家も点在していることが多いです。つまり、農家や人の絶対数が少なく、充電設備の需要が少ないのです。そもそも農山村地域では電気が通っていないエリアも多々あるため、充電設備を設置できる場所が限られてしまうという問題もあります。農業機械も含めたEV化は、個別機器はもとより各種制御システムを加味した総合的なEV活用システム(VPPのような)の構築も今後の課題となるでしょう」
 
しかし、電動農機を取り巻く現状が好転する可能性は十分に残されている。
 
「今申し上げた充電設備についての課題は、逆に考えれば前述の太陽光発電とバッテリーを活用するといった農山村における電力の地産地消を後押しする契機になるのではないでしょうか。また、電動農機の普及を進めるための新たな仕組みが生まれたり、消費者の意識が変わったりすることで、一気に電動農機が普及するのではと考えています。例えば、CO2の排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する『J-クレジット制度』が農業にも適用され、電動農機を使うことで削減されたCO2を販売できると農家さんも電動農機を導入しやすくなるでしょう。あるいは、電動農機でCO2を排出せずに作られた野菜に付加価値が付いて消費者が望むようになれば、それも農家さんにとって電動農機を導入する動機になります。新しいことに取り組もうとする農家さんは若い方に限らず、たくさんいらっしゃいます」

「多少高くても環境に優しい作物を選ぶ。私たち消費者の意識がこのように変化するだけでも電動農機の普及をアシストできる可能性はあります」と三澤氏

一方、スマート農業実現に向けて歩みを進める農業界では、農機や施設を電化しやすい環境がつくられつつあるという。

「ロボット草刈り機をはじめとする小型ロボットやハウス内の環境を自動制御するシステムといった精密機器が次々に登場していますが、それらの動力としてふさわしいのはやはり化石燃料ではなく電気です。今後、スマート農業がさらに普及していけば、おのずと農機の電動化も進むと予想されます」

さらに、“大型の電動農機よりも導入しやすく需要が高い小型の電動農機の方がより早く普及が進む”というのが三澤氏の見解だ。

「特にロボット草刈り機は需要が高いと思います。やはり草刈りは必要だけれども収穫作業などと比べれば農家さんにとってやりがいを感じにくい作業です。それを代行してくれるロボットに対して、多大な価値を感じている農家さんは多くいます。こうしたところが電動農機によって改善され、消費者がそれに対する対価を支払うようになっていけば農業を志す若者もこれまで以上に増加していくのではないでしょうか。また、ロボットの監視や簡単な操作であれば働き盛りの人に限らず、私のような高齢者でもできます。長く現役として働くことができ、新たな生きがいの創出にもつながると思います」

三澤氏の見据える農機の電動化がもたらす明るい未来。

電動農機の普及は、農業がより魅力的な職業になるために欠かせないステップなのかもしれない。

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