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2022.10.21
スマート農業の推進で日本の農業を発展!“完全自動運転農機”の現状と未来
準天頂衛星システムと3D地図によって実現した高精度の完全自動運転車
電動農機やロボットをはじめとする先端機器を用い、農作業の効率化や省力化を図るスマート農業──。その象徴や理想型といえるのが、完全自動運転の農機だ。今年2月、国立の高等専門学校である福島工業高等専門学校の芥川一則教授が将来的な農業利用を見据える完全自動運転EV(電気自動車)の実証実験を行った。同教授が見据えるスマート農業の姿とは。
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コストを抑えた完全自動運転車の開発に成功
現在、国を挙げてCO2排出削減に取り組む中で、各農機メーカーでは電動農機開発が進められている。農林水産省もその先にあるスマート農業を見据え、まずは2024年度より小型農機で実現できるよう開発支援を行っている。
「農機はだいたい10年ほどは使用されるものです。従って、仮に電動農機の販売が主流になったとしても、投資に見合うだけのメリットを農家さんが見いだせなければすぐには普及していかないと思います」
こう語るのは、福島工業高等専門学校(以下、福島高専)の芥川一則教授だ。
その理由は、農機の入れ替えに伴うコストにある。
仮にトラクターなどの農機具が電動化したとしても、大きな出力が必要となるため従来のものよりも高価格帯になると予想され、これが最大の障壁といえる。
そのため、自動車同様すぐ電動農機に入れ替わることは難しく、その間をつなぐ仕組みが必要になってくる。
そうした中で今年2月、福島県南相馬市の「福島ロボットテストフィールド」にて、EVを用いた自動運転の実証実験を実施した。
実験の対象となったEVは、準天頂衛星システム「みちびき」から得られた位置情報を利用して走行する完全自動運転車だ。
※福島ロボットテストフィールドに関する記事:「陸海空で活躍するロボットをさらに進化させる壮大なテスト場に潜入!」
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福島高専と4社の民間企業からなるプロジェクトでリーダーを務める芥川教授
芥川教授は、今回テストしたEVが動く仕組みについて、次のように説明する。
「ベースとなっている車は、研究・開発や工業学校での教育に活用される『PIUS(ピウス)』という1人乗りのEVです。このPIUSに搭載されているのは、コンピューターとコンピューターが出力した電気信号を動作に変換する『アクチュエーター』という装置。
また、コンピューターには、独自のAIと事前に作成した走行地の3D地図が搭載されています。この3D地図をベースにAIが最適なルートを割り出し、ルート情報が電気信号となってアクチュエーターに届くと、EVがルートに沿って走る仕組みです。実証実験では、AIと3D地図から得られた情報だけでなく、『みちびき』から得られた測位情報も活用し、ほぼ誤差を出さずに決められたルートを走行させることができました」
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実証実験車のベースとなったPIUS
芥川教授によると、EVを正確に走行させる上で必要となる3D地図はレーザースキャナーを用いて作成するという。
作成した3D地図の動画。道や畑、住宅などの横幅、高さ、奥行きの数値をドローンで計測することで作られている今回、3D地図を作成するに至った経緯などについて、芥川教授はこう話す。
「レーザースキャナーを所有しているのは、福島県広野町に拠点を置き、測量設計・GIS(地理情報システム)の技術を駆使し、データ収集・情報入力・解析を行う株式会社 大和田測量設計です。縁あってレーザースキャナーを活用したプロジェクトに共同で取り組むことになったのですが、協議を重ね、レーザースキャナーを用いて3D地図を作成し、それを活用した完全自動運転車の開発に至りました。ちなみにこのレーザースキャナーは時価3000万円ほどする高価な機器で、国内には限られた台数しか存在しません」
また、3D地図を作成する際は、事前にレーザースキャナーを搭載したドローンで測量を行うが、1km2のエリアを測量して3D地図を作成した場合、およそ500万円がかかるという。
しかし、「みちびき」から得られた測位情報と精度の高い3D地図は相性抜群で、走行時の誤差は3~5cm程度にとどまるそうだ。
複数の無人農機を圃場で稼働させることも可能に
今回の実証実験を通して、「簡単かつコストを抑えながら車や農機に完全自動運転の機能を付与できることも分かった」と芥川教授。
その理由として、完全自動運転の機能は電動の車や農機だけでなく、エンジンを動力とする車や農機にも搭載可能なことを挙げた。
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実証実験車の構造
「簡潔に言えば、車や農機に現在地を確認する測位端末と農機を操作するアクチュエーターを設置します。人間の代わりに操作するための『小型コンピューターを搭載すれば、自動運転の車や農機が完成します。事前に、コンピューターに走行するエリアの3D地図を読み込ませて道幅などを把握させているので、自動車にたくさんのセンサーなどを付ける必要がないのです」
では、農機に完全自動運転機能を付与する場合、具体的にはどれほどのコストがかかるのだろうか。
「完全自動運転で、なおかつ圃場(ほじょう:田や畑など農地のこと)で十分な機能を発揮する農機を造る上では、農機専用のアクチュエーターを開発する必要があります。現在、各農機メーカー向けに農機専用アクチュエーター開発を依頼している段階ですが、向こう5年以内にアクチュエーターを市場に登場させたいと考えています。また、このアクチュエーターの価格は100万円程度に抑え、農機への取り付けも簡単に、安くできるようにしたいと考えています」
なお、電動農機の方が構造上、自動運転化しやすいというが、扱う場合には大きな障壁が立ちはだかるという。
それは、農機を電動化する際には多大な電力が必要になり、賄うためのユニットが高額になる可能性が高いため。これに伴い、電動農機そのものも高額になってしまい、自動運転化された電動農機の普及にはまだ少し時間がかかりそうだ。
さらに気になるのは、1km2あたり500万円という3D地図の作成料金だが、この作成料金は、視点を変えて考えると決して高くはないという。
「田んぼ1枚あたりの面積は約300坪(約1000m2)です。つまり、その3D地図の作成料金は5000円ほどということになります。なお、圃場の形状を変えない限り、一度3D地図を作成すれば、長期間にわたってその3D地図を使用することが可能です。例えば10年間、3D地図を使用した場合、田んぼ1枚にかかる地図の費用は年間500円ほどになります」
完全自動運転の農機が解決する課題
また、完全自動運転化された農機は農業を飛躍的に変える可能性も秘めている。
「3D地図と『みちびき』を活用した自動運転車と農業は、とても相性がいいといえます。農業では、肥料の散布や種まきなど、正確に位置を把握しながら行う作業が多くありますが、ほぼ誤差なく走行する自動運転車を使用すれば、狙った位置を外さずに作業を行うことができます」
さらには、多くの人々の想像を超える未来がやってくる可能性も。
「例えば、農業を営んでいる集落の3D地図を作った場合、圃場はもちろん、農機が収納されているガレージも3D地図に載ることになります。そのため、圃場での作業だけでなく、ガレージと圃場の間の往復も、農機が単独で行うことができます。つまり、無人の農機がガレージから圃場まで移動し、圃場で作業した後、またガレージに戻ってくるということも実現可能なのです。さらには、作業効率を大幅に上げることも可能になります。完全自動運転化された農機であれば、一度に複数台を稼働させることができるので、大規模な圃場での作業もエネルギー効率よく短時間で終わるはずです」
現在、農村地域を中心に過疎化や農業人口の高齢化が進んでおり、農業における人手不足は深刻化の一途をたどっている。
こうした現状を踏まえつつも、各地で農業が継続されるべき理由があると芥川教授は説く。
「単純に、国民生活を支える上で耕作が必要なのですが、国土を維持するという目的でも耕作は必要です。田んぼは、いわばダムのような働きをしており、大雨が降ったときにある程度の水を貯水してくれるのです。つまり、地域に田んぼがあるからこそ、洪水被害が軽減されているといえます。反対に、地域に田んぼがなくなれば、地域内で貯水機能が失われ、やがて災害が多発するようになるでしょう」
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災害を防ぐという意味でも農地は維持していかなければならないというのが芥川教授の考えだ
各生産地での人手不足の埋め合わせは、重要度が高い課題といえる。完全自動運転化された農機は、マンパワー不足を最大限に補い、圃場の管理を容易なものにしてくれるはずだ。
さらに芥川教授は、完全自動運転化された農機をもって、日本の農業に一石を投じるプランがあるという。
「日本の農家の多くが、量よりも質を重視しながら作物を栽培しています。しかし、世界的に見ると、日本の生産物は既に十分過ぎるほどクオリティーが高い。これからは、海外に生産物を輸出することを前提に、どんどん生産量を増やしていくことが大切になると思います。完全自動運転の農機は、一度に複数台を稼働させられるため、広い圃場での作業効率も大幅に上がります。大量生産と利益の拡大を可能にするのが、完全自動運転の農機なのです」
実証実験に成功した結果、コストを抑えながら簡単に完全自動運転車を製造できることが証明され、自動運転車の業界への参入障壁が下がったといえる。
これを踏まえて芥川教授は、将来への希望をこう語る。
「私一人の力では、完全自動運転の農機を開発し普及させることはできません。今回の結果をもって、多くの中小企業が奮起し、完全自動運転の農機や専用アクチュエーターの開発・普及にチャレンジしてくれたらとてもうれしいですね」
スマート農業の実現に向けて、農機の早期電動化が望ましいのは言うまでもないが、一朝一夕でできるものでもない。
芥川教授のアイデアは、今後の農業のあり方を考える上で新たな選択肢となり得るに違いない。
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