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“イノベーション×フィールド”最新研究施設

陸海空で活躍するロボットをさらに進化させる壮大なテスト場に潜入!

【イノベーション×ロボット】福島ロボットテストフィールド

テレビのドキュメンタリーやバラエティー番組など、空中撮影のために今や当たり前に使われているドローン。その可能性を流通や防災対策に生かそうという動きは以前からあった。アメリカでAmazonがドローン配達に取り組むことが報じられたのは2013年12月。当時は5年での実用化を標榜(ひょうぼう)していたが、いまだ実現には至っていない。その理由は技術をはじめさまざまだが、例えば日本においては法制度を整備するための実証実験を行う場が限られることも理由の一つに挙げられる。今回取り上げる「福島ロボットテストフィールド」は、そんなドローンはもちろん、陸海空のあらゆる環境におけるロボットの実証試験を可能とする施設。東日本大震災で多大な被害を受けた場所は今、ロボットの新しい未来を描こうとしている。

震災復興から新たなものを生み出すために

東日本大震災および原子力災害により多大な被害を被った福島県浜通り地域の産業を回復するため、官民一体となった一大プロジェクトが立ち上がった。

それが「福島イノベーション・コースト構想」だ。

これは同地域に新たな産業基盤を構築することを目指すもので、ロボット、エネルギー、農林水産、廃炉などの分野におけるプロジェクトを同時多発的に立ち上げ、産業の集積、人材育成、交流人口の拡大に取り組むことを目標に掲げている。

そのプロジェクトの一つが、福島県南相馬市および浪江町に整備する「福島ロボットテストフィールド」である。

陸海空ロボットの研究開発拠点として2019年度末までに全面開所を予定している

「そもそも『福島イノベーション・コースト構想』の検討がスタートしたのは2014年度です。当時はまだ廃炉のプロセスが見えていない段階で、それを進めるためには多くのロボットが必要だろうといわれていました。では、どんなロボットが必要なのか?廃炉作業は陸上を動くこともあれば、空中から観察することも水中を移動することもある。そんなロボットを開発しなければなりません。

さらにもう一つ、いつ襲ってくるか分からない津波への対応です。二次災害を避けながら被災者を捜索するためにはロボットを投入することへのニーズが高まりました」と、福島県商工労働部の北島明文ロボット産業推進室長は語る。

ここで問題となったのが、“現場で使う前の試験をどこで行えばよいのか”ということだ。例えば、災害現場に実証試験が済んでいないロボットを持ち込んだ場合、きちんと機能する確証がないために使用できないことも起こり得る。

2019年2月にオープンした試験用プラント(写真上)。1・2階に各種配管やバルブ(写真左下)を、3・4階に貯蔵タンクを、5・6階に大中小の煙突(写真右下)を再現。ここを舞台にロボットの作動試験を行う

「福島イノベーション・コースト構想のために集まった有識者の中からも『ロボットの実証試験ができる場所がない』という意見が寄せられていました」

福島ロボットテストフィールド整備の狙いを語る北島明文ロボット産業推進室長

「加えて、『福島イノベーション・コースト構想』に基づき、県内に新産業を興すための取り組みを始めた中、例えばドローンの用途である市場を見てみると、今後物流で年間20兆円、インフラ点検市場で年間5兆円という規模の可能性があることが分かりました。また、物流業界では深刻な人手不足もあって自動化が急がれています。そこにニーズがあり、新たな産業が生まれる可能性があると考えました」

災害対策と産業対応の両面から、ドローンをはじめとするロボットが求められる状況にある。足りないのは、それを実用化するために実験をする場だ。

こうして「福島ロボットテストフィールド」が誕生することになった。

実験の場を超えて新産業に寄与するために

福島ロボットテストフィールドは福島県南相馬市の沿岸部、東京から車で約3時間のところにある。

「東西約1000m、南北約500mという敷地内に、無人航空機エリアをはじめ、インフラ点検・災害対応エリア、水中・水上ロボットエリア、開発基盤エリアを設けます。また、浪江町に長距離飛行試験のための滑走路も整備します。この2カ所を利用することで、まだ制度が整っていないドローンの目視外飛行の実証試験を可能としました」

すでに一部オープンしている無人航空機エリア。ドローンの実証実験が頻繁に実施されている

設備の仕様決定に際して打ち出したコンセプトは「あらゆる災害現場、インフラの点検現場、老朽化現場の環境を再現すること」だった。

「特に災害対策やインフラ点検は、対象となる構造物がないと実証試験が成り立ちません。そのため橋梁(きょうりょう)やトンネル、プラントやタンクといったものをリアルに再現しました。トンネルであれば、その中にあるジェットファンや照明まで造り込む。老朽化を再現するためにさびた鉄骨を使う部分も設けました。災害現場の再現であれば、例えばトンネルの中にバスを横倒しして置いたり、がれきを積んだりもします。とにかく実証試験の全てを許容できるフィールドにしたかったのです」

2019年度末までの完成を目指す施設。試験用トンネル(左)は道路幅6×全長50(m)。市街地フィールド(右)にはビル2棟、住宅5棟とがれきが備わる

試験用橋梁は道路幅10×全長50×高さ5(m)もある

水没市街地フィールド(左)は1階部分全部冠水と一部冠水の住宅2棟が巨大なプールに沈む。開発基盤エリア(右)には会議室や研究室のほか、加工室や振動試験室なども用意される

実証試験の全てを許容するというのが、この施設の大きなポイントだ。行われるのが試験である以上、時には失敗することもある。壊れたり、落下したりなど、不測の事態が発生しても、それらを想定の範囲内のこととして許容できる施設になっているわけだ。

「そこまでの懐の広さを持った施設だからこそ、できることがあると思います。例えばその一つが、法制度の整備に寄与することです」

新しいものを生み出そうという時に課題となるのは、既存の制度の中で収まらないものをどのように社会実装していくかということだ。例えば、前述のドローンの目視外飛行もしかり。

ドローンの目視外飛行に欠かせない通信塔。南相馬市と浪江町の両拠点間に備わり、約13km(下図参照)の目視外飛行実証試験を可能にする

「物流にしろ、インフラ点検にしろ、ドローンの目視外飛行に寄せる期待は大きいです。しかし、現在は実用化までにクリアしなければならないさまざまな課題があります。安全基準、操縦者の技能基準、運航ルールなどを定めなければなりません。そのためには当然、実証試験が必要になります。それをここで繰り返すことでデータが蓄積され、『このような制度整備をすれば良いのではないか』という提案ができると思っています」

福島ロボットテストフィールドは、あくまで「場所」であり、実証試験を行うのは大学の研究者や企業などの開発者となる。しかし、その現場にはテストフィールドのスタッフも立ち会う。そして両者が意見交換をしながら試験環境をさらに進化させるとともに、業界団体と制度整備作りの協力協定を結ぶなどにより、提案を行っていくという。

「既に2019年1月の終わりには協力協定を結んだドローンの業界団体と共同で実証試験を行い、目視外飛行の性能評価基準についての見解をまとめました。これから市場規模が大きくなる業界ですが、だからこそみんなで協力して制度整備を進めようという機運が高まっています」

被災地ではなくイノベーティブな土地へ

福島ロボットテストフィールドの全ての施設が完成するのは2019年度中の予定だが、その一部は2018年度から既に稼働している。

しかし、実は福島県浜通りは、それ以前からロボットの実証試験フィールドとして業界内では広く認知されていた。

「福島浜通りロボット実証区域」事業により、日本郵便による小型無人配送車(上)や、イームズロボティクスなどによるイノシシ対策ドローン(下)など、福島ロボットフィールド周辺区域でさまざまな実証試験が実施されてきた

「2015年度から、『福島浜通りロボット実証区域』という事業を始めました。試験を行いたい研究者や開発者の希望を受け、それが可能なエリアを県や市町村の職員が探し、地元住民や土地所有者との仲介を行いました。

これが、とてもスムーズにいきました。理解者が多かったのです。すると、『ここなら実証試験ができる』というメリットが業界内に浸透し、これまでに約180件を超える実証試験誘致に成功しています」

それによって、今では年間で延べ4000名もの研究者が福島県浜通りを訪れており、中には事務所を構える事業者も現れてきた。

「南相馬市と浪江町は震災前でも合わせて人口10万人弱という、決して大きな自治体ではありませんでした。それが震災の影響でさらに減少していますし、帰還する方の中に若い世代が少ないという印象もあります。そこをどうするかと考えたとき、雇用数はもちろんですが、やりがいのある仕事を提供しなければなりません。それは行政だけでなく、住民の方も分かっているんですね。だからこそ実証試験にも積極的に協力していただけるのだと思います」

27台ものドローンを一斉に飛行させる実証試験が行われていた。これほどの台数を一気に飛ばすことができる試験環境が、研究者や開発者に歓迎されている

地元ベンチャー企業も精力的に「福島ロボットテストフィールド」を活用する。このフィールドの利用価値を、使用する側も受け入れる側も一緒にもり立てていくことが今後の発展に向けたポイントだろう

「新しいことにチャレンジしなければ若い世代は帰ってきません。だからこそ新産業にトライしたいし、そのための構造転換を図っていきたいですね」と北島室長は言う。

「アメリカにモーゼスレイクという小さい町があります。そこには全長約4kmという、アメリカで最も長い滑走路があり、航空機の飛行試験をひたすら繰り返しています。するとそこには技術者が年単位で住み込んで試験に取り組み、それを検定する検査官やサポートするコンサルタント、部品などのサプライヤーも住み着くことになります。結果、町の基幹産業になるわけですね。

同じように、福島ロボットテストフィールドを中心に、新たな産業がここ福島県浜通りに生まれたら面白いと思いませんか」

東日本大震災後、福島県といえば被災地として語られることが多かった。しかし、その認識は少なくともここを訪れた研究者の中では変わってきている。

「彼らにとって南相馬市や浪江町は、被災地ではなくロボットの実証試験ができる先進地域という認識です。それこそわれわれの目指す姿です」

2011年3月に被災地した町が8年の時を経て、イノベーティブな町へと変化しようとしている。

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