1. TOP
  2. 特集
  3. COP27で変わる世界の潮流
  4. 温暖化が進む地球の未来を決める最重要会議「COP」とは?
特集
COP27で変わる世界の潮流

温暖化が進む地球の未来を決める最重要会議「COP」とは?

COPのこれまでとこれから。世界が議論してきた気候変動

地球温暖化対策について考える際、「パリ協定」やそれが採択された「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」は外せないキーワードだ。しかし、過去26回開催されてきた「COP」の歴史や具体的な内容については意外と知られていないのではないだろうか。27回目となるCOPが開催される中、これまでの経緯や交渉を研究してきた国立環境研究所 社会システム領域の久保田泉主幹研究員に、COPの基礎知識について聞いた。

COPの歴史を振り返る

2020年以降の気候変動問題に対する国際枠組みとして採択された「パリ協定」(2015年)や、そのパリ協定が採択された「COP」について耳にしたことがある人は多いだろう。

しかし、COPはいつから、何を目的に始められたもので、具体的にどのようなことが話し合われているのかは案外知られていない。国立環境研究所 社会システム領域の久保田泉主幹研究員は、次のように解説する。

「COPはConference of the Partiesの略で、日本語に訳すと、『条約の締約国による会議』という意味になります。1980年代後半から1990年代初頭にかけて気候変動、つまり地球温暖化がこの先大変な問題になるから何とかしなければならないという機運が世界的に高まり、1992年に気候変動問題対策の国際的な基盤となる国連気候変動枠組条約が採択されました。その後1994年に発効したのですが、条約には年に一度、締約国会議を開くことが明記されていて、翌1995年にドイツ・ベルリンで1回目の締約国会議、つまりCOP1が開かれることになったのです」

COP1以降も国連気候変動枠組条約に記載されている通り、新型コロナウイルス感染症の影響で1年延期となった2020年を除いて毎年1回必ず開かれている。下の年表は、COPでパリ協定が採択されるまでの経緯をまとめたものだ。

これまでのCOPの歴史をまとめた年表

提供:久保田泉主幹研究員

ターニングポイントとなったのは2つ。1つ目は1997年のCOP3(京都)で採択された「京都議定書」で、1990年の温室効果ガス排出量を基準に、2008~2012年の5年間で、先進国全体で少なくとも5%の排出削減を目指すという内容だ。

そして2つ目が、2015年のCOP21(フランス・パリ)で採択された「パリ協定」だ。世界共通の長期目標として、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比較して2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求することなどが盛り込まれている。

では、COP3とCOP21以外の会議では何が話し合われていたのだろうか。

「京都議定書を例に挙げると、そもそもCOP1での『ベルリン・マンデート』と呼ばれる決議が京都議定書の基となっています。COP3で、2000年以降の先進国における温室効果ガスの排出抑制および削減対策を取り決めるという決議で、COP2でどのような取り決めを作るかが話し合われ、結果COP3で採択されたのが京都議定書なのです」

その後は京都議定書の運用ルール作りについて話し合いが続き、2001年のCOP7(モロッコ・マラケシュ)で、京都議定書の運用ルールの取り決めが行われた。これが「マラケシュ合意」と呼ばれるものだ。

さらに、前述のように、京都議定書では2008~2012年までは先進国しか温室効果ガス排出削減の義務を負っていなかった。状況の変化に応じて2013~2020年は発展途上国も同様に排出削減を行うべきとなり、その合意のためのロードマップを定めたのが2007年のCOP13(インドネシア・バリ)で採択された「バリ行動計画」となる。

それを実際に合意しようとしたのが2009年のCOP15(デンマーク・コペンハーゲン)での「コペンハーゲン合意」だが、ここでは締約国全体でのコンセンサスが得られず、翌2010年のCOP16(メキシコ・カンクン)での「カンクン合意」に持ち越された。

ではCOP17以降はどうだったのか。

「その次に浮かび上がってきたのが、京都議定書でもカンクン合意でも定められていない2020年以降の地球温暖化対策についての国際枠組みをどうするかという問題です。そのため2011年のCOP17(南アフリカ共和国・ダーバン)で2020年以降の国際枠組みを作ることを締約国が合意し、COP18からCOP20にかけて話し合いが行われました。その結果出来たのがCOP21でのパリ協定なのです」

COPについて解説してくれた久保田主幹研究員

「COP22からCOP25にかけてはパリ協定の運用ルールをどのようにするかについて話し合われ、2021年のCOP26(英国・グラスゴー)でようやく細かい運用ルールが全て合意されました。これでパリ協定の運用についての議論は一段落となるため、今年のCOP27からは新しい段階に入っていくでしょう」

このように、COP1~16は2020年までの温室効果ガス削減目標の設定、ルール作り、運用などを話し合い、COP17~26は2020年以降について話し合われたものだと言える。

COPではどのように話し合いや合意が行われているのか

COPには先進国から発展途上国まで、200近い国と地域が参加する。温室効果ガス排出についての異なる経緯や背景を持つ国々が、どのように話し合って全会で合意を得ているのだろうか。

「会議と聞くと、広い会場に200近い締約国が集まって……という様子をイメージするかもしれません。しかしCOPでは、『資金』『排出削減策』『温暖化対策技術の開発と移転』といった議題ごとに多数のコンタクトグループと呼ばれる小グループを形成し、それぞれ議論しています。そこに、例えば議題が資金であれば各国の外務省などの担当者が出席して話し合いつつ、合意の文章を作成していきます。作文が終わったら、大きな会議に持っていき、全会でのコンセンサスを得るという流れになっています」

ただ、先進国はほぼ全てのコンタクトグループに出席可能な人数で参加しているが、発展途上国や小国だとそういうわけにもいかない。参加するのは大臣と環境省の担当者1人、というような国も多いのだという。そうした場合のために、「交渉グループ」が形成されている。

COPで気候変動について話し合いを持つために形成されている交渉グループ

出典:資源エネルギー庁

交渉グループは、上の図のように細かく分かれている。有名なグループとしては、「EU(欧州連合)」を筆頭に環境と成長のバランスを重視する「アンブレラ・グループ(Umbrella Group:UG)」や小島嶼国(しょうとうしょこく)で構成される「AOSIS(エオシス)」などがある。なお、日本は米国やカナダ、オーストラリアなどと共にアンブレラ・グループに所属している。

「自国が参加できない議題のコンタクトグループには、交渉グループの他の国が出席していればその国にお任せする、というケースも見られます。COPではこの交渉グループが大きな役割を果たしています」

COP27で世界が話し合う重要な議題

前述したように、2022年11月に開かれるCOP27からは新たな段階に突入していく。具体的には何が話し合われるのだろうか。

「その前に、昨年COP26で合意されたことに注目しておく必要があります」

久保田主幹研究員がこのように話す背景には、COP26の成果としてパリ協定の運用ルールが決まったこと以外に、パリ協定における気温上昇の長期目標が事実上強化されたことがある。

これまでは「産業革命前と比較して地球の平均気温上昇を2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求する」だったのが、事実上「1.5℃に抑える」に強化されたのだ。それに伴い、締約国全体に対しこれまで設定していた2030年目標を今年末までに「再度見直し、強化する」ことが求められることになった。

「実は、締約国が掲げる2030年目標を全て達成できたとしてもこれまでの目標の2℃には満たないのが現状でした。それが事実上1.5℃に目標が強化されたため、目標と締約国各国の排出削減目標とのギャップをどのように埋めていくのかが今後課題になります」

このまま対策を行わなかった場合の世界の温室効果ガス排出量(オレンジ線)と、現状の2030年目標に沿って削減した場合の排出量(紫線)、2℃目標が達成できる排出量(緑線)、1.5℃目標が達成できる排出量(青線)の関係をグラフで示したもの。現状の目標では2℃目標にすら届かないことが分かる

図出典:IPCC第6次評価報告書(AR6)第3作業部会(WG3)政策決定者向け要約(SPM)図SPM.4

パリ協定で2020年以降の温室効果ガス排出削減目標が決まり、昨年のCOP26でその運用ルールも決まった。だが、まだその目標を達成するための見込みが立っていないという大きな問題が存在する。

「今回のCOP27で主に議論されると考えられるのは、大きく分けて3つです。1つ目が、1.5℃に強化された目標に対して各国がどのような緩和策を打ち出していくのか」

緩和策とは、省エネや再生可能エネルギーの導入など温室効果ガスの排出を抑え、地球温暖化を防ぐための取り組みのことを指す。

「2022年末までに締約国は緩和策を見直し、強化することが課題となっていますが、少なくとも今年6月の時点ではまだ数カ国しか見直しができていませんでした。残された時間も少ないので、COP27でも議論の対象になります」

ちなみに日本も、緩和策の見直しはまだできていないという。

2つ目は、「グローバル・ストックテイク」に向けての準備だ。パリ協定では、長期目標を達成するために世界全体での地球温暖化対策の進捗状況の確認を5年ごとに行う仕組みを採用している。この仕組みをグローバル・ストックテイクと呼ぶ。

「パリ協定の仕組みでは、グローバル・ストックテイクの結果も踏まえて、各国が5年ごとに排出削減目標を見直すことになるのですが、前期よりも必ず進展させた目標を掲げなければならないことになっています。排出削減に関するPDCAサイクルを導入した、と言えるでしょう。このグローバル・ストックテイクの1回目のプロセスが始まっているため、技術的評価がどのように進むのかも重要な議題になるでしょう」

そして3つ目が、『適応』『資金』『損失・損害(ロス&ダメージ)』についてだ。これまでは緩和策に資金が投じられる傾向にあったが、起こってしまった気候変動への適応にどう資金を回していくかも議論される必要があるという。適応とは、例えば地球温暖化により海面が上昇した場合、それに合わせて堤防を高くするといった取り組みを指す。適応し切れなかった温暖化の影響は、損失・損害と呼ばれる。

「緩和策と適応に対してどのようにバランスよく資金を配分するか、起きてしまう損失・損害についてどう対応していくかがCOP27の議論で注目点になりそうです。特に発展途上国への支援についても注目したいですね。COPは開催国が議長国を務めるため、今回の議長国はエジプト。発展途上国が議長国を務める際には、発展途上国へどのような支援が行われるのかという方向に議論のかじを取ることが多いのです」

2020年以降の国際枠組みを決めたパリ協定の運用ルールも定まり、いよいよ目標達成に向けての実行段階に入ったことが分かる。そうすると、これからCOPに求められる役割も変わっていくのだろうか。

「今後のCOPは、パリ協定の運用ルールに沿って淡々とPDCAサイクルを回していく場になるのではないでしょうか。だからと言って、重要度が下がるわけではありません。地球温暖化の問題に対し、国際社会全体で長期的な視座を持って評価し、意思決定ができるのはCOPの場しかありません。COPが担う役割の重さは変わらないでしょう」

地球の未来を決める最重要会議の動向から、今後も目が離せそうにない。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 特集
  3. COP27で変わる世界の潮流
  4. 温暖化が進む地球の未来を決める最重要会議「COP」とは?