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COP27で変わる世界の潮流

大気中のCO2から合成燃料系SAFを生成する東芝エネルギーシステムズへの期待値

「COP27ジャパン・パビリオン」で見えた世界の潮流

「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」の開催期間中、実はパビリオンでセミナーや最新技術の展示を行う国や地域もあり、日本も例外ではない。今回、「COP27ジャパン・パビリオン」で注目を集めた技術の一つが、東芝エネルギーシステムズ株式会社による二酸化炭素(CO2)電解装置だ。大気中のCO2を一酸化炭素(CO)に分解できるこの技術は、どのように役立つものなのか。また、世界からの反応はどうだったのか。同社の担当者に詳しく聞いた。

人工光合成技術を使ったCO2電解装置

世界から200近い国と地域が地球温暖化対策について議論するために集う「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」。環境問題に関連する世界の要人や機関、企業が一堂に会することもあり、実は議論だけではなく多くの国や地域が開催期間中にパビリオンで環境にまつわるセミナーを行ったり、自国の窮状を訴えたり、あるいは地球温暖化対策となる最新技術を展示していることはあまり知られていない。

日本ももちろん例外ではなく、2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開かれたCOP27では環境省が主導して現地のパビリオンでセミナーや国内の最新技術の展示を披露したほか、オンライン上でバーチャル展示も行った。

日本が誇る最新技術は多くの国や地域の企業から注目を集めたが、その中の一つが東芝エネルギーシステムズ株式会社・株式会社東芝による二酸化炭素(CO2)電解装置だ。

COP27のジャパン・パビリオンで展示されたCO2電解装置(机上右)

提供:東芝エネルギーシステムズ

「人工光合成技術を使ってCO2を一酸化炭素(CO)に電気分解し、さまざまな化成品(※)にしていくための装置です。COはいろいろな化成品、合成燃料の原料になります。水を電気分解して水素を生み出すサプライチェーンは『パワー・ツー・ガス(Power to Gas:P2G)』と呼ばれていますが、我々はこのCO2電解装置を中心として化成品を作り出すサプライチェーンを『パワー・ツー・ケミカルズ(Power to Chemicals:P2C)』と名付けました」

※化成品:工業原料として用いられる化学的な性質を特徴とする製品

>>TEPCO発の水素サプライチェーンでカーボンニュートラルの実現へ! プロジェクト「H2-YES」のビジョン

東芝エネルギーシステムズ エネルギーアグリケーション事業部 水素エネルギー技術部 技術第二グループの尾平弘道マネジャーは、そう語る。

尾平マネジャーはCO2分解装置を中心としたこのサプライチェーンのプロジェクトリーダーを務める

「このサプライチェーンの心臓になるのが人工光合成技術を用いたCO2電解装置です。人工光合成技術は元々東芝で研究を重ねてきた技術なのですが、太陽光をエネルギーとして使おうとすると広大な敷地が必要になります。そのため電気エネルギーを使って、CO2を水に溶かさず気体のままCOに分解する『三相界面制御触媒電極』という技術を開発したのです」

「三相界面制御触媒電極」の概要

提供:東芝エネルギーシステムズ

この「三相界面制御触媒電極」を用いて、より多くのCO2を分解しようとするなら、どうすればいいか。そのとき気付いたのが、自社の燃料電池の構造に関する技術だった。

「燃料電池はセル(薄い板状のもの)を積層して出力を上げる構造になっています。当社で豊富な実績がある燃料電池製造で培った技術を応用し、『三相界面制御触媒電極』のセルも同じように積み重ねれば(セルスタック)、CO2電気分解においても同様に出力量を上げていけると考えました。積層の構造が近いため、既にある工場のインフラをそのまま使えることも分かりました」

CO2電気分解装置の模型は、2022年12月に東京ビッグサイトで行われた「エコプロ2022」でも展示された

2014年頃に開発していた従来の技術と比べ、CO2処理速度の指標となる電流密度でいえば約450倍もの高い処理量が可能になっている。東芝エネルギーシステムズと東芝が持つ既存の技術が組み合わさることで、大幅に処理量が上がったCO2電解装置が誕生したのだという。

COはから合成燃料系のジェット燃料を作り、フライトの脱炭素化に貢献

では、なぜ「COP27ジャパン・パビリオン」における展示でCO2電解装置は来場者から注目を集めたのか。

このサプライチェーンにおける省庁や国内外の企業との渉外担当である東芝 政策渉外室 戦略企画担当の渡辺幸子参事は次のように話す。

元はエンジニアという渡辺参事。2018~2020年に環境省へ出向し、帰任後は渉外業務を担当する

「それは、大気中のCO2を電気分解して生まれるCOから、SAF(Sustainable Aviation Fuel:サフ※)と呼ばれるジェット燃料を作り出すことができるからだと思います」

SAFについては、これまでも大きく取り上げてきた。

>>特集『SAFの可能性』

※SAF:持続可能な航空燃料。バイオマスや非バイオマスの原料から製造した燃料の総称。現在の燃料認証規定では、SAF単体ではジェット燃料として用いることはできず、化石燃料由来のジェット燃料と混合することが義務付けられている。混合割合は原料および製造方法によって異なる。

以前の特集でも取り上げたように、現時点でのSAFの主流は木くず、草、微細藻類、都市ごみ、廃食油を原料としたバイオマス系のSAFだ。

しかし、バイオマス系のSAFは、原料供給の面でいずれ頭打ちになる。そのときに期待されているのが、CO2由来の合成燃料系のSAFなのだ。

このCO2電解装置で生み出されるCOからは、SAFを製造することができる。

「CO2を集める技術、COを水素と合成して有機化合物にするFT合成(※)技術は既に確立しています。一番のポイントだったのがCO2をCOに電気分解する技術ですが、今回ようやく社会実装できるめどが立ったのです」(尾平マネジャー)

※FT合成:合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)から、石油代替燃料や化学品を合成する触媒反応「フィッシャー・トロプシュ法」を指す。

CO2電気分解装置を中心としたSAFのサプライチェーンのイメージ図

提供:東芝エネルギーシステムズ

CO2を電気分解してCOを生成し、そこからSAFを製造するというサプライチェーンは世界的に見ても、まだ事業化できている所はない。

東芝エネルギーシステムズ エネルギーアグリケーション事業部 水素エネルギー技術部の大田裕之カーボンリサイクル事業開発担当部長(以下、担当部長)は次のように話す。

「このサプライチェーンの事業化を進めている企業は世界でも数社しかありません。国内に限ると、少なくとも私は他の例を聞いたことがありません」

このサプライチェーンを社会実装していくための事業開発を行っている大田担当部長

さらに続ける。

「世界的になかなか進んでいない理由は、(1)人工光合成技術を用いたCO2電気分解によるCO製造、(2)CO2を大気中で電気分解する技術開発に時間が掛かる、この2つが挙げられます。たとえそこがクリアできても、その次には商用ニーズを満たす大量生産を可能にする工場プロセスが必要になります。世界的に見てもほぼ全ての企業が、CO2からCOを生成する技術開発の部分でまだまだ手間取っているという印象です」

今回のCO2電気分解装置は、こうした諸問題を解決に導く。つまり、CO2由来の合成燃料系のSAFにおいて世界的なパイオニアとなれるかもしれない、そんなサプライチェーンなのだ。

尾平マネジャーは言う。

「2020年時点ではCO2由来のSAFというものはまだ存在しませんでした。しかし2030年以降になると徐々に出始め、航空業界の専門家の連合体では2050年にはバイオマス系のSAFは52%、CO2由来の合成燃料系のSAFは48%と、ほぼ半々となる予測もあります。CO2を電気分解して生まれるCOはSAF以外にもいろいろな化成品に転用可能なのですが、こうした状況下ですので、まずはCO2由来の合成燃料系のSAFを社会実装するビジネスモデルとして進めています」

COP27での展示における世界の反応とは?

昨年11月に「COP27ジャパン・パビリオン」で展示した際、世界の反応はどのようなものだったのか。

「日本も含めて90ほどの国や地域の政府関係者、企業幹部の人たちが展示を見に訪れました。模型とはいえ、やはり実物大の現物を展示したことで『技術が形になり、脱炭素社会に貢献していくイメージがよく分かった』という意見をいただくことができました。中には『インプレッシブ(印象深い)』など、非常にポジティブな言葉もありました」(渡辺参事)

東芝グループ全体としては、2018年のCOP24(ポーランド・カトヴィツェ)から、毎回COPジャパン・パビリオンにおいて技術展示を行っている。

「世界中から気候変動のキーパーソンが集まる場で、日本の優れたオンリーワン・ナンバーワンな技術や取り組みを発信したいという環境省の趣旨に賛同し、出展しています」(渡辺参事)

「世界各国から、首脳、政府高官、企業幹部がこれだけ集まる機会はなかなかありません」と、渡辺参事(左)

もちろん、COPの場で世界から評価されることは、企業にとっても大きなプラスになる。

「この技術は非常に新しい技術なので、SAF以外にもいろいろな用途があるのですが、そういうアイデアを持った人がいないのが現状です。新しいサプライチェーンを作るためには、まだ付き合ったことのない企業さんを集めていく必要があります。この技術はいずれ世界に出ていく技術になると思いますので、世界のさまざまな方に見ていただいて、『一緒にやればこういうことができるんじゃないか』と逆提案してもらえるきっかけになればと期待している部分もあります」(大田担当部長)

「実際に今回のCOP27をきっかけに、国内外の数社から具体的なお声掛けをいただいています」(渡辺参事)

今後の見通しについて、尾平マネジャーは次のように話す。

「CO2を電気分解してCOをクリーンに、そして大量に作り出すには、安価な再生可能エネルギーと水素が不可欠です。これらがないと、事業性としては難しくなってしまいます。ただ、国内にも適地はあるという検討結果は出ているので、まずは国内で技術的な足場を固めた上で、将来的にはSAFを製造するフィールドとしては海外が増えてくるのかなと考えています」

日本発の技術によるCO2由来の合成燃料系のSAFで、航空機が飛び回る日もそう遠くはないのかもしれない。「COP27ジャパン・パビリオン」が、日本の技術力の高さを改めて示す場になったことは間違いなさそうだ。

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