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特集
共創から生まれる未来型スマートシティ

実証から実装へ。日本の「スマートシティ」はどう進化してきたか

求めるのは便利さではなく、その先にある幸せ(Well-being/ウェルビーイング)。日本のスマートシティの変遷を知る

内閣府が提唱した「Society5.0」。日本が目指す“未来社会”のコンセプトであり、それを体現する場としてスマートシティという言葉を目にする機会も増えてきた。2022年6月には政府が「デジタル田園都市構想」の基本方針案を示したこともあり、スマートシティに関する国内での取り組みも本格化が予想されるが、その現状はどうなっているのだろうか。多数のスマートシティプロジェクトに携わる一般社団法人スマートシティ・インスティテュート専務理事である南雲岳彦氏に、日本のスマートシティの現状と解決すべき課題について聞いた。
(メイン画像:metamorworks / PIXTA<ピクスタ>)

地方創生にも効果が期待されるスマートシティ

スマートシティという言葉からイメージするのはどんな街か──。

日本でも地球環境維持などの観点から2000年代以降、徐々に注目が集まりはじめたスマートシティ。Society5.0を経て、テクノロジーを活用したまちづくりという現在一般にイメージされる『スマートシティ』へとその姿を変えてきた。

多数のスマートシティプロジェクトに携わってきた一般社団法人スマートシティ・インスティテュート(以下、SCIJ)の南雲岳彦氏

「現在はさらに踏み込んで、東京一極集中から地方へとシフトする手段として、『デジタル田園都市国家構想』のように、スマートシティと地方創生を組み合わせた戦略へと変化しています。地方はデジタル化の“白地”が大きく、生産性向上や雇用創出などの効果も出やすい。また、遊休地を活用して発電を行えば、再生可能エネルギーの地産地消も可能になる。スマートシティと地方は非常に相性がいいというわけです」

スマートシティを取り巻く“3つの課題”

南雲氏は、国際的にもスマートシティの明確な定義はないとしつつ、「社会課題をデジタルテクノロジーで解決する、賢い街」がスタンダードではないかと語る。一方で、現在のスマートシティには3つのテーマがあるという。それが「ヒューマンスケールへの回帰」と「環境共生」、そして「データ主権」だ。

スマートシティの普及には、大きく分けて3つのテーマが存在すると語る南雲氏

「まずヒューマンスケールへの回帰について述べると、速さや大きさ、強さを追い求めてきた高度経済成長期を経て、日本は経済的に豊かになりました。一方で、それが住民の幸福感と常に相関関係にあるかといえば答えはNO。所得が上がれば幸福度も上がりますが、所得が一定の水準を超えると、幸福度は横ばいになります。経済的な豊かさだけでは高い幸福度を得られないのです。現在は『自分の居場所』や『友人が身近にいる』、というような心の満たされた生活が、幸福度に関連しているのだと考えられています」

環境共生については、ヨーロッパが特に先進的だという。デジタル化が進むあまりにエネルギー消費が過剰になってしまっては、カーボンニュートラルの実現が遠のいてしまう。ヨーロッパ諸国では単なる「スマートシティ」ではなく、現在は「気候中立型スマートシティ」が新たな政策概念として定着しており、日本もそれに追随するべく「脱炭素先行地域」を設定し、2030年までに100カ所を目標としている。

3つ目のデータ主権の面では、誰がデータを集めて管理・活用するのかが大きな課題だ。

「中国ではソーシャルクレジット(社会信用)やゼロ・コロナ政策時に一人一人の位置情報などの国民のデータが活用され、一時は成功事例として注目されましたが、強過ぎる拘束力への反発が起こりました。また、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)のような巨大企業が収益を上げるために消費者のデータを集約・管理しようとした例では、カナダのトロントでGoogle系列の企業が立ち上げたスマートシティプロジェクトが挙げられます。こちらでは事業のためにデータを“抜かれる”ことに、市民が反発したのです」

こうした試行錯誤もありつつ、ヨーロッパのように「データは市民(個人)のもので、合意を得た上で提供される」という形が日本のスマートシティにもマッチするのではないかとしている。

日本のスマートシティ、その現在地と課題

現在の日本では、どのような領域でスマート化が進められているのだろうか。SCIJでは毎年、自治体にアンケートを行っている。

2023年3月発表の定例アンケート調査結果「スマートシティの推進状況と今後の課題」より。どのような領域でスマートシティを計画しているのかについては、移動・交通が1位となった

資料提供:一般社団法人スマートシティ・インスティテュート

「特に多いのはモビリティで、自動運転やドローンなどの分野ですね。高齢者が多く“買い物弱者”が生まれやすい山間部の自治体などでは、自動運転のバスや、ドローンによる食品などの配送の実用化を目指している自治体も多いです。次点は医療・健康分野、さらに防災が続きます」

デジタル化によって「どのような状態の達成が求められているのか」を把握し、さらに合意に至ることは非常に難しく、SCIJでは海外事例を参考にした基礎自治体単位の「ウェルビーイング指標」を作成・提供している。これは、スマートシティが自分たちの生活に与える変化について関心のない市民があまりにも多く、取り組みを進める人との乖離(かいり)が大きかったためだと南雲氏は言う。

「オーストラリアでは『リバビリティ・インディケーター』という、暮らしやすさを測るための客観指標があります。日本では、客観データだけにとどまらず、アンケートによる主観的幸福感の測定を含めた総合的な方法が必要だと感じ、約3年かけてそれを実現しました」

SCIJが作った日本版リバビリティ・インディケーターは、地域の暮らしやすさであるリバビリティだけでなく、市民の「Well-being(ウェルビーイング)」にも着目している。住民のウェルビーイングを決める因子は、その街によって異なるのだという。

自然が豊かで心は幸福感で満たされるが生活に不便がある、生活には便利だがレジャースポットがない…など、住む人の幸福感や満足感を左右する因子を洗い出し、それらに対して、例えば「オンラインでの買い物をしやすくしよう」「交通アクセスを改善しよう」といった解決策を導き出し、そのソリューションを持った企業とタッグを組んでスマートシティをつくっていくことが望ましい。いわば、市民の思いと行政、そしてソリューションを持つ企業をつなぐ共通言語として作用しているのだ。

「スマートシティには行政サービスのデジタル化だけでなく、さまざまな企業や団体によるビジネスという側面もあります。利益を得られるからこそソリューションを持っている企業も動きます。税金を垂れ流すだけのスマートシティは持続不可能です。『まずは何社かを巻き込んであれこれ考える』というやり方から、『市民の幸福感や暮らしやすさの向上に資するソリューションを持っている企業と協力する』というやり方へのシフトは、本質をついた座組ですから、非常に期待できます」

シーズ(技術やノウハウなど)を持っている大学や研究機関との協働によってソリューションを取り入れようと試みる自治体が多い

資料提供:一般社団法人スマートシティ・インスティテュート

住民の“幸せ”をかなえるソリューションを取り入れたスマートシティへ

ほとんどの行政手続きがデジタルで完結するデジタルガバメントであるエストニアをはじめ、デンマークのコペンハーゲンやスペインのバルセロナといった海外都市がスマートシティとして知られるようになっている。中東諸国も、広大な砂漠エリアや海を活用した大規模なスマートシティ開発に乗り出しており、ますます加速していくことが予想されている。

日本では、2020年からの3年を経て検討段階から実験・実証を経て実装段階に入っているところが増加しており、いよいよ2023年は各自治体がアクセルを踏み込んでいくタイミングだと見ることもできる。

スマートシティに関して検討・計画や実証段階を終え、社会実装段階に入っている自治体の比率が上がっている

資料提供:一般社団法人スマートシティ・インスティテュート

「日本が取るべき形は、市民のウェルビーイング向上のためのスマート化。さらに、地域の個性を大切にする街であることが不可欠です。例えば自然が多く観光資源にもなっているような街では、工業都市化することは誰も望まないはず。高齢者が多い街なら福祉を大切に、子どもが多い街では安心や安全。他にも飲食や文化創造、教育など、住民が幸せを感じる因子は自治体によってそれぞれ異なります。住民の声を聞いて、地域の特色を守りながらテクノロジーを取り入れていくことが、理想的なアプローチでしょう」

また、今後は自治体ごとの独立した動きに加えて、隣接した自治体や、地形の似た自治体同士が連携し合ってスマートシティに取り組む動きも活発化するとみられる。例えば無人運転で市内を走ることができても、隣市では無人運転に関する条例がない…となると、実際に生活に定着させるのが難しい。今後は点と点がつながり線に、さらに面に…と、どんどん広がっていくことが予想される。

スマートシティという言葉から想起される「デジタル」や「テクノロジー」といった無機質な印象とは異なり、スマートシティはそこに住まう人の幸せを実現するものであることが分かってきた。

単にデジタル化を進めてスマートシティを名乗ったとしても、それでは本当の意味での市民の満足は得られない。

市民の声を聞きながら、わが街の目指すべき姿を追求することこそが、スマートシティ成功に欠かせないステップなのだ。

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