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共創から生まれる未来型スマートシティ

スマートシティ実現のキーパーツ「次世代電力システム」とは

電力の安定供給と持続可能なまちづくりを両立させる点・線・面のエネルギーマネジメント

持続可能な都市や地域づくりの要となる「スマートシティ」。第2回までの取材を通して、スマートシティに必要なのは「そこに住む民の声に応える、ウェルビーイングな視点を取り入れたサステナブルなまちづくり」であることが見えてきた。その実現に向けて不可欠なのが、街の特性を考慮したうえで土台となるエネルギーマネジメントシステムを構築し、産業を発展させることだ。そこで今回は、早稲田大学 スマート社会技術融合研究機構 先進グリッド技術研究所 研究院准教授・主任研究員の飯野 穣氏に、カーボンニュートラル社会の実現とも密接に関係する次世代の電力システムについて聞いた。
(TOP画像:資源エネルギー庁/次世代の分散型電力システムに関する検討会 中間とりまとめ)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/jisedai_bunsan/pdf/20230314_1.pdf

カーボンニュートラルに向けて必要な「GX」「DX」の観点

スマートシティでは、環境に優しく安心・安全な社会インフラの実現のために、新たなテクノロジーを取り入れる場面も多く想定される。

これまで人が行っていた作業をAIやロボットなどが代替することを想定すれば、おのずと消費エネルギーは増大するため、環境負荷が増大することや災害などでエネルギー供給が断たれてしまうと影響がより大きくなるといったことが予想される。

そこで最も利用しやすいエネルギーである電力を安定して供給するためには、従来とは異なる新たな電力システムの構築が必須となる。

こうした次世代電力システムの研究を行っているのが早稲田大学 スマート社会技術融合研究機構 先進グリッド技術研究所だ。

同大学の研究院准教授で主任研究員の飯野 穣氏は、日本における現行のエネルギーシステムが抱えている課題を「GX(グリーントランスフォーメーション)」とDX(デジタルトランスフォーメーション)の観点から次のように分析する。

「エネルギー政策のキーワードでもある“S+3E(Safety + Energy Security + Economic Efficiency + Environment)”と、パリ協定で定められた2050年カーボンニュートラル達成に向けたCO2(二酸化炭素)排出削減目標を起点として、再生可能エネルギーの導入が急がれています。政府も第6次エネルギー基本計画(2021年発行)で『電力システム改革』を掲げ、再生可能エネルギーの大量導入に伴う電力供給インフラのリスクを下げるための施策を打ち出しています。例えば電力の小売り自由化が加速してさまざまな企業が事業に参入していますし、スマートメーターなどの導入によってデジタル化も進み、従来のシステムでは実現が難しかった新たな電力供給マネジメントの形を目指して日々変化しています」
「S+3E」を3分解説!

早稲田大学 スマート社会技術融合研究機構 先進グリッド技術研究所の主任研究員を務める飯野穣氏

カーボンニュートラルの実現に向けては再生可能エネルギーの割合を増やすことは必須だが、急激に再生可能エネルギーによる発電量を増やせば良いわけではない。

需要と供給のバランスが崩れると、最悪の場合では広域停電(ブラックアウト)が発生する可能性がある。そのため需給バランスが一致しているか見るためのバロメーター(周波数などの情報)が必要なのだ。

「GXと呼ばれる再生可能エネルギーを大量に導入することによる発電割合を増やすことで予想されるのは、自然の力を利用しているが故に発電量が安定しない事態です。太陽光発電が良い例ですが、その発電量はどうしても天候の影響を受けることになります。また、各家庭や地域での太陽光発電量が増えすぎると配電系統が混雑し、配電線に大きな負荷がかかり電圧が上昇するため、太陽光発電が設備保護のために強制的にストップすることもあり得ます。せっかく再生可能エネルギーで発電ができるのに、これではもったいないですよね」

太陽光発電に代表されるような変動性再生可能エネルギー発電では、需給とのバランスを取るのが難しくなる

資料提供:東京電力パワーグリッド株式会社

GXはカーボンニュートラルに必要な変化ではあるものの、電力システムに大きな負荷をかけたり、新たな問題を引き起こしたりするきっかけにもなる。そうした課題を解決するソリューションがDXだ。

「各家庭がどのように発電しているのか、どのくらい電気を使っているのか。スマートメーターなどを通して情報が集まることで、より効率的な電力供給の管理が可能となりつつあります。また、各家庭やビル、工場などの需要家に分散した電源をまとめることで大きな“仮想電源”をつくり、電力会社と取引できる『VPP(バーチャルパワープラント)』など、デジタル化によって新しい電力需給の実現を目指しています」

アグリゲーターと呼ばれる事業者が、各家庭でつくられた電力をまとめて取引を行う「VPP」。電力市場にも大きな変化が起こっている

資料引用:経済産業省資源エネルギー庁

スマートシティを支える“点・線・面”のエネルギーマネジメント

スマートメーターの導入が進んだことで、各家庭や地域単位での電力の動きがデータとして把握できるようになった。これらのデータを活用して電力需給のスマート化を目指す動きも加速している。

飯野氏の所属する先進グリッド技術研究所では、こうしたエネルギーマネジメントの在り方を点(需要家)、線(送配電網)、面(地域)の3領域に分けて研究している。

「“点”というのは、家の中にある一つ一つのデバイスです。太陽光発電機器やEV(電気自動車)、蓄電池、燃料電池、ヒートポンプ給湯器といったデバイスが自律的に、また連携することで使用電力の削減や効率化に貢献できます。“線”というのは各家庭と電力会社をつなぐラインで、送配電の運用を担う電圧制御機器やスマートインバーターなどを活用することで電力の流れを安定化させる、電力や電圧の容量オーバーによる過負荷を防ぐ、などの研究が行われています」

研究所内にある配電系統シミュレーション装置「ANSWER」。電圧制御機器や配電線路模擬装置、需要家での消費や発電を模擬する負荷・DER(分散型エネルギーリソース)装置が連動し、配電ネットワークの挙動を再現する

「分散型エネルギーリソース(DER)」を3分解説!

最も広範囲に及び、またスマートシティとの関わりも深いのが“面”のエネルギーマネジメントだ。

「市区町村、都道府県などのある地域単位、自治体単位でエネルギー効率を考えるのが、面のエネルギーマネジメントです。近年では気象衛星データを基にした日照量のリアルタイムデータや、そこから推計される太陽光発電の発電量データも利用可能となり、地域の交通モデルや各需要家での電力使用量など、さまざまなレイヤーを重ねて評価ができるようになりました。先進グリッド技術研究所でも、一つの都市をイメージしたシミュレーションモデルを開発し、多様な状況を想定しながら研究を行っています」

これら3領域のエネルギーマネジメントは、いずれも密接に関連し合っている。

スマート化したデバイス(分散型エネルギーリソース)が自律的に電力効率化に貢献すること。それらのデバイスが連携し合って、再生可能電力が余剰のときは系統に発生する混雑を緩和したり、発電量が不足しているときは発電量増加や負荷の調整など相互に助け合えるような系統をつくったりすること。そしてさまざまな産業や人の動きが絡み合う都市全体の中で、いかにエネルギー供給が安定化・効率化できるかを考えること。

スマートシティの実現に、こうした新たな電力システムの存在は不可欠と言えそうだ。

点・線・面のエネルギー技術が相互に連携し合うスマートシティづくりへ

次世代の電力システム構築にまつわる研究が進む中、社会への実装はどの程度前進しているのだろうか。

例えば、各家庭へのスマートメーターの取り付けは全国でほぼ完了したといわれており、さらに取得情報の粒度が向上した“第2世代スマートメーター”の普及も計画されている。

蓄電池分野では自動的に太陽光発電とリンクして充電・放電をコントロールするHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)機能を搭載したものも登場するなど、身近なところにもスマート化の動きは見えつつある。

「“面”のエネルギーマネジメントについていえば、まだシミュレーション評価の段階ではありますが、ある地方都市の、市内を走行する路線バスのEV化シミュレーションを行いました。市内の太陽光発電によってEVバスを走らせた場合、どの程度カーボンニュートラルに寄与できるかというシミュレーションです」

路線バスの運行ルートを分析し、営業所での停車時間を有効活用して充電することで再生可能エネルギーの効率利用の可能性を検証した

「エネルギーの地産地消という考え方は、カーボンニュートラルを目指す上で重要」だと飯野氏は言う。

再生可能エネルギーの余剰分を地域外の系統へ流したり、再生可能エネルギーによる発電量を抑制したりといった“無駄”を抑えることで、カーボンニュートラルの実現にまた一歩近づくことができるからだ。

「われわれの研究所では都市規模のシミュレーション技術を活用しながら、さまざまな条件の都市・地域でのエネルギー効率化を研究しています。路線バスEV化検討の事例をはじめ、国や自治体のスマートシティプロジェクトに貢献できる技術も多数あり、非常に可能性を感じています」

そこに暮らす人々のウェルビーイングでサステナブルな社会を実現するスマートシティ──。

そこではさまざまなエネルギー機器が相互に情報をやりとりし、電力系統や環境にとって負荷の少ないエネルギー活用を実現しているはずだ。そのために、再生可能エネルギーと知能化されたエネルギー機器のベストな協調を探る研究がなされている。

また、急激に再生可能エネルギーを使った電源を増やしても、対する電力インフラの対応が間に合わず、過剰な発電による系統負荷の増大、系統の混雑や電圧の変動といった新たな問題が起こる可能性がある。

スマートシティプロジェクトでは、環境に優しく安心・安全なまちづくり、住民への福祉や環境保全、産業の発展など、都市や地域ごとに目指す姿が異なるかもしれない。

その一つ一つの“在りたい姿”にとってベストな電力システムを探るためのシミュレーション技術は非常に有用だ。

これらのデータが集まれば新たな電力システムの構築、そしてウェルビーイングでサステナブルなスマートシティの実現にとって、大きな希望となるだろう。

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