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特集
共創から生まれる未来型スマートシティ

多分野から集まるプレイヤーが連携。スマートシティは共創の時代へ

産官学、そして市民の連携が日本のスマートシティの成否を分ける

2050年カーボンニュートラルの実現や近年頻発する大規模災害もあり、「まちづくり」に求められる要件は多い。こうした観点を踏まえ、持続可能なスマートシティを実現するためには企業や大学、研究機関といったプレイヤーの連携が不可欠だ。今回はスマートシティについて国内外の事例に数多く携わってきた亜細亜大学 都市創造学部の岡村久和教授に、スマートシティプロジェクトの成功条件や、われわれが持つべき視点について聞いた。
(カルーセル画像:mandegan / PIXTA<ピクスタ>)

“まちづくり実験”ではなく、“ビジネス”として捉える

本来、スマートシティという言葉が持つ意味はもっと広義で“より良い街”を志向してつくられるものである──。

そう語るのは、亜細亜大学 都市創造学部学部長を務める岡村久和教授だ。

経済産業省による「スマートコミュニティ」提唱にも携わった岡村教授。2017年にはWorld Listingsが選ぶスマートシティに最も影響ある世界の50人に選出されている

国土交通省政策研究所「国内外のスマートシティの同行」P.6

「2008年に経済産業省が提唱した“スマートコミュニティ”の立ち上げに私も携わりましたが、参加していた企業や機関がIT業界寄りだったこともあり、ITや都市OSを取り入れたまちづくりを進めようとしたのが、スマートシティの原点だと思います。ですが、海外におけるスマートシティというのはもっと意味が広い。例えば、日本が数多く行っている“駅前の再開発”も、世界から見ればスマートシティと言えます」

日本は第二次世界大戦後の復興事業として、都市インフラの整備に注力してきた背景がある。六本木ヒルズや渋谷駅前の再開発、東京スカイツリー(R)も都市開発の一環であり、「良い街をつくる」という意味でのスマートシティに含まれる。

「駅前の再開発も、より良い街をつくろうとする地元の自治体や企業、鉄道会社の思いの表れです。線路を通すだけでなく、エスカレーターや地下駐車場を造り、どんどん便利な施設にして、人々の生活を豊かにしていく。日本の土木技術を駆使した駅の再開発は、国際モデルとしても非常に評価が高いのです」

これらが世界から評価されるのは、人々の生活が豊かになっていくのみならず、ビジネスの文脈にしっかりと乗ってマネタイズできているからだという。スマートシティも一つのビジネスであり、企業がまちづくりを通して何らかの利益を得られたかが、スマートシティの先行きの明暗を分けるのだ。

テクノロジーにこだわるスマートシティはまずソリューションがあり、実証実験を経て実装やマネタイズを検討し始める。

一方で、駅前再開発や新たな都市開発に代表されるようなプロジェクトではあらかじめ目的が決まっていて、そこにプレイヤーが集まり、資金を投じてより良いソリューションを取り入れる。

ビジネスとして動かしやすいのはもちろん後者だ。だからこそ、テクノロジーを駆使したスマートシティを思い浮かべる一般の生活者にとって、日本のスマートシティはいまいちピンとこないのかもしれない。

「共創」が日本のスマートシティを成功に導く

とはいえ、テクノロジーを取り入れたまちづくりはカーボンニュートラルやSDGsの達成に欠かせない要素でもある。発生頻度が増している大規模災害への対策にも、強靭(きょうじん)な都市計画は必須だ。

「スマートシティを一つの産業と捉えるなら、ITに限らず防災・減災や環境保全にまつわるソリューションの開発に予算を投入して実証を進めるべきでしょう。スマートシティそのものというよりも、まずはソリューションを確立し、求めに応じてプロジェクトごとに取り入れていくという形がビジネスとしても回りやすいと思います。ですから、そうした実証実験やソリューション確立のための取り組みにも補助が出ると、研究も進みやすいのではないでしょうか」

東京都が推進する「スマート東京先行実施エリア」(都心部)の一つである竹芝エリアでは、2019年7月から東急不動産株式会社とソフトバンク株式会社が共創で最先端のテクノロジーを街全体で活用するスマートシティのモデルケースの構築に取り組んでいる

(C)mandegan / PIXTA(ピクスタ)

また、岡村教授はテクノロジーを取り入れたスマートシティプロジェクトの実現には、産官学の連携が欠かせないという。

「スマートシティをビジネスと捉えれば簡単なことです。例えばテレビを製造・販売したいと思っても、販売会社だけでは実現できません。先進技術を開発する理工系の大学や研究機関、高い製造技術を持った企業の協力が不可欠ですし、彼らがWin-Winになるような進め方をする必要がありますよね。同じように、スマートシティの場合にも資金を持っている大企業や開発のための土地を管理している自治体、ソリューションやそのシーズ(素材)を持っている企業、研究機関、該当する地域の都市開発に詳しい大学などが連携して進めていく形づくりが肝要です。みんなで助け合いながら事業を成し遂げてきた日本の組織の特徴であり、強みともいえるでしょう」

これはかつて財閥が存在した日本ならではの連携の形であるとも言う。あらゆる産業が横断的に介在し、全員で一つの事業を推し進めていくスタイルは、専門分野に特化した企業体がほとんどの欧米などでは得がたいのだ。

未開発の土地が残っていない日本では、人が住んでいる地域を再開発するスマートシティプロジェクトが必然的に多くなる。自治体をはじめ、そこに拠点を置く企業や教育機関など、さまざまな組織が連携してのプロジェクトは、今後の日本のスマートシティの潮流となるだろう。

また、日本のスマートシティが海外で受け入れられている理由の一つには、「その土地を主体とした開発が挙げられる」と岡村教授は語る。

スマートシティに積極的に取り組んでいるアジア諸国では日本や韓国、中国、欧米諸国の企業が参入している。

日本は英語や現地語などコミュニケーションの点で後れをとってしまいがちだが、現地の人のために街をつくるという点では非常に評価が高いという。

例えばインドネシアでは、人口過多のジャカルタからの分散を目的とした周辺地域の開発が計画され、中国や韓国の企業、そして日本の企業がそれぞれ街をつくっている。

インドネシア・ジャカルタから郊外へと延びる高速道路と、それに伴って計画された都市群

「おのおのの目的がよく表れている事例で、中国がつくったのは高層マンションが居並ぶ街です。もちろん居住権を買った人は現地富裕層や中国人などで、投資目的がほとんどでした。日本はというと、デベロッパーやゼネコン、鉄道会社、電力会社らが協力して、日本式の鉄道や地下鉄、警察・消防機能や都市インフラを現地に持ち込み、日本のように成熟した住み心地のまちづくりに、現地の方々を雇用しながら取り組んでいます。日本への憧れが強く、見た目は日本の住宅と全く同じで、内装は気候が異なることから現地仕様の住宅が建てられるなど、実際に住む人を呼び込むという考えの下にプロジェクトを動かしているため、現地にも受け入れられやすいのです。そして韓国は、ビジネスのために日本企業を誘致して収益を得たり、不動産業を興すなどして利益を上げたりしています」

地方都市にこそ秘めるスマートシティ実現の可能性

再開発を含めたスマートシティの可能性は、地方自治体にこそ大きく開かれている。

岡村教授が実際に経験したもので、駅前のシャッター商店街問題に取り組んだ事例がある。

通勤に車を使う人が増え、さらに駅から1kmほどの距離に大きなショッピングモールができ、利用客を奪われてしまったため駅前が寂れてしまう。こうした光景は、地方都市にはよくある構図かもしれない。

「ところが、実際に見に行ってみると朝夕の駅前ロータリーは通学のために駅を利用する高校生と、その送迎をする保護者の車でびっしりでした。駐停車ができないため、特に夕方の時間帯にはわが子を待つ車の列が駅前をグルグルと巡回しているような状況です。この保護者が利用しやすいように駐車スペースを整備したり、車に乗ったまま利用できるドライブスルー式の飲食店、朝夕の来店が可能なクリーニング店をつくったりするなど、いろいろな打ち手があると感じました」

地域課題の解決へとつながるヒントもスマートシティにあるというのが岡村教授の持論だ

地域住民にとって、利便性が高く暮らしやすい街であること──。

スマートシティの本質を思い出させるような事例だ。

「スマートシティをつくるためには、生活者のニーズが満たされることが必要条件です。何に不満なのか、街にどうなってほしいのか。テクノロジー文脈に無理に寄せなくてもいいので、『こんなものが欲しい』と市民が声を上げていくことが大切だと感じます。

生活者と同様に、スマートシティプロジェクトへの参入を検討する企業も無理にITやロボットを取り入れた事業や新製品を新しく作る必要はありません。日本のプロダクトには世界標準を超える品質のものも多いのだから、自信のある本業でしっかりとアピールしてほしい」と語る岡村教授。

地域住民の悩みや要望といった“声”に耳を傾け、そのソリューションを組み込みながらまちづくりを目指すスマートシティ。

多種多様な企業や機関、行政が手を取り合い、お互いに価値提供しながら「より良い街」へと向かって進んでいくことこそが、理想的なスマートシティプロジェクトに必要な姿勢なのだと感じられた。

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