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社会を変える「ChatGPT」の可能性

重要なのはコミュニケーション能力? 「ChatGPT」はビジネスシーンの革命児となり得るか

活かせるか否かは使う側の姿勢が問われる

第1回・第2回では、「ChatGPT」の仕組みや可能性、リスクについて考えてきたが、では実際にどのような場面での活用が考えられるのだろうか。特に期待されるビジネスシーンでの具体的な使い方とは。その可能性について、慶應義塾大学理工学部管理工学科の栗原聡教授に話を聞いた。

業務効率化とクリエーティブを後押し

栗原教授によると、ChatGPTのビジネスでの活用は2つの方向で進むのではないかという。一つは他の人工知能(AI)やITツール同様、業務の効率化だ。

「ChatGPTは大量の文章を一気に読み込み、それを要約したり箇条書きにしたり、表にすることもできます。例えば200人分の文章を読み込ませ、論点を整理するといったことも可能です。かなり精度が高いので、全部の文章を詳細に読まずして、その内容を把握することができるのです。2023年3月に公開された有料版『GPT-4』では、一度に2万5000字くらいまで入力できるようになりました」

大量の情報を短時間で処理することでの作業の大幅な効率化に加えて、ChatGPTに期待したいのは、もう一つの活用法だと栗原教授は言う。それはゼロから1を創る「創造的作業」の支援だ。

「イノベーションには2種類あり、一つは世の中に既にあるものを組み合わせることで新しいものを創り出すことイノベーション。もう一つは『発見』によって生まれるイノベーションです。IPS細胞などは発見から生まれたイノベーションでありますが、偶然や失敗から生まれることが大半で、ゼロから何かを生み出すことは容易ではなく、ビジネスにとってはそもそも前者でのイノベーションが重要です。ChatGPTの特徴は流ちょうに文章を生み出すことですが、そのためには膨大な文書を学習しなければならず、結果として、大量の知識がインプットされています。全人類の知識とはまだまだ言い過ぎかもしれませんが、辞書からプログラミングまで、あらゆるジャンルの文書を読み込んでいます。

自分が知りたいことや実現したいことを示すと、その膨大な情報の中から質問に合った答えを提示してくれる。つまり、自分の頭の中にある一次情報をChatGPTに問いかけることで、ヒントとなる新しい視点短時間で大量に答えてくれるのです」


メディアプラットフォーム『note』では、チャットAI『GPT-3』を活用した創作支援ツール『note AIアシスタント(β)』を公開し、「書きたいテーマから構成案を提示する」機能など、クリエーターの創造性を拡張するツールとして活用している。

自分では気付かなかったことをChatGPTが示してくれる。それが新しいアイデアにつながるのだ。

「多くの人がブレスト(ブレインストーミング)で行き詰まった経験があると思いますが、その中にChatGPTをブレストメンバーの一人として入れ込むのが、最も効果的な使い方だと考えています。人間は1対1だと会話が途切れることがありますが、3人だと会話は比較的長続きします。その3人目をChatGPTが担うのです」

必要なのはITスキルではなく、コミュニケーション能力

企業や自治体の間でChatGPTを導入する動きがあるが、日本は新しい技術に対して慎重であり、コロナ禍を経てもDX(デジタルトランスフォーメーション)が思うように進まなかった苦い経験がある。ところがChatGPTについては、企業から違った反応があるようだ。

「ある企業の方がおっしゃっていたのですが、10年くらい前だと、現場の社員がディープラーニングなどの新しいテクノロジーに取り組んでいても、これまでのAIは専門性が高く、やっていることが漠然としているので、マネジメント層が理解してくれなかったそうです。一方、ChatGPTは分かりやすいツールであり、今や誰もが知っています。機能や使う目的がはっきりしているので一般消費者でも使用できる汎用性があり、より身近になったことでマネジメント層からの理解を得られやすいそうです」

人工知能、複雑ネットワーク、創発メカニズム、汎用・自律型人工知能の研究を専門とする栗原聡教授

昨今のブームにより、ChatGPTはあっという間に社会に広く浸透する可能性がある。ただし注意しなければならないのは、ChatGPTが「無」からアイデアを提供してくれるわけではないということだ。その使命はあくまでも流ちょうな対話であり、人間側がどう問いかけるかがカギになる。そのためには、状況や目的を明確にする必要があると栗原教授は言う。

「『AIの民主化』といわれるように、ChatGPTは誰もが利用できる最先端ツールであることは間違いありません。しかしアイデアを求めようと思っても、一言、二言を指示するだけでは期待する答えが返ってきません。そこで必要とされるのが『プロンプトエンジニアリング』、つまり的確な指示なのです」

ITリテラシーが高ければそれをできるというわけではない。文章力がなければ意図する文章を入力できないし、対話が成立しない。対話型AIは人間くさいものだと、栗原教授は強調する。

「“的確な指示”とは、言い換えればコミュニケーションです。自分の考えや意図を伝えたり、相手から何かを聞き出したりといったことを的確にやりとりするのがコミュニケーションです。その能力があれば、ChatGPTを使いこなせるのです。

従来のAIツールは、マーケットを分析するなど用途が限定されていたので、使い方さえ分かれば利用できましたが、汎用性が高くなればなるほど、ユーザーへの要求が高くなります。研究や仕事でのプロジェクトにおいては、メンバー同士のコミュニケーションがうまくできないとプロジェクトの円滑な進行はできません。お互いがお互いの考えを正確に伝えることは意外と難しいものですよね」

栗原教授によると、それは現代人にとって簡単なことではないという。テクノロジーに囲まれて生きている人ほど、コミュニケーション能力が退化してしまっているからだ。

「インターネットの世界では匿名での情報発信が可能で、付き合いたくない人間とは付き合わずに済ませることができます。実環境で生きる普通の生き物は苦楽が必ず同居し、その中で多様性や共感性を育んできたのですが、人間はテクノロジーのおかげで、苦の部分をパスできるようになりました。周りには自分と同じような意見の人たちがいるケースが多く、多様性がなくなり、同じような発言ばかりをしています。すると的確な状況判断や考えることが苦手になり、ChatGPTに効果的な指示ができなくなってしまうことになります」

求められる消費電力の低減

ChatGPTにはこうしたユーザー側の問題に限らず、情報の正確性やプライバシーなど課題も多い。中でも喫緊の課題は、電力が大量に使われることだ。スタンフォード大学の報告書によると、「GPT-3」の学習に使われた電力は1287MWhで、4つの生成AIを比較すると、消費電力がダントツの1位だった。

AIモデルの選択による環境負荷 2022年版。米国スタンフォード大学のレポートによると、2022年における4つのAIモデル(GPT-3、Gopher、OPT、BLOOM)の環境負荷の比較では、GPT-3の電力消費量は1287MWhとありトップの数字を示している

出典:2023 AI Index Report(Stanford University)

AIモデルと実例によるCO2排出量推定値(単位:トン)炭素排出量の比較では、GPT-3は502tに上り、Gopherの1.4倍、OPTの7.2倍、BLOOMの20.1倍と、最も多くの炭素を排出している

2023 AI Index Report(Stanford University)

仮想通貨のマイニングに大量の電力が必要とされることが問題になっているが、ChatGPT に代表されるAIが入力データを学習して結果を導き出す「機械学習モデル」は、それに匹敵するほどの電力を使用するともいわれる。ChatGPTの活用が進むことで、消費電力はますます増加しそうだが、解決の手立てはあるのだろうか。


こうした消費電力の効率化だけでなく、スペックを下げることも一考だと栗原教授は提言する。

「何を聞いても答えてくれるような汎用性のあるスペックは、クリエーティブな用途では必要ですが、全てのビジネスにおいて必要なわけではありません。例えば企業がチャットボットに利用する場合、その企業の商品やサービス以外のことを聞かれることは普通ないので、用途限定型があってもいいはずです。そうすれば、消費電力はかなり減らせます」

ChatGPTの本格的な普及はこれからであり、今後のさらなる進化が期待される。それに対し、使う人間側はどう対峙していくべきなのか。

「ChatGPTは、従来のような単に技術を使いこなすツールとは随分異なる様相を呈してきました。AIとは結局のところ、人工的な知能をつくる学問です。人工知能の完成度が向上することは裏を返すと、人間とは何かが分かってくるということです。

一方、我々は我々が生み出すテクノロジーにより、思考の仕方が良くも悪くも変化しつつあります。人間としてどういうふうに振る舞うことで、テクノロジーと付き合っていくことができるのか。つまり、使う側の姿勢が問われているのです。ChatGPTの活用が進むことで人間の考える力を退化させないためにも、ユーザー側はもっと考える力を鍛えなければならないのではないでしょうか」

ChatGPTには、誤情報や個人情報・機密情報の漏洩など、現時点での課題は少なくない。しかし、ChatGPTは作業時間を大幅に短縮し、人間が他のことに使う時間を増やしてくれたり、イノベーションを支援してくれたりするなど、可能性に満ちたツールだと言える。人類とChatGPTとの付き合いは、まだ始まったばかり。ChatGPTを活かせるか否かは、我々の今後の姿勢にかかっていそうだ。

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