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サーキュラーエコノミーの新たな潮流

2050年までにタイヤを100%持続可能に!ミシュランのコミットメント

全ての事業をサーキュラーエコノミーにつなげる

グローバルで進むカーボンニュートラル達成に向けて、循環的な経済(サーキュラーエコノミー)を確立させようとする動きが活発化している中、大企業はどう取り組んでいるのだろうか。その先進的な企業の一社が、フランスのミシュランだ。日本ミシュランタイヤ株式会社(以下、ミシュラン)の広報マネージャー・小林史礼氏に、ミシュランのグローバルでの取り組みについて話を聞いた。

サステナブル素材を45%使用したタイヤを発表

フランスを代表する企業であるミシュランは、2020年に同国で「循環経済法」が施行される以前からサーキュラーエコノミーの促進に取り組んできた。2017年に発表した「VISIONコンセプト」では、環境を考慮した次世代タイヤのコンセプトを表明。「100%持続可能材料」「エアレス」「3Dプリンティング技術」「コネクテッド」の4つを打ち出した。日本ミシュランタイヤの広報マネージャー・小林史礼氏が説明する。

「100%持続可能な材料で作られる、パンクすることのないエアレスタイヤです。3Dプリンターで路面に接する部分をプリントし、付け替えを可能にすることで、少ない資源でタイヤを長く利用できます。また、クルマとドライバーがつながるコネクテッド機能もタイヤに内包される。この4つのコンセプトが将来あるべきタイヤの姿であることを示したのです」

ミシュランは、2017年「Movin’Onグローバルサミット」で「VISIONコンセプト」を発表した。エアレス、コネクテッド、3Dプリンティングの活用、100%持続可能原料を使用したタイヤの実現を推進している

写真提供:日本ミシュランタイヤ

このコンセプトを具現化すべく、2021年には具体的な目標を発表。「2050年までにタイヤを100%持続可能にする」ことを打ち出した。

日本ミシュランタイヤ 広報マネージャーの小林史礼氏

「ミシュランは『With Tire(タイヤと共に)』『around Tire(タイヤ関連で)』『Beyond Tire(タイヤを超越して)』の3分野で事業を展開していますが、これは『With Tire』に関するコミットメントです。グループとして『Everything will be sustainable(全てを持続可能に)』が基本原則となっており、その対象は使用原料から設計、輸送、生産、使用中、使用後にも及びます」

さらにはその目標を実現すべく、2030年までの戦略も発表。タイヤの持続可能な原材料比率を40%に設定した。この戦略は、タイヤの原材料にとどまらない。

「『人(People)・地球(Planet)・利益(Profit)』の観点から細かな指標を設けています。例えば製造・エネルギー利用は2010年比で50%の削減を目指していますし、社員のダイバーシティやインクルージョンを推進したり、事故率を引き下げたりと、持続可能を実現するためのあらゆる要素を含んでいるのです」

計画は順調に進んでおり、2022年にはサステナブル素材を45%保有する乗用車用タイヤと、58%保有するバス用タイヤを公道走行可能な仕様で発表した。天然ゴムの割合を増やし、再生カーボンブラック、ヒマワリ油やバイオ由来樹脂、もみ殻性シリカ、再生スチールを使用することで、サステナブル素材の含有率向上を実現した。200種類以上もの原料を必要とするタイヤにおいて、それは容易ではないと小林氏は強調する。

「実は“サステナブル素材100%”でタイヤを製造することは、すぐにでもできます。しかし、ぬれた路面で止まる、何万km走っても性能が続くなどといった本来あるべき現在のタイヤ性能は損なわれてしまいます。それにサステナブルな製造を実現するためには、世界のどの工場でも材料を安定的かつ継続的に調達できる必要があります。従来の性能や汎用性を維持しながら、サステナブル素材の使用率を高めていかなければならないのです」

この発表でミシュランは、公道で走行できることにこだわった。つまり、単なるコンセプトではなく、量産が近いことを示したのだ。

オープンイノベーションでリサイクル素材を開発

自動車は世界中で電動化やハイブリッド化が進み、車両重量は増える傾向にある。それがタイヤ設計の課題となっていると小林氏は指摘する。

「同じ規格で比較すると、重量が10%増えると、タイヤの摩耗は10%大きくなります。早く摩耗してしまうので、クルマが電動化することでもっと多くのタイヤを作らなければならないという、矛盾が生じてしまいます。その課題に対応するためには耐磨耗性を向上させなければならない一方で、グリップ力などの諸性能は維持しなければならない。そのバランスを取り、なおかつ環境性能も上げなければならないのです」

こうした課題を克服する姿勢は、創業時からミシュランには文化として備わっている。

「ミシュランは130年以上にわたり、自動車ユーザーをはじめ、社会が置かれた現状やそこにある課題と将来を見越し、活動しています。イノベーションを社会的責任と企業成長の原動力にしてきたのです」

タイヤの持続可能な原材料比率をさらに引き上げるには、再生素材の開発が必要だが、同社は自社での開発だけでなく、オープンイノベーションも積極的に取り入れている。

ミシュランは、カナダの「パイロウェーブ」をはじめ、各国のスタートアップ企業と提携し、持続可能な材料の開発を推進している

資料提供:日本ミシュランタイヤ

2020年には、カナダのスタートアップ「パイロウェーブ」と提携。それにより、廃ポリスチレンからリサイクルスチレンを製造することが可能になる。スチレンは、ポリスチレンだけでなく合成ゴムの製造にも使用される物質で、提携により年間数万tのポリスチレン廃棄物を、元の製品やタイヤにリサイクルすることを目指す。

2021年にはフランスのスタートアップ「キャルビオ」との提携により、酵素を使いペットボトルを元の純粋なモノマーに分解することに成功した。リサイクルされる素材には、タイヤ製造に使用するポリエステルが含まれ、年間約40億本のペットボトルがタイヤ製品にリサイクルされる可能性が見込まれる。

2023年には、スウェーデンの「スカンジナビア エンバイロ システムズ」らとタイヤリサイクル事業を推進する合弁会社を設立した。同社は、使用済みタイヤからカーボンブラックと熱分解油などの良質な原材料を抽出する特許技術を保有している。

スウェーデンのウッデバラ市に欧州初のタイヤリサイクルプラントを建設し、2025年までにフル稼働する予定だ。2030年までに、年間最大100万tの廃タイヤのリサイクルを目指す。これは欧州で毎年廃棄されるタイヤの3分の1に相当するという。ミシュランはリサイクルプラントに使用済みタイヤを提供し、廃タイヤから回収したカーボンブラックと熱分解油の供給を受ける相互供与契約を締結している。

「製品に使用される材料のみサステナブルであればいいというのではなく、ライフサイクルアセスメント(LCA)を重視しています。タイヤの“誕生”から“墓場”に至るまで、一貫してサステナブルを追求しているのです」

全ての事業がサーキュラーエコノミーにつながる

ミシュランはタイヤの製造だけでなく、そこで培った高分子複合材料の技術を生かし、建設、航空、低炭素エネルギー、ヘルスケアなどさまざまな産業分野に素材や部材を供給している。また、厳選したレストランやホテルを紹介する『ミシュランガイド』で知られる情報サービス事業も展開している。これらが先述の「around Tire」と「Beyond Tire」に当たる。

一例を挙げると、2023年には、欧米自動車大手の「ステランティス」との合弁でフランス、サン・フォンに欧州最大の水素燃料電池工場を建設した。現在の燃料電池システムの生産能力は年間1万6000台だが、2026年までに5万台に増産する計画だ。

また日本では、タイヤ由来の再生ゴム粉末を自動車以外の産業に供給している。今年から木本ゴム工業(東京都港区)に採用され、「リサイクルカーストッパー」の原料に使用されている。

日本ミシュランタイヤは群馬県太田市にR&D(研究開発)拠点を有し、サステナブル性能を付加したタイヤや素材の研究開発を行っている。2023年には本社を当地に移転し、産官学連携を図りながらさらなる価値創造を進めていくことを目指している。

さらに意外なところでは、『ミシュランガイド』もサステナブルを取り入れている。

「2021年から、食品ロスを出さない、地域の食材やサステナブルな材料を使っているなどの項目に該当する飲食店には『グリーンスター』を付与し、消費者に対してアピールをしています」

ミシュランでは、全ての事業がサーキュラーエコノミーにつながっているのだ。

「タイヤに限らず、地域や国、事業分野や事業ドメインを超えて、我々の活動領域は全て横串でサステナブルに準じています。ミシュラングループはタイヤの枠を超え、より豊かな『Better life in motion』を実現するため、2050年までに『人類の新フロンティア開拓を助けた重要なイノベーションリーダー』として認識されることを目指しています」

あらゆる事業において、循環させ、持続させるミシュランの志は、極めて高い。この徹底ぶりは、日本企業も見習うべきかもしれない。

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