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2024.09.26
水素とエネルギーへの関心を高める、校外施設の企画と工夫
「水素情報館 東京スイソミル」で、子どもたちが考えるエネルギーの未来
エネルギー教育は、教える側にエネルギーの専門知識とその理解が求められ、企業や団体のサポートが不可欠だ。その方法として「出前授業」のほか、エネルギーの専門・最先端情報施設での「校外学習」も有効である。今回は近年実用が広がるエネルギーとしての「水素」を学ぶことができる学習施設「水素情報館 東京スイソミル」の佐藤宣行氏に話を聞く。
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目に見えない水素を感じてもらう施設
水素は、燃焼時に二酸化炭素が発生しないため、カーボンニュートラル社会の実現に重要な役割を担うエネルギーである。また、水素は、水に電気を通す水電解で製造でき、貯蔵・輸送も容易なため、昨今は、太陽光などの再生可能エネルギーで製造した「グリーン水素」の実用化に取り組む地域や企業が増えている。
東京都では、2050年のカーボンニュートラル社会の実現、エネルギーの安定供給実現を目指し水素エネルギーの普及を推進。「水素情報館 東京スイソミル」は、その一環として、2016年7月に江東区潮見に開館した。運営母体である公益財団法人 東京都環境公社SDGs推進室の佐藤宣行氏によると、開館の経緯は10年ほど前にさかのぼる。
「2014年の水素社会の実現に向けた東京戦略会議で、水素エネルギーの社会的受容性の向上が課題として持ち上がりました。水素は無色無臭で、小学校の理科の授業でも酸素や二酸化炭素に比べると、具体的な特性や役割は学べなかったのではないでしょうか。また、当時は、水素をエネルギーとして理解している方は、多くなかったと思います。『東京スイソミル』は、そんな水素の普及啓発の場、目に見えない水素を展示や体験を通して感じてもらう体験学習施設として開設されました」
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「東京スイソミル」展示スペース。エネルギー問題の現状から「なぜ水素が必要なのか」を知り、水素をつくる・ためる・はこぶ・つかうサプライチェーンの仕組み、水素の活用例などが分かる
画像提供:水素情報館 東京スイソミル
館内は壁面展示をはじめ、映像やタッチパネル、プロジェクションマッピング、実機展示、実験デモなどがある。1階は水素エネルギーの可能性を知る展示、2階は水素社会の将来像を示し、佐藤氏は「展示内容や説明は、小学校高学年や中学生にも分かるよう構成されています」と話す。
「『東京スイソミル』では、太陽光発電でグリーン水素を製造・蓄電する設備『水素蓄電エネルギーマネジメントシステム』を見ることができます。屋上の太陽光パネルで発電した電気で作られた水素は館内の水素タンクに貯留され、必要に応じて燃料電池で電気に変えて、館内の一部で使用しています」
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「東京スイソミル」に設置された水素蓄電エネルギーマネジメントシステム。水素タンクや燃料電池など水素の製造から発電といった一連の流れを通して、視覚的に学ぶことができる
画像提供:水素情報館 東京スイソミル
つくる・ためる・つかう体験で知る水素エネルギー
見えない水素を子どもたちにも知ってもらうために、「東京スイソミル」では展示に工夫を凝らしている。中でもユニークなのが、来場者が「水素をつくる」体験コーナーだ。
「自転車をこいで発電した電気で水素を作ることができます。作った水素は、シリンダーに蓄えられ、その水素を使って小型の燃料電池でプロペラやトンボのおもちゃを動かしてもらいます。自分で水素を作り、蓄え、使うことを体験することで『水素ってエネルギーなんだ!』と驚き、理解する子どもたちもいて、とても人気のコーナーです」
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「東京スイソミル」の体験コーナー。自転車をこぎ、体を動かすアクティブな体験と、水電解と発電による水素の見える化など、工夫の詰まった水素のサプライチェーンの実験展示だ
画像提供:水素情報館 東京スイソミル
他にも、今年は、夏休みなどは自由研究の相談会、燃料電池を実際に作ってラジコンカーを走らせるワークショップも実施。館内には、水素ステーションに設置されるディスペンサーで水素充てんの模擬体験ができる。
「実験などを通して、分かりやすく学んでもらえるよう意識しながら取り組んでいます。そうした取り組みを含めて、小学校の児童に校外学習で楽しく学んでいただくこともありますし、実は出前授業を依頼されるケースもあります」
こうした企画性のあるイベントや展示が口コミやSNSを通じて周知され、2023年度は年間で9,000人超が来場した。コロナ禍で落ち込んでいた来場者数も2024年はさらなる増加が見込まれる。
来場者の割合は大人が6割、子どもが4割で「水素を知りたい自治体、企業の方だけではなく、ご家族連れで来られる方も多いです」と佐藤氏は話す。校外学習で訪れる子どもたちも多く、都外の小学校からも問い合わせがあり、「修学旅行で来館くださる生徒もいます」とのこと。
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佐藤氏は「『東京スイソミル』で水素エネルギーを身近に感じてもらう企画を行うほか、出前授業で水素をシャボン玉に閉じ込める実験や水電解も行っています」と話す
「子どもたちの感想としては、やはり『水素がエネルギーだと知って驚きました』という内容が多いです。本当に『よく分からないけど、水の素になっている』くらいしか印象がなかったようで、発見にも似た驚きを持たれます。あとは、『グリーン水素がどうして環境に優しいのかを知り、改めて地球温暖化についても考えるようになった』という感想もありました」
こうして小学生のうちにエネルギーとしての水素を知ってもらえることが、「10年先の水素エネルギーの導入・利用、新たな活用を促すきっかけになるのでは」と佐藤氏はほほ笑む。
子どもも大人も同じ目線で学べる水素エネルギー
カーボンニュートラル社会の実現、未来を担うエネルギーとしての水素を学ぶことは、未来を生きる子どもたちにとって、とても大切なエネルギー教育だと言えるだろう。しかし現在、教育の現場でこれを指導するには限界があるのも事実だ。
「学ぶべきことが詰め込まれた小学校の限られた時間の中で、深掘りすることは難しいでしょう。スイソミルでの校外学習や出前授業を通して、気候変動や生物多様性など地球規模の課題を考えるきっかけとして、未来を担うエネルギーである水素についても知ってほしいと思います」
そして、エネルギーとしての水素を理解することは、水素が水を形成する元素であることくらいの理解でとどまっていた親世代、大人にとっても“学び”としてとても重要である。
「水素がエネルギーとして活用できることを、私自身も『東京スイソミル』に携わるまで理解できていませんでした。実際、親子連れで訪れた方々は、お子さんも親御さんも同じように驚かれ、同じ目線で説明を聞いていたりします。校外学習など学校として学ぶだけでなく、お出かけで家族一緒に学ぶのも楽しいかもしれません」
未来を生きる子どもたちが楽しくエネルギーを学ぶ機会に、大人が加わっても何も問題はない。
環境や世代の枠を超えて、エネルギー教育は子どもたちにも、そして私たち大人にも必要なのかもしれない。
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