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データセンター浸透で加速する ワット・ビット連携

電力の逼迫と余剰、ギャップを埋める「ワット・ビット連携」とは

三菱総合研究所(MRI)フェローに聞く概念と可能性

生成AIの利用普及によりデータセンター(以下、DC)の電力消費が世界的に増加。日本でも都市部における電力の逼迫(ひっぱく)とその他の地域における電力の余剰が生じている。そのミスマッチを解消するアプローチとして「ワット・ビット連携」に注目が集まっている。本特集第1週は、同構想を提唱する株式会社三菱総合研究所(MRI)政策・経済センター フェローの西角直樹(にしかど なおき)氏に、ワット・ビット連携を取り巻く最新状況を聞いた。
(<C>メーン画像:metamorworksおよびカルーセル画像:jessie / PIXTA<ピクスタ>)

データセンター新増設は最長10年待ち? 集中する電力需要

送配電会社の系統増強工事がDCの新設・増設需要の増加に追いつかず、東京では最長で10年待ちの事業者もいるという。DCは大量の電力を消費するため、電力ネットワークへの接続制約が顕在化している。

日本国内におけるデータセンターサービス市場規模(売上高)の推移と予測

出典:IDC Japan, 2024年10月 「国内データセンターサービス市場予測、2024年~2028年」(JPJ51508524)

この状況について、西角氏は「DCの需要が増えて拡大することは、日本のデジタル化が進み国際競争力の強化につながります」と話す一方で、次の問題を明示する。

「問題はDCが東京圏や大阪圏に過度に集中している点です。DCが局地的に集積すると電力需要も集中し、電力ネットワークへの接続制約が生じます。現在、東京圏でその状況が顕在化しています。一方、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が進む地域では、時間帯や季節によって電力の供給余剰が生じ、出力制御が行われています。こうした地域では余剰電力の有効活用先としてDCが期待されます。ただ、実際の投資は東京圏や大阪圏に集中しており、このミスマッチが大きな課題となっています」

状況の打開策として、地域で発電した電力を大都市圏へ送電する考え方もある。実際に、電力広域的運営推進機関(OCCTO)はマスタープランにおいて、数兆円規模の投資による地域間連系線の増強を検討している。しかし、西角氏は異なる方向性を提示する。

「送電容量を拡大して電力(ワット)を都市部に集中させるには、巨額のコストが必要になります。したがって日本全体にとって最適なのかは慎重な議論が必要です。情報通信インフラ(ビット)を電力のある場所に近づける『ワット・ビット連携』という考え方もあります。ビットの需要は、空間的・時間的に柔軟に配置できるという特性があるため、全体最適の観点からも有効なアプローチだと考えています」

ただし、DCを都市部以外の地域に立地させる場合、事業者は通信の遅延という課題に直面する。

「大企業の多くは東京や大阪に本社を置いており、日本の主要なインターネット接続拠点であるインターネットエクスチェンジ(以下、IX)も東京・大阪に集積しています。そのため、DCが都市部に集中しやすい構造があります。さらに、海外接続の拠点となる海底ケーブルの陸揚げ局も首都圏や関西圏に多く、郊外の地域にDCを設置すると通信遅延が増大する懸念があります。ただし近年は、超高速・低遅延を実現するオール光ネットワークの研究開発が進んでおり、こうした課題は将来的に緩和される可能性があります」

ワット・ビット連携実現に向けた課題のイメージ

資料提供:株式会社三菱総合研究所(MRI)

政府もIXや海底ケーブルの接続拠点が特定地域に集中することについて、レジリエンスの観点からリスクがあるとして、地域分散の必要性を示している。しかし、IXは利用者が一定規模に達しなければビジネスとして成立しにくく、単純な分散だけでは経済合理性を確保できない。ワット・ビット連携においても、この点は重要な課題だ。

「通信の遅延の問題が解消すれば全てが解決するわけではありません。DC事業者は立地選定において、まず大規模な需要が見込める経済圏を重視します。そのため、郊外地域はデメリットの解消だけでなく、DCを誘致するための新たなメリットを提示する必要があります」

再エネの変動性に対応、ワークロードシフトの可能性

ワット・ビット連携が進展し、都市部以外の地域の余剰電力を有効活用できれば、東京圏や大阪圏における送電網の系統混雑の緩和が期待される。また、再エネや原子力発電といったカーボンニュートラル(以下、CN)電源の活用促進の観点からも意義は大きい。

一方で、再エネは時間帯や季節によって発電量が大きく変動する課題を抱えている。この変動性への対応について、西角氏は2つの方向性を挙げる。

「一つは蓄電池の活用です。再エネの発電量が少ない時間帯には蓄電池にためた電力で補うことで、安定供給を図ることができます。ただし、コスト面などの課題から、再エネと蓄電池の組み合わせは日本のみならず海外でも普及に時間を要しています。もっとも、近年は系統用蓄電池のコスト低下が著しく、以前に比べて実現の可能性は高まっています」

もう一つは、ワークロードシフト(以下、WLS)という考え方である。

西角氏は「スーパーコンピューターなどHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)の分野では既にWLSの運用が行われています」と話す。

「自動車の空力シミュレーションなどで実際に活用されています。暗号資産のマイニングも電力が安価で余剰のある地域に処理が集まる点で、電力側の条件にビットが適応している例といえます。これらは計算結果の即時性が求められないため、地理的・時間的な制約を比較的受けにくいという特徴があります」

一部の領域では実践されているものの、生成AIの推論処理やスマホ向けサービスのバックエンド処理など、WLSの一般的なサービスへの適用は依然として容易ではない。

「現在は各所でWLSの導入・実用へ実証実験が進められています。生成AIの学習処理は時間や場所の制約を受けにくく、WLSとの親和性が高い領域です」(西角氏)

「例えば、Googleは自社で大規模な計算資源を保有する強みを生かし、再エネの発電状況に応じて処理を最適化する取り組みを進めています。YouTubeの動画処理などに代表されるような、バックグラウンドで行われる処理についても、再エネの供給状況に応じた運用が施行されています」

日本では「第7次エネルギー基本計画」において、2040年度に再エネ比率を4~5割程度まで引き上げる方針が示されている。目標の実現に向けても、ワット・ビット連携の重要性は高まると考えられる。

再エネ活用を前提としたDCが郊外に分散して整備されれば、再エネ事業者にとっても投資回収の見通しが立ちやすくなり、導入拡大の後押しとなる可能性がある。また「DCの立地は地域経済にも一定の波及効果をもたらす可能性がある」と、西角氏は指摘する。

「DCは半導体工場のように大規模な雇用を直接生み出すわけではありませんが、デジタルインフラとして地域の高度化を支える基盤にはなり得ます。例えば、DCの計算資源を活用し、製造業や農業、さらにはAIやロボティクスの活用を通じて地域産業の高度化を図ることが考えられます。こうした視点での価値創出が、DCの郊外地域誘致において重要になってくるでしょう」

ワット・ビット連携、発展への3ステップ

MRIはワット・ビット連携の実現に向け、2040年ごろを目標に3段階の発展シナリオを提唱。大規模なDC集積拠点を整備する「ワット・ビット1.0」、電力と通信の連携によって運用の最適化を図る「ワット・ビット2.0」、地域DCを活用した社会課題の解決や地域活性化、国力向上につなげる段階を「ワット・ビット3.0」と定義した。

ワット・ビット1.0については、政府が推進するGX(グリーントランスフォーメーション)関連施策の中でも、DCを核とした地域モデルの検討が進められている。CN電源とデジタルインフラを組み合わせ、GXと地域経済の両立を図る構想だ。

「GX戦略地域のデータセンター集積型では、将来的なギガワット級への拡張可能性が求められています。候補地は自治体などからの提案を基に選定が進められており、脱炭素電源の確保や大規模電力需要への対応力、災害リスクへの耐性、需要の見通しなどが評価のポイントになります。4月に有望地域(1次審査通過地域)の選定が終わり、夏ごろを目途に最終認定が行われる見込みです」

ワット・ビット1.0から3.0への展開と各ステップの課題イメージ

資料提供:株式会社三菱総合研究所(MRI)

次の段階であるワット・ビット2.0について、西角氏は次のように説明する。

「DCは建設するだけでは意味がなく、いかに活用するかが重要です。ワット・ビット2.0では、DCを有効活用するための運用の仕組みが鍵になります。巨大なDC集積地の稼働率を地元の需要だけで賄うのは現実的には難しいため、東京や大阪の需要を地域で処理できるような、WLSの仕組みが必要になります。こうした観点から、1.0と2.0は一体で考えるべきだと思慮します」

ワット・ビット3.0では、DCを起点とした地域活性化がテーマとなる。日本では少子高齢化に伴う労働人口の減少が進み、とりわけ首都圏以外では人手不足が深刻化している。こうした中で、AIやロボティクスを活用した産業の高度化は重要な選択肢となる。ワット・ビット連携はその基盤として期待されるが、留意すべき点もあると西角氏は指摘する。

「農業や観光などで、これまでアナログに生み出していた付加価値の一部がデジタル化によって創出されるようになると、価値がどこに帰属するかが重要になります。もし東京など地域外のデータ基盤を利用すれば、本来地域に残るはずの付加価値が外部に流出する可能性があります。

現在、日本ではデジタル赤字が課題となり、海外のハイパースケーラーに価値が流出していると指摘されていますが、同様の構造が地域レベルでも起こり得ます。そのため、地域にデジタル基盤を整備し、価値を地域内に還流させる仕組みの構築が重要です」

ワットとビットの関係を見直す動きは、まだ始まったばかり。

インフラ整備、運用の工夫を通じ電力と計算処理を柔軟に組み合わせ、地域に新たな価値を生み出す試みは、エネルギーとデジタルの在り方に一石を投じていく。

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