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次世代自動車が指し示す未来

より安全で快適な“自動車社会”を実現するために

自動運転に取り組む、三菱電機の最先端技術から見えた“クルマの未来”

第1・2回ではエコカーの現状と未来を取り上げたが、第3回では“自動運転技術の今”に着目する。この夏から秋にかけて、三菱電機が「自動運転」と「運転支援」の最新技術を披露するイベントを東急プラザ銀座にて開催中。そこでこれからの“自動運転社会”を実現するために不可欠な技術がオープンにされているという。早速、自動車ジャーナリスト川端由美さんと共に体験、解説してもらった。

国家レベルのプロジェクトを民間レベルにアウトプット

東急プラザ銀座に三菱電機が展開するイベントスクエア「METoA Ginza(メトア ギンザ)」がある。

ここで10月13日(金)まで開催しているのが、人を中心に据えたコミュニケーションをテーマに、同社のさまざまな先進技術を展示している「Feel the Communication in Ginza─心までつたえる、先進コミュニケーション技術」だ。

イベント会場には、三菱電機が設計・製造に携わった準天頂衛星の模型も展示されている

3フロアでさまざまなコミュニケーション技術が披露されているが、目指す展示は3階にある。「運転支援」と「自動運転」という、三菱電機が考える“クルマの未来像を指し示すもの”だ。

「われわれの製品・技術は、世界中の自動車メーカーに採用されています。主に電装部品やカー・ナビゲーション・システムなどを開発・製造・販売しております」

そう答えるのは、同社自動車機器事業本部 戦略事業推進部 広報グループのグループマネージャー・高橋拓哉さんだ。

三菱といえば確かに日本を代表する巨大企業グループだ。自動車はもちろん、航空機、宇宙機器、船舶からエネルギー事業まで、日本のありとあらゆる重工業を担うグループであり、物理的にも人的にも、さまざまな資産が集積している。

ドライバーはもちろん歩行者にも配慮

フロアに入ってまず目に飛び込んできたのは、コンセプトカー「EMIRAI3 xDAS(イーミライスリー エックスダス)」だ。

オープンカー・スタイルのボディーが印象的だが、ポイントはそこではない。三菱電機の考えるさまざまな運転支援技術が搭載されているのだが、注目は「路面ライティング」だ。

これは、ドライバーが行おうとする意思をアニメーションで路面に投影するもの。今回はその“ドライバーの意思”を背景のスクリーンに映し出し、それと連動してクルマの前や左の路面にアニメーションを表示している。

ドライバーが乗り込む際には、運転席下側に誘導するアニメーションが表示される。夜間などは安全に乗り込むことができそうだ

「クルマに乗り込んで走りだすシチュエーションや交差点の左折といった運転状況。それらの状況でドライバーが行おうとするアクションを、クルマが周囲に知らせるようになっています」(高橋さん)

通常、発進時や左折時はウインカーで意思表示をする。EMIRAI3 xDASは、その意思表示をより分かりやすく提示するものだ。

今回のイベントでは、以下の6つのコミュニケーションを表示している。

■車の動きを他者に伝える
1.車が動く方向を伝える(発信)
2.左折表示
3.ドアが開くことを事前に伝える
4.バックの軌跡を伝える
■歩行者にメッセージを伝える
1.譲り合い(歩行者に先に通行してもらうため)
2.感謝の気持ちを伝える

「事故の可能性が高い交差点では、このような路面ライティングで意思表示することは有効だと思います」と川端さん

この運転支援技術には三菱電機のどのような技術が生かされているのか、高橋さんに聞いてみた。

「総合電機メーカーの弊社は、自動車関連事業において約80年の歴史があります。グローバルで生産しているオルタネーター(発電機)やスターター等の電装品をはじめ、電動パワーステアリング用モーターやコントロールユニット、ハイブリッド用モーター、インバーター、そして情報通信技術をベースとしたカーナビやオーディオなどのカーマルチ製品があり、それらさまざまな技術を集約・応用して、このEMIRAI3 xDASにまとめているんです」

印象的だったのは、運転支援であると同時に、歩行者など周囲に対する配慮を強く意識しているシステムだということだ。

高橋さんは、その開発背景を次のように説明する。

「EMIRAI3 xDASは、“Feelings come true(想いを叶える)”をテーマに具体化されていきました。複数の液晶パネルをはり合わせた新開発のマルチボンディングディスプレイや、路面ライティングによって周囲への思いやりを具現化しているんです。そこにはドライバーへの気遣いだけでなく、クルマ社会全般に関する思いやりを含んでいます」

クルマのある社会が成熟していくためには、ドライバーはもちろん、歩行者も安心して過ごせなければならない。自動運転などの技術を開発していく上で、その視点を持つことは不可欠だ。

EMIRAI3 xDASには残念ながら試乗できないものの、左手奥のブースでVR体験することは可能

では、EMIRAI3 xDASが持つ技術を製品化するためには、どんな課題があるのだろうか。

「路面ライティングに関しては、一つには法律的な問題があります。現状でも停車中のシステムについては問題ありませんが、走行中のものは今後の課題と捉えています。

2つ目はアニメーションを映し出す上での課題です。現状のシステムでは、特に昼間の視認性が課題となっていますね」(高橋さん)

日本ならではの自動運転技術とは?

続いて体験したのは、自動運転技術だ。

第2回の記事でも明示したように、自動運転はSAE(米国自動車技術会)によって、6つのレベルに定義付けられている。

そのうち、レベル4以上を目指すときに不可欠な要素といわれているのが、高レベルでの位置情報把握だ。

自動運転を疑似体験。障害物(川端さんが手にしているもの)を置くと、コース上を走るクルマが自動的に避けていく

「もちろんその他にも、把握した位置情報を生かすための高精度な3Dマップ、それを生成するためのモービルマッピングシステム、高度なセンシング(情報の計測・数値化)技術、人工知能技術、通信技術など、いくつもの技術が必要です。ですが、そのベースとなるものが、日本が国家レベルで取り組む準天頂衛星による高精度なGPS情報なのです」(以下、高橋さん)

そもそも準天頂衛星とは何なのか?

「準天頂衛星『みちびき』は測位衛星であり、大きな役割としては、GPS補完とGPS補強の2つがあります。

GPS補完では、測位サービスの利用可能エリアの拡大や利用可能時間の増加が望めます。GPS補強では、測位精度のさらなる向上が望めます。

測位精度が良くなれば、カーナビの精度が良くなるだけでなく、まったく新たなサービスとして、工事や農業用トラクターの自動運転、クルマの安全運転支援や自動運転などに貢献できるようになります」

政府は2011年9月の閣議で「4機体制を整備し、将来的には7機体制を目指す」ことを決定。すでに打ち上げはスタートしており、2017年度中には4機体制ができ上がる予定だ。

川端さんは、「準天頂衛星を使ったシステムが整うことで、メートル単位だったGPSの精度がセンチメートル単位になるといわれています。メートル単位の誤差は、道路幅一本分になることも考えられますからね。例えば、交差点を曲がるときなどに大きな違いがでてきます」と、その実用化を期待する。

自動運転中の状況をVR体験する、EMIRAI3 xDASとは別のブースも用意されている

三菱電機では、すでに国内某所で自動運転車のテストドライブを実施しており、完成度は高まってきているようだ。

「準天頂衛星はすでに3機が打ち上げられ、試運転がスタートしています。そして2017年度中には4機になる予定です。われわれの技術もますます実用化に近づいています」(高橋さん)

今回、運転支援と自動運転について、日本の最先端技術の一つを体験した川端さんは言う。

「自動運転って、ドライバーはもちろん、歩行者も“怖い”と思うようではダメだと思うんです。たとえ実際に事故にならなかったとしても、そういう気持ちのまま使い続けることはできませんよね。それをクリアできる可能性が、準天頂衛星を使ったシステムにはあると思います」

もちろん、自動運転についても実現可能なシステムができたからといって、すぐに運用できるわけではないだろう。法律の問題やコストの問題、サービス料金など、普及するためにクリアしなければならないことは山積みだ。

しかし、その先にはこれまでのモータリゼーションとは違う未来が待っているはずだ。それは、決して遠い未来の話ではない。

<次回、最終第4回は2017年9月11日(月)配信予定>

2016年10月から自動運転の実証実験を行っている群馬大学 次世代モビリティ社会実装研究センター 小木津武樹副センター長に「自動運転研究の今」を聞き、目指すべき方向性を探る

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