1. TOP
  2. 特集
  3. 次世代自動車が指し示す未来
  4. 電気自動車の黒船“テスラ”は本当にすごいのか?
特集
次世代自動車が指し示す未来

電気自動車の黒船“テスラ”は本当にすごいのか?

年間約3万6000km!世界有数の実走行距離を誇るテスラ“ハイヤー”取材で真相に迫る

日常的に見かける機会が増えてきた電気自動車(Electric Vehicle/以下EV)。発売当初は、その走行距離の短さのせいか、なかなか普及は進まなかった。そこに突如として登場したのが、カタログでは500km走行可能とうたうアメリカ製「テスラ」だ。果たしてその実力やいかに?

今回は、大学院で工学を修め、海外のモーターショーや学会なども取材する国際派モータージャーナリスト・川端由美さんと共に、8台のテスラをハイヤーとして活用する日の丸リムジンを訪ねた。

目標は2020年までにEV100台を実現すること

テスラ モデルS 100D……632km
テスラ モデルX 100D……565km
BMW i3(94Ah)……390km
日産 リーフ(30kWh)……280km
日産 e-NV200ワゴン……190km
三菱i-MiEV X……172km

※すべて2017年カタログより
 燃料測定方法は、テスラ「NEDC(新欧州ドライビングサイクル)」、BMW・日産・三菱「JC08モード」にて算出

これらは、現在入手できる主なEVの2017年カタログに記載されている一充電あたりの航続距離だ。2010年に市販が開始された日産「リーフ」の初期モデルは、航続距離200km。それに比べれば、飛躍的に伸びている印象がある。

特にアメリカ製テスラの航続距離は驚異的。本当にこれだけ走ることができれば、どんなロングドライブでも十分に対応できるはずだ。

しかし、これは前述したようにあくまでカタログに記載されているデータ。実際に使用したとき、この通りの航続距離が出るかといえば、そうとは限らない。

そこで今回、毎日数十kmを走行するという、自動車の使用方法としては過酷な条件といえる“ハイヤー”としてテスラを導入している株式会社 日の丸リムジンを訪ね、その実態を聞いた。

日の丸リムジンの望月幸太さん(右奥)と、都内某ホテルのドライバーとしてテスラを担当する播磨美保子さん(右)、モータージャーナリストの川端由美さん(左)

「もともと当社には、環境に配慮した事業展開に取り組んでいこうという思いがあったんです」

テスラ導入の背景について語るのは、日の丸リムジン 丸の内営業所の望月幸太営業部長。

そして、その思いに同調するのは、モータージャーナリストの川端由美さんだ。

「日の丸リムジングループは、2003年8月から丸の内・大手町・有楽町地区、日本橋地区で日本で最初のハイブリッド型電気バスを運行させています。その他にも国土交通省と環境省が展開する『環境交通社会実験』に参画し、電気自動車タクシー『ゼロタクシー』を三菱i-MiEVで実践するなど、土台があったんだと思うんですよね」(川端さん)

「もちろん私たちはサービス業ですから、お客様に満足していただけるクルマであるかどうかを見極めなければなりません。テスラ導入前には当社代表がアメリカに出向き、試乗をしました。その上で、“ハイヤーとして使用できうるクルマだ”との確信を持てたからこそ、導入に至ったのです」(以下、望月さん)

そうして日の丸リムジンが最初にテスラを導入したのが、2015年1月。テスラの日本での販売開始が2014年9月だったことを思うと、その決断の早さに驚かされる。

「それまでの“ゼロタクシー”に対し、テスラは“ゼロリムジン”と名付けました。ゼロエミッション(排出ガスゼロと化石燃料使用ゼロ)という意味に加え、生活者目線で地域の自動車インフラをゼロから生み出していこうという意味を込めています」

現在、同社はタクシー2台、ハイヤー8台のテスラを所有する。

「当社としての目標は、2020年までにEVを100台規模に拡大。そのタイミングで海外からいらっしゃる皆さんに、当社としてできる限りの“おもてなし”をしたいと考えています」

1回の充電で安心して走れるのは300km程度

では、日の丸リムジンではテスラをどのようなルートで走らせているのだろうか。

「ハイヤーですので、主にご利用いただくのは企業の重役クラスや海外からのVIPとなります。ルートとしては都内と成田及び羽田空港の往復が多いですね」(望月さん)

播磨美保子さんは、そのドライバーの一人だ。

テスラ担当ドライバーの山﨑真介さん(左)と播磨さん

「ホテルを起点として、成田と羽田の両空港への走行がメーンですが、その他にもビジネス利用で都内を回ったり、時には観光で鎌倉あたりまで出かけたりすることもあります。さらに遠く…例えば箱根まで行くとなると、充電ポイントを把握しておく必要がありますね」(以下、播磨さん)

ここで注目すべきコメントが出てきた。1回の充電で東京と成田国際空港間は往復できても、箱根の往復は不安だということだ。

「80%充電から出発するのですが、箱根間の往復のように300km程度を超えるとなると慎重になりますね(使用車は2014年生産のテスラ モデルS<85kWh>で、一充電あたりの航続距離は502km<NEDC>のもの)。私たちはお客様を乗せているので、電気を使い切るまで走ることはできません。最終目的地に到着したときに20%程度は電気が残るようにしていますので」

プロのハイヤー・ドライバーとして当然の配慮だ。

「でも、難しいですよね。単純に距離だけでは分かりませんから。スピードの出し方やエアコンの使い方でもバッテリーの減り方は変わってくる。それに加えて個人利用では考えなくてもいい、お客様への配慮が加わってくるわけですから」(川端さん)

では、利用者の反応はどうかと播磨さんに聞くと、「走行中は快適だと思います。加速するとき、スーッと走っている感覚で乗り心地がいいですから」という。

その理由について、川端さんは「モーターの場合は加速がシームレスだから、エンジンのように回転が上がっていく感覚がないんです。その分印象が穏やかになると思います」と解説してくれた。

一方、EVならではのデメリットがあることも否めない。

それはサスペンションの硬さだ。日の丸リムジンのテスラは車両重量が2トンほど。これはかなり重量級のクルマといえる。しかし、ガソリン車にはない重量物のバッテリーを搭載する以上、避けられないことでもある。その重さを支えるためにサスペンションを硬くせざるをえないのだ。

「その硬さゆえ、ちょっとした段差を越えるときでもショックがあって、お客様から“バンピーだね(車が跳ね上がるさま)”と指摘されることもあります」(以下、播磨さん)

しかし、気になるデメリットはそのくらい。そのため最近では“テスラがいい”と指名も増えているという。

「これまでのクルマとは違う魅力があり、それに反応するお客様もいらっしゃるんだと思います。例えば、音楽の楽しみ方。Bluetoothでお客様のスマートフォンと簡単に接続できるので、都内から成田国際空港までの間、お好きな音楽を楽しんでいただくこともできますしね」

テスラに備わる17インチのタッチスクリーンパネル。カーナビはもちろん、さまざまな機能をここでコントロールすることができる

利用者も会社もリーズナブルなテスラ

最近、テスラの利用者が増えているというが、その背景にはハイヤー・タクシーの運用制度から生まれるユーザーメリットもあった。

「テスラって、同クラスのガソリン車より利用料が安いんですよ」(以下、望月さん)

ハイヤー・タクシー会社は国土交通省に事業申請を行い、認可されることで営業している。当然、その中には利用料に対する規定もある。

「ハイヤーは排気量によって利用料が決まるんです。…お分かりになりますでしょうか? テスラは排気量ゼロですよね。ということで、一番小さい排気量のガソリン車と同じ利用料なんです。だから、同じ3ナンバーサイズのトヨタ・クラウンと比べても、リーズナブルに利用していただけるんです」

これには川端さんも、「そこは盲点でした。でも、テスラに乗っていると“安いから”とは思われないですよね。むしろ“環境への意識が高い人”と見られると思う。そんなユーザーメリットがあるんですね」と驚いていた。

とはいえ、車両価格でいえばトヨタ・クラウン2台分ほどあり、「会社としては難しい部分もありますが、利用料をメリットとしてもお客様が増えていただければいいと思っています」と望月さんは言う。

さらに「コスト面ではガソリン車よりもメリットはありますから」と続けた。

テスラが用意しているウォールコネクターを使うと、1時間で約85km走行分程度の充電が可能だ

望月さんは以下のようなコスト計算をして、テスラとガソリン車の違いを説明してくれた。

これは1台あたりのコストだ。

日の丸リムジンでは8台のテスラがハイヤーとして稼働している。仮に同じ条件で走っているとすれば、600万円ほどの年間コスト削減になるわけだ。

「初期投資は含めていないので一概には言えません。しかし、これだけ変わるのは事実なので、われわれとしては積極的にEVを採用していく意味もあるんです」(以下、望月さん)

加えて日常的なメンテナンスでも、それほど費用がかからないのだという。

「まずエンジンとトランスミッションがないので、それらを構成する部品や消耗品の交換が不要になります。また実際問題として、メカニックが作業できる範囲が限られ、ほとんどがメーカー対応。弊社のスタッフを動かす手間が少なくなるわけです」

しかし、その反面、テスラらしい問題に見舞われることもある。

「先日、都内で雹(ひょう)が降りましたが、それにはやられました。テスラのボディーはアルミ。そのためボンネットなどをボコボコにされてしまったんです。当然、板金で修理できませんから、全て新品に交換。こうなると費用も高くなりますね」

まだまだメリットとデメリットが混在するテスラだが、それでも日の丸リムジンでは今後もより効率的な運用をさせていきたいそうだ。

「うちのテスラは、だいたい月に3000kmほど走行しています。つまり、年間3万6000kmほど。播磨が乗車しているのは初期モデルなので、既に3年ほど走っていますから、総走行距離は10万kmに届こうとしています。おそらく、これほど走っているテスラは世界的にも少ないのではないでしょうか。そうやって走り続け、使い続けることで、EVの意義を広めていくこともできるんじゃないかと思うんですよね。

例えば、私たちは毎日洗車します。そこで困るのが、拭き上げるところの多さ。テスラのドアノブは自動で立ち上がってくるのですが、そこに水が入り込んで壊れたことが2回くらいありました。そういうことはきっと、私たちのような使い方だからこそ分かることだと思います。こういったデータは全て記録してあるので、機会があればテスラ・モーターズCEOのイーロン(・マスク)さんに会って、直接、改善点を伝えたいですね(笑)」

1回の充電で安心して走れるのは300km程度という播磨さんのコメントは、EVがまだまだ発展途上にあることを意味していると思う。

しかし、それを理解した上で、積極的に使っていく人がいなければ、さらなる発展に向けたスピードは上がっていかない。その意味では、日の丸リムジンの取り組みは世界的に見ても先鋭的なものと言えるのではないだろうか。

世界中から多くの人が日本に集まる2020年。そのときの東京には、EV(電気自動車)のハイヤー・タクシーの数が、ガソリン車を上回っているかもしれない。

<次回、第2回は2017年8月28日(月)配信予定>

クルマが“人”と“エネルギー”をサポート。環境技術・エネルギーマネージメントについて、モータージャーナリスト・川端由美さんが展望を語る。


市場規模拡大が予測される「コネクテッド・カー」に関する記事はこちら

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 特集
  3. 次世代自動車が指し示す未来
  4. 電気自動車の黒船“テスラ”は本当にすごいのか?