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2017.09.11
すでに街ナカを実験走行中!“地域限定”で実証試験を行う自動運転車
群馬県桐生市で始まった大学主導の自動運転実証実験が目指すものは?
第1・2回ではエコカーの現状と未来を、そして第3回では自動運転技術開発の現状を取り上げた。本特集最後の第4回は、実際に自動運転車を走らせている研究機関、群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センターを訪ねた。そこでは副センター長の小木津武樹(おぎつ たけき)准教授を中心に、自動車メーカーとは異なるアプローチの自動運転開発が進行中だ。
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レトロな街並みの中で進む自動運転の実証実験
群馬県の東部、桐生市に目指す研究機関はある。2016年12月、国立大学法人 群馬大学に設置された、次世代モビリティ社会実装研究センターだ。
「次世代モビリティを作るためのさまざまな技術を集約し、それを社会に実装していくことが、われわれの最大のテーマです」
同センターの目的を説明するのは、完全自動運転の社会実装を目指すプロジェクトの責任者である、小木津准教授だ。
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慶應大学で学び、東京理科大を経て群馬大学に着任した小木津武樹准教授。まだ30代前半ながら、このプロジェクトを主導する
学生時代から自動運転に取り組んできた小木津准教授が、初めて実証実験を行ったのは昨年10月。中古のプリウスを改造し、エンジンの始動と停止、シフトチェンジ、ハンドル操作、加速・減速などをコンピューターとセンサーを使って操作した。
「実証実験は、だいたい週に3~4回のペースで行っています。やり方については、とにかく安全確保を最優先していますので、公道に出る前に2回の確認作業を行います。
まずは閉鎖されたスペース、駐車場内で走らせます。そこで安全が確認できたら深夜帯に公道へ。大学周辺は都会のように夜中も交通量が多いということはないので、そこで安全確認のための走行テストを行い、3回目に昼間の公道を走ってテストします」
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ルーフに付くカメラが目立つ、自動運転用に改良されたワンボックスカー。「周辺住民の皆さんにはすっかりおなじみになりました。速度が遅いので、気遣っていただいています(笑)」と自動車ジャーナリストの川端由美さんと話す小木津准教授
実は今回の取材直前、この群馬大学の自動運転車が事故を起こしたというニュースが全国を駆け巡った(※参照記事)。それはこのうちの夜間テスト時に起こったものだ。
「すぐに群馬県をはじめ地域の皆さんに起きた事実を説明し、記者発表を行いました。われわれは実証実験のスタート時から、このような事態は想定していましたし、コンソーシアム(共同事業体)に損害保険会社が加わっているのもそのためです。今回のような事故を繰り返さないように最大限注意しながら、今後の研究・開発に生かしていきたいと思っています」
前回の特集でも触れたように、完全自動運転技術の確立は一筋縄ではいかない。小木津准教授も真摯に受け止め、「困難を乗り越えて実験を進めていきたい」と闘志をみなぎらせる。
地域限定かつAIを使わない自動運転
ご存じのように自動運転には世界中のさまざまな企業が取り組んでいる。自動車メーカーはもちろん、Googleや前回の特集で取り上げた三菱電機もしかりだ。
小木津准教授は、「自分たちの取り組みは、そういったメーカーとは異なるアプローチを取っています」という。
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チームには大学2年生も参加している。「関心を持って参加してくれる学生が多いですね」と小木津准教授
一つは“地域限定”ということだ。
「とかく技術者は“あらゆるところで実装できる自動運転を作ること”を夢見ます。もちろん、それは大事な目標ではありますが、越えなければならないハードルが多すぎるというのが私の印象です。例えば、信号機の読み取りにしても、日本中には数え切れないほどの設置箇所があり、さまざまなシチュエーションがあります。それらすべての環境を認識するのは難しいですよね。
その一方、私には“自動運転があらゆる場所で対応する必要が本当にあるのか”という思いがあるんです。つまり、日常の足としての車という視点です。自宅近くのスーパーや病院に行くという範囲の自動運転こそが、まずは社会に求められるのではないでしょうか」
高齢化が進み、日本中で過疎化が懸念される中、小木津流のアプローチは“あり”ではないだろうか。
「そこで、われわれは大学のある桐生市の中でできる完全自動運転を目指そう、と。現在は2km圏内という狭い範囲での実験です。その中であれば、すべての信号を認識することにフォーカスできる。技術的ハードルはぐっと下がるし、コストも少なくて済みますから」
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コクピットを見せてもらったが、意外に計器類が少ないことに驚く
では、技術的なアプローチの特徴はどこにあるのか。
「私のシステムはAI(人工知能)をあまり使っていません。なぜかというと、AIは再現性が保証されないという問題があるんです。ある場所は認識したけど、それと似た状況で同じように判断するかということがまだ不安定なんですね。そこが自動運転に対して、怖いと思ってしまう要因なんです。
もちろん、あらゆる地域に対応するということでは、その研究を進めなければならないと思います。しかし、私の進める自動運転は地域限定だから、AIに頼る必要はないんです」
システムを支えるコンピュータープログラムの中には、実証実験で走行する範囲のマップがある。そこを実際に走行し、信号の場所など、道路上のポイントを記憶させていく。すると、例えば場所によって信号が認識しにくいことがあっても、その原因を把握しやすい。
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自動運転車の「目」であるカメラ。全方向から周囲の情報を捉える
この小木津准教授のアプローチを、自動車ジャーナリストの川端由美さんは「とても考えられた方法ですね」と感心する。
「自動車メーカーが自動運転車を販売したら、その車は都心でも田舎でも、どこでも出かけていきますよね。そのためにはAIに全ての環境を教え込まなければなりません。
でも、自動運転を段階的に導入すれば、ある程度人間が決めた認識を教えればいいということが言えます。しかもご近所ベースであればそれほど難しいことではありません。ちょうど免許を取ったばかりの初心者が運転する車の助手席に座って、教え込むようなものです」(川端さん)
教え込むことだから、それができなかったときの原因もつかみやすい。そこに小木津准教授の意図が見える。
「例えば、初心者に“この信号は危ないから停止線より手前で必ず止まりなさい”と教えるとします。同じことをAIが自ら学習することは実は難しい。でも、われわれのシステムならそれができる。なぜかといえば“あらゆるところ”ではなく“地域限定”だからです」(小木津准教授)
環境に合わせて、走行プログラムを整理していける。そんなふうに地域に合わせて走れることを、小木津准教授は「われわれのシステムの“味”ですね」と説明してくれた。
地域連携と地域理解、そしてビジネスアイデアが必要
実証実験をスタートさせて、間もなく1年を迎える。やはり、外に出たことで分かったことは数知れないと小木津准教授は言う。
「一つは地図の作り方です。自動運転には高精細なマップが欠かせません。それを全国規模で作るとなると情報更新の仕方も含め、システムもコストも大変です。しかし地域限定であれば、マップも限定して作ればよく、工事などの情報も行政から入手しやすい。
地域限定で地図を更新するという枠組みを作ることができれば、スムーズに高精細マップを運用することができます。そのためには行政や地元企業などとの連携を欠かすことができませんけどね」
その土壌を育んでいくために、地域理解の促進も欠かすことのできない要素だという。
「なので、小学校を回って子供たちに自動運転のことを伝えています。大局的に見たときに大事なのは、自動運転について柔軟に考えられることだと思うんです。スマホがいい例ですよね。最初からスマホに触れ、柔軟にアプリケーションを使いこなしている世代が、新たなビジネスを生み出している。
自動運転も同じ。だから早い時期から自動運転に触れてもらい、メリットもデメリットも含めて成長過程を感じてもらうことで、根付いていくものだと思います」
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計器類の少なさも地域限定のメリットだという。「AIを動かすわけではないので、コンピューターも大きなものは必要ありません。普通のデスクトップサイズで済むんですよ」
また、自動運転は技術だけができ上がったとしても、それを運用するものがなければならない。そのためには「どんなサービスに生かせるかを、今のうちから考えておく必要があるということも気付きました」と小木津准教授は言う。
「例えば、路線バスは自動運転に非常に適したサービスだと思います。時間通りに走らせるというのは得意分野ですから。
でも実際は、出発時間ぎりぎりにゆっくり歩いてバス停に向かってくる老人がいたりしますよね。そんなとき、運転手さんなら待ってあげるかもしれないけど、自動運転だと走りだしちゃう。もちろん、カメラを見て認識させることはできますが、その人が本当にバスの利用者かどうかの判断は難しい。そういった意味では、サービスとして考えるにはまだまだ未熟なんですよ」
そのようなサービスを成熟させていくのも、地域限定というやり方は有効なのではないだろうか。そこに住む人たちの行動様式や世代などの特性が分かりやすいからだ。
「新しいモビリティというのは、地域ごとのニーズに合わせて作っていく必要があると考えています。例えば、群馬県には日本一の過疎の村といわれる南牧村もあれば、世界遺産・富岡製糸場のある富岡市もある。高齢化の進む過疎の村と、有数の観光地では目的は違うかもしれませんが、自動運転車を活用するメリットがあると思っていて、それぞれをモデルケースとして他の場所へ展開していける可能性があるんです」
実際、小木津准教授の元には全国の自治体から「ウチでも実証実験をやってほしい」というオファーが相次いでいるそうだ。
「どこにどうやって展開するかがこれからの課題です。そのための仕組みづくりを加速させなければいけませんし、そのためにはもっと多くの人を巻き込んでいかなければなりません。でも、それを続けていくことができれば、完全自動運転も見えてくると思うんです」
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現在18台の自動運転車を所有。「車種はハイブリッド車(HV)か電気自動車(EV)です。ガソリン車に比べ、電化が進んでいるので改良しやすいんです」
小木津准教授は、一つの目標として2020年には実現させたいという。
「広い範囲である必要はないんです。どんなに狭い区域でもいいから、完全自動運転の社会実装を実現したい。それができれば、自動運転を社会に根付かせるために必要なものが何であるかを理解することにリーチできると思うんです。とにかく小さな規模でいいから、自動運転のシステムを完結させてみたいですね」
小木津准教授が工学の中でも自動運転という道に進むことになったきっかけは“ロボット”だという。しかも鉄腕アトムのような人と共に歩むロボットだ。そこにつながるものが車の自動運転だと確信していると言う。
「すごいパワーを持っていて、それが自分で動く。形が車というだけですよね。だから自動運転は、ロボットが動くことの礎になる。そこから鉄腕アトムのような未来につながっていくはずなんです。かなり、ぶっ飛んでいるとは思いますけどね」
そう笑いながら夢を語る小木津准教授。モータリゼーションの未来の一つの形が、群馬の小さな街から生まれていくかもしれない。
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