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スマートシティ大解剖 at 柏の葉

「世界の未来像」をつくる街・柏の葉

最先端のエネルギー供給体制、環境配慮都市を構築中

東京都心部から北東へ約25km。横浜よりやや近い郊外、千葉県柏市の273haという土地区画整理事業エリアの中心部でゼロからの街づくりが進められている。『柏の葉スマートシティ』と名付けられたその都市に今、世界から熱い視線が寄せられている。この街が注目を集めるワケとは? スマートシティとは何なのか? これから4週にわたって徹底解剖。第1回となる今回は、現地を訪れ「柏の葉スマートシティツアー」に参加。また、三井不動産で柏の葉街づくり推進部事業グループのグループ長を務める三留秀成氏に話を聞いた。

“公・民・学”三位一体で議論を重ねたゼロからの街づくり

「当社(三井不動産)の歴史は1673(延宝元)年、江戸の街の呉服店としてスタートしました」。この街の街づくりを体験する「柏の葉スマートシティツアー」(以降、体験ツアー)はそんなプレゼンテーションから始まった。

三井不動産はその後、1960年代には臨海部埋立事業の開発など、千葉県と浅からぬ縁を持つ。

江戸時代には軍馬の放牧場だったという現地でも、三井不動産は1961~2001年まで、柏ゴルフ倶楽部を運営していた。そこに、東京・秋葉原と茨城県つくば市を結ぶ鉄道「つくばエクスプレス」の開通計画が持ち上がり、それに伴って千葉県による一帯の土地区画整理事業が行われることになった。

体験ツアーは専門ガイドのプレゼンテーションの後、専用のタブレット端末を身に着けて施設を巡る。これ自体、なかなか未来的なツアーだ

土地区画整理事業に先行して、2000年には隣接するエリアに東京大学柏キャンパスが開設されていた。さらに2003年には千葉大学柏の葉キャンパスも開設される。

ゼロからの街づくりは、行政、民間(民間企業と市民)、そしてこの大学も含め“公・民・学”が三位一体となって侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が交わされたと三留氏は言う。

「事業地は約300haと広大で当社が関わっている部分は一部なのですが、柏ゴルフ倶楽部はたまたま駅の周辺という立地でした。2001年にはそこを閉鎖して、千葉県さん、柏市さん、そしてつくばエクスプレスさんと街づくりについて協議を始めたのですが、2006年に柏市主催の『大学と地域の連携交流会』において、大学と地域の連携の在り方を模索していた柏の葉の街づくりに対して、東京大学さんから『柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)』という組織の必要性を提示いただきました。UDCKが組織されたことにより、本格的な議論が始まったんです」

体験ツアーは一般でも申し込みできるが、参加者は国内の行政関係者や業界団体が多い。プレゼンテーションの後、実際に街の施設を巡るが、よく尋ねられるのが“どうやって行政と民間、大学がコミュニケーションを取ったのか”という質問だという。

その答えが、「UDCK」という組織だ。

「行政主導のトップダウンで進めたのではなく、この街づくりの特徴である、行政などの“公”、住民などの“民”、東京大学・千葉大学といった“学”の“公・民・学”が連携するUDCKを組織していたことが大きいと思います。真っ白なキャンバスであるこのエリアにどんな街を描くか、UDCKにてかなり時間をかけて議論したと聞いています。その結果を、『柏の葉国際キャンパスタウン構想』としてまとめました。これにより、柏の葉が目指すべき姿が明確になったんです」

現在3代目となる「UDCK」の建物は、東京大学柏の葉キャンパス駅前サテライトの1階に。航空写真やデジタルサイネージを常設しており、街づくりの取り組みを知ることもできる。東京大学については、第3回に詳しく取り上げる

画像提供:三井不動産

日本で初めて街に実装されたスマートグリッド

通常、スマートシティとは省資源化、具体的には電力消費を先端技術によって徹底的に抑えた環境配慮都市のことを指す。

トップの写真で三留氏の背景に立つのが、このスマートシティというコンセプトの象徴的な建物「エネルギー棟」だ。壁面には太陽光パネルを備える。

この『柏の葉スマートシティ』が最も特徴的なのは、日本で初めて街区を越えて電力を融通できる本格的なスマートグリッドを実現していることにある。

街の開発は2005年につくばエクスプレスが開通した後、2006年に「ららぽーと柏の葉」、2009年および2012年に分譲マンション、そして2014年にはオフィスと商業施設やホテル、賃貸マンション、カンファレンスホールを備える駅前中核街区「ゲートスクエア」の竣工というように進められ、街づくりの第1ステージが完成した。

これらそれぞれの街区に自前の電力ネットワークが敷設されており、ららぽーととゲートスクエアの間で電力を融通できるのだ。

「AEMS(エリアエネルギーマネジメントシステム)」と呼ばれるこのシステムと連動する形で、賃貸マンションの入居者には「HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)」という電力を“見える化”するタブレット端末が提供されている。AEMSとHEMSによって、街全体の電力のピークシフト、ピークカットが実現され、結果、電気を生み出すために発生するCO2を街全体で削減する。
※「HEMS」については「エネルキーワード」第14回参照

「HEMSでは、入居者がある一定レベルまで節電を達成されると、ららぽーとでの買い物などで使えるポイントが付与されるんです。我慢するエコではなく、ゲーム感覚で楽しみながら、目で見て実感しながら、街の低炭素化に貢献できる。街のあちこちのサイネージでも、街の電気使用量や太陽光発電量などが刻々と表示されるようになっています」

「AEMS」については、第2回で開発において中心的役割を果たした日立へ取材し詳しくレポートするが、電力の融通や屋上・壁面緑化、冷暖房の効率化、また太陽光を中心とした発電などによって、電力は26%のピークカット、CO2は約40%・2000tの削減を達成している。

「ただ、柏の葉が目指すスマートシティは、電力を賢く使って省エネに貢献するというような狭い意味ではないのです。日本がこれから国際競争力を高めていくために、先進国が抱える課題を解決する機能を持つ都市とする課題解決型の賢い街づくりを目指す、そんな壮大な考えなんです」

前述の国際キャンパスタウン構想に盛り込まれた、この課題解決型スマートシティという壮大な構想こそが、世界から『柏の葉スマートシティ』が注目を集めるゆえんなのだ。

「HEMS」のタブレット端末画面。電力使用量を“見える化”するだけではなく、運用アドバイスなど節電ライフの支援も行う。また、外出先から家電のON・OFFコントロールも可能

画像提供:三井不動産

国際的な賞の受賞に秘められた思い

この街の歩みは、「世界の未来像」につながると『柏の葉スマートシティ』は掲げる。

環境、エネルギー、食料や健康、都市が抱える解決しなければならない課題。日本はその課題に、世界よりひと足早く直面してきた。

そんな日本だからこそ、世界に発信できること。課題解決型都市として、国際キャンパスタウン構想では3つの取り組みを掲げている。

「これから世界が抱えていくであろう社会的な課題、それにどう回答していくかというソリューションを3つのカテゴリーで提唱していまして、それをつなぎ合わせるとスマートシティとなるという考え方になっています。その一つが、AEMS・HEMSを中心とした環境共生都市という取り組みです。残る2つは、新産業創造都市、健康長寿都市という取り組みになります」

大学と街が融和し、街全体がキャンパスのように緑豊かで知的交流が活発な、新たな産業・文化が創造される都市に。“公民学”の連携を背景に国際学術研究都市、次世代環境都市を実現しようというのが『国際キャンパスタウン構想』の中身だ。

この街では、東京大学や千葉大学と連携しさまざまな社会実証実験が行われている。また、インキュベーションを促すために、建物内にベンチャー企業向けのスモールオフィスがあったり、それを支援するソフトサービスの存在やビジネスコンテスト(第4回でレポート)の開催など、新産業を生み出そうというエネルギーが充満しているように感じられる。

ゲートスクエアのショップ&オフィス棟6Fにある「KOIL」と名付けられたオープンイノベーションラボ。コワーキングスペースやスモールオフィス、3Dプリンターやレーザーカッターを備えたファクトリーなど、新事業・研究の開拓を加速させる拠点

結果、『柏の葉スマートシティ』は国内外でさまざまな賞を受賞しているが、第1ステージの完成から3年後のことし、世界の不動産業界で最も権威ある賞の一つである「The MIPIM Awards 2017」にて「Futura Mega Project」(将来的な大規模開発プロジェクト)部門最優秀賞を受賞した。

いかに世界からの注目が高まっているかを表した受賞だが、実はこれには呼び水になった仕掛けがあった。

「2016年に、国際的な環境性能認証制度のLEEDにて、日本で初めてND(Neighborhood Development:近隣開発、街づくり)最高ランクのプラチナ認証を取得したのですが、これは実は、狙って取りにいきました。NDの評価ポイントは健康、環境など多岐にわたって非常に細かな──例えば、自然光を多く取り入れることで低炭素化を実現したり、働く人と住む人が一体となったミクストユースの街づくりを促進し、賑わいを創出するといった評価項目に応えていかなければなりません」

インターナショナルな認証が欲しかったのだという。それによって世界から注目を得ることが可能となり、世界的に街づくり業界の中で発信力を高めることにつながった。

「おかげさまで、まだ受賞が続きそうです。アジアのある郊外につくられた都市が国際的な賞を立て続けに受賞していれば、やはり同じデベロッパーは気になりますよね。それが世界の未来像を示していくという使命の達成につながるんだと考えています」

第1ステージの完成を見た『柏の葉スマートシティ』は、思惑通り世界への発信力を得た。これから2030年に向けて、第2ステージとしてさらなる環境共生や、蓄積されたビッグデータを“データドリブン”する(次のアクションを起こす)ためのオープンイノベーションの推進を進めているところだ。

「2030年にはこの街に1万世帯が暮らし、そして就業者もいて、職学遊住という多様性を持つ街となります。その規模感の中で、知恵でエネルギー問題など社会が抱える課題を解決していける。その何らかのヒントがまずは提示できたのではないかというささやかな自負はあります」

その昔、江戸の街にはエコに暮らす知恵があった。当時の街の呉服店に端を発する三井不動産『柏の葉スマートシティ』にも、そのDNAは息づいている。

今回、体験ツアーで巡った「駅前街区」に対し、第2ステージでは北側一帯のエリアの開発が進められている。2016年11月には、その中核となる“治水”に“交流”の機能が加えられたた親水空間「アクアテラス」が完成。2017年3月には隣接して「柏の葉T-SITE」もオープンした

画像提供:三井不動産

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