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スマートシティ大解剖 at 柏の葉

日本初のエネルギー管理システム『柏の葉AEMS』

街区を越えた電力融通を実装したことの意義

一般的にスマートシティといったとき、それはエネルギー──中でも特に電力消費を先端技術によって徹底的に抑えた環境配慮都市を意味する。三井不動産への取材で『柏の葉スマートシティ』の成り立ちや概略を取材した第1回に続き、再び現地を訪ねその電力のスマート化の核心部分を取材した。街のエネルギー管理システム『柏の葉AEMS』とは? 日立製作所 街づくりソリューション本部主管 戸辺昭彦氏に伺った。

エコで安心・快適なスマートシティに!

現在、J1リーグを戦っている「柏レイソル」は、日立製作所本社サッカー部が前身となっていることはご存じだろうか?

かつて柏に工場を有していて、現在も関連企業が多く存在することもあり、三井不動産と同様に日立製作所もまた、このエリアとの縁を持つ。

同社は元々、2005年開通のつくばエクスプレス用車両を受注していたこともあり、柏の葉エリアの土地区画整理事業が進められていることは聞いていたのだと戸辺氏は言う。

「その後、街に必要なエスカレーター、エレベーターをほぼ100%納入させていただくことになり、さらに2010年からは柏の葉スマートシティプロジェクト自体にも参加するというように、徐々に関わりが深くなっていったんです」

日立製作所 街づくりソリューション本部主管 戸辺昭彦氏

2010年というと、その前年には既に最初の分譲マンションが竣工しており、第1回で取り上げた『国際キャンパスタウン構想』もまとまっていた段階だ。

この時点で、ショッピングモール「ららぽーと」には蓄電池が備えられ、翌2011年竣工となる分譲マンションには太陽光発電、電力の見える化など省エネの取り組みが盛り込まれていた。

「2010年の時点で、先進国が抱える課題を解決する“世界の未来像をつくる”街づくりに参加しませんかと募集があったんです。環境共生という課題に対しては、私たちは“人と地球にちょうどいい”都市というコンセプトで、世界各地でスマートシティ構築の実績を重ねてきていました。そのコンセプトで、柏の葉の街づくりにどう貢献できるかという検討から始めたのですが…」

しかし2011年を契機に、このスマートシティ計画に大きな課題が持ち上がる。

「災害に強いという課題が加わったんです。省エネ設備や電力の見える化といった技術だけでは本当の意味でのスマートシティは実現できない。災害・停電があっても安心な街でなければならないという課題が見えてきたんです」

そうやって日立としてこの街にどうやって貢献していくか? その解決すべき課題が明確になった。

柏の葉スマートシティ「KOIL」ビルの日立オフィス入り口には、第1回で紹介したHEMSのオフィス版“見える化”端末が設置されていた

街のエネルギー消費が時々刻々表示される「スマートセンター」

街に既に実装されていた一つ一つのエネルギー関連設備は、その当時最先端のものだった。

しかし、災害時のバックアップとはなっていなかった。

「ところが、太陽光発電など再生可能エネルギーは、不安定ですが非常時には創電できるメリットがある。また、ららぽーとやゲートスクエア(2014年竣工、第1回参照)には蓄電池がある。これらをうまく組み合わせて運用できるようにすれば、環境共生つまり省エネと災害に強いという課題を一緒にクリアできると気付いたんです」

つまり、平常時には蓄電池に、太陽光発電などの再生可能エネルギーや安価な夜間電力を蓄えてエコに活用し、非常時には蓄電池をバックアップ電源として街に供給するシステムということになる。

それまでは電気事業法の解釈や保安上の課題により、このような自前のシステムで街区を越えて電気を融通することはできなかったが、三井不動産を中心に経済産業省や電力会社に掛け合い、規制緩和や条件の明確化によりこれを解決。日立は技術面での課題を解決し、日本で初めて、街区を越えたいわゆるスマートグリッドを実装した。

「街区の間に自前で電力を融通するための専用線を敷設し、電力会社から買う電力と蓄電池からの電力を安全・安定的にやり取りするための電力融通装置・受変電設備、そしてゲートスクエア内にそれを管理するための『スマートセンター』を設置したんです」

「スマートセンター」にて。背景に見えるモニターに、街全体のエネルギー消費量をグラフィカルに表示する。災害時には3日間以上、エレベーターなどの共用部設備や地下水くみ上げのために電力を供給可能

鉄道や高速道路の管制室のような「スマートセンター」では、時々刻々と、街で作られたり、消費されたりするエネルギーが経路図やグラフなどで“見える化”される。こういった視覚的に分かりやすい、スマートなインフォメーションとインフラが一体となったシステムが『柏の葉AEMS(エリア・エネルギー・マネジメント・システム)』なのだ。

『柏の葉AEMS』は、前回紹介した住居用のエネルギー見える化端末『柏の葉HEMS』と共に、デザイン性が高く評価され、2013年度グッドデザイン賞を受賞している。

「エコカーで表示される瞬間燃費などと同じで、“見える化”というのはけっこう効くんです。それだけで10~15%くらいは電気使用量が減ります。ですから、住居のHEMSと共に、街全体の電気使用量も街頭のあちこちのデジタルサイネージで共有しています」

デジタルサイネージにも時々刻々、街の電気使用量が共有される。街の意識改革にも、AEMSは貢献している。

街全体のエネルギー消費量といった情報をリアルタイムに表示するデジタルサイネージが各所に設置されている

街の電力ピークをカットすることが実は!?

AEMSによる電力の融通は、平常時には電力のピークカットという点でも寄与する。それは、この街が職学遊住というミクストユースを推進していることと連動している。

「ららぽーとなど商業施設は週末、オフィスは平日の9~17時、住宅は夕方以降というように、それぞれ電力のピークが異なってきます。ですから、平日はららぽーとの蓄電池にためた電力をオフィスや住宅に融通して、逆に週末にはゲートスクエアの蓄電池にためた太陽光発電などの電力をららぽーとに融通すれば、それぞれの電力ピークで電力会社からの購入量を減らすことが可能になります」

結果、電力は26%のピークカット(CO2は約40%・2000t削減)を達成した。電力のピークカットは、この街の省エネ化はもちろんだが、実はより大きな意義を持つ。

日本は、年間の停電時間が20分程度(2014年度実績、電気事業連合会調べ)と、世界でもトップクラスに電力が安定供給されている。通常、自前のシステムで街区を越えて電力を融通できなかったのは、この電力の安定供給を担保するためのもの。

「とにかく停電しないことを優先すると、電力ピーク時に合わせて発電量を十分に確保しなければなりません。日本の電力政策はこのことを基本にしています。つまり、各家庭や施設などがピーク時の電気使用量を減らせば発電量そのものを減らして、よりCO2を削減することにつながるんです」

最後に、街づくりの第2フェーズに移ろうとしている今、改めてスマートシティとは?という質問をぶつけてみた。

「いい街って、自分たちで創っていくんだと思うんです。いい街だから移り住むのではなくて、縁あって暮らし始めた街を自分の子供に、またその子供にと、次の世代に託していく。結果的に蓄電池やスマートグリッドを入れたり、IoTを導入しても、それは瞬間的な手段であってそれ自体がスマートではない。

次の世代のために街の課題を解決して、価値を上げていくことこそが“スマートシティをつくっていく”ということなのではないかと思っています」

ゲートスクエアに設置されたエネルギー棟には、産業用としては国内最大級となるリチウムイオン蓄電池(3.8MWh)を設置(写真)。ららぽーとには、より大容量に蓄電することができる日本ガイシ製のNaS蓄電池(12.96MWh)を設置している

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