2019.7.18
高圧水素で走行する世界初の燃料電池車両が誕生間近? JR東日本が試験車両の製作に着手
約700気圧の高圧水素を用いる車両で走行距離もUP
世界が持続可能な社会の実現を目指す中、鉄道業界にもよりクリーンなエネルギーで走行する車両が求められている。東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)は、自動車メーカーがFCV(燃料電池自動車)開発で得た知見を応用し、水素をエネルギー源とするハイブリッドシステムを搭載した試験車両の製作と実証実験計画を発表。鉄道業界でいち早く水素の利活用を目指そうという最新の取り組みをご紹介する。
クリーンエネルギーの活用で鉄道がよりクリーンな乗り物に
現在、国を挙げた取り組みで実現を目指している水素社会。
水素は石油や石炭などの化石燃料、工場プロセスの過程で排出される副生ガスなど実にさまざまな資源から作り出すことができる。加えて、再生可能エネルギーに由来する電力を使って水を電気分解すれば、CO2を一切排出せずに生産することも可能だ。一方で、発電や熱エネルギーとして利用する際にCO2を排出せず、ガソリンや天然ガスと比べて安全性も高い。
こうした水素のメリットに世界中が注目する中、低炭素社会でのエネルギーの担い手として、各国のさまざまな企業や研究機関がこぞって研究を進めている。
グループ経営ビジョン「変革2027」(2018年7月)において、エネルギーの多様化を目指すことを発表しているJR東日本もその一つ。
水素を燃料とすることで将来にわたって安定的にエネルギーを確保でき、かつ前述のとおりCO2排出量の削減につながるなど、インフラを担う企業としての社会的責任に対する貢献も大きいからだ。
その実現のため、2018年9月にはトヨタ自動車との間で水素を活用した“鉄道と自動車のモビリティ連携”を軸とした包括的な業務連携を締結。世界初のセダン型量産FCV(燃料電池車)「MIRAI(ミライ)」やFC(Fuel Cell/燃料電池)バス「SORA(ソラ)」を販売してきた実績を持つトヨタ。その高い燃料電池技術を取り入れることで、新たな鉄道車両の開発に取り組んできた。
そうした中でついに、水素を燃料とする燃料電池と、蓄電池を電源とするハイブリッドシステムを搭載した試験車両「FV-E991系」を製作し、営業路線にて実証実験を行うことがJR東日本から6月4日に発表された。
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JR東日本が製作を開始するFV-E991系のイメージ図。最高速度は100km/hを予定している
FV-E991系の構成は、走行用モーター(主電動機)付きのFV-E991形とモーターを持たないFV-E990形による2両1編成を予定。-10℃程度から起動可能な180kWの燃料電池(固体高分子型)と、25kWhの蓄電池を各2個ずつ搭載する。
水素貯蔵量は51Lの自動車用水素タンクが5本×4ユニット分となる。
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FV-E991系の構成概要図
また、世界で初めて70MPa(メガパスカル)という高圧水素の利用を可能にする(最高充てん圧力が約700気圧のものを用いる)ことで走行距離の延長を図り、一充てんあたりの航続距離は70MPa充てん時で約140km(JR東日本と鉄道総合技術研究所が共同開発した試験用電車・燃料電池動車で、約350気圧のクモヤE995形と比べて倍以上)を想定している。
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FV-E991系のハイブリッドシステムは、燃料電池と主回路用蓄電池の2方向から主電動機や補助電源装置にエネルギーを供給。蓄電池には回生ブレーキによる電力供給に加え、主電動機などの負荷電力が小さい場合に燃料電池からの電力が供給され蓄電する
JR東日本ではFV-E991系を2021年度内に完成させ、その後、同年度内に横浜市と川崎市を走行する鶴見線・南武線尻手支線・南武線(尻手~武蔵中原駅間)にて、実証実験を実施するロードマップを描いている。
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FV-E991系の完成後、予定されている実証実験の実施区間
水素の利活用の幅を大きく広げる可能性を持つ今回のJR東日本の取り組み。
乗用車やバスに続いて、私たちにとって身近な乗り物である鉄道に水素車両が誕生したあかつきには、地球環境にとってより優しい水素社会の実現がぐっと現実味を帯びるはずだ。
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text:安藤康之