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ヘドロや稲わらが原料に! 九大がベトナムのエビ養殖池でバイオガス発電の高効率化を達成

“捨てられるもの”だけで作られたエコな発電技術は、発展途上国での新たなエネルギー供給源となるか?

牛のゲップや雪、人が歩く際の振動など、身近にある意外なモノからも作ることができる電気。池の底にたまったヘドロやココナッツの搾りかすといった、電気とまったく関係のないものから高い効率で電気を作る研究がベトナムで進んでいるというのも驚きではないだろう。九州大学水素エネルギー国際研究センター(以下、九州大学)が主となり進めるこのバイオガス発電プロジェクト。東南アジアをはじめ、電力供給の安定化が求められているエリアにとって、必要不可欠になるかもしれないエコな発電技術を紹介する。

池が抱える永遠の課題・水質問題

「池の水を抜く」という特異なテーマで人気のテレビ番組『緊急SOS! 池の水ぜんぶ抜く大作戦』(テレビ東京系列で毎月1回日曜日に放送中)。

番組内容はご存じのとおり、全国各地の池や沼などに出向き、汚く濁った水を抜くというドキュメンタリー。水を抜いた後は、固有種の生態系を邪魔する外来種を駆除したり、池を天日干ししてヘドロや土砂を取り除く「かいぼり」を行うなど、池本来の姿に戻すことを主題としている。

元来、かいぼりは農業の一環として、ため池の水質改善のために行われてきた技法。その効果は絶大で、東京都三鷹市と武蔵野市に位置する都立井の頭恩賜公園内の井の頭池で2014年から3回に分けて行われたかいぼりの結果、ことし6月には環境省の絶滅危惧種に指定されている水草「ツツイトモ」が大繁殖。クロード・モネの名画『睡蓮』のように美しいと話題になった。

一方、魚やエビの養殖池では、かいぼりを敬遠する傾向にあるという。

かいぼりには一定の期間が必要なため、その間の生産性が大幅に落ちてしまう。そのため、養殖中から水質の維持・改善を試みるのだが、適正な規模や施設を持たない東南アジアの⼀部養殖池では⽔質悪化が深刻化。⽇本国内で消費されるエビのうち、輸⼊量が⼀番多いことで知られるベトナムの⼀部でも同様の問題が発⽣しているという。

2017年度の水産物輸入品目内訳(左)とエビの輸入相手国・地域(右)。エビ調製品を含めれば、輸入量のトップはエビになる(注1:2205憶円はエビ調製品750億円を除いた数字)

出典:水産庁

水質悪化の主な原因は、エビの排泄物や与えたエサの余りが池の底に堆積しヘドロ化してしまうこと。池の底まで十分に酸素が行き渡らないことで、悪臭や濁りが発生する。

しかし、厄介者扱いされるヘドロを有効活用し、バイオガス発電の材料として用いる研究がベトナム南部の町・ベンチェで進んでいるという。

廃棄されるものがまさかのエネルギー源に?

九州大学が主となり、複数の日本企業やベトナムの研究機関と進めているこのバイオガス発電プロジェクト。ヘドロと共に材料となるのは、現地で入手しやすいココナッツやサトウキビの搾りかす、稲わらといった有機性廃棄物だ。

ココナッツ(左・中)やサトウキビ(右)の搾りかすといった、本来はお金になりにくいものを再利用。ヘドロと一緒に使うことで立派な資源になる

有機性廃棄物は、発酵させることで発電する際の原料(バイオガス)となる。稲わらやココナッツの搾りかすに養殖池のヘドロを加えるだけで発酵が促され、発電に必要とされるメタンガスや二酸化炭素が作られるという。

メタンガス60%、二酸化炭素40%の割合で生成されたバイオガスは、九州大学と燃料電池部品製作に強みを持つマグネクス株式会社(東京都立川市)が共同開発した1kWのSOFC(固体酸化物形燃料電池)に供給。ことし7月の実証実験では、発電効率62.5%(直流発電端)を達成した。この数字は、バイオガス供給による燃料電池の発電効率としては世界最高レベルで、同じ出力のエンジン発電機の2~3倍に達するという。

SOFCのモジュール(左)とシステム(右)。200kW級のものまで開発が進められているSOFCだが、今回の実証実験では家庭用燃料電池(エネファーム)と同等サイズの1kWのものを開発

そもそも、SOFCではバイオガスを直接電極の反応に用いるため、同じ有機性廃棄物を燃焼させるバイオマス発電よりも発電効率が高いことで知られている。今回の実証実験でキーとなったのは、バイオガス中に含まれる不純物(硫化水素など)をいかに電池内部に蓄積させないようにするかだ。

昨年1月の段階では発電効率53%だったが、電池(セル)を積み重ねて出力を1kWまで高める際、セル間の接触抵抗を低減するなどして世界最高水準の数字をたたき出した。

SOFCの仕組みは他の発電方法と比べてシンプルなことから、メンテナンスしやすいのも特徴。東南アジアでは電力の安定供給が課題となっており、この仕組みを生かした発電装置を現地で販売することも想定している。

今回の実証プラントはエビの養殖場内に設置されているため、作られたエネルギーは養殖池に還元。株式会社中山鉄工所(佐賀県武雄市)が構築した電力供給システムを使い、化学メーカーのダイセン・メンブレン・システムズ株式会社(東京都港区)が導入した曝気(ばっき)装置へと送電している。

回転することで空気を送る従来のパドル型(左)と今回の実証実験で使われている曝気装置から出た空気(中央付近)

曝気とは水中に酸素を送ることであり、エビの生育には必要不可欠なもの。池の厄介者・ヘドロから作られた電気を使うことで、エネルギー循環を実現している。

科学技術振興機構(JST)や国際協力機構(JICA)が共同で実施する「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」の支援を受けて実現したこのプロジェクト。

この仕組みを使った発電装置を実用化できれば、エビの養殖池をきれいに保てるのはもちろん、発展途上国での新たなエネルギー源になる力を秘めているのではないだろうか。

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