2020.1.22
ついに電気で飛ぶ日が来た!? 飛行機は環境に優しい乗り物になれるのか
まずは短距離路線から実用化! ついに航空業界もゼロエミッションへ
ヨーロッパで誕生した「飛び恥」という言葉をご存じだろうか? これは、環境に悪影響を及ぼす飛行機に乗るのが恥ずかしいという意味だ。国土交通省によると、飛行機で1km移動する際の二酸化炭素排出量は、乗客1人あたり96g。鉄道の19gと比べると約5倍となり、対策が急務になっている。そうした中、カナダの航空会社・Harbour Air社が、世界初の商業飛行機を使った電動フライトに成功したという。世界中で注目を集める飛行機の電動化への第一歩を紹介する。
INDEX
電動飛行機実用化のカギは“距離”にあり
電車やバス、飛行機など、われわれの生活の足となる公共交通機関。
かつては石炭やガソリンといった環境に負荷をかける原料で動くものしか存在しなかったが、近年では電気をエネルギー源とするものへの転換、もしくは電気で動くことが当たり前になりつつある。
まずは、電車。
ご存じの通り、地下鉄や新幹線、路面電車など、日本で活躍する多くの列車が電化されている。一部、非電化区間ではディーゼルエンジンを搭載した気動車なども走行しているが、最近では気動車を電動化、もしくはハイブリッド化するケースも増加。環境負荷の軽減に取り組む鉄道会社が多くなってきている。
※気動車の電動化(ハイブリッド化)に関する記事はこちら
次にバス。
こちらはまだまだガソリンをエネルギーにしているものが大多数だが、リチウムイオン電池を搭載したバスの導入が世界各地で進められている。日本では京都府や岩手県で電動バスが定期運行しているほか、福島県では尾瀬国立公園への足としても活用されている。
※電動バスに関する記事はこちら
最後に飛行機。
電動への転換が最も遅れているのがこの分野だ。世界で運航されている電動飛行機は存在せず、大手航空会社でも製造の構想段階にとどまっている。
その理由はいくつかあるが、長距離移動が基本の飛行機に対し、動力源となるリチウムイオン電池をはじめとしたバッテリーではエネルギーが不足すると考えられているためだ。
しかし、2019年12月、世界初の商業電動飛行機のテストフライトに成功したというニュースが世界を駆け巡った。
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ついに商業電動飛行機実現に向けての一歩がスタート。ライト兄弟が世界で初めて空を飛んだのも116年前の12月だった
この大きな偉業を達成したのは、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のリッチモンドに本拠地を構えるHarbour Air社。北米最大の水上飛行機の航空会社として、カナダ国内の定期便やアメリカとの国際定期便、チャーター便など、1日約300便を運航している企業だ。
同社がターミナルを構えるカナダ・バンクーバーのフレイザー川から飛び立った世界初の商業電動飛行機は、約4分間のテスト飛行に成功。同社CEOで、この日のパイロットも務めたGreg McDougall氏が「われわれは歴史を作った」と語る通り、飛行機の電動化を目指す航空業界にとって大きな一日となった。
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Harbour Air社CEOのGreg McDougall氏(左)とアメリカの電動機メーカー・magniX社CEOのRoei Ganzarski氏(右)
今回のフライトでは、同社が保有するDHC-2 de Havilland Beaver(以下、DHC-2 Beaver)という6人乗りの飛行機を使用。本来は450馬力のエンジンと燃料で飛ぶ機体だが、アメリカの電動機メーカー・magniX社製の電動モーター・magni500とリチウムイオン電池を代替搭載することで空への扉を開いた。
magni500は750馬力(560kW)を有し、1分間の回転スピード(rpm/回転毎分)は基本1900rpm、最大で3000rpmを出力することができる。電動化する際のネックの一つであった重量も135kgに抑え、もともと機体が搭載していたエンジンの約半分の重さとなった。
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出典:magniX Powering Flight
電動飛行機が環境に優しいのはもちろんだが、メンテナンスが容易になる点や給油設備が不要になる点など、そのメリットは数多い。
また、特筆すべきなのがコスト面だ。
本来のDHC-2 Beaver が持つエンジンと燃料での飛行では、100マイル(約160km)あたり300~400ドル(約3万3000~4万4000円)であるのに対し、magni500とバッテリーでの飛行では100マイルあたり10~20ドル(約1100~2200円)と想定されている。
気になるのは飛行距離だが、今回の組み合わせで100マイル(160km)を十分に飛行できる可能性があるという。
大手航空会社では短すぎる距離だが、Harbour Air社の主要路線は距離が短いのが特徴。たとえば、バンクーバーとブリティッシュコロンビア州の州都・ビクトリア間は約58マイル(約92.8km)で飛行時間は約30分。そのほかの路線でも30分未満のフライトが多く、実用化に向けて勝算は十分だ。
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見事な朝焼けの中、世界初のフライトに挑んだHarbour Air社のDHC-2 Beaver
2~3年以内に電動飛行機の商用運航を開始したいというHarbour Air社。
将来的には全ての機体を電動化する予定で、それに合わせてmagniX社では1500馬力の電動モーターも開発しているという。
2019年6月にフランス・パリで行われた世界最大級のエアショー『パリ航空ショー』では、イスラエルの電動飛行機スタートアップ企業・Eviation Aircraft社もプロトタイプを発表。2022年にアメリカの航空会社へ納機する予定だと表明している。
いよいよ本格化してきた空の電動化合戦。
どの航空会社が世界初の商用運航を開始するのか、目が離せない日々が続きそうだ。
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text:佐藤和紀