2020.5.25
ノルウェー北部で建設中! 消費エネルギー以上の電力を自ら生み出す世界初の創エネホテル「Svart」
目指すは絶景氷河との共生! 持続可能な新しいツーリズムのスタンダードとなるか?
観光地に耐えられる以上の観光客が押し寄せ、環境への負荷が大きくなる状態を指すオーバーツーリズム──。フィリピンのボラカイ島が環境保全のため半年間にわたって閉鎖(2018年)に追い込まれ、世界中で報道されたことは記憶に新しい。一方で、新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)が行われたイタリア・ベネチアでは運河が透き通るほどきれいになるなど、ツーリストが減ることで本来の姿に戻ることも確認できた。コロナ禍の収束後の観光産業は、いかに環境との共生を図っていくかがポイントとなるだろう。そうした中、省エネと太陽光発電を駆使し、自らが必要なエネルギー全てを作り出すホテルがノルウェーで建設中だという。ホテルにも環境負荷軽減が求められる今後に向け、モデルケースになるかもしれない新たな取り組みを紹介する。
先細りする化石資源からの脱却に向けて
北欧のエネルギー大国・ノルウェー──。
石油と天然ガスを合わせた生産量は年間約14億2600万バレル*に及び、大半を欧州各国に輸出している。そのGDP比は12%、輸出(サービスを除く)の約42%を占め、天然ガスの輸出額は世界第3位*となっている。
*いずれも2018年の統計データ
一方、国内の電力需要に関しては、ほぼ全てを再生可能エネルギーで賄っているという驚異的な事実もある。豊富な水資源と急峻(きゅうしゅん)な地形を生かした水力発電が全体の95%以上を占めているのが特徴だ。
また、首都・オスロでは、2050年までに温室効果ガス排出をほぼゼロにするという目標を掲げ、自治体としては世界初の気候予算案を2016年に発表。市内中心部への一般車乗り入れ禁止や自転車レーンの整備など、CO2排出量削減に向けた対策や予算を見える化したことで話題になった。
国としても2025年までにガソリン車やディーゼル車の新車販売を取りやめる方針を策定。2019年の新車販売において、電気自動車の比率が全体の42.4%と世界記録を達成したこともあり、目標の実現に向けて着実な歩みを見せ始めている。
いずれ終わりを迎える化石資源にばかり頼るのではなく、明確なビジョンを持って環境先進国としての地位を確立しつつある同国。そうした中、興味深い新たなプロジェクトが北ノルウェーのヌールラン県メロイで進行しているという。
北極圏に位置するこの地で建築が進められているのは、世界初となるポジティブ・エナジー・ビルディング(以下、PEB)のホテル版「Svart(スヴァト)」だ。
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スヴァルティセン氷河の麓に建設中のSvart完成予想図。冬は部屋の中からでも北極圏ならではのオーロラ観賞が期待できる
PEBとは、建物に必要な電力を上回るエネルギーを自ら生産し、外部に供給可能な建物のこと。近年、日本でも推奨されているネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の進化版と考えればよいだろう。
※日本国内におけるZEBの取り組みはこちら
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ZEBのイメージ図。創エネ量と消エネ量がイコールならZEB。創エネ量が上回ればPEBとなる
出典:環境省
Svartを運営するのは、ノルウェーの不動産会社Miris Eiendom(ミリス アインドム)の子会社Arctic Adventure of Norway(アークティック アドベンチャー オブ ノルウェー)。北極圏での持続的な観光を目的として、新たに設立された会社だ。
設計を手がけるのは、オスロやニューヨーク、香港などに事務所を構える世界的設計事務所・Snøhetta(スノヘッタ)。これまでノルウェー国内に建築された4つのPEBを担当しており、その斬新なデザインと高機能性は国内外で高く評価されている。
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Snøhettaが手がけ、2019年に完成したトロンハイムの「Powerhouse Brattørkaia(パワーハウス ブラットールカイア)」。2867m2ものソーラーパネルが敷き詰められ、平均してビルが1日に必要な電力の2倍以上を作り出せるという
世界初、そして世界で最も北に位置するPEBに
約100の居室や研究室のほか、ホテル内4つのレストランへ食材を供給する農場までを備える設計となっているSvart。
屋根に設置したノルウェー製の太陽光パネルから電力を得る仕組みで、消費するより60%も多くの電力を生み出せると試算されている。
北極圏に位置し、夏の日照時間が長いことで発電量が大きいことも一つの要因だが、現代の一般的なホテルと比べて年間85%ものエネルギー消費量を削減できるというのが大きな理由だ。
驚異的な省エネを可能にするのが、その独創的な円形状のデザイン。一年を通して太陽の角度や日射量を計算した結果、最もエネルギー効率が最適になるような設計だという。
太陽の角度が高い夏場は、部屋に入る日射量を最小限に。冬場はその逆で、角度の低い太陽光を最大限部屋に取り入れる。これにより建物内の温度を適温に近づけることができ、冷暖房の使用量を削減する仕組みだ。
また、ノルウェー古来の建築物を参考に木を多用するデザインが採用されている点も特徴的。景観とのマッチングはもちろん、資材のエネルギーコストを抑えることにも成功している。
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海に浮かんでいるかのような独創的なデザイン。居室の下は回廊のようになっている
2022年の開業を目指し、建築が進むSvart。開業から5年以内にオフグリッド(送電網につながっていない電力システム、独立電源)を目指す方針だという。
また海からしかアクセスできない立地のため、ヌールラン県最大の都市・ボーデへの往復シャトルボート運航も計画されており、ここにもホテルが生み出したエネルギーを使用する予定だ。
持続可能な観光地づくりが求められる昨今。自然環境との共生をSvartが果たすことで、今後のモデルケースになっていくのかもしれない。
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text:佐藤和紀