特集
カーボンニュートラルのいろは

カーボンニュートラル先進国・デンマークに学ぶ「私たちにできること」

世界初のカーボンニュートラルな首都を目指すコペンハーゲンはどう炭素と向き合っているのか

2025年までに「世界初のカーボンニュートラルな首都」を目指すと目標を掲げ、精力的に脱炭素化に取り組む都市がある。デンマーク・コペンハーゲンだ。再生可能エネルギーによって化石燃料利用を減らし、緑豊かな都市づくりを行ってきた。そんなコペンハーゲンの公的財団として、諸外国から企業誘致などを行うCopenhagen Capacity(コペンハーゲン・キャパシティ)社のコンサルタント、オリバー・ホール氏に、現地から見た取り組みの“今”について話を聞いた。

デンマークが脱炭素化を目指した理由

世界一とも称されるレストラン「noma」やコンテンポラリー家具ブランドの「BoConcept」など、文化や暮らしにおいて、世界へと革新的な提案をしてきたデンマーク。そのイノベーティブな国が2011年、エネルギーにおいても世界中に大きなインパクトを与えた。

デンマーク政府が掲げた「エネルギー戦略2050」は、2020年までにエネルギー産業の化石燃料利用を2009年比で33%削減し、2050年には化石燃料からの完全な脱却を目指すというもの。そして、エネルギー供給の100%を再生可能エネルギー(以下、再エネ)でまかなうという世界に類を見ない高い目標だ。

デンマークの首都・コペンハーゲン。1980年から経済が90%以上も成長する中、同国のエネルギーの消費量は40年間変わっておらず、炭素排出量は下がっている

「デンマークが環境問題やエネルギー問題に本格的に取り組むようになったのは、ここ数年のことではありません。1970年代に石油危機があった際、燃料のほとんどを石油の輸入に頼っていたデンマーク、イスラエル、そして日本の3国は、大きな混乱に陥ったのです。この経験を受けて、デンマークは他国に頼らず、自分たちでエネルギーを供給していく方向へとかじを切りました」

そう話すのは、コペンハーゲン首都圏地域で国外の企業や人材、投資家の誘致を行うコペンハーゲン・キャパシティ社のオリバー・ホール氏だ。同社では毎年、世界中から30~40社の企業誘致を行っているという。中でも、ホール氏が担当するのは、日本である。

「1973年にデンマークは環境保護法を作りました。そのころから単に脱化石燃料というだけでなく、環境に配慮した国づくり、街づくりへとシフトしていったのです。一時、国内に原子力発電所を造るという議論も持ち上がりましたが、1985年にデンマークは全面的にそれを禁止しました。その代わりに、洋上風力発電の研究開発に力を入れ、実行。そして、その効果を実証していったのです」

2017年、デンマークでは風力発電による総発電量が1万4700GWh(ギガワット時)にのぼり、国全体の消費電力の43.6%を風力だけでまかなった

こうした中、コペンハーゲン市内で「カーボンニュートラル」に着目した動きが活発になっていった。2011年に降った大雨の影響で、同市の街は床下浸水により大きな被害を受けたからだ。この時から、「温暖化」を問題視する声も大きくなっていったのだという。

「それを受けて2013年にコペンハーゲン市が『CPH 2025 Climate Plan』(2025年までに世界初のカーボンニュートラルな首都になることを目指すことなどを掲げた気候計画)を作成、実行しています。現在は、2005年と比較すると、市の炭素排出量は40%にまで下がっています」

再エネだけじゃない、市民ができるカーボンニュートラル

では、カーボンニュートラル政策の指揮を執るコペンハーゲン市では、具体的にどのような取り組みが行われているのだろうか?柱となるのは、次の4つのキーワードだ。

(1)エネルギー生産
(2)エネルギー消費
(3)グリーン・モビリティ
(4)市政

(1)は、例えば同国が40年以上にわたって取り組んできた再エネの経済利用が分かりやすいだろう。年間を通して、国内の消費エネルギー自給率85%以上を維持しているデンマークでは、時に近隣の国々に余剰電力を販売しているという。逆に、天候の影響などで電力供給が間に合わなかった場合、スウェーデンやノルウェー、ドイツ、オランダから電力を購入することもある。

デンマークと、提携しているその周辺諸国の発電量と消費量が24時間リアルタイムで確認できるサイト。自国の電力供給量を国民一人一人が自分ごととして意識するきっかけにもなっている

出典)ENERGINETサイトより

さらに2019年に入り、デンマークと英国を接続する世界最長の電源ケーブルも設置が始まった。

次に柱(2)の要として、今積極的に取り組まれているのが、「アップサイクル&リサイクル」だ。「アップサイクル」とは、サステイナブル(持続可能)なものづくりの方法論の一つで、単なるリサイクルではなく、元の製品よりも次元・価値の高いものを生み出すことを最終的な目的とした考え方だ。新たなエネルギー消費量を減らすために、「再利用」は重要な取り組みであると考えられている。

「例えば2019年末から2020年の初めにかけて、コペンハーゲン市内に『UN17 VILLAGE』という商業施設の建設が始まろうとしています。UN17の『17』は国連が定める『持続可能な17の開発目標(SDGs)』に由来しています。この施設は、100%リサイクル素材、廃材などを使って造られる予定です。開発を進めるのは『LENDAGER GROUP』というデベロッパーで、彼らは同じ方法で『UPCYCLE STUDIOS』という、日本でいうメゾネットタイプの集合住宅の建設なども行っています。このほか、スマートシティ化を進めているのも、エネルギー消費を抑えるために欠かせません」

UN17 VILLAGEの完成イメージ。オープン後は400の施設が入る予定だ

出典)UN17 VILLAGE公式サイトより

UPCYCLE STUDIOS。廃材などを再利用しつつ、スタイリッシュな建築となっているため、コペンハーゲンの人たちからも人気だ

出典)UPCYCLE STUDIOS公式サイトより

続く柱(3)で挙げた「グリーン・モビリティ」は、渋滞や公害を減らす取り組みだ。

「ご存じの通り、北欧、特にデンマークは福祉社会、税金が高いことで有名です。消費税は25%ですし、所得税は多い人で60%も納めている人もいます。10%への消費税増税でさまざまな議論があった日本では考えられないかもしれませんが、デンマーク国民は税金に対して全く不満を持っていないんです。学費や医療費がタダになるだけでなく、街中を5分も歩けば必ず公園がある。それも税金でまかなわれています。都会だろうと、どこにいても自然がそばにあるというのは、環境だけでなく、われわれの健康にも良いと感じています」

これは人の生活や健康への有益性、つまりクオリティ・オブ・ライフ(QOL)向上につながるもので、例えば自治体が自転車のインフラを整備したことは、大きな効果を上げている。

「コペンハーゲン市内の自転車専用道路を充実させるなど、4年ほど前から本格的に取り組まれてきました。開始当初、自転車で通勤する人は市民の48%程度でしたが、今では63%にまで増加しています。車を使う人が減れば、単純に炭素排出量は下がりますし、利用者の健康にもつながります。結果的に医療費も減ってきているんですよ」

日本では、歩道と車道は分けられていても、自転車専用道路が敷かれているところは、まだ少ない。コペンハーゲンでは3つの道路がしっかりと分けられており、自転車も走りやすい

また、コペンハーゲンは、スマートシティのフロントランナーという側面もある。柱の(4)については、例えば、デンマークとスウェーデンの両地域・行政・大学間の画期的なパートナーシップ「Lighting Metropolis(ライティング・メトロポリス)」などに注目が集まっている。

「デンマーク東部とスウェーデン南部の地域を含むコペンハーゲン首都圏は、380万人の生活圏です。ライティング・メトロポリスは、インキュベーターや科学者などを含む官・民のパートナーづくりや、実存の都市空間や建物を開発・試験・デモで利用するなど、イノベーションの新しい基準づくりを促進することを目的としています」

発電所の上にスキー場?炭素排出量を可視化

ホール氏によれば、コペンハーゲンが掲げた「2025年までに世界初のカーボンニュートラルな首都」になるという目標は、このまま進めば間違いなく達成されるという。しかし、温暖化はデンマークだけでなく、世界規模の問題だ。日本はこの動きに続くことができるのだろうか。

「日本はデンマークと同じ石油危機を体験した国です。でも、その後に進んだ方向が両国では大きく異なりました。しかし、日本は2011年に東日本大震災を経験し、ようやく私たちと同じ方向を向きつつあると感じています。それでも、ここには40年間というズレがあります。

ただ、技術力という点で、日本は本当に素晴らしい。2014年デンマーク最大の風力発電会社Vestasと、三菱重工業が共同で『MHI Vestas Offshore Wind社』というジョイントベンチャーをつくりました。そして、2018年には世界で初めて、10MW(メガワット)の風力発電設備の開発に成功、2021年の実用化を目指しています。私たちが協力し合って実現できることは、まだまだあるはずです」

しかし、企業だけでなく、市を挙げて、国を挙げてのカーボンニュートラルに向けた取り組みは、高額な税金を国民が支払い、それに不満を持たないデンマークだからこそ実現可能なのではないだろうか。

「実は、デンマークの税金の中に『炭素税』(化石燃料の炭素含有量に応じて使用者に課す税金)というものが別に設けられているわけではありません。普段から高額な税金を納める代わりに、集められたお金をどこに投資するかを決定する際には、政治家だけでなく、市民・国民の声が非常に重要視されています」

国民全体が持つ環境への高い意識は、発電所の新たなカタチも生み出すことになった。2019年10月、コペンハーゲンで「Amager Bakke(CopenHill)」という廃棄物発電所(ごみ焼却時の熱を利用した発電所)の上に人工スキー場がオープン。その奇抜な取り組みが話題となっている。

コペンハーゲン市内南東部に位置する「アマー島の丘」と名付けられ、嫌厭、懸念されがちな廃棄物発電所の上を遊び場にすることで、都市資源の扱い方を間近で見て、考えてもらおうという試みだ。

「Amager Bakke」は、廃棄物発電所から1tの二酸化炭素が大気中に放出されるたびに、煙突から“水蒸気の輪”が出される仕組みになっている。コペンハーゲン市民が今、どれほど炭素を排出しているのかを意識させる目的があるという。

「国民全体が心から『環境に優しい取り組みに予算を割いてほしい』と強く思っているからこそ、さまざまな取り組みが実現できているのです。もちろん、デンマークという国は、人口でいえば日本の兵庫県くらいの小さな国だからこそ可能であると言えるかもしれません。ですが、日本の皆さん一人一人の意識が変われば、変化を起こせるのではないでしょうか」

人口600万人に満たないデンマークと比べれば、1億を超える日本の意思を一方向にまとめることは難儀だろう。それでも、カーボンニュートラルな暮らしを数年後に実現させる先達に学べば、ゼロから始めるよりもずっと容易になる。世界に先駆けた成功の背景にある、デンマークに根差した価値観や文化から、きっと大きなヒントを得られるはずだ。

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