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耐性菌パンデミックを回避へ! 狙った細菌のみを死滅させる殺菌技術を自治医科大学が開発

細菌のRNA(リボ核酸)を切断して殺菌。薬剤耐性菌問題の解決に期待大

数多くの抗菌薬を開発し、ペストや結核などさまざまな細菌感染症を克服してきた人類。しかし、これまでは狙った細菌のみを殺菌することができず、人体に有益である細菌まで死滅させてしまっていた。そんな中、日本の研究グループが特定の細菌のみを殺菌する新たな技術を開発した。細菌感染症治療の未来を担う新技術の詳細をご紹介する。

薬剤耐性を持つ細菌にも効果を発揮!

約40兆個もの細胞の集合体といわれる人体──。

体内ではその数をはるかに上回る多くの細菌が共生している。細菌の多くは人間にとって有益な存在であるが、中には細胞のがん化に関わる細菌など人体に悪影響を及ぼすものもある。

そうした細菌に対して人類は、抗菌薬を開発することで対処してきた。

抗菌薬は細胞の構造や増殖過程を抑制することで効果を発揮する。例えば、ペニシリンなどは細胞の細胞壁を破壊して細菌を死滅させるが、ヒト細胞には細胞壁がないので、抗菌薬に攻撃されることはない

ところが、これまでの抗菌薬は技術的なハードルの高さから悪性の細菌のみを選択して殺菌することができなかった。つまり、人体を健康に保つために必要な細菌までも一緒に殺菌してしまっていたということだ。

そうした抗菌薬の副作用としてよく知られているのが下痢。これは腸内環境を保っている善玉菌にもその効果が発揮されるためであり、抗菌薬には大なり小なりこのようなリスクが内在していた。

抗菌薬は菌の善悪を判断できないため、善玉菌に対しても攻撃し、死滅させてしまう

また、抗菌薬が開発されても、長年使用を続けるうちに一部の細菌が抗菌薬に耐性を持つ(薬剤耐性菌)ケースがある。

細菌との戦いがいたちごっこといわれるゆえんだが、近年では臨床に使用されるほぼ全ての抗菌薬に対して薬剤耐性菌が確認されている一方で、新たな抗菌薬の開発は進んでいないという。

一部の細菌が薬剤耐性を獲得した(A)後、投薬によって薬剤耐性を持たない多数の細菌が死滅する(B)と、少数派であった薬剤耐性菌がどんどん増殖できるようになる(C)。Bのような薬剤耐性菌が増殖しやすい環境を「選択圧」と呼ぶ

仮に、薬剤耐性菌感染症の治療が困難になれば、治療法を確立した細菌感染症であってもパンデミックを起こす恐れがある。実際にWHO(世界保健機関)もこうした状況が続いた場合、2050年には耐性菌によって年間1000万人の死者が出ると警告していることから、現状はかなり深刻だ。この危機的状況を脱するためにも、従来とは異なるメカニズムで殺菌を行う抗菌剤や薬剤耐性菌を簡易に検出できる診断システムの開発は喫緊の課題となっている。

そんな中、自治医科大学の崔龍洙(さいりゅうしゅ)教授と氣駕(きが)恒太朗講師らの研究グループは6月10日、新たな殺菌技術を開発したと発表。それによれば、これまで不可能だった特定の細菌だけをピンポイントで殺菌することが可能になるという。

今回、研究グループが着目したのは「CRISPR-Cas13a」と呼ばれるRNA(リボ核酸)分解形のリボ核タンパク質複合体。生命エネルギーの源ともいえる生体高分子のRNAを標的とするCas13aは、疾患リスクや体質を解析する遺伝子検査や、がんのような遺伝子異常による病の治療を行う遺伝子治療などさまざまな領域で応用が期待されている分子だ。

研究は、Cas13aの殺菌能力を確認するところからスタート。すると、Cas13aはRNAを切断して殺菌する生物活性を有していることが明らかになった。さらに、標的遺伝子を狙う配列(crRNA)を最適化することで強い殺菌効果を示すことも判明した。

実験結果、標的遺伝子に対するcrRNA配列を最適化すると、Cas13aは強力な増殖抑制作用を発揮すること(図BとC)、宿主細菌の細胞死を引き起こすこと(図D)を確認。Cas13aは設計次第で強力な殺菌剤となる

画像提供:自治医科大学

そこで、研究グループはCas13aの殺菌活性を利用した新しいタイプの殺菌剤を開発。

続いて、細菌に感染するウイルス「ファージ」のカプシド(タンパク質の殻)内のゲノムをCRISPR-Cas13a遺伝子に置き換え、対象細菌までの運搬システムを確立した。

「抗菌カプシド」(図A)と、blaIMP-1を標的とした「抗菌カプシド」の投薬結果(図B)

画像提供:自治医科大学

これらの技術を組み合わせて開発した新規抗菌製剤「抗菌カプシド」を用いた実験では、薬剤耐性菌などの遺伝子を認識し、特定の細菌に対して高い殺菌能力を示した。

混合細菌集団の中で、標的遺伝子が組み込まれた「抗菌カプシド」は特定の細菌のみを攻撃し減少させることに成功

画像提供:自治医科大学

カルバペネム耐性遺伝子(blaIMP, blaOXA, blaVIM, blaNDM, blaKPC)を標的とするそれぞれの「抗菌カプシド」が、標的の細菌を選択的に殺菌することを確認。細菌遺伝子の保有状況の視覚的判別に成功した

画像提供:自治医科大学

また、この実験において「抗菌カプシド」は細菌の増殖の有無で遺伝子検査ができることも確認された。研究グループでは、実用化されれば専用機器が必要なPCRとは異なり、安価かつ簡便な方法での判定が可能になるとしている。

今後も続く細菌との戦い──。

一人でも多くの人命を救うための武器を手に入れる日が、一日でも早く訪れることを期待したい。

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