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自然風で航行する無人ヨット誕生! 帆船型ドローンが海洋インフラに新風を吹き込む

将来的には海上の再生可能エネルギーから作られた水素運搬も目指す

古くから海洋資源と共生してきた日本──。2019年には「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が施行され、洋上風力発電の機運が高まりつつある。一方で、漁業従事者の減少や離島を結ぶ定期船の減便など、他に取り組むべき課題が多いのも事実だ。そうした中、無人の帆船型ドローンでそれらの問題を解決すべく、研究・開発が進められているという。漁のアシストや小型観光船など、実用化が待たれる“飛ばないドローン”を紹介する。

産業革命前に活躍していた帆船に着目

すっかり身近な存在になったドローン。今ではホビー用途のトイドローンなら1000円台で購入できるものも多く、複数台所有しているという人も少なくない。

無人航空機の新たな産業・市場の創造支援と発展を目的として設立された一般社団法人 日本UAS産業振興協議会(JUIDA)によると、2018年に世界で出荷されたドローンの機体数は約400万機。そのうちの9割がホビー用途で、産業用はわずか1割だったという。

しかしJUIDAの見解によれば、2023年に向けてホビー用途の需要が横ばいになる一方、産業用ドローンの出荷台数は大幅に伸びると予測している。

既に農業においては農薬の散布や生育状態の確認のために導入されている事例も多く、林業や漁業を含めた第一次産業界の人材不足解消につながるのではないかとの期待も大きい。

そして今後は、“飛行しない”産業用ドローンの需要も増えてくる可能性があるという。

その一つとなり得るのが、エバーブルーテクノロジーズ株式会社が手がける帆船型ドローンだ。

近年は“無線操縦で動く無人の機器”を広義でドローンとするケースが多く、水中撮影用の無線機が「水中ドローン」として活躍。注目を集めつつある。

同社では、海上での自動操船技術を伴う帆走船を「帆船型ドローン」と命名し、研究・開発を手掛けている。そしてことし6月、全長2m級の自動帆走船「Type-A」の実証テストでは、神奈川県逗子市の海上に設置した2カ所の経由スポットを半径5m以内で旋回し、スタート地点に戻ってくるテストに見事成功した。

※農薬散布ルートを自動生成する最新ドローンの記事「農業の空が変わる!農薬散布ルートを自動生成するドローン、ヤマハ発動機が発売」
※水中ドローンが水の中に何をもたらすのか、開発に関する記事「水中ドローンで水深1000m到達!海の底から見えた水中調査ビジネス」

帆船型ドローンの研究・開発をまとめた動画。「Type-A」は1分7秒あたりから

この航行は人間による遠隔操作ではなく、設定した経由地や目的地間を自動で航行したというのが1つ目のポイント。また、メーンのエネルギー源として自然風が用いられているのが2つ目のポイントだ。

これにより、無人で長時間航行が可能になるという。

例えば、飛行型では20分ほどしか動かない電池容量を用いた場合でも、帆船型ドローンでは最大8時間の稼働が可能になる。これは、通信とセール(帆)、ラダー(かじ)の制御のみにしか電力を使わないためだ。さらに、太陽光発電と組み合わせることで、数日から数週間の無充電運用も視野に入れているという。

無風時や離着岸時の安全確保のため、電力で動く補助モーターも付随する

エンジンが生まれるはるか前から活躍していた帆船に最新の技術を加えて航行させるというこのプロジェクト。

発足のきっかけは、海上の再生可能エネルギーから水素を生成する社会が期待されている中で、水素を運ぶ無人の運搬船を作れないかという思いだった。

※川崎重工業のCO2フリー水素サプライチェーン構想プロジェクトに関する記事「未利用資源をクリーンエネルギーに!安定供給実現に向けた水素サプライチェーン構想」

さまざまな分野で早期の実用化が期待されるワケ

同社の設立は2018年。基本的なプロジェクトはリモートかつオープンソース(無償公開)で進められており、興味を持つ各分野のプロフェッショナルが参加できる。そうすることで、各所で活躍するエンジニアやデザイナーなど、新しいチャレンジに取り組みたい人が集まり、常識にとらわれない数多くの技術が採用されているという。

例えば、船体の製造に3Dプリンターを用いること。これにより、大幅なコストカットと時間の短縮に成功している。将来的には3Dプリンターのフィラメント(樹脂)を消化分解可能な魚用飼料に替えることを検討しており、どうしてもこの手法が必要だったという。

世界的ヨットレース「アメリカズカップ」のレース艇をデザインした金井亮浩氏ほか、カーデザイナーや3Dモデラ―などが集結して設計や製造を行う

また、制御用ソフトウエアにはドローンのオープンソースプロジェクト「Ardupilot(アルジュパイロット)」をベースに独自の技術を実装し、開発期間の短縮につなげた。

さらに、帆船型ドローンを無線操縦するための通信に関しては、4Gまたは3G回線とクラウドを活用。通信キャリアがサポートするエリア内であれば、リアルタイムでのモニタリングや遠隔操作を可能にしている。

これらの技術を駆使し、2019年に全長1m級クラスの帆船の製造を開始。ことしに入り、葉山港から江の島間に複数定めた経由地を通り、約7kmを自然風のみで自動航行することに成功した。

1m級クラスの帆船が葉山港から江の島間を自動航行した際の軌跡

そしてことし製造した2m級の「Type-A」には、漁業や海洋探査に用いられるソナーを装備。無事にテスト航海を終えたことで、販売に向けてさらなる改良を加えていく予定だ。

実用化されれば自動で魚群や海底の深さなどのデータ取得が可能になり、人を乗せた船自らが出航する手間が省けることに。これにより、燃料代や漁師の負担が軽減され、漁業の効率が飛躍的に向上することが期待されている。また、高級魚を一本釣りして全自動で帰港するタイプのドローン開発も目指すという。

漁業のほか、2~6人乗りの自動海上タクシー「Type-X」を製造し、運送・観光業への販路も拡大したいとする同社。離島への移動手段や貸し切りタイプの小型観光船としての用途を見据えており、陸上のライドシェアサービス『Uber』のような使われ方を想定している。

さらに、発足のきっかけでもある海上の水素運搬船についても、研究・開発を進めていくという。

エバーブルーテクノロジーズ社のロードマップ。さまざまな分野での活用が期待されている

古くから海と共生してきた日本発の無人帆船型ドローン。

実用化された折には、風を受けて進む帆船のように日本産業界にも大きな追い風が吹くのかもしれない。

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