2020.11.6
FCV技術を鉄道に! 水素がエネルギー源のハイブリッド(燃料電池)試験車両開発が加速度UP
JR東×日立×トヨタが連携! 水素をエネルギー源に発電し、モーターを駆動させて走行
新型コロナウイルスの影響により、一気に広がりを見せた企業のテレワーク活用。新たな働き方のスタイルが生まれる一方で、通勤利用者が減少する中、鉄道会社は苦境に立たされている。そんな中、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)は持続可能な社会のエネルギーとして期待される水素を活用した試験車両の開発をスタートすると発表。他の乗り物に比べて環境優位性に勝る次世代車両の全貌をご紹介する。
INDEX
FCV(燃料電池自動車)の技術を鉄道車両に応用
持続可能な社会の実現に向けて、現在さまざまな分野において技術革新が進められている。
それは、ウィズコロナ時代に利用者数の回復を目指す鉄道業界も例外ではない。
例えば、EV(電気自動車)のように車両に搭載したバッテリーの電力で走行する蓄電池車や、エンジンで発電した電力でモーター駆動させて走行する電気式気動車はそうした要望に応える一つの形といえる。よりクリーンなエネルギーで走行できる次世代の鉄道車両の登場は、世界が望むところだ。
そうした中で、鉄道とクルマを代表する企業であるJR東日本とトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)は、2018年9月に水素を利用した鉄道と自動車のモビリティ連携を軸とした包括的な業務連携の基本合意を統括。2019年6月には、JR東日本は同基本合意に基づくトヨタからの協力を得ながら、水素をエネルギー源としたハイブリッド車両(燃料電池)試験製作と実証実験の実施を発表している。
つまり、環境型鉄道車両の開発が次のステージへ進むことが示されていた。
※当時の記事「高圧水素で走行する世界初の燃料電池車両が誕生間近? JR東日本が試験車両の製作に着手」
そして今回、新たに株式会社日立製作所(以下、日立)を加え、3社連合による新たなハイブリッドシステム搭載のFC(燃料電池)試験車両「HYBARI(HYdrogen-HYBrid Advanced Rail vehicle for Innovation:ひばり)」の開発に着手すると発表した。
この車両名称には、変革を起こす水素燃料電池と主回路用蓄電池ハイブリッドの先進鉄道車両をイメージし、HYには水素(HYdrogen)の意味とともに、HYBでハイブリッド(HYBrid)の意味が込められている。
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3社が持つ鉄道技術と自動車技術を融合し、FCV「MIRAI」やFCバス「SORA」で実用化されている自動車の燃料電池を鉄道に応用。「HYBARI」を開発するというのが今回の取り組みだ
車両形式はFV-E991系。2両1編成で構成される。
最高速度は100km/hで航続距離は最大約140km、主回路用蓄電池として120kWhのリチウムイオン電池装置を2台搭載する。
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ハイブリッド駆動システムの概要図
動力の一翼を担うのは、もちろん水素だ。
「HYBARI」には、貯蔵容量51Lの水素タンクが5本1セットになったユニットを4つ搭載。水素が燃料電池装置に供給され、空気中の酸素と化学反応することで発電する。さらに主回路用蓄電池は燃料電池装置からの電力に加えて、ブレーキ時の回生電力を使って充電される仕組みになっている。回生電力は、車両がブレーキをかけた際に失われる運動エネルギーでモーターを発電機として作動させ、電力に変換・回収することをいう。
また、ハイブリッド駆動システムは燃料電池装置と主回路用蓄電池の両方からの電力を主電動機に供給し、車輪を動かすという仕組みになっている。
各社の役割は、燃料電池技術をトヨタが、燃料電池と主回路蓄電池とのハイブリッド駆動システム技術を日立が、「NEトレイン」などで蓄積してきた燃料電池車両の設計・製造技術をJR東日本がそれぞれ提供する予定。
JR東日本はこの「HYBARI」の実証試験を2022年3月ごろより、水素社会の実現を目指す取り組みを行う神奈川県川崎市や横浜市の協力の下、JR東日本の鶴見線、南武線(浜川崎─尻手─武蔵中原)で開始したい考えだ。
多くの人が移動手段として毎日利用する鉄道。
休みなく走り続けているだけに、地球温暖化の防止や脱炭素社会の実現に多大な貢献が期待できる今回の取り組み。
日本の高い技術力を結集し、一日でも早く実用化されることを期待したい。
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text:安藤康之