2023.2.7
お住まいの間、電気の安心をずっとお届け。20年、30年先を見据えた住宅づくりで脱炭素化を推進
住友不動産&東京電力グループが挑む共同プロジェクト
電気代やガス代の上昇など、これまで以上に省エネ・節電が求められる昨今、エネルギーをいかに効率よく運用するかは脱炭素社会の実現の観点からも重要であり、一般家庭でも長期的な視点でこの課題に向き合うことが求められている。こうした中、住友不動産株式会社と東京電力エナジーパートナー株式会社は、脱炭素社会の未来を見据えた共同プロジェクトを始動させ、TEPCOホームテック株式会社が展開する省エネ設備のサブスクリプション型サービス「エネカリ」を、住友不動産専用の「すみふ×エネカリ」として開発し、サービスを展開している。その詳細や展望を3社のプロジェクトリーダーたちに聞いた。
デベロッパー×電力会社が考える“脱炭素”の形
2021年9月に住友不動産と東京電力エナジーパートナー(以下、東京電力EP)が「脱炭素リードプロジェクト協定」を締結した。住友不動産企画部ESG推進室の池 大樹氏は「脱炭素施策を考える中で、弊社から話しを持ち掛けました」と締結までの経緯を話す。
「総合デベロッパーとして脱炭素施策を考えていく上で“建物にどのようなエネルギーが供給されるのか?”は重要なファクターであり、エネルギー分野で最も知見を有する東京電力EPさんに『一緒に革新的なものを創っていけませんか?』と相談しました」(池氏)
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「弊社では都内に約230棟のオフィスビルを保有・運営しているので、これまでも電気契約という観点で東京電力EPさんとは密接にやりとりをしていました」(池氏)
2021年4月、以前池氏がビル賃貸事業を担当している際に電気契約を通じて付き合いのあった東京電力EP販売本部法人営業部のエネルギー管理士・亀田健一氏がこの提案を受け止めた。
「脱炭素への取り組みが加速する中、デベロッパー業界トップクラスの住友不動産さんからお声掛けいただけたのは異例のことですし、大変ありがたいお話しでした。池さんは当初から提携のイメージを用意されていて、そのイメージを基に弊社カーボンニュートラル推進部とともに枠組みや細部の肉付けを行っていきました」(亀田氏)
カーボンニュートラル推進部は、主に企業の脱炭素への取り組みについて提案・推進をサポートする部門だ。同社再エネ事業開発第一グループマネージャーの安保陽平氏は、住友不動産の要望について「非常に印象に残っている」と明かす。
「デベロッパーとして単に太陽光発電所の建設や、環境価値付きの電気を購入するのではなく『お客さまと一緒に脱炭素に取り組んでいきたい』と強く望まれていました。その思いに応える方法として、お客さまの下で生み出せる環境価値を提供できないか?をディスカッションしながら考えていきました」(安保氏)
こうして、脱炭素リードプロジェクトはTEPCOホームテックが提供する「エネカリ」を軸とした展開へ進み出した。
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エネカリの概念イメージ。家庭ごとに電気をつくり、ためて、家庭内のエネルギーを上手に運用=節電、災害への備えや脱炭素化による環境価値の創出を提案している
一生涯の住まいでずっと安心できるサポートを
エネカリは、一般家庭の戸建住居に太陽光発電システムや蓄電池、給湯器などの設備機器を初期費用0円で提供。月々の利用料を支払ってもらうサブスクリプション型サービスだ。特に新築住宅購入時には大きな経済負担が求められることから、太陽光発電システムや蓄電池の導入を見送ることが多いが、「エネカリ」では初期導入費用を負担することなく、それらの機器を利用することができる。
※エネカリに関する記事:省エネや防災対策をもっと手軽に、賢く実現! 初期費用ゼロで始めるマイホームのエネルギーマネジメント
運用元のTEPCOホームテック経営戦略本部部長の杉原広央氏は「ただ連携するだけではなく、脱炭素リードプロジェクトとしての独自性、先導性、先進性を付加しなければと、3社で数カ月にわたり幾度も協議を重ね、新概念の『エネカリ』を作り上げることができました」と話す。
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脱炭素社会の実現に向けた住友不動産、東京電力グループの協力体制。新築やリフォームを機に、家庭へ電力の自家消費=地産地消の設備を提案・提供する
こうして、住友不動産と東京電力EPは2021年9月に脱炭素リードプロジェクト協定を締結し、その第1弾として「すみふ×エネカリ」が発表された。
従来のエネカリが10年(または15年)でサービスが終了するのに対し、「お客さまがお住まいの間ずっとサポートします、という部分で他にはない“+α” の価値を付けています」と池氏は説明する。
「既存の太陽光発電サービスでは、10年(または15年)でお客さまに太陽光発電システムが譲渡され、サポートも終了します。お客さまの目線に立つと、サポートが終了した機器が屋根に乗り続け、不具合があれば自分で何とかしなければならない状況というのは、非常に不安ですよね。われわれとしては、『お客さまがお住まいの間は一切心配いりません、ずっと見守ります』という価値を提供したかったのです」
「住宅事業者さまがいかにお施主さま視点に立った思考を持たれているか、住友不動産さんの考えに触れ、当社も省エネ設備の提供を通じて、家づくりに関わっているということに改めて気づかされました」と杉原氏が振り返る。
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「住友不動産さんとの議論を重ねるうち、エネカリの新たな可能性に気づき、幾通りものライフサイクルコストシミュレーションを経て、自信を持ってご提供できるサービスのコンセプトに帰着することができました」(杉原氏)
サービス提供から1年3カ月が経過しているが、「すみふ×エネカリ」の反響は「非常に良く、胸をなで下ろしています」と池氏が語る。
「以前はご契約いただいた30%弱のお客さまが太陽光発電システムを設置されていたのですが、『すみふ×エネカリ』導入後は60~70%ほどに倍増しました。実数ですと1年ちょっとで1700~1800戸ほどのお客さまにご契約いただいています。お客さまにとってコストパフォーマンスはもちろんですが、やはり”安心感”が契約の決め手になっていると思います」(池氏)
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「『すみふ×エネカリ』発表後、『そんな手があったのか』とさまざまな企業から問い合わせがありました。多くの企業が『脱炭素って何をすれば良いのか?』に、本当に頭を悩ませていると感じました」(安保氏)
サービス主体であるTEPCO ホームテックとしても「想定を大幅に上回るペースで契約数が伸びており、急ピッチで体制強化を進めています」と杉原氏。「すみふ×エネカリ」は、太陽光発電システムと蓄電池を必ずセットで提供している(従来のエネカリは選択制)。この点もデベロッパー視点の安心へのこだわりが反映された。
「蓄電池で電気を自家消費できる点と、災害時に給電が止まった場合でも“電気の自給自足”がしっかりできる点をアピールしています。ハウスメーカーの責務として、これまでも地震が起きても壊れない、ハード面の“安全”は意識してきました。ですが、さまざまな災害が起こり得る状況で、その壊れない家に居続けられるか?その際に水や電気は使えるのか?というお客さまの心理的な“安心”にも寄り添っていくことが、これからは求められます。そういった部分にアプローチできたことが、好評につながったと思います」(池氏)
電力の“地産地消”が求められる時代、歩みは止まらない
「すみふ×エネカリ」は時代の潮流もあり、契約数を伸ばしている。
この状況に杉原氏は「住友不動産さんに提案していただいたサービスのコンセプトが正しかったことが、改めて証明されたと思いました」と前置きし、こう話す。
「ここ最近、電気料金が上昇している中で、自宅の太陽光パネルで発電した電気を使用する、いわゆる“地産地消” することで電気代を節約でき、昨今頻発している災害時に停電が起きたとしても蓄電池にためた電気を使うことができる、経済面でも防災面でも安心できる、『すみふ×エネカリ』のようなライフスタイルは広がっていくと考えています」(杉原氏)
東京都が新築戸建て住宅などへ太陽光パネルの設置を義務化する条例案を2022年12月に成立させるなど、脱炭素に向けた行政の取り組みとも親和性が高い。
3社の脱炭素リードプロジェクトは、こうした動きをまさに先取りする形で進んだと言えるだろう。
「今、太陽光発電を大規模に行おうと考えても、適した立地が見つからず難航する時代です。そのため、屋根の上が空いている住居に太陽光パネルを設置して自家消費、つまり地産地消をお勧めすることは、再エネ推進の上で重要なキーワードになってきています。また、日本で脱炭素社会の推進を考える上で、約5000万戸の既存住宅へのアプローチは必須でしょう。弊社は『新築そっくりさん』という改修事業でのアクションも始めました。こうした日本の脱炭素に大きな貢献をもたらすとともに、お客さま、東京電力グループさん、当社それぞれにとってプラスになる構想を、早い段階から東京電力グループの皆さんと見いだせたことは、とても価値ある取り組みだったと思います」(池氏)
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2022年4月、「すみふ×エネカリ」は住友不動産の戸建て丸ごとリフォームサービス「新築そっくりさん」にもサービス提供を開始。「エネカリを提供する間口が、新築戸建て以外へ大きく広がり、脱炭素リードプロジェクトの新たな突破口となっています」(安保氏)
この他にも脱炭素リードプロジェクトが進行していることを、安保氏が説明する。
「環境先進企業向けの電力プラン『サンライトプレミアム』を設定し、新設の太陽光発電所由来の“生グリーン電力”(※1)をオフィスビルのテナント専有部に導入するスキームを構築しました。2021年10月にはセガサミーホールディングス株式会社さまが、住友不動産さんが運営・管理する『大崎ガーデンタワー』において“追加性”(※2)を有する生グリーン電力を初導入してくださいました。『すみふ×エネカリ』を第1弾とすると、『サンライトプレミアム』が第2弾、『新築そっくりさん』との連携は第3弾という位置付けです。いずれも業界初の試みを一緒に進めさせていただいています」(安保氏)
※1…再生可能エネルギーから得られたグリーン電力のうち、発電時と消費時を30分単位で一致させ、発電所から一般送電網経由でダイレクトに送電されたとみなされる電力
※2…太陽光発電所など新たな再エネ電源開発により、再エネ発電総量増加に直接寄与すること
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「サンライトプレミアム」の概念図。環境保全の取り組みに積極的なセガサミーグループは、CO2排出削減に向けて住友不動産&東京電力EPのプランを本社に導入した
亀田氏は「すみふ×エネカリ」や「サンライトプレミアム」のように「従来のオフィスビル向けのソリューションにはない取り組みや、テナントのCNニーズに対応するテナント向け“電源”に着目・活用する取り組みを進めています」と補足し、今後の展望を語る。
「今回の『すみふ×エネカリ』では、従来は法人向け商材ではないエネカリを活用することにより、新たな法人向けソリューションとすることができました。引き続き新たな発想で脱炭素社会に貢献できるよう挑戦していきたいと思います。また、オフィスビルでの省エネを着実に進めるために、ビル単位、テナント単位で“エネルギーの使い方”を相談・提案させていただきながら、節電や再エネ利用に一緒に取り組むことができればと思っています」(亀田氏)
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「これまでビルの所有・管理法人向けだった営業を、テナント単位で脱炭素化に向けた取り組みとして提案していくことは、なかなか難しいチャレンジになると思いますが、住友不動産さんと一緒に引き続き挑戦していきたいと思います」(亀田氏)
亀田氏が語る展望に、池氏も期待を寄せる。
「『サンライトプレミアム』はテナントさんにとても好評な施策でした。当初は“追加性”という概念が浸透していなかったのですが、最近は多くの企業が興味を示され、実現が早かったぶん、弊社や東京電力EPさんへの相談が相次いでいます。これからも住宅、ビルなどアセットを問わず、一緒に脱炭素社会をリードできるよう頑張りたいです」(池氏)
電気料金が高くなることで生活者の家計を圧迫する中、電力をいかに運用し、家庭の安心を守り、環境にも寄与するか──。
そんな動きを、強力な企業コラボレーションがこれからもリードしていきそうだ。
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text:大場 徹(サンクレイオ翼) photo:中村実香