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EV普及を加速させるTEPCOの普通充電器が果たす重要な役割

商業施設や集合住宅に充電設備を拡大させEVを現実的な選択肢に

電気自動車(以下、EV)の普及における課題の一つに、充電環境への不安が挙げられる。それを解決する一助になると期待されているのが、2022年3月に東京電力ホールディングスにて企画・開発し、TEPCOホームテックなどのグループ会社を通じて発売を開始した「多台数対応EV普通充電器」だ。従来の充電器と大きく違うのは「多台数対応」と「普通充電」。これが広まればEVは、より身近なものになるという。自動車選択の未来を変える、「多台数対応EV普通充電器」の可能性に迫った。

これまでのEV研究、業務車両への利用で得た知見の社会還元

地球温暖化対策の必要性が世間に浸透して久しい。その中でも注目を集めているのが、温室効果ガスである二酸化炭素(以下、CO2)などを排出しないEVだ。

従来のガソリン車やディーゼル車と異なり、新興メーカーの台頭や異業種からの参入が目立つのもEVの特徴だ。米・テスラ社は既にEVの一大ブランドにまで成長を遂げ、国際的なIT企業である米・アップル社も完全自律運転機能を持つEV開発を進めている。

国内では、東京電力グループもエネルギー事業者でありながら古くからEVの研究を続けてきた、いわば”異業種”の一つだ。1960年代より自動車メーカーや電機メーカーなどと共同でEVの研究・開発を始め、性能面や充電システムについての検証を行ってきた。

また、2005年に世界同一規格の急速充電方式CHAdeMOを開発し、2010年には大手自動車会社と共にCHAdeMO協議会を設立。CHAdeMOは2014年にEV用急速充電規格の国際標準として承認され、現在世界各国で採用されている。

1991年に東京電力株式会社(当時)が組織したEV研究会、東京アールアンドデー、明電舎、日本電池(現・GSユアサ)で共同開発したEV「IZA(アイゼットエー)」は、最高速度と1回の充電での走行距離で当時の世界記録を更新した

「CHAdeMO」ロゴマーク。「CHAdeMO」は、「CHArge de MOve=動く、進むためのチャージ」「de=電気」「充電中にお茶でも」の3つの意味を含んでいる。現在世界各国で採用される急速充電規格の国際標準となっている

また、2019年5月には、車両のゼロ・エミッション化を目指す国際イニシアティブ「EV100(※)」に国内エネルギー企業として初めて加盟。同年10月に社内にEV推進室を設置し、社会へのEV普及を進めるとともに、2030年度までに業務用車両約3,600台(緊急用や工事用の特殊車両などを除く)全ての電動化を目指している。

※非営利団体The Climate Group主導のもと、自社車両のEV化や充電インフラ整備などを推進する企業が集結する国際イニシアティブ

これらの狙いは何か。東京電力ホールディングス株式会社 EV推進室 事業開発グループ大森 淳氏は次のように話す。

「弊社では今、火力発電所など電力販売に由来するCO2排出量を、2013年度比で2030年度までに50%削減し、2050年度にはゼロにするという目標に向けて、グループ全体で取り組んでいるところです。また、カーボンニュートラル社会の実現には、発電側としての取り組みだけではなく、電力を使用していただくお客さま側の脱炭素化についても、我々がこれまで以上に推進していく必要があります。国内のCO2排出量の約2割を運輸部門が占めている実態、また再生可能エネルギーを有効活用する観点から、『動く蓄電池』であるEVの役割は非常に大きいと考えています。EV普及を進めていくために、まずは自分たちがEVを導入し、その過程で見えてくるさまざまな課題を解決し知見を蓄え、お客さまへの提案につなげていこうという思いで取り組んでいます」

「ユーザーがより使いやすいような環境を提供していくことが、EV普及にとって大切」と話す大森氏

その取り組みの中で企画・開発したのが、2022年3月に発売を開始した「多台数対応EV普通充電器」なのだという。大森氏はさらに続ける。

「長らく研究を続け、EVを業務用車両として使用してきた中で直面した課題の一つに、充電環境の整備におけるコスト、運用面の課題が挙げられます。その課題解決を通して得た知見をさらに社会に還元していくことができればと考えたのです」

エネルギー事業者であるTEPCOは、実際のモノ、つまり製品を開発して販売まで行う例は少ない。

TEPCOから発売された「多台数対応EV普通充電器(JW-EVSE-TPC01-0340)」の充電器本体および接続コネクター部

「まさに満を持してのリリースになります」

大森氏は、そう力を込める。ではこの多台数対応EV普通充電器、一体どのような特徴があるのだろうか。

契約電力や設備投資の抑制が可能

開発のきっかけとなった課題について、大森氏は次のように話す。

「当社が業務用車両として複数台のEVを事業所に配備する際には、駐車場に複数台分の充電器を設置することになるのですが、電力設備の“空き容量”の問題があります。また、お客さまへEVの導入を提案している中では、複数台のEVが一斉に充電を開始する際に、契約電力が増えることを懸念する声をいただくこともあります」

事業所に設置されている変圧器などの電気設備には、物理的に流せる電力の上限が存在する。上限を超える電力で充電を行おうとするなら、設備改修の必要性も出てくる。これはEV充電器のニーズが潜在する多くの事業所、工場などでも同じことが言えるのだ。

また、事業所などで法人が高圧電力を契約する場合、至近12カ月の実績を確認し、実際にさまざまな設備を同時に動かしたピーク時の最大電力を基に契約電力が決まるのが一般的だ。一般家庭に設置されているブレーカーの仕組みとは異なり、契約上の上限を超えた電力使用も可能ではあるものの、そうなると次回の契約更新時には使用実績に応じて上限も更新されることになる。当然、電気料金も高くなってしまう。

そもそもEVの充電方式には、「普通充電」と「急速充電」の2種類がある。大きな違いは使用する電圧と設備で、結果的に充電にかかる時間が変わる。

日産自動車から発売されているEV「リーフ」を例に挙げると、40kWh(キロワットアワー)バッテリー搭載車の場合、普通充電では約8時間(※)を要する。

※バッテリー温度が約25℃。バッテリー残量警告灯が点灯した時点から満充電までの、200V 30Aで充電を行った場合のおおよその時間(公式サイトより)

一方の急速充電では、同じ条件下で80%まで充電するのに約40分だという(同公式サイトより)。急速充電器は普通充電器に比べ、充電器自体の価格が高く、契約電力や電力設備の増強などにより、多大なコストが必要になる場合がある。

「急速充電は、高速道路のサービスエリアのような、出発地から目的地までの間をつなぐ場所には最適です。しかし、自動車を長時間停車する自宅や事業所の駐車場、あるいは目的地の駐車場には、すぐに充電できる機能も重要ですが、手間やコストを総合的に鑑みた”設置のしやすさ“も重要だと考えたのです。設置がしやすい普通充電器を洗練させていくことも、EVを広めていく上で鍵となります」(大森氏)

シーンに合わせた3つの充電パターン

EVの充電には、目的やシーン別に3つのパターンが想定される。自宅や事業所などで行う「基礎充電」、出先の滞在場所で行う「目的地充電」、そして移動の道中で行う「経路充電」だ。

「経路充電の場合は急速充電が適しており、基礎充電や目的地充電において長時間駐車するシーンでは、契約電力や新たな設備投資を抑制できる普通充電で十分なケースもあるのです」(大森氏)

ただ、いくら普通充電とはいえ、例えば夕方の事業所で一斉に帰社した業務用車両が同時に充電を始めれば、使用できる電力の上限を超えてしまう可能性はある。そのために今回の充電器に搭載されたのが「デマンドコントロール機能」だ。

「利用できる電力の上限をあらかじめセットしておけば、複数台が同時に充電を行った場合でもその上限を超えないよう自律制御する機能です。電力容量に空きがない時間帯は充電量を少なく、比較的空きが多い夜間などには充電量を多くします。事業所や商業施設などの駐車場で求められる“多台数対応”のための仕組みです」

技術面での支援を担当した同社経営技術戦略研究所 リソースアグリゲーション推進室 プロジェクト推進グループの高島遼史氏は、そう説明する。

「ユーザーが意識しなくても気が付いたら充電できていた、となるような環境を作れればEV普及も進む」と話す高島氏

簡単に言えば、施設全体が使う電力を観察する「親機」が、その使用状況を「子機」である各充電器に無線で伝え、それによって充電器が充電電流を制御するシステムだ。

「例えば事業所の場合ですと、夕方に業務用車両が一斉に充電を開始しても、まだ電力の空き容量が少ないため、充電量は抑えられます。他で電気が使われなくなる深夜には、充電量が増え、朝にはフル充電にできるはず、というものです。通常のEV利用でしたら、これで十分だと言えるでしょう」(高島氏)

例えば契約電力の上限がある場合、同時に複数の充電を始めると上限を超えることがあるのに対し(上)、多台数対応EV普通充電器を用いれば超過しないよう制御される(下)

出典:TEPCO「『多台数対応 EV 普通充電器(JW-EVSE-TPC01-0340)』の概要」より

「さらに、デマンドコントロール下にない普通充電器との併用も可能になっています」(高島氏)

1台だけ別枠で充電器を導入しておけば、そこではデマンドコントロールの制約を受けずに優先して充電を行うという利用もできるのだ。

「1台だけは優先的に充電したい。そんな状況も起こり得ます。そうしたご要望にも柔軟に対応できるシステムなのです」(高島氏)

普通充電器でEV選択のハードルを下げる

この多台数対応EV普通充電器には、導入ハードルを下げるために重視した点がもう一つある。それは、必要な機能だけに絞りシンプルにまとめているため、手軽で安価だということだ。

「送信機と充電器の間のやりとりはそれぞれの機器に組み込んだローカル無線で行います。インターネット回線やサーバーを介さず機器間で独立してやりとりするので、追加で通信インフラを用意する必要もありません」(高島氏)

取り付けも簡単だ。送信機は配電盤近くに設置し、電流センサーで電気ケーブルを挟み込むだけで、使用電力を計測して充電器にその値を飛ばす。充電器自体に制御プログラムが組み込まれているので、大きな工事は不要。また充電器は一般的な普通充電器用コンセントから、容易に置き換えられる。

白い機器が「親機」と呼ばれる送信機。黒色の2つのパーツが電流センサー

送信機と充電器は各機器に組み込まれたローカル無線でデータの送受信を行う

「契約電力や工事費用が抑えられ、さらに機器自体もお求めやすい価格ということもあり、集合住宅や商業施設の管理者さま、自治体さまからも問い合わせをいただいています」(大森氏)

発売と同時に、この3月にはイナバクリエイト株式会社が運営する千葉・松戸のレンタル収納スペース内にあるEVガレージに早速導入され、タイムズ24株式会社が運営する東京・池袋の時間貸駐車場「タイムズパーキング」では実証研究のため導入。いずれも導入した事業者から好評を博しているという。

EVガレージに導入された普通充電器。充電器以外の設備の使用状況とのバランスを見ながら充電を行う

タイムズ24が運営する時間貸駐車場「タイムズパーキング」には6台の充電器を設置。他設備の電力使用量に応じて充電器が各車の充電電流をコントロールする

「契約電力の変更を最小限に抑えて導入できたことに加え、大幅な設備改修が不要だったという点を高く評価していただいています」(高島氏)

実は、国内でのEVの普及は思いのほか進んではいないのが現状だ。一般社団法人 日本自動車工業会刊『日本の自動車工業2021』(2021年10月)によると、2020年の国内の新車販売台数のうち、EVはわずか0.38%にとどまっている。EVやプラグイン・ハイブリッド(PHV)などを含む次世代自動車の割合は全体で約40%ではあるものの、そのほとんどがガソリンと電気を併用するハイブリッド車である。

原因として、充電環境への不安も理由の一つであることは想像に難くない。そこに、このような多台数に対応できるEV普通充電器が普及していけば、状況が変わる可能性は大いにある。

身近なところなら集合住宅。マンションの駐車場に充電器を導入しようとすれば、契約電力の変更、設置コスト、利用時間、住民の理解など、課題となりそうな点は多い。多台数対応でローコスト、手軽に導入できるメリットは、そうした課題解決にもつながりそうだ。

身近にEVの基礎充電ができる設備があれば、車を購入する際におのずとEVも選択肢に入ってくる。事業所構内への充電器設置のハードルが下がることで、事業者も自社の車両にEVを導入しやすくなるだろう。エネルギー事業者として、EVを推進する立場として、長年蓄積してきたノウハウが詰まったTEPCO発の多台数対応EV普通充電器の狙いは、まさにそこにあると言える。

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